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イクシーの書庫・過去ログ(2004年9月〜10月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


悪の起源 (ミステリ)
(エラリイ・クイーン / ハヤカワ・ミステリ文庫 2000)

ハリウッドを舞台にしたクイーン後期の長篇ミステリ。
クイーンのハリウッド物としては、「悪魔の報復」と「ハートの4」に続く3作目です(この2作はいずれも創元推理文庫で読みました)。
新作小説を書くためにハリウッドを訪れたクイーンの元に、「父が殺された謎を解いてくれ」という若い女性が現れました。匿名の人物から犬の死体と脅迫状が送りつけられた直後、父親は心臓発作で死んだというのです。そして、彼女の後を追うように、死んだ男性の共同経営者の妻もクイーンを訪ねてきます。十年以上も車椅子生活をしている夫の元にも奇妙な荷物が届き、夫が怯えていると言うのです。
ところが、その脅迫されているはずの男はクイーンの質問にも答えようとせず、自分は脅されてなどいないと言い張るばかり。そうこうするうちに、彼は毒を盛られてしまいます。四半世紀を遡って明かされる脅迫者の正体とは――?
妖艶な富豪夫人にモーションをかけられてぐらりと来るクイーンなど、初期の作品にはない演出がなされ、なんとなくクイーンらしくないとも感じましたが、プロットといい道具立てといい、ドイルのシャーロック・ホームズものの初期の長篇を思い出させます。

オススメ度:☆☆☆

2004.9.2


チャレンジャーの死闘(上・下) (SF)
(デイヴィッド・ファインタック / ハヤカワ文庫SF 2000)

若き青年艦長ニコラス・シーフォートが奮闘するミリタリーSFシリーズ“銀河の荒鷲シーフォート”の第2弾。
前巻、止むに止まれぬ事情で一介の士官候補生の身でありながら国連宇宙軍艦ハイバーニアの艦長を務めねばならなくなってしまったシーフォート。人類として始めて異星生物と遭遇し戦闘となるなど、艱難辛苦を乗り越えてようやく太陽系に帰還したシーフォートは、今回、晴れて宇宙軍最年少の正規艦長として新鋭艦チャレンジャーを与えられ、前回赴いたホープ・ネーション星系へ向かう艦隊に配属されます。
ところが、彼のことをまったく認めない司令官(異星生物との遭遇報告でさえ偽りだと思っています)トレメイン提督は、理不尽にもチャレンジャーを自分の座乗艦として指定し、シーフォートは妊娠中の新妻アマンダや部下と共にまったく馴染みのない軍艦ポーシャへ移乗させられます。おまけにポーシャは先行して異星生物を警戒するという、言ってみれば危険な洞窟へ潜る時のカナリアの役割を押し付けられます。更に、政治的思惑がからんでシーフォートはニューヨークのハーレム育ちのストリートキッドの一群を船客として迎え入れなければなりませんでした。
案の定、異星生物に襲われてポーシャは危機に陥り、シーフォートも悲惨な運命に見舞われます。更に、戦場から逃走したトレメイン提督は、詭計を弄して航行不能に陥ったチャレンジャーをシーフォートに押し付け(しかもレーザー砲や食料・燃料のかなりを奪って)、問題のある水兵や老人子供の船客だけを残して宇宙空間に置き去りにしてしまいます。
自暴自棄になる水兵は反乱を起こし、乗客の間には絶望感が広がります。ここまでシーフォートを追い込む作者ファインタックは、実はサディストでは?と思うほどの“おしん”状態。
まあ、その危地をどう切り抜けて艦と乗員乗客を無事に地球に送り届けるかというのが後半の焦点になるわけですが、爽快な宇宙SFというよりは重厚な破滅SF(「渚にて」のような静かな終末観まで感じられます)。
う〜む、やはりキリスト教をベースとしたストイックな世界観が背景にあるところが、同じ戦争SFの“スコーリア戦史”や“オナー・ハリントン”とは大きく異なる原因でしょうか。主人公の性別が影響を与えてるわけじゃないよね(笑)。
部下を見捨てて逃亡した提督との落とし前は、次巻でつくそうです。

オススメ度:☆☆☆

2004.9.4


妖精の王国 (ファンタジー)
(L・S・ディ・キャンプ&フレッチャー・プラット / ハヤカワ文庫FT 2000)

原作の刊行が1942年、ハヤカワ文庫の初版が1980年という、ファンタジーの中でも歴史の古い作品。
第二次大戦の初期、アメリカの外交官バーバーは、滞在中のイギリスでドイツ空軍の空襲に遭い、戦争神経症となってイギリス中部の田園地帯で静養していました。
ある晩、下宿先のおかみさんが妖精のために軒先に出しておいたボウルの牛乳を飲み干してしまったことから、バーバーは“取り替えっ子”として妖精界に連れ去られてしまいます。
妖精界の宮廷では妖精王オベロンと女王タイタニアが反目し合い、コボルド族の脅威に怯えていました。バーバーは、外交官として鍛えられた弁舌と相手の嘘を見抜く直感を駆使して脱出しようとしますが、結局はオベロンの特使としてコボルドの元に赴くことになります。
しかし妖精界では人間界の論理は通用せず、ケルトの妖精伝説もかくやという不可思議な事件に巻き込まれつつも、なんと使命を果たそうとするバーバー。しかし森では妖精の杖を盗まれるは、不気味な姿に変身してしまうは、彼の苦難はどこまでも(しかしユーモラスに)続きます。
結末が急転直下で、あっさりしすぎているのが不満といえば不満ですが、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」を下敷きとし、トールキンとはまた異質の、ケルトの伝統を踏まえたファンタジーの古典といえます。
なお、このディ・キャンプ&プラットのコンビは『ハロルド・シェイ』というファンタジーの連作シリーズも書いています。いずれ(近日とは言えない(^^;)登場。

オススメ度:☆☆☆

2004.9.5


墓場貸します (ミステリ)
(カーター・ディクスン / ハヤカワ・ミステリ文庫 1995)

密室トリックの巨匠カーがディクスン名義で書いたミステリ。おなじみのヘンリー・メリヴェル卿(H・M)がアメリカに渡って活躍します。
今回は密室ではなく、人間消失のトリックがメインになっています。
ニューヨーク在住の実業家マニングは、自分が運営する財団の金を横領したとの疑いを受けており、若い愛人を連れて行方をくらまそうとしているのではないかと疑われていました。そして、渡米したH・Mが屋敷へ到着した翌朝、マニングは家族や友人が見守る中、プールへ飛び込み、衣服を残したまま上がって来ませんでした。水を抜いて捜索しても、疑われた秘密の抜け穴などもなく、彼は完全に姿を消してしまったのです。
さて、真相は――?
イギリスが舞台の時は比較的動き回らず、“安楽椅子探偵”のイメージがあるH・Mですが、今回は動く動く(笑)。野球の試合に出て元マイナーのピッチャーからホームランはかっ飛ばすは、ニューヨークの地下鉄で大立ち回りは演ずるは(ここで使われるトリックは、小粒ですが単純なだけにメイントリックよりもパンチが効いています)、ラストでは犯人を追って拳銃を乱射するは、よくあの巨体で動けるものです。と言いますか、普段は爪を隠しているだけなのですね(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2004.9.6


雷鳴の中でも (ミステリ)
(ジョン・ディクスン・カー / ハヤカワ・ミステリ文庫 2001)

カー作品が続きます(名義は違いますけど)。
17年の時を越えて同じ場所で発生したふたつの転落死事件。
17年前、第二次大戦中にスイスの山荘を訪れた女優のイヴと婚約者へクター。しかし、翌朝へクターはテラスから転落死します。すぐそばにいたイヴが突き落としたのではないかと疑われますが、ナチ支配下の戦時中とあって結局はうやむやに。
そして17年、再婚もし、女優としての再起を期すイヴは同じ山荘に当時の目撃者ふたりを含む客を招待し、自らの潔白をあらためて証明しようとします。われらがフェル博士もイブの夫君デズモンドの招待を受け現地に。さらに17年前の事件の真相を暴いてフェル博士の鼻を明かしてやると息巻くハサウェイ卿や、イヴとの付き合いを好まない父親の命を受けて、若い娘オードリーの保護者として送り込まれた画家イネスなど、集まったメンバーは多士済々。恋の鞘当あり、渦巻く憎悪と疑惑あり、ほとんどドタバタラブコメの世界が繰り広げられる中で、イヴが17年前と同じ状況で墜落死します。
ともかく登場人物たちが余計な思惑と行動をとるせいで、どんどん話がこんがらがってややこしくなっていくわけですが、それだけに途中でやめることができなくなります。しかもこれだけ混乱してもちゃんと納得できるように収拾がつくし(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2004.9.8


フレンチ警部の多忙な休暇 (ミステリ)
(F・W・クロフツ / 創元推理文庫 1994)

