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イクシーの書庫・過去ログ(2002年11月〜12月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


5000年前の男 (ノンフィクション)
(コンラート・シュピンドラー / 文春文庫 1998)

1991年のこと。イタリアとオーストリアの国境近くの氷河の中から、ひとりの人間のミイラ化した遺体が発見されました。当初、遭難した登山者の遺体だと考えられていたそれは、鑑定の結果、紀元前3000年以上前の新石器時代の人間だと判明したのです。
この発見は、当時かなりのセンセーショナルなニュースとして扱われました。近年、『特命リサーチ200X』でも紹介されていましたね。
本書は、その5000年前のミイラを研究したチームの中心人物である考古学者シュピンドラー博士の著書で、ミイラが発見された経緯、判明した事実、そこから推論される当時の文化とこの人物を襲った運命にいたるまで、詳細に描き出してくれます。
中盤でデータを検討する部分がちょっと退屈ですが、全体としてはよく書かれた科学ノンフィクションです。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.1


カー短編全集6/ヴァンパイアの塔 (ミステリ)
(ディクスン・カー / 創元推理文庫 1998)

カーが戦前から戦後にかけて書きつづけたラジオ・ドラマの台本を集めたもの。
本になったものを読むのと、実際に耳で聞くのとは違うと思うのですが、臨場感やサスペンスは読んでいても伝わって来ます。使われているトリックは比較的単純ですが(もちろんドラマにおいてはトリックが全てではありません)。
巻末に付された解説「新カー問答」は、様々なカー作品のネタバレをかなり露骨にやってますので、未読の方は読まない方が吉かと。

<収録作品>「ジョン・ディクスン・カーのラジオ・ミステリ」(ダグラス・G・グリーン)、「暗黒の一瞬」、「悪魔の使徒」、「プールのなかの竜」、「死者の眠りは浅い」、「死の四方位」、「ヴァンパイアの塔」、「悪魔の原稿」、「白虎の通路」、「亡者の家」、「刑事の休日」、「新カー問答」(松田 道弘)

オススメ度:☆☆

2002.11.2


ライズ民間警察機構 (SF)
(フィリップ・K・ディック / 創元SF文庫 1998)

これは、以前サンリオSF文庫から出ていた「テレポートされざる者」の改訂版、というか完全版だそうです。サンリオ版は買い損ねて読んでなかったから、まあいいんですが。
未来の地球。テレポート装置が開発され、フォーマルハウト星系第九惑星へのテレポートを使った植民が行われていました。しかし、なぜかテレポートは一方通行で、植民惑星から戻って来た者はいませんでした。
そこに陰謀の影を感じた主人公は、ライズ(=『嘘』ですな)民間警察機構の助けを得て、恒星間宇宙船で18年かけてフォーマルハウトへ向かおうとします。しかし、妨害工作が次々と行われ・・・。ということで、ドラッグによる幻覚なのかパラレルワールドなのか、世界と時間がどんどん混乱していつものディックワールドへ。でも彼の作品の中では比較的すっきりしているかも。

オススメ度:☆☆

2002.11.4


解体諸因 (ミステリ)
(西澤 保彦 / 講談社文庫 1997)

探偵小説に“バラバラ殺人”テーマというジャンルがあるのかどうかはわかりませんが(笑)。
この作品は、まさにそのテーマに絞った連作短編集です。
手足、指まで34個にバラされた主婦とか、エレベーターが8階から1階へ降りる16秒の間にバラバラ死体と化したOLとか。バラされるのは人間ばかりではなくて、ポスターや人形だったりする話もあります。
で、これら九つの作品、微妙に関連し合っているのですね。登場人物(探偵役だけじゃなくて)がかぶってたり、ある事件とある事件の関連が、別の事件で明らかにされたり。この辺の趣向は嬉しいです。
ただ、作者もあとがきで述懐していますが、トリックのためのトリックになってしまっていたり、シリアスな犯罪のはずなのに、ブラックユーモアを通り越してギャグとしか思えない描き方をされてたり、そのあたりがちょっと残念かも。でもまあ処女作だからねえ・・・。
他の作品も読んでみようっと。

<収録作品>「解体迅速」、「解体信条」、「解体昇降」、「解体譲渡」、「解体守護」、「解体出途」、「解体肖像」、「解体照応 推理劇『スライド殺人事件』」、「解体順路」

オススメ度:☆☆☆

2002.11.5


アルジャーノンに花束を (SF)
(ダニエル・キイス / 早川書房 1993)

というわけで、やっと読むことができました。
予期していたこととはいえ、やっぱりラストではじんわりきてしまいました。
ドラマの方の出来は、見てないのでわかりませんけれど、

とにかく読んでみてくださいっ!!

今なら文庫版が本屋に平積みになってますし。
ちなみにアルジャーノンというのは主人公の名前ではなくネズミの名前です。
関係ないけど、清原なつのさんのマンガ
『流水子さんに花束を』は、この作品へのオマージュです。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2002.11.6


検屍官 (ミステリ)
(パトリシア・コーンウェル / 講談社文庫 1997)

かなり売れてるシリーズなのですが、初読みです(遅いって)。
バージニア州のリッチモンドで、連続強姦殺人事件が発生します。主人公の検屍官ケイは、刑事や心理学者と協力しながら犯人を追います。しかし、彼女の周囲にも怪しい気配が・・・。
ただ、ジャンルとしては本格ミステリではないです。特に“フーダニット”として見た場合、許せない展開ですし。
にもかかわらず、面白いんです。主人公が検屍官(正確には『監察医』が正しいのかも知れない)だけに、最新の科学技術を駆使しての証拠の分析、犯人のプロファイリングなど、興味深いシーンが盛り沢山だし、登場する様々なキャラも存在感あるし、テンポはいいし、さくさく読み進めます。
自分的には、主人公の姪である10歳の天才少女ルーシーの活躍(今回も重要な謎解きをしてくれます)を希望(笑)。

