1991年のこと。イタリアとオーストリアの国境近くの氷河の中から、ひとりの人間のミイラ化した遺体が発見されました。当初、遭難した登山者の遺体だと考えられていたそれは、鑑定の結果、紀元前3000年以上前の新石器時代の人間だと判明したのです。
この発見は、当時かなりのセンセーショナルなニュースとして扱われました。近年、『特命リサーチ200X』でも紹介されていましたね。
本書は、その5000年前のミイラを研究したチームの中心人物である考古学者シュピンドラー博士の著書で、ミイラが発見された経緯、判明した事実、そこから推論される当時の文化とこの人物を襲った運命にいたるまで、詳細に描き出してくれます。
中盤でデータを検討する部分がちょっと退屈ですが、全体としてはよく書かれた科学ノンフィクションです。
解体諸因 (ミステリ)
(西澤 保彦 / 講談社文庫 1997)
探偵小説に“バラバラ殺人”テーマというジャンルがあるのかどうかはわかりませんが(笑)。
この作品は、まさにそのテーマに絞った連作短編集です。
手足、指まで34個にバラされた主婦とか、エレベーターが8階から1階へ降りる16秒の間にバラバラ死体と化したOLとか。バラされるのは人間ばかりではなくて、ポスターや人形だったりする話もあります。
で、これら九つの作品、微妙に関連し合っているのですね。登場人物(探偵役だけじゃなくて)がかぶってたり、ある事件とある事件の関連が、別の事件で明らかにされたり。この辺の趣向は嬉しいです。
ただ、作者もあとがきで述懐していますが、トリックのためのトリックになってしまっていたり、シリアスな犯罪のはずなのに、ブラックユーモアを通り越してギャグとしか思えない描き方をされてたり、そのあたりがちょっと残念かも。でもまあ処女作だからねえ・・・。
他の作品も読んでみようっと。
<収録作品>「解体迅速」、「解体信条」、「解体昇降」、「解体譲渡」、「解体守護」、「解体出途」、「解体肖像」、「解体照応 推理劇『スライド殺人事件』」、「解体順路」
オススメ度:☆☆☆
2002.11.5
侵略! (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)
毎回、テーマを絞ってのオリジナル・ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第2集。
今回は、タイトル通り『侵略』テーマです。
侵略といえば、ウルトラ世代の自分には宇宙人や異次元からの侵略というのが真っ先に思い浮かぶのですが(ガラダマとかケムール人とか、マジに怖かったし ←『ウルトラQ』放映時は幼稚園児)、それだけじゃないんですね。
収録された作品は、どれもバラエティに富んでいて、面白いです。
でも、このアンソロジーを読んで改めて感じたこと。いちばん怖いのは、日常生活の中にさりげなく侵入してきている“人間じゃない人間”ですね。
<収録作品と作者>「地獄の始まり」(かんべ むさし)、「罪と罰の機械」(牧野 修)、「夜歩く子」(小中 千昭)、「雨の町」(菊地 秀行)、「赤い花を飼う人」(梶尾 真治)、「彼らの匂い」(大場 惑)、「おだやかな侵入」(森下 一仁)、「特別急行列車」(井上 雅彦)、「命の武器」(草上 仁)、「アロママジック」(村田 基)、「暴力団の夢見る頃」(山下 定)、「ママ・スイート・ママ」(安土 萌)、「さりげなく大がかりな」(斎藤 肇)、「不思議な聖子羊の美少女」(大原 まり子)、「鏡の中の他人」(岬 兄悟)、「聖戦の記録」(津原 泰水)、「子供の領分」(菅 浩江)、「花菖蒲」(横田 順彌)
オススメ度:☆☆☆
2002.11.12
変身 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)
全編書き下ろしテーマ別ホラーアンソロジーのシリーズ3巻目。
今回のテーマはタイトルの通り“変身”です。
古来、このテーマはホラー・怪奇小説に限らず様々な小説・映画・TVドラマで扱われてきました。それだけに、どのようにユニークな変身(というか変容)を描くか、作者の力量が試されるところです。
ん〜、どれもすごい。どこかで見たようなネタでも、料理の仕方によって見事に新鮮になるものですね。中には「なんだこりゃ」ってのもありますが(決して駄作というのではなくて、肌が合わないという意味ですが)。
<収録作品と作者>「福助旅館」(倉阪 鬼一郎)、「森の王」(久美 沙織)、「きれいになった」(中井 紀夫)、「いつの日か、空へ」(草上 仁)、「生きている鏡」(矢崎 存美)、「交接法」(藤 水名子)、「痩身術」(太田 忠司)、「闇夜の狭間」(岬 兄悟)、「ワルツ」(牧野 修)、「かみやしろのもり」(加門 七海)、「MUSE」(奥田 哲也)、「コッコの宿」(南條 竹則)、「整髪」(早見 裕司)、「生まれし者」(飯野 文彦)、「のびをする闇」(江坂 遊)、「異なる形」(斎藤 肇)、「転身」(安土 萌)、「舞踏会の仮面」(井上 雅彦)、「溶けてゆく……」(大原 まり子)、「姉が教えてくれた」(菊地 秀行)
オススメ度:☆☆☆☆
2002.11.30
クトゥルー11 (ホラー:アンソロジー)
(大瀧 啓裕:編 / 青心社文庫 1998)
いわゆる“クトゥルー神話”を集めた短編集の11巻目。
今回は、御大ラヴクラフトやダーレスは登場せず、同じ“ラヴクラフト・サークル”のR・ブロックやH・カットナー(この人は“ノースウェスト・スミス”を書いたC・L・ムーアの旦那)、F・B・ロング等の作品が収められています。
どの話も、主人公が太古の邪悪な存在を召喚してしまって(または知らずに復活させてしまって)、悲惨な目に遭うという“クトゥルー神話”の典型的なパターンを踏襲しています。まあ、新鮮味もないけど失望もしないという感じで。
全体の半分を占めているロングの中篇「恐怖の山」は、おどろおどろしい雰囲気が好み(でもタイトルはもうちょっとなんとかならんかったのか)。
<収録作品と作者>「深淵の恐怖」(ロバート・W・ロウンデス)、「知識を守るもの」(リチャード・F・シーライト)、「暗黒の口づけ」(ロバート・ブロック&ヘンリイ・カットナー)、「窖に潜むもの」(ロバート・ブロック)、「狩りたてるもの」(ヘンリイ・カットナー)、「蛙」(ヘンリイ・カットナー)、「恐怖の山」(フランク・ベルナップ・ロング)、「ラヴクラフト書簡より」
オススメ度:☆☆
2002.12.13