私の主張 平成十七年十二月十一日更新 (これまでの分は最下段) 「契冲」のホ-ムペ-ジに戻る
申申閣代表 市川 浩
忘れられる歴史的假名遣
「假名遣腕試し」に思ふ
「國語國字」第百八十四號(平成十七年十月十日)
市川 浩
平成十四年秋の仙臺講演會から餘興もかねて「假名遣腕試し」を毎囘催してゐる。最初は「假名遣クイズ」と言つてゐたが、カタカナ語では感じが出ないので、その後今の名前となつた。御參會の高名な先生がたも氣輕に應募して下さるなど、お蔭樣で好評裡に續いてゐるのは擔當者として嬉しいことである。しかし一方では喜んでばかりはゐられない面もある。その一つに應募人數が參會者の約三分の一程度とやや少ない。中には「こんな簡單な問題では應募する氣にもならない」自信あり過ぎの人や、逆に「全問正解の自信がないから」止めておく人もをられるであらうが、心配なのはあまり關心がないといふ人が多いのではないか。國語問題協議會の講演會に參加するくらゐの人で假名遣に關心がないなどとは考へられないが、もしさうだとしたら、一般世間での關心など皆無に近いに違ひない。歴史的假名遣は確實に民族の記憶から消えようとしてゐる。
それは日本文化の終焉を意味するのではないかと言へば、大袈裟に過ぎるとのお叱りもあらう。また古い文化は亡んでも新しい文化を創造すればよいとする意見もあらう。しかし文化は繼承されてこそその生命がある。日本には多樣な文化領域があるがその根幹は國語であり、その大部分が歴史的假名遣によつて傳承される古典に溯るのは言ふまでもない。歴史的假名遣が忘れ去られ、古典との斷絶が進むとなれば日本文化の將來に危機感を抱かざるを得ない。
それでは、古い文化を捨てて新しい文化を創造するといふのはどうであらうか。和歌、俳句、漢詩といつた傳統詩型からの脱卻を旗印に出發した近代詩運動はその代表的なものであらう。しかし重要なのはそれだからといつて傳統詩歌が滅んだわけではなく、專門家ばかりでなくこれらを嗜む一般人は依然多いのである。ビジネスで現代假名遣を使ふとしても、それで歴史的假名遣が滅んでは困るのである。歴史的假名遣で育つた世代は「現代かなづかい」を簡單に習得できたが、現代假名遣で育つてから歴史的假名遣を習得するのはかなり困難である。假名遣は日本人全員の問題なのであるから、最初から歴史的假名遣を教へるべきであり、その教授法を含め初等教育の場での實現を目指すのが本協議會の重要な使命でなければならない。
喜んでゐられないもう一つの問題は正答率が必ずしも高くないことである。これも歴史的假名遣が忘れられつつあることを示してゐると言へるが、問題は別の所にもある。本協議會の講演會といふことで參加者が皆歴史的假名遣に完全に習熟してゐるやうに見えてしまひ、うつかり假名遣を話題にすると「そんなことも知らないか」と思はれはしないかと日頃の疑問に就いて教を乞うたり議論するのを躊躇してしまふのではなからうか。少なくとも私の場合がさうであつた。
正答率がそれほど高くなかつたことから、私と同じやうな感じを持つ人が案外多いのではないかと思はれる。さう言へば毎囘の講演會後の懇親會でも假名遣のことで話題が盛上がることは最近餘りなかつたやうに思ふ。しかし學校で教へられることもなく、戰前の文學作品や、更には文語體の文獻までがまるで當然のやうに現代假名遣に書換へられる現在、歴史的假名遣を知らない、或いは忘れてしまつたとしても、それが當たり前で何等恥かしいことではない。互に疑問を話合ひ、教へ合ふと、理解と習熟度が飛躍的に向上するのを、私たちはパソコンの操作などで日常經驗する。從つて正答率が高くないことそのものが問題なのではなく、この事實を基に會員同士の率直な意見交換が進めば良いと思ふのである。正解發表の場でも、或いは閉會の後でも御質問や御意見など議論の種を御提供頂ければ幸ひである。
これまでの出題分を御參考に掲げるので挑戰してみて下さい。正解は次號で。また次囘の「腕試し」以降は問題や囘答状況などを講演會記録として毎號本誌に掲載して頂くやう事務局長に御願してゐる。
次の句の中の傍線の語の讀を歴史的假名遣で下の括弧内に書いて下さい
送り假名は省いてあります
例、戀患(こひわづらひ)
第一囘 平成十四年十月五日 於:仙臺勾當會館 第七十囘國語問題講演會
一、思出深い場所(
)
二、八俣の大蛇(
)
三、柱の据附(
)
四、鮨の折詰( )
五、永久の眠り(
)
六、手水を遣ふ(
)
七、結納を交す(
)
八、國語の教育(
)
九、選手の入場(
)
十、明治大正昭和の歴史(
)
第二囘 平成十五年六月七日 於:日本工業倶樂部第七十一囘國語問題講演會
十一、見ヨウによつては赤く見える(
)
十二、勉強してミヨウ( )
十三、そんな筈はない( )
十四、酒或はビールを飮む(
)
十五、瑞穗の國(
)
十六、靜岡( )の小澤氏(
)
十七、甲斐路を行く( )
十八、叔父さん( )
十九、圖畫(
)
二十、大掃除(
)
第三囘 平成十五年九月十三日 於:日本工業倶樂部 第七十二囘國語問題講演會
二十一、すぐに參りマショウ( )
二十二、生國( )は遠江( )
二十三、萩、尾花( )、葛( )
二十四、女郎花( )、藤袴( )、朝顏(
)
二十五、桔梗( )、龍膽( )、菊薫る(
)
二十六、熊膽( )は胃( )に良く效く
二十七、老イて( )は子に從エ( )
二十八、芋( )の煮エ( )たも御存知(
)ないか
二十九、良藥( )は口に苦し
三十、縁( )は異な( )もの味な( )もの
第四囘 平成十六年三月六日 於:日本工業倶樂部 第七十三囘國語問題講演會
三十一、格子戸( )、敷居( )
三十二、帚( )、雜巾( )、盥( )
三十三、鹽( )、沙糖( )、醤油( )
三十四、烏帽子( )、羽織(
)
三十五、鯛( )、鰈( )、鰹(
)
三十六、粟( )、稗(
)
三十七、韲( )、吸物( )
三十八、朴齒( )、頬張る( )
三十九、道路標識(
)、住居表示(
)
四十、加る( )、與る(
)
(平成十七年十二月十一日架網)
市 川 浩
昭和六年生れ
平成五年 有限會社申申閣設立。
正假名遣對應日本語IME「契冲」を開發。
國語問題協議會常任理事、文語の苑幹事、契冲研究會理事。
これまでの私の主張(ホームページ掲載分)日附降順
「契冲」の獨白――字音假名遣を考へる――(「月曜評論」平成十六年四月號掲載)
パソコン歴史的假名遣で甦れ!言靈 (『致知』平成十六年三月號(通卷三四四號))
文語の苑掲載文二篇
昭和の最高傑作 愛國百人一首飜刻 たまのまひゞき 出版に協力して