オススメ度:☆☆☆☆

2002.11.7


寄生虫はつらいよ (ノンフィクション)
(藤田 紘一郎 / PHP研究所 2002)

“寄生虫博士”こと東京医科歯科大教授の藤田紘一郎さんのメディカル・エッセイ。
博士の持論である「清潔にし過ぎちゃいかん」という主張を、寄生虫やらSTD(性行為感染症)やら抗菌グッズやら様々な視点からやさしく解き明かしています。
自分なんか、博士に言われるまでもなく「清潔・抗菌」なんかとは縁のない生活をしていますから(それはそれでちょっと問題があるぞ(^^;)書かれている内容にはいちいちうなずけることが多いのですが。
ただ、もともと連載された媒体があの『東スポ』だけに、ちょっとくだけすぎた文章が(ご本人もまえがきで「ギャグ」や「だじゃれ」が多いとおっしゃってますが)気になります。
本当の健康とはなにか、見直してみるためには一読するのも良いかと。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.9


星々の揺籃 (SF)
(アーサー・C・クラーク&ジェントリー・リー / ハヤカワ文庫SF 1998)

「宇宙のランデヴー」シリーズでおなじみの合作コンビ、クラーク&リーの、これが合作第1作目だそうです。いかにも合作、という感じで、ここはどちらが書いたパートなのかというのが丸わかりだったりして(笑)。
舞台はフロリダのキーウェスト。海軍が試射したミサイルが事故で近くの海に沈んだという未確認情報を得たジャーナリストのキャロルは、船をチャーターして、クルーのニックとトロイと共に、珊瑚礁を捜索するうち、不思議な物体を引き揚げます。沈没船の財宝かと思われたそれは、人類にとって未知の物質からできていました。同じ頃、海軍もミサイルの行方を追って捜索活動を開始。さらに、昔ニックと浅からぬ因縁があった悪党グループも暗躍し・・・。
これらの出来事と平行して、宇宙のどこかで進展している謎の種族の活動が描かれていきます(たぶんこの部分はクラークが書いてますな)。
登場人物それぞれが、過去に苦い思い出を背負っており、それらの回想シーンが頻繁に出てくるため(これを書いてるのはリーですな)、前半は展開がちょっととろくて、読み進むのに疲れます。でも、後半に入るとサスペンスがいや増し、前半の伏線が見事に生きてきます。
で、このお話って結局、ファースト・コンタクト・テーマだったのね(気付くの遅すぎ)。
海洋を舞台にして、未知の存在とのコンタクトを描いているというところは、M・クライトンの「スフィア」とかO・S・カードの「アビス」の系列に連なっているようで。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.10


カピン戦隊 (SF)
(H・G・エーヴェルス&エルンスト・ヴルチェク / ハヤカワ文庫SF 2002)

ペリー・ローダン・シリーズの最新刊(285巻)です。
今回は、シリーズのひとつの節目。
だらだらと続いていた“大群”サイクルが前半で終了し、後半から新たなサイクルに入っています。(「ローダン・ハンドブック」によれば“●●ュー●●●”サイクル ←一応伏字)
しかし、前半の終わらせ方は、無理矢理まとめたというか、普通なら5〜6回に分けてじっくり仕上げるべきところを1話に詰めこんでしまった感じがありあり。オヴァロンの救援到着も唐突だし。ストーリー管理をしくじったな(笑)。
今度のサイクルに期待しましょう。

<収録作品と作者>「カピン戦隊」(H・G・エーヴェルス)、「苦悶の声」(エルンスト・ヴルチェク)

オススメ度:☆☆☆

2002.11.11


侵略! (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)

毎回、テーマを絞ってのオリジナル・ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第2集。
今回は、タイトル通り『侵略』テーマです。
侵略といえば、ウルトラ世代の自分には宇宙人や異次元からの侵略というのが真っ先に思い浮かぶのですが(ガラダマとかケムール人とか、マジに怖かったし ←『ウルトラQ』放映時は幼稚園児)、それだけじゃないんですね。
収録された作品は、どれもバラエティに富んでいて、面白いです。
でも、このアンソロジーを読んで改めて感じたこと。いちばん怖いのは、日常生活の中にさりげなく侵入してきている“人間じゃない人間”ですね。

<収録作品と作者>「地獄の始まり」(かんべ むさし)、「罪と罰の機械」(牧野 修)、「夜歩く子」(小中 千昭)、「雨の町」(菊地 秀行)、「赤い花を飼う人」(梶尾 真治)、「彼らの匂い」(大場 惑)、「おだやかな侵入」(森下 一仁)、「特別急行列車」(井上 雅彦)、「命の武器」(草上 仁)、「アロママジック」(村田 基)、「暴力団の夢見る頃」(山下 定)、「ママ・スイート・ママ」(安土 萌)、「さりげなく大がかりな」(斎藤 肇)、「不思議な聖子羊の美少女」(大原 まり子)、「鏡の中の他人」(岬 兄悟)、「聖戦の記録」(津原 泰水)、「子供の領分」(菅 浩江)、「花菖蒲」(横田 順彌)

オススメ度:☆☆☆

2002.11.12


マグニチュード10 (SF)
(アーサー・C・クラーク&マイク・マクウェイ / 新潮文庫 1997)

地震が持つエネルギーを示す(だったかな)単位のマグニチュード。
数字が大きくなっていくと、エネルギーも幾何級数的に大きくなる(M6はM4の1.5倍ではなく、1000倍になるらしい)と聞いたことがあります(うろ覚え)。
観測史上最大のマグニチュードを記録したのは1960年のチリ地震で、M9.5だったとか。
従って、タイトルのM10は、人類が未経験の規模の地震ということです。
でも、このお話、ただのディザスター小説・パニック小説ではありません。
主人公ルイス・クレインは、1994年のカリフォルニア大地震で両親を失い、30年後、世界一流の地震学者として画期的な地震予知法を考案します。しかし、政界と財界の陰謀に利用され、改竄されたデータを与えられた彼は、アメリカ中部を襲う大地震の予知に失敗し、ペテン師の汚名を着せられてしまいます。汚名を晴らすため、仲間と共に奇策に打って出ます。
イスラム過激派のテロリストの暗躍だの、地球創生のシミュレーションだの、主人公を巡る三角関係だの、大河ドラマ的な仕掛けも多く、ラストに提示されるビジョンは感涙ものです。
ただ、どうにも前半のテンポがのろいので、後半の怒涛の展開に行きつくまでいかに我慢するかで評価が分かれるでしょう。
なお、この作品はクラークが原案を出し、マイク・マクウェイが書いたということです。しかし、書き上げた直後にマクウェイは逝去したそうです(合掌)。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.15