中学1年の時に出会って以来、クロフツはずっと読み続けて来ました。
で、その当時から、著作リストを見ながらずっと気になっていたのが「フレンチ警部と賭博船」というタイトルの作品。探しても探しても見つからなかったのです。
ところが、本書の解説を見て長年の疑問が氷解しました。なんと、この「フレンチ警部の多忙な休暇」が、「フレンチ警部と賭博船」のことだったんです。タイトルが変わって再刊されていたんですね。わーい。
さて、旅行社勤務の青年モリスンは、添乗員の仕事をしている時に知り合った弁護士ブリストウから、イギリス列島周辺をクルーズする観光船事業の相談を持ちかけられ、やり手の資産家ストットとの間を取り持ったことが縁で、この新規事業に参画することになります。ところが、最初はただのクルージング事業だったのが、ストットのアイディアで船内にカジノを開設し、それを目玉とすることに。
英国の法律ではカジノは禁止されているので、船籍も経営主体もフランス籍に変更し、違法性も免れて評判も上々。輸送主任として船に乗り組むモリスンも、ストットの孫娘マーゴットと恋に落ち、事業は順風満帆に進んでいました。
そんなある日、マーゴットとデートするつもりで上陸していたモリスンは、急に都合が悪くなったとの連絡を受け、失望して歩いて港に戻る途中、森の中で撲殺されているストット老人を発見、自分に嫌疑がかかるのを恐れ、そのまま知らん振りを決め込んでしまいます。
一方、スコットランド・ヤードのフレンチ警部はたまたま(?)この船に乗り合わせており、現地警察の応援要請を受けて捜査に乗り出します。しかし、関係者のすべてに鉄壁のアリバイが・・・。
前半はモリスン青年の視点から描き、後半はフレンチの丹念な捜査とアリバイ崩しを描く合間に挿入される風光明媚なアイルランドやスコットランドの点景。まさにトラベル・ミステリーの醍醐味が味わえます。アリバイ・トリックも単純ですがなかなかのもの。
なお、途中の登場人物の会話で同じクロフツ作品「ヴォスパー号の遭難」(ハヤカワ・ミステリ文庫)に関するネタバレがあります(224ページ)。未読の方はご注意ください。
また、
「蜘蛛と蠅」では本船に乗り組んだ人々の後日談を読むことができます(ストーリー自体は独立したものですが)。

オススメ度:☆☆☆

2004.9.9


策謀のギャラックス=ゼロ (SF)
(ハンス・クナイフェル&クルト・マール / ハヤカワ文庫SF 2004)

ペリー・ローダン・シリーズの第303巻です。
相変わらず、並行宇宙で(オリジナルの)ローダン一行と(ドッペルゲンガーの)ローダン一味が虚虚実実のかけひきを繰り広げます。
前半は(ドッペルゲンガーの)ローダンが罠を仕掛け、後半はその逆。
更に後半のラストでは、とある(ドッペルゲンガーの)重要人物があっさり退場してしまいますが、そんなに簡単に片付けてしまって、この先もつのだろうかとちょっと不安に(^^;
ともあれ、
次巻もひと波乱ありそうです。

<収録作品と作者>「策謀のギャラックス=ゼロ」(ハンス・クナイフェル)、「恒星マラソン」(クルト・マール)

オススメ度:☆☆☆

2004.9.9


城 昌幸集 (怪奇・幻想)
(城 昌幸 / ちくま文庫 2001)

「岡本綺堂集」に続く、ちくま文庫版『怪奇探偵小説傑作選』の第4巻。事情により2巻と3巻は飛ばしています。
さて、こちらも「岡本綺堂集」と同様、怪奇・幻想の短編(というよりもシュートショート)がほとんどで、ミステリと呼べるものはほとんど収録されていません。それもそのはず、戦前(戦後しばらくも含めて)は、探偵小説と呼ばれるジャンルの中に怪奇幻想作品(あまつさえSFも)もすべて含まれて、そう呼ばれていたわけです。言い換えればジャンルとしての怪奇小説・幻想小説というものが確立されていなかったのですね。
さて、城昌幸という人は、戦前から戦後にかけて活躍し、詩人でなおかつ探偵小説専門誌「宝石」の編集長を務めた人。文庫本にして数ページ〜十ページ程度に収まる小品の名手で、作風もO・ヘンリ風の人情噺からダンセイニ卿のような幻想譚、サキやジョン・コリアのような毒の効いたいわゆる“奇妙な味”の作品、更には思弁小説的なものまで多岐に渡っています。風俗が描かれているものは古びた感じがするのは否めませんが、本質的には時代を超えた鮮烈な印象を受けるものも少なくありません。 ただ、好みはけっこう分かれるかも。

<収録作品>「艶隠者」、「その夜」、「ママゴト」、「古い長持」、「根の無い話」、「波の音」、「猟銃」、「その家」、「道化役」、「スタイリスト」、「幻想唐艸」、「絶壁」、「花結び」、「猟奇商人」、「白い糸杉」、「殺人婬楽」、「その暴風雨」、「怪奇製造人」、「都会の神秘」、「夜の街」、「死人の手紙」、「模型」、「老衰」、「人花」、「不思議」、「ヂャマイカ氏の実験」、「不可知論」、「中有の世界」、「脱走人に絡る話」、「シャンプオオル氏事件の顛末」、「秘密を売られる人々」、「妄想の囚虜」、「宝石」、「月光」、「晶杯」、「七夜譚」、「神ぞ知食す」、「此の二人」、「罪せられざる罪」、「吸血鬼」、「良心」、「宝石匣」、「恋の眼」、「宝物」、「七人目の異邦人」、「面白い話」、「夢見る」、「ハムレット」、「宿命」、「もう一つの裏」、「桃源」、「影の路」、「分身」、「実在」

オススメ度:☆☆☆

2004.9.12


タイム・パトロール (SF)
(ポール・アンダースン / ハヤカワ文庫SF 1992)

いわゆる“時間テーマ”SFの中でも、古典というべき作品のひとつです。
タイムマシンが発明され、時間航行が可能となった世界では、未来から過去の歴史に干渉して歴史をねじまげてしまおうとする勢力が出現します。当然、それを阻止し、歴史の正統性を管理する組織も生まれるわけで、そのような組織や個人の活躍を描くSFが多数生み出されてきました。未来からの時間干渉を阻止するSFとしては「プロテウス・オペレーション」(J・P・ホーガン)や「ステンレス・スチール・ラット世界を救う」(H・ハリスン)が思い浮かびます。ペリー・ローダン・シリーズに出てくる“時間警察”も、敵役になってしまってはいますが動機は同じことです。
さて、この元祖「タイム・パトロール」。西暦200世紀、ついに時間航行技術が発見され、それに伴って過去の歴史を守るための時間管理局が設立されました。100万年の未来からやって来た、謎めいたデイネリア人の肝いりで作られたこの組織は、地球上の歴史のところどころに支部を開設し、あらゆる時代から人材を募ってタイム・パトロールの組織を拡充しています。主人公エヴァラードも20世紀のアメリカでスカウトされ、最初の赴任地(20世紀のロンドン)で、時間改変の最初の事件に出会い(「タイム・パトロール」)、その結果、無任所職(必要に応じて、どこの時代にも出かけて行く遊撃隊的な任務)に任じられます。
その後、紀元前のペルシャで思いもよらぬ歴史改変に立会い(「王者たるの勇気」)、13世紀に北米大陸に渡ったモンゴル民族を追い(「邪悪なゲーム」)、歴史が変わってケルト人が支配する異様な世界に漂着し(「滅ぼさるべきもの」)――といった冒険を繰り広げるのです。
続篇
「タイム・パトロール/時間線の迷路」も出ています(実はこちらの方を先に読んでしまっていたのですが(^^;)。

<収録作品>「タイム・パトロール」、「王者たるの勇気」、「邪悪なゲーム」、「滅ぼさるべきもの」

オススメ度:☆☆☆☆

2004.9.13


孔明の艦隊4 日米最終決戦 (シミュレーション戦記?)
(志茂田 景樹 / 講談社文庫 1997)

言語道断トンデモシミュレーション戦記『孔明の艦隊』の完結(ほんとはしてないけど)篇です。
とにかく中国三国志時代の英傑の魂魄が太平洋戦争中の日米海軍幹部に乗り移って、決着をつけようとするという問題外の設定。どうして中国人の霊が敵国の日本人に宿るんだ? 中国軍に降臨して関東軍を打ち破ればいいじゃん!とか、孔明をはじめ蜀の武将は日本軍に、曹操など魏の武将が米軍に降臨するのですが、じゃあ呉の立場はどうなるんだ!?とかいう素朴な疑問は置いといて。
超能力でマグロの大群を操り、その中に潜水艦を紛れ込ませてカムフラージュし、魚群と誤認させて敵艦隊の真下に送り込む山本長官@孔明。
サイコキネシス(?)で敵の超弩級戦艦を航行不能にし、自軍の方へ引き寄せる山本長官。
重機関銃を脇に抱えて、落ちてくる700キロ爆弾を撃ち落とすスプールアンス提督。
甲板に落ちた700キロの不発弾をひとりで押し転がして、舷側から落とすミッチャー提督。
極寒のアリューシャン海中に落ちて、救命胴衣だけで5時間も漂流して平気で助かるパイロットたち。
奇人変人・超人大集合!?(汗)
リアリティも説得力もあったもんじゃありません。どうせ怪奇現象で戦争に勝とうとするなら「黒い風」(F・P・ウィルスン)みたいにじっくり書き込んでくれないと。
相変わらず、口述したものをテープから起こして推敲もせずにそのまま編集に回したのでしょう、前後の脈絡もリズム感もない稚拙な文章の連続。バスバス穴が開くとかポコンと甲板がへこんだとかグイーングイーンと上昇したとか、小学生みたいな擬音語・擬態語も勘弁してください(滝汗)。
あげくのはてに、何の決着にもなっていない、とってつけたようなラスト。
あ〜、やっと終ってくれたよ・・・。(←シリーズ物は一度読み始めると、終わりまで読み通さないと気分が悪いという因果な性格の持ち主)

オススメ度:−

2004.9.14


グレイソン攻防戦(上・下) (SF)
(デイヴィッド・ウェーバー / ハヤカワ文庫SF 1999)