コレラが街にやってくる (ノンフィクション)
(藤田 紘一郎 / 朝日新聞社 2002)

地球温暖化と、それがもたらす危険について警鐘を鳴らす本。
先日読んだ
「寄生虫はつらいよ」と同じ人が書いているとは思えないほど文体が違います。
今回はおふざけもギャグもなく、アカデミックな語り口。こっちの方が好きです。
地球温暖化によって、熱帯・亜熱帯地方の疫病(マラリア・デング熱・コレラ等)が日本にももたらされるという主張は、あまり目新しいものではありませんが、その危険性には配慮する必要があるでしょう。(ただ個人としてできることは、とりあえず免疫力を高めておくことぐらいしかない気がしますが)

オススメ度:☆☆

2002.11.17


アウストラロピテクス(上・下) (冒険)
(ペトゥル・ポペスク / 新潮文庫 1998)

タイトルの「アウストラロピテクス」は、アフリカで発見された200万〜300万年前の直立猿人のこと。
若きアメリカ人人類学者ケンは、マサイ族の僚友学者と共にケニアのサバンナで、猿人のものと思われる化石と小さな足跡を発見します。その場所には、200万年前と同じ生物相が残されているようでした。装備を整えて再度現場に向かったケンは、何者かの陰謀でサバンナに置き去りにされてしまします。サバンナをさまよっていたケンが出会ったのは、現代にまで生き残っていたアウストラロピテクスの少年でした。ふたりは行動を共にするうち、いつのまにか理解し合い、不思議な友情を育んでいきます。
しかし、折りしもケニアの政治情勢は不安定となり、名声欲にかられた学者、一攫千金をもくろむ密猟者たちの魔の手が、かれらに伸びてきます。さらに、種族間抗争まで・・・。
SF的な設定を、あくまでリアルに描ききっており、作者(ルーマニアからアメリカへ亡命した作家だそうです)の筆力を感じます。終盤の燃える展開はちょっと予定調和的ですが、面白いから問題なしです(笑)。明るい未来を感じさせるラストも吉。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.19


魔人伝説 (伝奇)
(半村 良 / ノン・ポシェット 1998)

先日(といってもかなり前か)亡くなられた半村良さんの伝奇小説『伝説』シリーズのひとつ。
ひとりの超能力者が、その力を利用して権力のトップまで上り詰めていくさまを、子供の頃からの友人の回想を通して描いています。終盤に至って三重四重のどんでん返しがあって、結局真相がどんなものなのかわからなくなってしまうところが、なんというか・・・。
他の『伝説』シリーズ(「黄金伝説」「楽園伝説」「魔女伝説」「獣人伝説」「英雄伝説」etc. いっぱいあるなあ)と比べると、小粒なのは否めません。
この人の作品で超能力テーマを扱った最高傑作は、長編「岬一郎の抵抗」(集英社文庫)だと思います。

オススメ度:☆☆

2002.11.20


竜王伝説4 ―闇の追撃― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1998)

大河ファンタジー“時の車輪”の第1シリーズ『竜王伝説』の第4巻。(なんか回りくどい説明ですが、これ以外に説明のしようがない(^^;)
前巻前々巻で闇の魔物の襲撃を受けて離れ離れになってしまった旅の仲間たち。
今回は、ふたりだけになってしまった若者アル=ソアとマットの逃避行が中心です。
魔物の追撃に怯えつつ、ふたりは王国の首都シームリンに向かいます。
一方、異能者モイレインたちのパーティ(いちばん頼りになるメンバー)は、狂信者集団<光の子>に捕らえられていた他のふたりを救出、合流します。
シームリンに到着したアル=ソアは、ひょんなことから王城に迷い込み、運命的な出会い(かどうかはまだわかりませんが)を果たします。
折りしも、そこには“偽の竜王”が・・・。
んでもって、次巻は『竜王伝説』の最終巻です。期待大。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.21


癒しの血族(上・下) (ホラー)
(ウィリアム・G・タプリー&リンダ・バーロウ / 扶桑社ミステリー 1998)

原題は“Thicker Than Water”すなわち“血”ですな。
ほら、『血は水よりも濃い』って言うじゃないですか。あれ。
発端は第二次大戦末期。ナチのさる捕虜収容所では、捕虜に次々と病気を感染させて抵抗力を調べるという悪魔のようなプロジェクトが行われていました。その捕虜の中に、ひとりの女性がいました。そのルースという女性には、驚くべき免疫力があったのです。
ドイツの敗戦によって研究は終焉を迎えましたが、収容所の研究者のひとりだったクルトは、巧みに戦犯狩りを逃れ、身分を隠して今は世界的な製薬会社のトップにいました。クルトは執念でルースの行方を追い、ルースの娘レイチェル、孫のジェイクへ魔手を伸ばします。
共作者のタプリーは男性ミステリ作家、バーロウは女流ロマンス作家ということで、ふたりの長所が融合されて一級のエンタテインメントに仕上がっています。
ネタも大地母神信仰にニューエイジ運動、エイズへの新薬研究、企業の謀略と、盛り沢山。
テンポも良く、さくさく読み進めることができます。都合のいい時に都合のいい場所に都合のいい人物が現れるという予定調和的展開が多いためですが、面白いのでノープロブレム!

オススメ度:☆☆☆☆

2002.11.23


エロトポリス (ノンフィクション)
(荒俣 宏 / 集英社文庫 1998)

副題は、“性愛人類史観”。古今東西のエロティックなアイテムに関して、博覧強記の荒俣師匠が目一杯薀蓄を傾けてくださいます。
同じ“エロス”を語らせても、形而上学的で高尚な澁澤龍彦さんに比べて(いや澁澤さんの書くエロス論も好きなのですが)、より具体的で資料を駆使した書きっぷりが気持ちいいです。
中でも「めがねの美学について」という小論を興味深く読みました。
「これをかけるとセクシーさやチャーミングさが減じるとされている」・・・そ、そうなのか〜!!?? それは違うぞ〜!! とひとりで騒いだりして(笑)。
タイトルで引いてしまうかも知れませんが、女性が読んでも面白いと思います。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.25


証拠死体 (ミステリ)
(パトリシア・コーンウェル / 講談社文庫 1996)

女性検屍官ケイが主人公の、新感覚サスペンス・ミステリシリーズ第2作。
今回は、冒頭で女流作家が惨殺されます。姿なき脅迫者に怯えて逃げていたフロリダから、リッチモンドの自宅に戻った当夜の惨劇でした。それほど怯えていた彼女が、なぜ夜の来訪者に無防備にドアを開けたのか・・・それが全編を通じての謎となります。
ケイも、15年前に別れた恋人が現われて謎の暗躍をするわ、悪徳弁護士の罠にはまって窮地に追い込まれるわ、というわけで、否応なく事件に巻き込まれていきます。自分の身を救うには謎を解くしかない・・・。ケイは前作でもおなじみの刑事(今回は警部補に昇進)マリーノらと協力して、行動を開始します。
多彩な登場人物を散りばめ、複雑なプロットを駆使しています。ちょっと欲張りすぎて強引な展開になっていないでもありませんが、テンポよく一気に読ませます。

オススメ度:☆☆☆

2002.11.25


逆説の日本史2 古代怨霊編 (歴史ノンフィクション)
(井沢 元彦 / 小学館文庫 1998)

日本史の暗部(ちょっと違うか)に鋭く切り込む、シリーズ2巻目。
今回も、冒頭から快調に飛ばしています。歴史はあまり得意じゃありませんが、それでも面白くて、もう目からウロコがぽろぽろ。
「聖徳太子」という諡号(おくりな)の秘密、「壬申の乱」と「日本書紀」に秘められた真実、大仏建立と平安京遷都の本当の理由・・・。
昔、読んだ豊田有恒さんの古代史をネタにした歴史小説(「崇峻天皇暗殺事件」とか「持統四年の諜者」とか)で感じた歴史のセンス・オブ・ワンダーが、存分に味わえます。しかも論理的に説得力のある事実として。

オススメ度:☆☆☆☆

2002.11.28


変身 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)

全編書き下ろしテーマ別ホラーアンソロジーのシリーズ3巻目。
今回のテーマはタイトルの通り“変身”です。
古来、このテーマはホラー・怪奇小説に限らず様々な小説・映画・TVドラマで扱われてきました。それだけに、どのようにユニークな変身(というか変容)を描くか、作者の力量が試されるところです。
ん〜、どれもすごい。どこかで見たようなネタでも、料理の仕方によって見事に新鮮になるものですね。中には「なんだこりゃ」ってのもありますが(決して駄作というのではなくて、肌が合わないという意味ですが)。

<収録作品と作者>「福助旅館」(倉阪 鬼一郎)、「森の王」(久美 沙織)、「きれいになった」(中井 紀夫)、「いつの日か、空へ」(草上 仁)、「生きている鏡」(矢崎 存美)、「交接法」(藤 水名子)、「痩身術」(太田 忠司)、「闇夜の狭間」(岬 兄悟)、「ワルツ」(牧野 修)、「かみやしろのもり」(加門 七海)、「MUSE」(奥田 哲也)、「コッコの宿」(南條 竹則)、「整髪」(早見 裕司)、「生まれし者」(飯野 文彦)、「のびをする闇」(江坂 遊)、「異なる形」(斎藤 肇)、「転身」(安土 萌)、「舞踏会の仮面」(井上 雅彦)、「溶けてゆく……」(大原 まり子)、「姉が教えてくれた」(菊地 秀行)

オススメ度:☆☆☆☆

2002.11.30


謎の超怪奇ゾーン (オカルト)
(ピーター・コロージモ / ボーダーライン文庫 1998)

なんか、タイトルからして盛大に馬から落馬しまくってて、引いてしまうのですが(元の邦訳タイトル『未知なる惑星』の方がよっぽどいいじゃん)。
これも、70年代に大陸書房から出ていたオカルト本の復刊です。
原書が書かれたのは60年代で、なんとアポロ11号の月着陸前です(そういう記述が出てくる)。筆者は(当時の)最新の科学情報に基づいて真摯に書いているらしいのですが、何にせよ30年以上前の記述。ビッグバンやら大陸移動説やら地磁気の逆転現象やら大気圏の組成やら火星探検の可能性やら論じていますが、とにかく内容が古い(当たり前)。「国際地球観測年」やら「モホール計画」やら、当時子供向けの科学読み物で読んだテクニカルタームが続出して、懐かしかったです。
それに前後して、大海蛇やら雪男やらネッシーやらのUMA(未確認動物)ネタが出てきます。これも情報が古い(笑)。
現代科学に照らして記述の間違い探しをするのがいちばんいい楽しみ方なのかも知れません。

オススメ度:☆

2002.12.2


ナイン・テイラーズ (ミステリ)
(ドロシー・L・セイヤーズ / 創元推理文庫 1998)