痛快重厚ミリタリーSF“紅の勇者オナー・ハリントン”シリーズの第2弾。
前巻、旧式軽巡洋艦“フィアレス”を駆って、ただ1艦でバシリスク星系を宿敵ヘイヴン共和国軍から守り抜いたハリントン。
それから2年半後、ハリントンは新鋭重巡洋艦“フィアレス”(もちろん、あの艦の名前を受け継いだものです)の艦長兼艦隊司令として、グレイソン星系へ赴きます。惑星グレイソンは、はるかな昔に宗教上の理由から地球を脱出したキリスト教の一派が植民した惑星ですが、苛烈な自然環境のため、コロニーを存続させるにはひたすら子供を産み続けるしかなく、その結果、女性は“子供を産むための道具”としか認識しない男尊女卑の文化が生まれていました。しかも、宗教闘争の結果、過去にグレイソンを放逐された狂信者集団が、近くのエンディコット星系の惑星マサダに国家を築き、憎悪を極めた対立状態が続いています。
ハリントンが属するマンティコア王国は、グレイソンと通商条約を結び、裏でマサダを支援するヘイヴンに対して優位を確保しようと、クールヴォジェ元提督(ハリントンの士官学校の恩師でもあります)を全権大使として派遣し、護衛艦隊の指揮をハリントンが執ることになったわけです。
ところが、女性の人権や社会活動を認めないグレイソン市民は、女性兵士や女性士官が男性と伍して活動しているマンティコア軍(あまつさえ、指揮官も女性なのです!)にカルチャーショックを隠せず、偏見に基づく不愉快な事件が続発します。
女性指揮官としての自分の存在が、交渉の進展を阻害するのでないかと考えたハリントンは、自ら志願して近くの星系への貨物輸送護衛任務につき、10日ほどグレイソンを離れます。ところが、留守中、ヘイヴンの支援を受けたマサダ艦隊が襲来、ただ1艦、残っていたマンティコア駆逐艦“マドリガル”は撃沈され、多数の要人が死傷してしまいます。
戻って来てそれを知ったハリントンは、自責の念と怒りに燃えて、反撃を開始、後は前巻と同じく息もつかせぬ燃える展開です。
前巻では描かれなかったハリントンの格闘技の技量がいかんなく発揮されるシーンがストーリー上の重要なターニングポイントになったり(ハリントンの相棒、モリネコのニミッツも大活躍)、部下のそれぞれにも見せ場があったり、作者のサービス精神も旺盛で最後まで飽きさせません。 そして、ラストではなんとハリントンはグレイソンの●●に――(以下自粛)

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.9.16


999 ―狂犬の夏― (ホラー:アンソロジー)
(アル・サラントニオ:編 / 創元推理文庫 2000)

世紀末を記念して編纂されたオリジナル・ホラー・アンソロジー『999』の第3巻。
巻末に
「エクソシスト」の作者W・P・ブラッティの長篇が収録されているあたり、編者サラントニオが「闇の展覧会」(カービー・マッコーリーが編纂したモダンホラー・アンソロジーの古典で、スティーヴン・キングの長篇「霧」が収録されています。ハヤカワ文庫NV既刊)を意識していることがうかがえます。
そのブラッティの作品「別天地館」は、古典的な幽霊屋敷ものにひとひねりを加えたもの。他に、キングの「スタンド・バイ・ミー」の南部版とも思える「狂犬の夏」(J・R・ランズデール)、読み終わると部屋の灯りを消すのが怖くなる「闇」(D・L・マッカーナン)、そしてジャック・フィニイの時間幻想譚を思わせる佳品「リハーサル」(T・F・モンテルオーニ)など。特に「リハーサル」は絶品です。

<収録作品と作者>「狂犬の夏」(ジョー・R・ランズデール)、「影と闇」(トマス・リゴッティ)、「ヘモファージ」(スティーヴン・スプライル)、「リハーサル」(トマス・F・モンテルオーニ)、「闇」(デニス・L・マッカーナン)、「別天地館」(ウィリアム・ピーター・ブラッティ)

オススメ度:☆☆☆☆

2004.9.18


10月1日では遅すぎる (SF)
(フレッド・ホイル / ハヤカワ文庫SF 2001)

科学者(天文学者)作家として名高いホイルの時間テーマSF。
主人公の音楽家ディックは、演奏旅行からイギリスへ帰国した空港で、旧友のジョンと再会します。ジョンは若くしてノーベル賞を受賞した量子物理学者で、アメリカから休暇でやって来たところでした。 意気投合したふたりはスコットランドへ小旅行に出かけますが、途中でジョンが行方不明に。翌日、自力でキャンプへ戻ってきますが、なぜか彼の背中に昔からあった痣が消え去っていました。
ロンドンへ帰ると、ジョンも参画していた太陽観測ロケットの軌道に異変が起こっていることが判明、アメリカへ呼び戻されたジョンにディックも同行し、ロサンゼルスへ、そしてハワイへと飛びます。異変の原因は、自然のものとは思えない、太陽から放射されている強力な粒子線でした。
ますます深まる謎。しかし突然、アメリカ本国との連絡が途絶してしまいます。飛行機で戻ってみると、西海岸の大都市はすべて消えており、大平原のそこここに粗末な畑が見えるばかり。
さらにイギリスへ戻ってみれば、ドーバー海峡を隔てたヨーロッパ大陸ではなんと第一次世界大戦の真っ最中。どうやら、世界各地で時代のずれが発生していると判明します。
そして、ディックは紀元前の文明が出現していると思われるギリシャへ赴くことを決意します。
本業が科学者だけに、執筆時(1966年)の最新の量子論・認識論に基づいて築き上げた時間改変世界は独特です。ちゃんと不確定性原理に言及していますし。
ただ、この結末はあまり好きではないなあ(^^;

オススメ度:☆☆

2004.9.19


不思議な猫たち (ホラー:アンソロジー)
(ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ:編 / 扶桑社ミステリー 1999)

猫に関するホラー&ファンタジーを集めたアンソロジー。「魔法の猫」の続刊です。
今回はちょいと範囲を広げたようで(純粋な猫もので面白いものがなかったとは思いたくないですが)、ジャガーやらトラやらクーガーやら豹やらも出てきます。まあ広義の猫科動物ではありますけど。
ただ何と言いますか、同じ猫科でも、家猫とトラとでは、その怖さの質が違うので(トラや豹はその場にいるだけで怖い生き物ですから)、猫好きとしてはやはり純粋な猫一本で通してほしかったとわがままを言ってみたり(^^;
ちなみに純粋猫ネタは8編、猫科猛獣ネタは4編です。
『シャム猫ココ』シリーズが人気のL・J・ブラウンの「マダム・フロイの罪」、相変わらず軽妙でスパイスが効いているアシモフの「かわいい子猫ちゃん」、毒の効いた皮肉が絶妙なジョン・コリアの「多言無用」、収録作品中でいちばん怖い「草の色、血の色」(R・V・ブランアム)など、気に入ったのはなぜか純粋猫ネタばかり。
猛獣ネタでは、以前にも読んでいた「ジャガー・ハンター」(L・シェパード)を再読して、ジャングルの熱気と湿気を生々しく伝えてくれる幻想味をあらためて思い知りました。シェパードの同名の短編集「ジャガー・ハンター」(新潮文庫)はなかなかのオススメです。

<収録作品と作者>「猫の創造性」(フリッツ・ライバー)、「つややかな猫たちのジグソー・パズルに見立てた人生」(マイクル・ビショップ)、「焔の虎」(タニス・リー)、「かわいい子猫ちゃん」(アイザック・アシモフ)、「猫と話した少年」(ウォード・ムーア)、「ジャガー・ハンター」(ルーシャス・シェパード)、「マダム・フロイの罪」(リリアン・J・ブラウン)、「硝子の檻」(パメラ・サージェント)、「メイのクーガー」(アーシュラ・K・ル・グィン)、「草の色、血の色」(R・V・ブランハム)、「多言無用」(ジョン・コリア)、「パスクァレ公の指環」(アヴラム・デイヴィッドスン)

オススメ度:☆☆☆

2004.9.21


裁きの門 (ファンタジー)
(マーセデス・ラッキー / 創元推理文庫 2000)

女剣士タルマと女魔法使いケスリーのコンビが大活躍する『ヴァルデマール年代記』、“誓いと名誉”二部作の完結編です。
前作
「女神の誓い」で“絆姉妹”となり、滅ぼされたタルマの一族の復讐を遂げたふたりは、超一流の傭兵軍団<太陽の鷹>に加入し、幹部にまで昇進しています。
レスウェラン王国の王家の血筋をひく凄腕の女性リーダー、アイドゥラが率いる<太陽の鷹>は、ジュカサ王国の内戦に傭兵部隊として参加し、タルマとケスリーの活躍で反乱軍を一掃し内紛にけりをつけます。
その後、アイドゥラの母国レスウェランで国王(アイドゥラの父)が亡くなり、兄弟による跡目争いが勃発しそうだとの連絡を受けて、アイドゥラはタルマやケスリーに留守を任せて単身、母国へ帰ります。
ところが、定期的に届いていたアイドゥラからの手紙が途絶え、心配したタルマとケスリーは、魔力を持った狼ワールを伴い、貴族とその護衛に化けてレスウェランの王都ぺトラスへ赴きます。目論み通り、王家の客人となったふたりは、アイドゥラの弟ラッシャーが王位について圧制を敷き、兄ステファンセンが行方不明となっていることを知ります。アイドゥラの行方も杳として知れません。
アイドゥラが「王室でただひとり信頼できる人物」と評価していた公文書官ジャドレックと接触したふたりですが、暗殺者に殺されそうになったジャドレックと共に都を脱出、ステファンセンとアイドゥラの消息を求めて極寒の辺境山脈へ向かうことに。そこで見出す真実とは――。
後は読んでください(笑)。
とにかく極上の“剣と魔法”のヒロイック・ファンタジーです。
一応は完結編ですので、ケスリーは一生を共にする伴侶にめぐり会い、タルマと共に安住の地を見出すことになります。めでたしめでたし。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.9.23