ずっと前から“読みたい本”リストの上位にランクされていた作品です。
わーい♪
20世紀前半の探偵小説黄金時代のイギリスを代表する作品のひとつ(というか、読み残していた最後の名作かも)。
読むまでは、仕立て屋さんが出てくるものとばかり思っていました(汗)。だってタイトルが・・・(いや確かに関連がないとは言えないんですが)。
しかし、期待通りというか、期待以上の出来でした。
作中でも何度か引用されるレ・ファニュ作品を彷彿とさせる、ゴシックロマンスめいた雰囲気と背景。英国以外ではまったく普及していないと思われる「転座鳴鐘術」(初めて知りました)を根底に置いたプロットの妙。展開されるペダントリーは、ヴァン・ダインのように嫌味っぽくなく、なんとなく微笑ましく感じられ。そして、最後に明かされる意外な犯人(?)。
好き嫌いは別れるかも知れませんが、ミステリファンならぜひ押さえておきたいです(あ、もう読んでるか(笑))。

オススメ度:☆☆☆☆

2002.12.4


ミステリー・ウォーク(上・下) (ホラー)
(ロバート・R・マキャモン / 福武文庫 1998)

え〜と、これはマキャモンの何作目になるんだろう?
ということで調べました。邦訳されてる中では3作目(「ナイト・ボート」「奴らは渇いている」の次)なのね。けっこう早いんだ。もっと後期のやつかと思ってました。いや、それほど完成度が高いのですよ。
主人公の少年ビリー(さる解説書には「ジョン」って書いてあったけど、それは父親の名前じゃん。間違えるなよKKベ●トセラーズ)は、インディアンの母親から受け継いだ不思議な能力を持っていました。この世で迷っている死者の霊魂の声を聞き、かれらを成仏させることができる能力。人種差別意識の濃い(KKKなんぞが息づいている)南部の田舎町で、孤独な生活を送っていたビリーは、巡回伝道に来た教祖の息子ウェインとの間に運命的なものを感じます。しかし、太古から存在し続けている邪悪な存在“シェイプ・チェンジャー”(「スワン・ソング」にもこういう存在は出てきましたな)がかれらの運命を翻弄します。その戦いの先に待っていたものは・・・。
他人と違う能力に悩む主人公の姿はキングの「デッド・ゾーン」を思い起こさせますし、中盤にカーニバルが舞台になるのは、伝統的なダークファンタジー(スタージョンの「夢見る宝石」とかクーンツの「トワイライト・アイズ」とか)の系譜に属するものだと言えると思います。
「スワン・ソング」と同じように、ラストは泣けます。ただ、宥和と和解が象徴される平穏な幕切れは、「スワン・ソング」よりも「スティンガー」の結末と似ていると思うのですが。どうでしょう?(誰にきいてる?)

オススメ度:☆☆☆☆

2002.12.8


ミレニアム3 除草 (ホラー)
(ビクター・コマン / 徳間文庫 1998)

「X−ファイル」の二匹目のドジョウを狙ったTVシリーズのノヴェライゼーション第3巻。
3巻目にして、ようやく読むに耐えるようになってきた(というか、そういう作家を起用するようになってきた)気が。
平和な新興住宅街を事件が襲います。失踪した高校生が、両手首を切断された死体で発見されます。解剖の結果、被害者は大量の血液(自分のではない)を飲まされていたことが判明。主人公フランクは、その謎を追います。
サスペンスの盛り上げはそれなりにできてはいますが、まあ犯人も意外ではないし・・・暇つぶしに読むにしても500円は高いなあ。
ていうか、このシリーズ、この巻以降、続巻が出てないんですけど・・・。やっぱり売れなかったのね。

オススメ度:☆

2002.12.9


鬼面の塔 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1998)

えっと。ほんとは昨日のうちに読み終わってたんですけど、諸般の事情により(笑)記録は今日。
“グイン・サーガ外伝”の第13巻。引き続き、誘拐された皇女シルヴィアを求めてキタイに赴いたグインの冒険行が描かれます。
前巻のラストでもうひとりの人質マリウスを取り返したグイン、とうとう敵の本拠、“鬼面の塔”に向かいます。その行く手をはばむ暗殺集団、そして“闇の司祭”の幻術・・・。
それにしてもグラチー(おい)のおしゃべりはいつも名調子で、つい聞きほれてしまいますな。あと、次第に正体が明らかになってくるヤ●●ル・●ッ●(あんまり伏字にする意味ありません)、どう見ても『七人の魔道師』に出てくるお方とは別人のような気が(汗)。
なにやら思わせぶりな宝石(ん?)も登場したりなんかして、先がますます楽しみです。
と言いながら、今日本編の87巻買ったんですけど、いつになったら読み進めることやら。

オススメ度:☆☆☆☆

2002.12.11


竜王伝説5 ―竜王めざめる!― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1998)

大河ファンタジー『時の車輪』の第1シリーズ“竜王伝説”の最終巻。
冒頭で、意外とあっさり合流する旅の仲間たち。
そして、一行は異能者モイレインの指示のもと、<秘密の通路>(出た!)を抜けて、原題にもなっている<全界の眼>を目指します。
でもって、竜王が目覚めます(←はしょりすぎ)。
なるほど、「竜王めざめる!」って、そういうことだったのね。
とりあえず、このシリーズは大きなプロローグという感じで、伏線の嵐ですね。ラストバトル(?)の決着も、一応はついたという形で、実はまったく解決になってないし。
次シリーズからは、こま切れに読まずに、シリーズ毎にまとめて一気読みした方が楽しめそうですね。(ため込んでるおかげで、それが可能だし(^^;)

オススメ度:☆☆☆

2002.12.11


未知の憑依者 (SF)
(エルンスト・ヴルチェク&クルト・マール / ハヤカワ文庫SF 2002)

“ペリー・ローダン・シリーズ”の最新巻(ええと、286巻ですな)。
前巻の後半から、新展開に入ってます。
新たな脅威、謎の“苦悶の声”の正体を探るべく、旅立つローダンたち。
と言っても、『ローダン・ハンドブック』読んでるから、実は正体知ってるんですが(汗)。
でも、今回はサスペンスの盛り上げも上手いし、久々にツボ突いてます。初期の、●ルー●・サイクルの頃の、“姿なき攻撃”が襲った時の雰囲気に似ていて、いい感じです。
どのようにして謎を解いていくか、そのプロセスが楽しみです〜。