巡洋戦艦<ナイキ>出撃!(上・下) (SF)
(デイヴィッド・ウェーバー / ハヤカワ文庫SF 2000)

“紅の勇者オナー・ハリントン”シリーズの第3弾です。
前巻
「グレイソン攻防戦」で白兵戦の際に重傷を負ったハリントン(でも傷ついた身体を押して、マンティコア軍に勝利をもたらしました)。故郷の惑星スフィンクスでの療養とリハビリに1年半を費やし、回復した彼女は軍務に復帰します。
今度、ハリントンに与えられた艦は新鋭巡洋戦艦<ナイキ>でした。<ナイキ>はマンティコア航宙軍にとっては伝統ある最高の軍艦で(日本海軍の「大和」みたいなものでしょうか)、その艦長に就任するということは最高の名誉を意味します。
一方、マンティコアの宿敵ヘイヴン人民共和国では、財政難による市民の不満をそらすべく、マンティコアの同盟連合への侵攻を画策していました。
不穏な空気を察知したマンティコア政府は、最前線のハンコック駐屯地へ若き名将サーナウが率いる巡洋戦艦戦隊を増援派遣することを決定し、ハリントンの<ナイキ>もサーナウの座乗艦として艦隊に組み入れられます。
ところが、出発前の検査では発見できなかった特殊合金製の融合炉に亀裂が生じ、<ナイキ>は2ヶ月の工廠入りを余儀なくされます。さらにハンコック駐屯地の司令官パークス提督は有能ですが軍規を重んじる融通の効かない指揮官で、様々な評判(いいものもわるいものも)に彩られたハリントンへの偏見を隠さず、冷遇します。さらに行動を共にする艦隊の参謀長は、グレイソンでハリントンが鉄拳制裁を加えたハウスマン評議員の親族で、むき出しの敵意を向けてきます。
各宙域でヘイヴンとの小競り合いが続く中、パークス司令は手薄な同盟惑星を警備すべく、主力の弩級戦艦隊と共に出発し、ハンコック基地にはサーナウ率いる巡洋戦艦二個戦隊が残るのみ。戦力の分割を危ぶむサーナウとハリントンですが、パークスは耳を貸しません。折も折、あのパーヴェル・ヤング(士官学校時代にハリントンを手込めにしようとして逆襲され、ズタボロにされて以来、激しい憎悪と怨嗟を向けている下衆野郎)がハンコック基地に派遣され、ハリントンの悩みの種が増えることに。
同盟惑星の周囲にひそかにスパイ衛星を配置していたヘイヴン側は、パークス艦隊の大移動を察知し、ハンコック基地に攻勢をかけてきます。劣勢の中、奇策でヘイヴンの大艦隊を迎え撃つハリントンらの運命は――。
今回は、軍人としてではなく女性としてのかわいらしい一面も描かれています。しかも彼女の●●●が(以下自粛)。
ヘイヴン本国もとんでもない事態となり、今後の動向が注目されます。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.9.25


大導寺一族の滅亡 (ミステリ)
(栗本 薫 / 角川文庫 1999)

大正時代を舞台にした大河シリーズ『六道ヶ辻』の第1巻です。
とはいえ、この第1作では現代と過去が古文書によって結び付けられるという趣向です。
藤原氏の血を引き、平安時代から連綿と続いてきた華族の名家・大道寺家。長男の大学生、静音は、恒例の大掃除の際に、戦前に書かれたと思われる和綴じのノートを発見します。『探偵記録』と題されたノートの書き手の名前は大導寺饗太郎。静音の知らない名前でした。
そして、そのノートには、当時の大導寺一族を襲った怪奇な事件の顛末が記されていたのです。静音の祖父にあたる大導寺竜介の名前も登場し、架空のものとも思えません。
ところが、静音の周辺に、ノートの内容と同じような事件が起こり始めます。犬が毒殺され、部屋が荒らされ、ついには殺人未遂まで――。
過去に大導寺一族を襲った悲劇が、再び繰り返されようとしているのか?
友人の兄・藤原直顕と共にノートを読み進め、謎を解こうとする静音。ノートの中では、当主の妾腹の子である饗太郎が、シンデレラ状態(笑)の中、悪戦苦闘を続けていました。
結局、過去の事件も現在の事件も解決に導かれるわけですが、もちろん作者が本当に書きたかったのは過去の事件。「江戸川乱歩や横溝正史の世界を目指した」とあとがきで書かれていますが、それ以上にサクラ大戦の世界だと感じました(笑)。いやだって、いくらおどろおどろしくても、ここで描かれているのは紛れもなく太正ロマンの世界なんですもの。おそらく、以降のシリーズではさらにこの傾向が強まるものと予想されます。
本シリーズ、現時点で6作目まで出ています。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.9.26


嵐の夜 (ホラー)
(ディーン・クーンツ / 扶桑社ミステリー 2001)

クーンツの中短編集、“ストレンジ・ハイウェイズ”の第3巻(最終巻)です。
この巻には短めの長篇ひとつと短編4つが収められています。そのうちふたつは『ナイトビジョン』(ハヤカワ文庫NV既刊)が初出の「ハードシェル」と「黎明」。動と静という好対照の2編ですが、どちらもクーンツ短編の代表作と言えるものです。
またクーンツのデビュー作「子猫たち」も小品ですが、後の彼の作風をうかがわせる内容です。タイトルにもなっている「嵐の夜」は、ロボットを主人公にした異色SF。
そして200ページを占める長篇「チェイス」は、同じ扶桑社ミステリーから出ている「夜の終りに」を全面改稿したものだそうです。初期の長篇を全面的に改稿して再版するというのを90年代後半以降にクーンツはよくやっていて、「デモン・シード」が代表的ですが、この「チェイス」もそういうわけで。実は「夜の終りに」は、スーパーナチュラルな要素がないと聞いていたので、まだ読んでいなかったのです。
でもさすがはクーンツ。殺人事件に巻き込まれたベトナム帰還兵(例によって心に傷を負っている)が、ひとりで犯人と対決するという単純なプロットながら、ストーリーテリングの妙で、ぐいぐい引き込んでいってくれます。
クーンツをこれから読んでみようという人は、この“ストレンジ・ハイウェイズ”から入るのがとっつきやすくていいかも知れません(全3巻のタイトルは
「奇妙な道」「闇へ降りゆく」、「嵐の夜」)。

<収録作品>「ハードシェル」、「子猫たち」、「嵐の夜」、「黎明」、「チェイス」

オススメ度:☆☆☆☆

2004.9.28


ラプソディ ―血脈の子―(上・下) (ファンタジー)
(エリザベス・ヘイドン / ハヤカワ文庫FT 2001)

「ラプソディ」「プロフェシイ」「デスティニィ」と続く重厚な異世界ファンタジー3部作の1作目です。
時を越えて一夜の契りを結んだ正体不明の少年少女を描いた、少し長めのプロローグに続いて、主人公のラプソディが登場します。
ラプソディは歌によって物事の本質を見抜き、過去や未来の断片を目にしたり治癒の技を使ったりする<歌い手>にして、その最高ランクの<命名者>です。街の顔役に目をつけられて、その追っ手から逃れるため、行きずりの二人連れの旅人に助けを求めたラプソディは、それが縁で、いわくありげなふたりと旅を共にすることになります。
ひとりは太古から命脈を保ってきた悪霊のしもべとなっていた殺し屋アクメド(ラプソディとの出会いのおかげで悪霊のくびきから解放されました)と、身長2メートルを越える大男の戦士グルンソル。対照的なふたりは、共に現在では怪物とみなされている古い種族フィルボルク族の血を引いていました。
同じく古代の血筋リリン族の血を引くラプソディの能力を感じ取ったふたりは、地下深くに潜み、いつか大地を破滅させると予言されている大蛇の復活を阻止すべく、生命の木の根に沿って地底深くへ下りていきます。
何年にもおよぶ(!)地底の旅を続けた末、なんとか目的を果たして再び地表に戻った3人ですが、そこはまったく見知らぬ土地でした。
自分たちのアイデンティティを求めて旅を続ける3人は、かつてドラゴンに支配されていたというこの大陸で、太古の種族の痕跡をいくつも見つけ、次第に自分たちが巻き込まれた状況を認識していきます。
これ以上はっきり書いてしまうと、物語の根幹をなす大プロットがネタバレになってしまいますので、自粛します。
しかし、上下合わせて1000ページを越えてもなお、物語は始まったばかりというイメージです。新たな重要人物らしきものも後半にちょこっと出てきただけですし、様々に張り巡らされた伏線も、これから生きてくるのでしょう。ともかく、とりあえずの落ち着き場所を見出したアクメドとグルンソルに対して、ラプソディは新たな冒険行に旅立つことになり、
「プロフェシイ」へと続くことになります。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.10.3


ルアーの角笛 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 2001)

『グイン・サーガ』の第79巻。
今回はケイロニアが舞台のため、落ち着いて(笑)読めます。
パロの内紛の報を受けたケイロニアの豹頭王グインは、アキレウス皇帝の許可を得て、中原に迫るキタイの脅威に対抗するべく出兵を決定します。その際の演説の一説が、ちと現実の某超大国の大統領の発言と似ているのが気になるところではありますが(「我々が行うのは正義である。平和を守るという大義のために戦うのだ!」)、同じセリフでもグインが言うと説得力が全然違うのは、やはりグインの人徳というべきでしょうか。
これまで他国の内政不干渉主義を貫いてきたケイロニアの出兵に、色めき立つ各国。
同じ頃、ゴーラの王イシュトヴァーンも自ら軍勢を率いてパロへ向かい、クリスタルを無事に(?)落ち延びたナリスもひと息つき・・・。
あとがきで「これからが本当の始まりです」と栗本さんも書かれていますが、確かにいよいよこれからがクライマックスですね。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.10.4