<収録作品と作者>「未知の憑依者」(エルンスト・ヴルチェク)、「共生体の時間」(クルト・マール)

オススメ度:☆☆☆☆

2002.12.12


クトゥルー11 (ホラー:アンソロジー)
(大瀧 啓裕:編 / 青心社文庫 1998)

いわゆる“クトゥルー神話”を集めた短編集の11巻目。
今回は、御大ラヴクラフトやダーレスは登場せず、同じ“ラヴクラフト・サークル”のR・ブロックやH・カットナー(この人は“ノースウェスト・スミス”を書いたC・L・ムーアの旦那)、F・B・ロング等の作品が収められています。
どの話も、主人公が太古の邪悪な存在を召喚してしまって(または知らずに復活させてしまって)、悲惨な目に遭うという“クトゥルー神話”の典型的なパターンを踏襲しています。まあ、新鮮味もないけど失望もしないという感じで。
全体の半分を占めているロングの中篇「恐怖の山」は、おどろおどろしい雰囲気が好み(でもタイトルはもうちょっとなんとかならんかったのか)。

<収録作品と作者>「深淵の恐怖」(ロバート・W・ロウンデス)、「知識を守るもの」(リチャード・F・シーライト)、「暗黒の口づけ」(ロバート・ブロック&ヘンリイ・カットナー)、「窖に潜むもの」(ロバート・ブロック)、「狩りたてるもの」(ヘンリイ・カットナー)、「蛙」(ヘンリイ・カットナー)、「恐怖の山」(フランク・ベルナップ・ロング)、「ラヴクラフト書簡より」

オススメ度:☆☆

2002.12.13


フレンチ警部とチェインの謎 (ミステリ)
(F・W・クロフツ / 創元推理文庫 1994)

クロフツの初期の作品。フレンチ警部ものとしては2作目で、作者としては6作目。
いつものクロフツと違って、本格謎解きものではありません。得意のアリバイ崩しも無し。
お話は、冒険サスペンス小説仕立てです。主人公チェイン氏は、ホテルで睡眠薬を盛られ、同じ夜に自宅が強盗に荒らされます。さらに誘拐されるに至って、旧友から預かっているある書類が悪党一味に狙われていることに気付きます。警察には知らせず、単身、一味に挑むチェイン氏。その冒険の渦中で魅力的な女性と知り合い、彼女と共に悪に立ち向かうのですが・・・。
結局、窮地に陥ってスコットランド・ヤードに駆け込んだ時、応対したのがフレンチ警部でした。
ということで、前半は中世騎士物語を思わせるチェイン氏の冒険、後半はフレンチ警部の捜査という二重構造のプロット。途中から善玉と悪玉がはっきりしてしまい、犯人当ての楽しみとかはありませんが、暗号文書なども出てきて、盛り沢山の内容です。水準作。
それにしても、クロフツの作品って、ほとんどが絶版になってるんですね。30作以上出版されてるはずなのに。人気ないんだろうか。好きなんですけど。

オススメ度:☆☆☆

2002.12.14


遥かなる地球の歌 (SF)
(アーサー・C・クラーク / ハヤカワ文庫SF 1997)

これはいい作品です。クラークらしいっていうか、SFの素晴らしさが凝縮されてるというか。
人類の植民惑星(生身の人間が植民したわけではなく、遺伝子情報を積んだロボット船が植民した。詳細略)サラッサでは、宗教的偏見や人種差別の無い牧歌的な生活が営まれていました。しかし、ある日、巨大宇宙船が飛来します。それは、太陽の異変で滅亡した地球から、さらに先の星系を目指して飛んでいたマゼラン号(←この名前に注目!)でした。
マゼラン号は、飛行を続けるために必要な大量の水を確保するために、海惑星サラッサに立ち寄ったのです(ちなみにサラッサは、みっつの小さな島の他はすべて海という惑星です。つまり、この作品では宇宙と並んでクラークにとってのもうひとつの異世界である“海”も生き生きと描かれているのです)。
最先端のテクノロジー(なんせ“量子駆動”などというシステムまで具えている)を有したマゼラン号の乗員と、技術的に停滞していたサラッサ住民とは、まるで大航海時代のヨーロッパ人と南洋の島の原住民くらいの差がありました。この比喩は、“マゼラン号”という名と共に、作中で言及される“バウンティ号症候群”に象徴されています。
壮大な背景を持っているのに(その辺はごくさらりと流されています)、お話は叙情的に、淡々と進みます。発見あり、ロマンスあり、冒険ありなのですが、あえて抑えて描かれている・・・でもそこがいいのです。
はじめてSFを読む、という人は、この作品から始めるのがよろしいかと思います。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2002.12.15


ハリウッド・スーパーナチュラル (オカルト)
(ブラッド&シェリー・スタイガー / 扶桑社ノンフィクション 1998)

タイトルの通り、ハリウッドのスターたちに関係した様々な超常現象をまとめた本。
幽霊やら予知やらUFOやら交霊術やらチャネリングやら、よくもまあこれだけあるもんだという感じですが、注目されてる土地、注目されている人たちだけに、いろいろとネタが出てくるのでしょうね。
特にニューエイジ関係、チャネリング関係の話題が多いのですが、どうもこういうのを信じろと言われてもちょっと・・・。

オススメ度:☆

2002.12.17


ブラック・マライア (ホラー)
(ジェイ・R・ボナンジンガ / 福武文庫 1998)