竜王戴冠2 ―<竜王の壁>を越えて― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 2001)

『時の車輪』の第5シリーズ第2巻です。
前巻に引き続き、アイール人の聖都ルイディーンで待機しているアル=ソア。モイレインとの関係は改善されたものの、闇の猟犬群に襲われるは、対立するシャイドー・アイール族が西の山を越えて進撃を開始するはで、結局アル=ソアも出陣することに。
また、大混乱に陥った港町タンチコを脱出したエレインとナイニーヴは、<白い塔>で反乱があったことを知らぬまま陸路、東へタール・ヴァロンを目指し、一方、<白い塔>を脱出してきたシウアン・サンチェらは西へ向かって落ち延びます。
それぞれに災難に巻き込まれ(いや、どちらかというと災難を引き起こしながら)、手探りに冒険の旅は続きます。どんどん話は混迷の度を増していきますが、収拾はつくのでしょうか(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2004.10.5


吊された男 (怪奇・幻想:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 角川ホラー文庫 2001)

タロットをモチーフにしたテーマ別ホラー・アンソロジー『異形アンソロジー タロット・ボックス』の第3弾(でもって続きが出ていません(^^;)。
今回は大アルカナの12番目「吊された男」です。
そして、編者の井上さんもおっしゃっていますようにすっげえ悪趣味なアンソロジーに仕上がっています。要するに、平たく言って、早い話が、あからさまに言うと首吊りを主題にした怪奇短編を収録してあるわけ。よくもまあこれだけ集めたものです。
まあ、かの夏目漱石も「吾輩は猫である」の中で“首くくりの力学”などを論じていらっしゃるわけで、奥は深いのかも知れません(笑)。一口に言っても首吊りを大きく分けると、自殺・他殺・死刑に分類されます。このアンソロジーにはどれも満遍なく入っています。
古典といってもいいビアスの「アウル・クリーク鉄橋での出来事」、雰囲気は対照的ですが同じく古典の「蜘蛛」(エーヴェルス)をはじめ、ナンセンスだけど妙に納得できる(最初の1ページでオチがわかってしまいましたが)「絞首刑」(かんべむさし)、食事中に読んでいて一気に食欲が失せた「首吊り三味線」(式 貴士)、他にも岡本綺堂、横溝正史、内田百閧ネどなど巨匠の作品が目白押しです。
中でもインパクトが強烈だったのは唯一の漫画「首吊り気球」(伊藤潤二)です。ホラー漫画は読まないのですが(だって怖いから)、これはすごい。楳図・古賀の正統な後継者ですね、この人は。でも読まない、怖いから(^^;

<収録作品と作者>「アウル・クリーク鉄橋での出来事」(アンブローズ・ビアス)、「首吊り三味線」(式 貴士)、「百物語」(岡本 綺堂)、「首つり御門」(都筑 道夫)、「蜘蛛」(H・H・エーヴェルス)、「首吊り気球」(伊藤 潤二)、「ビー玉の夢」(ひかわ 玲子)、「梟林記」(内田 百閨j、「蜘蛛の糸」(戸川 昌子)、「絞首刑」(かんべ むさし)、「首吊り三代記」(横溝 正史)、「魔法の砂」(ロッド・サーリング)

オススメ度:☆☆☆

2004.10.6


海野十三集 (ミステリ)
(海野 十三 / ちくま文庫 2001)

「岡本綺堂集」「城昌幸集」に続いて、ちくま文庫版『怪奇探偵小説傑作選』第5巻「海野十三集」です。
海野十三といえば、戦前に活躍した日本SFの先駆者としてよく知られていますが、本書は“怪奇探偵小説”という枠組みのため、純粋SFはあまり収録されていません。
しかし、謎解き探偵小説にしろ怪異を描いた恐怖譚にしろ、当時の科学知識(医学・化学・物理学など)が縦横に駆使され、あるいは中心テーマとなり、あるいは深みと彩りを与えています。これらの特徴は、戦前の探偵作家、木々高太郎、小酒井不木(このふたりとも本業は医師でしたね)、小栗虫太郎などにも見られますが、海野十三にはもっとも顕著だったとも言えるでしょう。
デビュー作「電気風呂の怪死事件」(タイトルだけでわくわくしますね)、透明人間もの「赤外線男」、人体消失トリックの「爬虫館事件」に「人間灰」、ショートショート連作集「蠅」、ジョン・コリアが大喜びしそうな「生きている腸」(唐沢なをきさんに、ぜひ漫画化してほしいかも)、医学と猟奇趣味が融合した「三人の双生児」など、『怪奇大作戦』のテイストが横溢した作品群です。

<収録作品>「電気風呂の怪死事件」、「階段」、「恐しき通夜」、「振動魔」、「爬虫館事件」、「赤外線男」、「点眼器殺人事件」、「俘囚」、「人間灰」、「顔」、「蠅」、「不思議なる空間断層」、「盲光線事件」、「生きている腸」、「三人の双生児」、「『三人の双生児』の故郷に帰る」、「盲光線事件(脚本)」(城 昌幸)

オススメ度:☆☆☆☆

2004.10.9


氷惑星の決闘 (SF)
(ウィリアム・フォルツ&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2004)

“ペリー・ローダン・シリーズ”の第304巻です。
これだけ長大なシリーズになると、各作品のタイトルも払底してくるのではないかと気になりますが、今回の「氷惑星の決闘」は、初期の「燃える氷惑星」と「金星の決闘」のミックスという感じです。シチュエーションそのものも惑星ヘルゲイトでローダンとアトランが初対決したエピソードをなぞっていますし。まあ面白いからいいんですけど(笑)。
並行宇宙での冒険が当分は続くのではないかと予想していましたが、この巻の前半のエピソードであっさり解決してしまい、ローダン一行は元の宇宙へ戻ってきます。異変はただの小手調べだったのですね。後半から、また別の新たな異変がひたひたと太陽系帝国に迫ってきます。でもこのネタも、初期の「宇宙船タイタンSOS!」あたりで見たような気がするんですが(^^;
ともあれ、作者フォルツの勇み足(?)で事件の裏にひそむ存在が明らかにされ、今後の流れに期待したいところです。

<収録作品と作者>「氷惑星の決闘」(ウィリアム・フォルツ)、「PADを追って」(クラーク・ダールトン)

オススメ度:☆☆☆

2004.10.9


ロスト・ソウルズ (ホラー)
(小島 由記子 / 徳間文庫 2001)

2001年に公開された(らしい)ホラー映画「ロスト・ソウルズ」のノヴェライゼーション。英語の脚本を元にして、翻訳家の小島さんが日本語で書いたもののようです。だから著者は小島由記子さんとなっています。
かつて悪魔に憑依されて、エクソシストに救われた経験のある女性マヤが主人公。彼女は、とある悪魔祓いの現場で被害者が残した暗号めいたメッセージを解読し、世紀末を迎えた世界に魔王サタンがある人物の肉体を借りて復活するということを知ります。
その人物とは猟奇犯罪をルポしてベストセラーを量産しているジャーナリストのピーター。マヤにそう告げられても、ピーターは信じるわけがありませんが、やがて周辺に怪異が続発し始め、彼の心は揺らいでいきます。同時に、マヤの身にも悪魔によると思われる妨害が・・・。神と悪魔の対決の行方は――?
というお話ですが、特に見るべきものはありません。悪魔祓いの描写にしろ、怪異と因縁にしろ、
「エクソシスト」や「オーメン」の亜流でしかなく、新鮮さのかけらもなし。人物造型も平板で、ストーリーにも無理が多く説得力に欠けます。
映像で見せればそれなりの迫力もあるのかも知れませんが、それをそのまま文字に移し変えただけでは魅力に欠け、書き手の力量が如実に現れてしまうことを見事に示した一例ですね。

オススメ度:☆

2004.10.9


妖都 (ホラー)
(津原 泰水 / 講談社文庫 2001)

ええと、一応これはホラーに分類されるのでしょうか。
題材は間違いなくホラーですし、伝奇小説的な要素もありますし、全体の雰囲気はクライヴ・バーカーのダーク・ファンタジーのようでもあります。スプラッタ・パンクのような描写も使われていますし、ジャンルミックスという点では紛れもないモダンホラーなのでしょう。
さて、ピアノが趣味の冴えない女子大生の雛子は、山梨の田舎から上京して一人暮らしをしていますが、世紀末の東京の街中で、他人には見えない“屍者”が自分の目に映ることに気が付きます。そして都内で頻発する怪死事件が屍者たちのしわざであることにも・・・。
電車の中で屍者に殺されそうになった雛子は、美少女パンク女子高生の馨に助けられます。馨にもおぞましい屍者の姿が見えるのでした。
先ごろ投身自殺した、パンクロックバンドCRISISのヴォーカリスト、チェシャが謎を握っているのではと気付いた雛子はバンド仲間のつてを頼ってCRISISのメンバーと接触しますが、彼は雛子の顔を見て怯えたように逃げ去り、翌日、惨殺死体となって発見されます。
一方、チェシャの検死を行った監察医・兼松親子は、チェシャの肉体に秘められていた謎を解くべく調査を進めていました。
ニュージーランド原住民の神話に基づいたチェシャの遺作『妖都』の歌詞に導かれるようにして、生者と死者が織り成すアラベスクの行き着く先は――?
これ以上書くとネタバレになってしまうので、このへんにしておきます。ただ、題材は好きですが料理の仕方は好きじゃないなあ(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2004.10.10