えっと、ホラーの世界に“ブードゥーホラー”なるジャンルがあるのかどうかはさだかではありませんが・・・。あるとしたら、マキャモンの初期の作品とか、ニコラス・コンデのあの大作とか、いくつかは挙げられますな。映画界だとそれはもう無数に(○にはゾンビ映画は嫌いです。生理的にダメ)。
この「ブラック・マライア」は、そんな“ブードゥー”ネタと“暴走トラック”ネタ、さらに“追跡”ネタが融合したサスペンスフルな作品です。
主人公ルーカスは、黒人の長距離トラック運転手。相棒のソフィー(こちらはお嬢様生活からドロップアウトした白人女性)と州間高速を走行中、奇妙な無線を傍受します。その無線の主は、「呪いをかけられていて、車を止めることができない」と訴えます。ちょっとしたことから無線の主を助けようとしたふたりは、相手の不可解で恐ろしい死に様を目の当たりにします。
ところが、呪いの矛先は今度はふたりに移り、かれらの身に恐ろしい出来事が・・・。
呪いのネタは、早いうちに読者には明かされてしまいますので、後はいかにこの呪いを解くかが焦点になります。
登場人物みんながトラウマを負っていて、事件の中でそれを克服していくというあたりはクーンツ的。映画を見ているかのような(作者の本業は映像作家)スピーディな展開が魅力です。
そういえば、これ、映画化されてるんですよね。見てないけど。

オススメ度:☆☆☆

2002.12.18


蚊はなぜ人の血が好きなのか (ノンフィクション)
(アンドリュー・スピールマン&マイケル・ド・アントニオ / ソニー・マガジンズ 2002)

珍しくノンフィクション。珍しくハードカバー(笑)。
まあタイトルから想像される通り、蚊のお話です。蚊と、それが媒介する感染症と人類との戦いの歴史を綴り、将来に向けての提言もしています。
蚊が媒介する病気といえば、マラリアをはじめ、黄熱、デング熱、そして各種の脳炎(日本脳炎もそのひとつですな)。近年、アメリカで問題になった西ナイル熱も話題にされています。
まあ、感染症(及び昆虫学)に興味のない人にはお勧めいたしませんが。
でも、この本を読んでひとつ覚えたこと。豆知識〜(枝豆は大豆やねんで・・・って違う!)。
「蚊取り線香」は英語で何と言うか・・・?
「モスキート・コイル(mosquito coil)」だそうです。見たまんまやんか(笑)。

オススメ度:☆☆

2002.12.19


遺留品 (ミステリ)
(パトリシア・コーンウェル / 講談社文庫 1996)

“検屍官ケイ”シリーズの第3作。
今回も、猟奇的な連続殺人事件が起こります。アベックばかりを狙う犯人。そして、5回目の犯行と思われる事件の被害者は、次期副大統領候補とも言われる政界で著名な女性の娘でした。
この事件をめぐって、CIAやFBIが妙な動きをしていることに、ケイは気付きます。おなじみのマリーノ警部補や新聞記者アビーと協力しながら、捜査を進めるケイ。しかし・・・。
ん〜。
前作でも感じたことですが、なにか作者は読者サービスを意識しすぎて、逆に空回りしているような気がします。プロットを複雑にしすぎて自滅しているのではないかと。結末で●●●を●●してしまう必要はなかったんじゃないかな? まあDNA鑑定の落とし穴については、なるほどなと思いましたが。

オススメ度:☆☆

2002.12.20


タイム・シップ(上・下) (SF)
(スティーヴン・バクスター / ハヤカワ文庫SF 1998)

いわゆる“時間旅行”テーマSFの最初の作品は、H・G・ウェルズの「タイム・マシン」です(書かれたのは19世紀末の1895年)。もしウェルズが書かなかったとしても、誰かが同じネタで書いたでしょうが、少なくとも我々の時間線では、ウェルズが“時間旅行”テーマの元祖であることは間違いないところです。(そういえば、“時間旅行”テーマってのは一番SFらしくないネタだと、昔、中島梓さんが書いてたなあ)
で、元祖「タイム・マシン」の刊行100周年を記念して1995年に出版されたのが、本作「タイム・シップ」です。「タイム・マシン」の設定(というか、ウェルズの他の作品のネタも)をそのまま使い、「タイム・マシン」の結末を発端として始まる新しい物語。
主人公(名前はない)は、前回の時間旅行で助けることができなかったエロイ族(未来の種族)の少女を救うために、再び未来へと旅立ちます。しかし、行き着いた先は、前回とは別の未来。そこでは、前回の未来では野蛮だったモーロック族が、平和な種族として太陽系を支配し、ユートピア的な社会を築いていました。そこで出会ったモーロック族との会話の中から、自分の時間旅行そのものが歴史を改変してしまう原因だと悟った主人公は、19世紀に戻り、過去の自分と対面してタイム・マシンの開発を止めさせようと決意します。しかし、タイムパラドックスの罠は、既に複雑に錯綜した歴史の迷路を紡ぎつつありました・・・。
ということで、中盤は、まるでJ・P・ホーガンの「プロテウス・オペレーション」もかくやという(P・アンダースンの
「タイム・パトロール」ではなく)ポリティカル・スリラー的な展開になります。しかし、あくまで視点は主人公である19世紀の科学者の視点。量子論とか核分裂についての話も出てきますが、あくまで視点は19世紀。
後半に至って、物語は壮大なヴィジョンを描き出すことになりますが、ネタバレになるのでこれ以上は秘密(笑)。ただ、いかにもという結末のまとめ方は見事です。
でも、読み終わってみて、似た話をどこかで読んだな、と思って、いろいろと思い出してみたら、あれでした。小説ではなく、清原なつのさんのマンガ「アレックス・タイムトラベル」でした。

オススメ度:☆☆☆☆

2002.12.23


八八艦隊物語1 栄光 (シミュレーション戦記)
(横山 信義 / 中公文庫 1998)