地底獣国の殺人 (冒険ミステリ)
(芦辺 拓 / 講談社文庫 2001)

秘境冒険小説と言ったら、もう大好きです。
海外ではジュール・ヴェルヌの諸作品からコナン・ドイルの「失われた世界」、H・R・ハガードの「ソロモン王の洞窟」や「洞窟の女王」、A・メリットの「黄金郷の蛇母神」、本朝では小栗虫太郎の「人外魔境」シリーズに久生十蘭の「地底獣国」、香山滋の「オラン・ペンデク」、山田正紀の「崑崙遊撃隊」に「ツングース特命隊」と、好きな作品を挙げれば枚挙に暇がありません。
さて、この「地底獣国の殺人」は、これらの先達の作品群へ限りない愛をこめたミステリ作品であります。
タイトルからして久生十蘭の名作に“ロスト・ワールド”のルビを振ってあり、主人公の名が折竹十三。これはもちろん「人外魔境」の主人公・折竹孫七へのオマージュで、これだけでも嬉しくなってしまうのですが、作中で主人公が「オリタケ? ああ、あの有名な!」と握手を求められ、目を白黒させるシーンが出てきたりするので、もうファンとしては堪りません。
さて、ストーリーは、名探偵の森江春策が祖父の関わった探検旅行について調べているうちに、図書館で出会った謎の老人から、戦前、アララト山へ派遣された『ノアの方舟探検隊』の顛末を聞き、そこで起こった殺人事件の謎を解くという趣向。
ご存知の通り、ノアの方舟はアララト山に流れ着いたという伝承があり、方舟の破片とされる木片が発見されたり船型地形が見つかったり(いずれも否定されていますが)しています。巨大飛行船を駆ってアララトへ向かった探検隊は、新聞記者の折竹や春策の祖父・春之助を始め、マッドサイエンティストの鷲尾博士に美人秘書の悠子、秘密結社の工作員に謎の西洋人と、役者は揃っています。鷲尾博士の唱えるトンデモ学説(現代でも様々なトンデモさんが同じネタで本を出していらっしゃいますが)も、読んでいるだけで楽しくなってしまいます。
さて、アララト山上空で巨大な穴を発見した一行は、不思議な力でそこへ引き込まれてしまいます。穴の底には太古の密林が広がり、無数の恐竜が生息していました。
秘められた謎と陰謀、不可解な死を遂げる隊員たち、かれらを待ち受ける運命は――!?
博士の愛読書が原書の「ソロモン王の洞窟」だったり、バージェス頁岩で発見されたカンブリア爆発の奇天烈な生き物がうようよ出てきたり、該博な知識に裏打ちされた作者の愛すべきお遊びが随所に散りばめられ、ネタを知っていれば知っているほど楽しめる造りになっています。もちろん知らなくても十分に面白いです。
圧巻は、エピローグで一行を救出するアメリカ人考古学者。この人の正体はなんと!!
・・・後はお読みください。損はしません。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.10.12


人狼城の恐怖 第一部 ドイツ編 (ミステリ)
(二階堂 黎人 / 講談社文庫 2001)

全4巻、総ページ数2500ページに及ぼうかという壮大なミステリ「人狼城の恐怖」、いよいよ登場です。
ザール・ロレーヌ地方、ドイツとフランスの国境に屹立する双子の古城、通称“人狼城”。ザール川の深い渓谷を挟んで、ドイツ側には“銀の狼城”、フランス側には“青の狼城”が、向かい合ってそそり立っています。
第一部は“銀の狼城”が舞台。ドイツの製薬会社の懸賞に当選した10名の雑多な招待客が、これまで神秘の帳と中世の人狼伝説に彩られていた“人狼城”を訪れます。
しかし、この旅行には不吉な影がつきまとっていました。若き音楽家テオドールはジプシーの占い師から「城へ行くと恐ろしいことが起こる」と警告され、若い可憐な女性ジャンヌは数日後に迫った誕生日に自分が死ぬという予言に怯えています。更に、一行の中に殺人犯とそれを追う警官が潜んでいるという噂も流れています。
順調に城へ到着しましたが、城主のシュタウエル伯爵は不在、城内には電気も電話もないという不便さ。しかも、城門の跳ね橋の仕掛けが壊れ、地下の抜け道を通ってしか城外へ出られないという事態に。 そんな中、執事が大時計の下敷きになった死体となって発見されます。最初は事故死と思われましたが、今度は地下のワイン倉庫(しかも密室!)で宝石商夫妻が首を切断された姿で発見されます。同時に外へ通じる鉄扉すべてが施錠されてしまい、一行は城内に閉じ込められます。
黒頭巾をかぶった妖しい人影や甲冑姿の騎士の亡霊が跋扈する中、歴史学者で“人狼城”の歴史に詳しいフェラグード教授らを中心になんとか城内を探索して脱出の道を探そうとしますが、一行は殺人鬼の毒牙に次々と倒れていきます。そして――。
ディクスン・カーもぶっ飛んでしまいそうな怪奇趣味に彩られ、発端としては大満足の出来です。さて、第二部のフランス編は“青の狼城”に舞台を移しますが、どうなることか・・・。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.10.16


人狼城の恐怖 第二部 フランス編 (ミステリ)
(二階堂 黎人 / 講談社文庫 2001)

昨日に引き続き、「人狼城の恐怖」第二部はフランス側での事件です。しかし700ページを越えるのに1日で読みきってしまいました。面白いものほど読み終わるのが早くて残念という不思議さ(^^;
双子の古城『人狼城』のうち、“青の狼城”と呼ばれるフランス側のお城が今回の舞台。
アルザスの州都ストラスブールに住む新進気鋭の弁護士ローラントは、恋人ローザとの結婚も決まって順風満帆。ところが、彼が所属する地元名士の会《アルザス独立サロン》の有力会員が死体で発見され、旧知のパリ検察庁検事補テルセの訪問を受けたことから、ローラントは不吉な運命の綾に取り込まれていくことになります。
第二次大戦末期、ナチス・ドイツがオカルトの粋を尽くして開発した《星気体(アストラル)兵士》とは何か。現在でも生き残りの《星気体兵士》が人知れず跳梁し、多数の人を殺していると主張するパリ警察警部でナチ・ハンターでもあるサロモン警部と共に、《アルザス独立クラブ》の“青の狼城”ツアーに参加するローラント。ジプシーの占い師を祖母に持つローザが止めるのも聞かず・・・。
奇しくも(?)、ドイツ側と同じ日程を組まれた“青の狼城”ツアーは、アルザス独立運動を進める同クラブへの支援を申し出た城主シュライヒャー伯爵の招待によるものでした。城主と親子ほども歳の離れた若妻ナターリエ、その兄のアラン、仮面で顔を隠した(紫外線過敏症だと説明されます)8歳のひとり息子ラインハルトが一行を出迎えます。
滞在2日目、ワイン蔵で何者かに襲われたローラント。それに続いてアランが首なし死体で発見され、城内の扉はすべて施錠されて一行が閉じ込められるのはドイツ側と同じ。それをきっかけに姿なき殺人鬼が跳梁し、ひとり、またひとりと毒牙にかかっていきます。
謎めいた《星気体兵士》が城内をさまよっているのか、伝説の人狼か・・・。事件の経過を語るローラントの日記も次第に焦燥と混乱の色を濃くしていき、そして――。
“日記”であるというところに、なんらかの叙述トリックがあるのではないかとにらんでいるのですが、どうなるのでしょう? あと、ルルーの「黄色い部屋の謎」とそっくりな犯人消失があって、おやと思わせますが、このへんは作者の軽いお遊びなのでしょう(ネタバレになるので詳述は避けます)。
さて、ジプシーの老婆の水晶球に映った“東からやって来る、赤い星を頭上に冠した女”とは誰か(って、見え見えですが)。彼女が解き明かす事件の真相はいかに・・・!
第三部「探偵編」へ続きます。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.10.17


人狼城の恐怖 第三部 探偵編 (ミステリ)
(二階堂 黎人 / 講談社文庫 2001)

第一部、第二部でドイツとフランスに分かれた双子の古城“人狼城”で発生した血なまぐさい連続猟奇殺人事件の顛末が描かれた後、第三部ではついに真打、名探偵・二階堂蘭子が登場します。
同じ年の秋(“人狼城”の事件が起きたのは6月でした)、新聞のベタ記事でドイツで起きた集団失踪事件(“銀の狼城”の事件のことです)に目を止めた二階堂蘭子。天性の直観力で、この事件にはなにかあると見抜き、蘭子は新聞社を通じて情報収集を始めます。精神病院に収容されているある人物(“銀の狼城”事件の当事者)の語った記録(つまり第一部の内容)も入手し、直接ドイツへ行くことも考えていた折も折、かつて「聖アウスラ修道院の惨劇」事件で関係した《東洋カトリック教会》に招かれた蘭子は、冥福尼と名乗る不気味な修道女からフランスへ行くよう要請されます。
陰でうごめく政治的宗教的な圧力を感じながら、翌年3月にフランスへ渡った蘭子とワトスン役の黎人、ドイツ語教師のシュペア老人の3人は、独仏両国を行き来しながら新たな情報収集に努めますが、9ヶ月の間に関係者が次々に不審死を遂げているなど、事態は進展するどころか混迷の度を深めます。ジプシーの占い師の家で出会ったローズ(第二部に登場したローラント弁護士の恋人)から、ローラントの日記(第二部の内容)を渡され、ようやく事件の全貌(表向きの)が明らかになります。
いくつもの推理が組み立てられては否定されるところは、まさに探偵小説の醍醐味。
そして、巻末に至って、ついにメンバーは謎に包まれた“人狼城”へと向かうことになります。
第四部、完結編(『解決編』となっていないのが引っかかったりしますが、気のせいかな?(^^;)へと続きます。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.10.19


人狼城の恐怖 第四部 完結編 (ミステリ)
(二階堂 黎人 / 講談社文庫 2001)

ドイツ編、フランス編、探偵編と続いてきた「人狼城の恐怖」、ついに完結です。
何を書いてもネタバレになってしまいますので、内容について触れることはできませんが、読み応えはたっぷり。そして特に「ドイツ編」「フランス編」できめ細かに描かれてきたあらゆる情報が有機的に入り混じり、再構成されて提示される真相は驚天動地にして説得力たっぷり。これだけアクロバティックなトリックに現実の衣を着せて読者を納得させるには、確かにあれだけ長大なストーリー展開を準備しなければ無理だったろうと思えます。あとがきで作者の二階堂さんが「ストーリーに余計な水増しは一切していない」という趣旨のことを書かれていますが、まさにその通り。
伝奇的要素をふんだんに盛り込み、ディクスン・カーのさる長篇を意識したであろうことが確実なラストも深い余韻を残します。

オススメ度:☆☆☆☆☆

全篇通じてのオススメ度:☆☆☆☆☆

2004.10.20


夢魔 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 光文社文庫 2001)

テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第19弾です。
タイトルからお分かりのように、今回のテーマは「夢」。
もちろんホラーですから「悪夢」や「夢魔」がメインとなっている作品が多いですが、未来への希望という意味での「夢」も含まれています。
ただ、他の巻(テーマ)と比べて特徴的なのは、「夢」をテーマにすると作者の内面とか夢に関する個性的なイメージとかが如実に顕れるためなのでしょうか、意味がわからない、肌が合わないという作品と、うんうん良くわかるという作品と大きく分かれました。しかも前者と後者の比率はだいたい半々。・・・ということは、自分は平均的な読者だということなのでしょうか(^^;
伏線からオチまでの構成があまりにも見事な小品「浮人形」(江坂 遊)、映画という夢に賭けた人々の熱い想いが感動を誘う「夢魔製造業者」(菊地 秀行)、現実の枷が外れた悪夢の典型的な展開を表現して見せてくれる「げろめさん」(田中 哲弥)、エロチックでしかも抜群に怖い「ゆびに・からめる」(深川 拓)、いかにもクライブ・バーカーが書きそうで、映像化されたら絶対に見たくない(笑)「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」(平山 夢明)、不条理な悪夢のようなこのアンソロジー世界の中でなぜかほっとできた(たぶん結末に論理的整合性があるからでしょう)「ナイトメア・ワールド」(村田 基)などが、好きな作品。

<収録作品と作者>「花林塔」(飯野 文彦)、「夢憑き」(霜島 ケイ)、「明日、見た夢」(新津 きよみ)、「十三番目の薔薇」(安土 萌)、「ドクター・レンフィールドの日記」(奥田 哲也)、「浮人形」(江坂 遊)、「夢はやぶれて(あるリストラの記録より)」(山田 正紀)、「げろめさん」(田中 哲弥)、「どっぺる・げんげる」(五代 ゆう)、「夢の目蓋」(浦浜 圭一郎)、「大鴉」(森 真沙子)、「妖霊星」(朝松 健)、「眠り姫」(藤掛 正邦)、「いかにして夢を見るか」(牧野 修)、「ナイトメア・ワールド」(村田 基)、「脳食い」(小林 泰三)、「笑顔で待つ人」(かんべ むさし)、「集団同一夢障害」(小中 千昭)、「ゆびに・からめる」(深川 拓)、「偽悪天使」(久美 沙織)、「片靴」(倉阪 鬼一郎)、「鞍」(井上 雅彦)、「魔」(竹河 聖)、「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」(平山 夢明)、「夢魔製造業者」(菊地 秀行)

オススメ度:☆☆☆

2004.10.22


九マイルは遠すぎる (ミステリ)
(ハリイ・ケメルマン / ハヤカワ・ミステリ文庫 1998)

ハリイ・ケメルマンのミステリと言えば、ユダヤ人のラビ、デイヴィッド・スモールがユダヤ社会で起こる殺人事件を解決するものですが(「金曜日ラビは寝坊した」とか)、この短編集「九マイルは通すぎる」の探偵役はラビではありません。読むまで知らなかった(汗)。
探偵役は大学教授のニコラス(ニッキイ)・ウェルト。友人の郡検事がワトスン役となって、自分が扱っている事件をニッキイに話すと、彼はその情報だけから推理して真相を言い当てるという、言ってみれば安楽椅子探偵ものに分類できるでしょう。
雰囲気もユーモラスで、ちょっとひねったウィットが随所に見られ、クリスティのポワロものやミス・マープルものの好きな人なら、この小品集も気に入ると思います。

<収録作品>「九マイルは遠すぎる」、「わらの男」、「10時の学者」、「エンド・プレイ」、「時計を二つ持つ男」、「おしゃべり湯沸かし」、「ありふれた事件」、「梯子の上の男」

オススメ度:☆☆☆

2004.10.22


最後の女 (ミステリ)
(エラリイ・クイーン / ハヤカワ・ミステリ文庫 1997)

クイーン晩期の、最後から2番目の長篇ミステリです(最後の作品は「心地よく秘密めいた場所」)。
ある事件でしくじったことで落ち込んでいたエラリイは、旧友ジョニーに勧められて、ジョニーの所有する別荘で過ごすことにしましたが、なんとその別荘はエラリイに馴染み深いライツヴィルの町にあるのでした。
ライツヴィルは、作者クイーンが創造した架空の田舎町で(ニューイングランドにあったのですね。なんとなくこれまで中西部だと思ってました(汗))、「災厄の町」「十日間の不思議」「フォックス家の殺人」など、中期以降のクイーン作品の主要な舞台となっています。
さて、エラリイ父子の後を追うようにライツヴィルへやって来たジョニーは、友人の顧問弁護士マーシュを伴い、過去に結婚生活を送っていた3人の元妻を屋敷に招いていました。ところが奇妙なことに、3人の女性が次々にエラリイの元を訪れ、持ち物を盗まれたと訴えます。盗まれたのはそれぞれイブニングドレス、ウィッグ、手袋という次第。
その晩、ジョニーは遺言状を書き換えるつもりであり、彼の死亡時にそれぞれ100万ドルを受け取ることになっていた元妻たちには10万ドルしか渡さないと宣言します。当然のごとく3人の女性は大荒れし、酒をかっくらって沈没。
しかし、深夜、エラリイは瀕死のジョニーから「殺される…」という電話を受けます。かけつけるとジョニーは寝室で撲殺され、盗まれたドレス・ウィッグ・手袋が傍らに転がっていました。
もちろん3人の元妻が最有力の容疑者となりますが決め手はなく、いくつかの事実は明らかになったものの、事件は迷宮入りかと思われました。しかし、たったひとつの閃きからエラリイは鮮やかに事件の真相を喝破します。
とはいえ、初期〜中期の長篇作品に比べると小粒なのは否めないようです。

オススメ度:☆☆☆

2004.10.23


バーサーカー 赤方偏移の仮面 (SF)
(フレッド・セイバーヘーゲン / ハヤカワ文庫SF 2001)

太古の昔、何者かによって作られ宇宙へ放たれた、あらゆる生命体を殺戮する本能だけを持った巨大機械“バーサーカー”と人類との戦いを描いたシリーズ、第2巻です。
とはいえ、原作の順番で言えば
「皆殺し軍団」よりもこちらの方が書かれたのは先だそうです。「皆殺し軍団」では時間軸は広かったものの、一惑星上を舞台にしていました。それに対して「赤方偏移の仮面」は、宇宙の各地を舞台にした人類と“バーサーカー”との果てしない戦いを様々な側面から描いた連作短編集で、趣がかなり異なっています。
“バーサーカー”そのものも、今回はちゃんと人語を話してコミュニケーションをとって来るなど、同じ生命体殺戮種族(?)でも、G・ベンフォードの描く不可解な敵よりもかなり人間的(笑)です。
登場人物が微妙に共通で、時系列に沿って並んでいたり、まったく独立したエピソードがあったり、対“バーサーカー”の戦いばかりでなく人類内部の確執があったり、内容はバラエティに富んでいます。
特に「赤方偏移の仮面」というタイトルは、それだけで深いセンス・オブ・ワンダーを感じさせる絶妙な題だと思っていたのですが、なんとこれは、ポオの例の作品のもじりだったのですね。知りませんでした(^^;

<収録作品>「無思考ゲーム」、「グッドライフ」、「理解者」、「和平使節」、「宇宙の岩場」、「Tとわたしのしたこと」、「道化師」、「赤方偏移の仮面」、「狼のしるし」、「軍神マルスの神殿にて」、「深淵の顔」

オススメ度:☆☆☆

2004.10.25


昆虫図 (怪奇・ミステリ)
(久生 十蘭 / 現代教養文庫 1997)

今や絶版となってしまった現代教養文庫「久生十蘭傑作選」の第4巻。
絶滅間際になんとか入手したものです。現在も第2巻「黄金遁走曲」を探索中(笑)。
さて、この巻にはバラエティに富んだ短編が16編収められています。
久生十蘭は戦前から戦後にかけて活躍した人ですが、外国を舞台にしたモダンでハイカラな(こういうカタカナ表現がぴったり)ものから、日本古来の土俗的な題材まで、ミステリ仕立て、怪奇趣味、人情噺、ブラックユーモアと、様々に書き分けています。