ブームも去って久しい“架空戦記”もの。今頃読み始めるって何よ?という気もしないではないのですが。いやまあいろいろと都合が(汗)。
で、このシリーズ。まともです(おい・・・)。作者はかなりのマニア(笑)らしく、史実と虚構をうまく織り交ぜて、緻密に描いています。某「●●の艦隊」なんかとは大違い。
で、基本テーマはなにかというと、「太平洋戦争当時、日米の海軍が双方とも“大艦巨砲主義”を貫いていたらどうなっていたか」のシミュレーション。タイトルになっている“八八艦隊”とは、日本連合艦隊の主力を成す16隻の新鋭戦艦のこと。これが、米英の戦艦舞台と真っ向からぶつかるわけです。 思えば、昔、友人と『提督の決断』を対戦プレイした時、レイテ沖海戦のところで空母群を全部遠くへ追いやっておいて、日米双方で戦艦だけの艦隊を編成して正面から砲撃戦で対決したことがありますが、そんな感じ。
見事なのは設定で、連合艦隊司令長官は山本五十六ではなく、海軍兵学校で彼の同期だった嶋田繁太郎。で、参謀長に山口多聞を配したのが絶妙です。現実の歴史での山本−宇垣ラインの逆ですな。当然ながら、航空戦力重視の“真珠湾攻撃”は、このお話では実施されません(笑)。
もちろん両軍ともに航空兵力重視派も少数ながらいるわけで(山口多聞、小沢治三郎、ハルゼー・・・)、かれらと大鑑巨砲派との内部対立や葛藤もみどころ。この巻でも、限られた航空兵力を効果的に使って戦況を打開する山口多聞やスプールアンスの知略が光ります。
とりあえず、最初の艦隊決戦に勝利した連合艦隊。この先どうなる?(全5巻の予定)
ただ、映画「トラ、トラ、トラ!」の場面をそのままパクったような描写はどうかと思うぞ。
戦記ものが好きな方には、お勧めかも。

オススメ度:☆☆☆

2002.12.24


銀河英雄伝説9 回天篇 (SF)
(田中 芳樹 / 徳間文庫 1998)

『銀英伝』もいよいよ大詰め。ついに第9巻です。(なんで今頃読んでるんだ? というのは言いっこなし(^^;)
前巻で、一方の主役が退場してしまっただけに、寂しい感じは否めません。
で、今回でも巨星がひとつ消えた・・・。
“神々の黄昏”を思わせる、消え行く蝋燭のまたたきのような英雄たちの最後の輝きの向こうに、次代を担う若き星々の胎動も感じられます。
物語は終わらない・・・。

オススメ度:☆☆☆☆

2002.12.25


ターミナル (サスペンス)
(ロビン・クック / ハヤカワ文庫NV 1994)

クックお得意のメディカル・サスペンスです。今回も面白い(^^)。
主人公ショーンは、ハーヴァードとMITを卒業している秀才の医学生。ただ、性格は自分勝手で礼儀知らず、思い通りにならないと暴力も辞さず・・・という、あまり友達にはなりたくないタイプです。
彼は、特殊な種類の脳腫瘍の治療に目覚しい成果を収めている癌センターに、自ら望んで研修に行きますが、センター側が秘密を明かしてくれません。思い通りにならず、ムキになったショーンは、彼の後を追ってきた恋人のジャネット(彼女はナースです。ショーンの性格に手を焼きながらも、なぜか離れられないでいる女心の持ち主)と協力して、謎を探り出そうとします。
しかし、異様に厳しい警備体制、産業スパイの暗躍、不審な呼吸不全を起こして死亡する末期患者(なんか、どこかで聞いたような事件ですな)と、謎は謎を呼び、さらに法を犯すことも辞さないショーンの強引な行動から、二人は危地に追い込まれていきます。
前半の謎と、徐々に謎が解けていく中盤から後半へのスピーディな展開(クーンツ並みの追いつ追われつの展開もあり)。まあ決着のつけ方は、ちょっと強引ですが。最初は鼻持ちならないイヤな男だったショーンが、読み進むにつれ、悪戯っ子のガキ大将のように微笑ましく思えてくるのが不思議です(作者の力量か?)。

オススメ度:☆☆☆

2002.12.26


ソロモンの指輪 (ノンフィクション)
(コンラート・ローレンツ / ハヤカワ文庫NF 1998)

「動物行動学」という新たな学問ジャンルを確立した、古典的名著(としてずっと名前だけは知っていた)。
原作が発表されたのは、もう半世紀以上も昔のことですが(邦訳も初版は1963年)、今読んでも新鮮です。
でも、もっと難解でアカデミックな学術書かと思っていたので、平易で生き生きした動物たちの描写に、意外と思うと同時に新鮮な驚きを覚えました。
「インプリンティング」(鳥のヒナなどが、生まれて初めて見た動くものを母親だと思いこんでしまう)を初めて観察(というより体感)したエピソードを語る「ガンの子マルティナ」をはじめ、動物たちに対する優しい眼差しと、的確な観察眼が感じ取れるきめ細かな描写。そして、著者自身の筆になる(全てがそうではないようですが)多数のリアルかつ温かみのある挿絵は、見事です。
動物好きも、そうでない人も、ぜひ読んでいただきたいです。

オススメ度:☆☆☆☆

2002.12.27


神の物々交換 (ノンフィクション)
(荒俣 宏 / 集英社文庫 1998)

現代日本最大のディレッタント(と○には信じております)荒俣宏さんが、今回は実際に世界中を旅して、古今東西の文化の伝達と混交について様々な薀蓄を傾けてくださいます。
いきなりポテトチップを例にとって、食文化の“交換”のからくりを明快に説明してくれるところで、もうノックアウト状態(笑)。あとは没頭して一気に読み進むしかありませんでした。
食文化、宗教、古代都市、ファッション、色彩、魔術・・・といったテーマ毎に、アメリカ、中南米、ヨーロッパ、アジアを経巡り、数々の驚異が、その歴史的・文化的背景分析と共に、生き生きと目の前に展開されます。
ただひとつの不満は、掲載されている写真がモノクロなこと。値段が5割増になってもいいからカラー図版を使ってほしかった・・・。モノクロ写真を出されて「4色のトウモロコシ」と言われても(汗)。

オススメ度:☆☆☆

2002.12.28


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