<収録作品>「生霊」、「南部の鼻曲り」、「ハムレット」、「予言」、「復活祭」、「春雪」、「野萩」、「西林図」、「姦」、「母子像」、「春の山」、「虹の橋」、「雪間」、「昆虫図」、「水草」、「骨仏」

オススメ度:☆☆☆

2004.10.27


フレンチ警部と紫色の鎌 (ミステリ)
(F・W・クロフツ / 創元推理文庫 1991)

スコットランド・ヤードのフレンチ警部が活躍するミステリ。
これで、邦訳されたクロフツ作品で未読なのは長篇3作品、短編集2冊だけです。コンプリート(笑)まであと少し(すべて入手済みで、読むのは順番待ちです)。
今回、フレンチ警部はロンドンの映画館で切符の売り子をしているという若い女性に相談を受けます。電車で知り合った女性からうまい話を持ちかけられ、最初はうまくいったものの今は借金漬けとなり、危ない橋を渡るよう要求されているというのです。彼女の念頭には、先日亡くなった(事故死として処理された)知人の女性のことがありました。要求して来た相手の男の手首には紫色をした鎌のような形の痣があり、亡くなった女性も同じ特徴を持った男に脅されていたというのです。
半信半疑ながら調査を約束したフレンチ警部ですが、翌日に件の売り子は失踪し、ポーツマス近海で溺死体となって発見されます。自殺か事故死と見られていましたが、フレンチの慧眼により、他殺の証拠が見つかります。
陰になんらかの犯罪組織があると見たフレンチは、部下と共に綿密な捜査を開始しますが、ずる賢い犯人一味はなかなかしっぽを出しません。
通常と異なり、(正体はともかく)犯人が誰かは序盤で明らかになっており、興味は、一味の真の目的は何か、フレンチ警部がそれを暴き出す過程に絞られます。その意味ではクロフツ作品では異質の部類に入るでしょう。ラストの、堅物のフレンチとしては驚くべき行動も含めて(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2004.10.27


“魔の四面体”の悪霊 (SF)
(竹本 健治 / ハルキ文庫 2000)

“魔の四面体”と書いて“テトラヘドロン”と読ませます。でも厳密に言うと、“テトラヘドロン(tetrahedron)”には“四面体”という意味しかありません(笑)。
さて、本書はSFアクション『パーミリオンのネコ』シリーズの4巻目で、今のところ唯一の短編集です。長篇3作と並行して雑誌に発表された短編を集めたもの。主人公の凄腕女性スナイパー“ネコ”と相棒のデータ処理の達人ノイズのコンビが活躍します。
“ネコ”の初登場作「青い血の海で」、宇宙の魔の宙域で出没するという幽霊の謎を解く「“魔の四面体”の悪霊」、ジャングル惑星で軍事独裁者と対決する「夜は深い緑」、たったひとりで惑星で暮らす少年と“ネコ”との触れ合いをリリカルに描いた「銀の砂時計が止まるまで」など、秀作揃いです。 なお、本シリーズは現時点で続篇は出ていません。残念。

<収録作品>「青い血の海へ」、「“魔の四面体”の悪霊」、「夜は深い緑」、「スナイピング・ジャック・フラッシュ」、「銀の砂時計が止まるまで」、「死の色はコバルト・ブルー」

オススメ度:☆☆☆

2004.10.28


青ひげの花嫁 (ミステリ)
(カーター・ディクスン / ハヤカワ・ミステリ文庫 2001)

ロージャー・ビューリーという男がいました。伊達男で女性にもてる彼は、変名で何度も小金持ちの女性と結婚し、その直後に女性は姿を消しました。ロージャーは金目当てで結婚し、相手を殺しているのではないかと警察は疑いましたが、何せ証拠となる死体が見つかりません。四度目の事件では殺人現場の目撃者がいたにも関わらず、死体が影も形もないために警察は逮捕に踏み切れず、結局ロージャーは姿を消したまま、11年が経過しました。
そんな時、俳優のブルースの元に、ロージャー事件を題材にしたシナリオが送られてきます。ブルースはこのシナリオを気に入り、自らロージャー役の役作りをするために、女友達の演出家ベリルや弁護士デニスにたきつけられて、知らない町に変名で滞在してロージャーのような行動をする(つまり土地の裕福な女性と恋仲になる)ことに決め、オールドブリッジの町へ出かけていきます。
しかし、件のシナリオには、警察関係者しか知らない犯行の詳細が事実の通りに書かれていたことが判明し、おなじみヘンリー・メリヴェール卿(H・M)とマスターズ警部もオールドブリッジへやって来ます。
当初の目論見どおり、ブルースは土地の名士のひとり娘と恋に落ちたはいいのですが、現地ではブルースがロージャー・ビューリーなのではないかという噂が渦巻き、一触即発の状況になっていました。 そんな中、ホテルのブルースの部屋を訪れたベリルとデニスが目撃したのは、女性の死体と一緒にいるブルースの姿でした。
ブルースは本当にロージャーなのか? 相変わらず周囲を混乱に陥れながら、H・Mが鮮やかに推理し、事件を解明します。でも死体の隠し場所のトリックは中盤で見当がつきましたけど(笑)。
蛇足ですが、英文の奥付での作者名が John Dickon Carr になっていましたけど、これって誤植ですよね? H・Mが登場する以上、カー名義ではありえないんじゃないかと思うんですけど。

オススメ度:☆☆☆

2004.10.29


ウンター・デン・リンデンの薔薇 (ミステリ)
(栗本 薫 / 角川文庫 2000)

大正時代〜昭和初期を舞台にした大河小説“六道ヶ辻”の第2巻です。
前巻
「大導寺一族の滅亡」からやや遡った時代。「大導寺一族の滅亡」にも登場し、後に大導寺家を継ぐことになる大導寺竜介の妹・笙子が主人公です。実はこの笙子、大導寺家の家系図からも抹消され、存在していたことすら封印されている謎の女性でした。ですが、現代になって屋敷の書庫から発見された菫色のノートに記されていたのは、笙子が一族の歴史から抹消されることになった原因を白日の下に曝したのです。
華族の令嬢ばかりが通うお嬢様学校、青渓女学院の3年生であった笙子は、今年から同級になった向後摩由璃にほのかな憧れを抱いていました。170センチ近い身長で眉目秀麗、進歩的な考えを持つ摩由璃は全校の注目の的でしたが、引っ込み思案で奥手の笙子は声をかけることもできず、ある日、思い切ってノートに思いのたけを書き綴り、摩由璃の机の中に残しておいたのです。
それをきっかけに摩由璃と笙子は親しくなり、交換日記などを交わすようになりますが、やがてさらに濃密な(!)関係になっていきます。それが面白くなかった同級生の1グループは、ある晩、学校に残っていた笙子を拉致し、言うに堪えないような仕打ちをします。
復讐を誓う摩由璃。そして夏休みの林間学校で、血も凍るような惨劇が――。
男装の麗人と、たおやかな乙女が時ならぬ禁断の恋に落ちる・・・というパターンは、以前にも「パロスの剣」がありましたが(たぶん栗本さんの他の作品にもあると思う)、あちらは西洋メルヘンだったのに対し、こちらは正統派大正浪漫学園百合ホラーミステリ。
かなりなまめかしい描写もあったりしますが、せっかく凄惨で濃厚な魔性の闇の雰囲気が横溢していたのが、ラストの遺書で下世話な現実に引き戻されてしまうのが個人的には不満でした。あの説明はない方が良かったかも(^^;

オススメ度:☆☆☆

2004.10.30


ブラック・ローズ (ホラー)
(ナンシー・A・コリンズ / ハヤカワ文庫FT 1998)

自らも吸血鬼でありながら、吸血鬼以上の能力をもって吸血鬼を狩るハンター、ソーニャ・ブルーを主人公とする『ミッドナイト・ブルー』シリーズの外伝です。
ニューヨークの一画にある、行政から忘れ去られたスラム、“死の街”では、吸血鬼の二大勢力が対立を激化させ、一触即発の状態となっていました。
そこにふらりと現れたソーニャ。実は本人は名乗らないし、作者も「よそ者」としか書いていないのですが、外見や過去、会話の端々から彼女であることはバレバレです(笑)。
対立勢力の一方のボス、成り上がり吸血鬼のイーシャーは、若い人間の踊り子ニコラを手中に収め、血の花嫁にしようとしていました。ニコラの息子、幼いライアンがイーシャーの取り巻きに殺されそうになったのを助けに入った老ヒッピーのクラウディ――彼もまた吸血鬼の毒牙にかかろうかというピンチに、ふたりを救ったのがソーニャでした。
それをきっかけに、ソーニャは対立するふたつの吸血鬼ファミリーを行き来し、手玉に取りながら両者の共倒れを狙い、ニコラを救い出そうとします。このあたりのソーニャの行動はマック・ボランを彷彿とさせます。
そしてまた、作者コリンズが巻頭で黒澤明監督の『用心棒』を初めとしたいくつかの映画に敬意を表していますが、暴力の吹き荒れる町にふらりとやって来た流れ者が、対立勢力を全滅させて去っていく・・・というプロットは、まさに黒澤映画そのものです。
背景となる世界観(特に吸血鬼に歴史と組織に関して)は、アメリカで大人気のTRPG“ワールド・オブ・ダークネス”に基づいているということですが、その世界にソーニャはぴたりとはまり込んでいます。
正伝に比べても話がストレートで読みやすく、このシリーズを未読の人は、この作品から入るのもいいかも知れません(多少のネタバレはありますが)。
※正伝3部作は
「ミッドナイト・ブルー」「ゴースト・トラップ」「フォーリング・エンジェル」です(いずれもハヤカワ文庫FT)。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.10.31


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