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イクシーの書庫・過去ログ(2003年1月〜2月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


恐怖のポルターガイスト (オカルト)
(ウィリアム・G・ロール / ボーダーランド文庫 1998)

年が明けて初めて読んだ本がこういう内容っていうのも、なんとなく不吉ですな(じゃあ読むなよ)。 これも、他のボーダーランド文庫の例にもれず、1970年代に大陸書房から刊行されてたものの復刊です。
で、内容はというと、全然“恐怖の”じゃない。冒頭の図版ページに『ベルメスの顔』(スペインのさる寒村の家の床や壁に人の顔が浮かび上がったという事件。これはあらゆる怪奇現象のうちでも五本の指に入るものだと思っています)の写真が出ているので、楽しみにしていたら、本文では1行も触れられていません。
著者は、ポルターガイストは心霊現象ではなく、人間が潜在的に持っているサイキック能力の偶然の発現であるという考え方の持ち主で、いろいろなポルターガイスト現象を科学的に観察し、推論を展開します。だから、あまり出来の良くない科学論文を読んでいるみたいで、さっぱり面白くない(恐くもない)。同じ『ポルターガイスト』なら、コリン・ウィルソンの著書(青土社)の方がよっぽど面白いです。

オススメ度:☆

2003.1.4


ツタンカーメンの呪い (オカルト)
(フィリップ・ファンデンベルグ / ボーダーランド文庫 1998)

なんで新年からこんなのばっかり読んでるかね・・・(笑)。
まあ順番だから仕方がないです。
タイトルは「ツタンカーメン」となっていますが、ツタンカーメンの話は2割くらいしか出てきません。よく見たら原題は「ファラオの呪い」。なるほど、日本の出版サイドがあざといタイトルを付けたわけね。奏効してませんけど(なのに買ってるし(^^;)。
著者は、発掘関係者が次々と変死した、いわゆる「呪い」は超自然現象ではなく、なんらかの科学的事象が原因だと想定して(病原菌説・毒薬説・放射線説など)書き進めますが、結論はわかりませんとのこと(脱力)。
あっちこっち論旨が飛ぶし、怪奇現象本としても、エジプト学の概説書(書かれた時代が時代だけに記述の間違いも多い)としても、中途半端です。
著者の姿勢は真面目なんですけどね。はう・・・。

オススメ度:☆

2003.1.6


スロー・リバー (SF)
(ニコラ・グリフィス / ハヤカワ文庫SF 1998)

はああ、やっとまともな本読んだ・・・(笑)。
近未来のロンドン。主人公ローアは、遺伝子工学(ちょっと違うかも)で巨万の財を築いた財閥の末娘ですが、誘拐され、犯人のひとりを殺して(自分も大けがをして)逃げ出してきます。しかし、身代金を払ってくれなかった家族の元に戻ることもできず、通りかかった女性ハッカーのスパナーに拾われます。
そこから物語は大きく3つの流れに分かれ、偽の身分を入手して汚水処理場で汚れ仕事に身をさらす現在のローア、スパナーに拾われたばかりで生きるために何でもするローア、5歳から18歳までのお嬢様として成長するローア、という3つの時間軸で語られます。過去のふたつは三人称、現在の物語はローアの一人称で語られるので、登場人物が錯綜しても話の筋を見失うことはありません。で、この3つの流れを読み進むうちに、時代背景や文化・風俗が自然に理解でき、そしてクライマックスに向けて物語が溶け合い、様々な謎が氷解するラストまで一気に読ませてしまうのは見事です。サイバーパンク的な道具立てはあるのですが、そういうとっつきにくさもありません。
ちなみにこの作品は、1996年のネビュラ賞とラムダ賞を受賞しています。ネビュラ賞はSFでよく知られていますが、ラムダ賞というのはゲイ&レズビアン文学の年間最優秀作品に与えられる賞だそうです(笑)。だからって、引くことはないですよ。描き方がスマートだし、まず小説として面白いんですから。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.8


幻夢 エドガー・ポー最後の5日間 (伝奇)
(スティーヴン・マーロウ / 徳間文庫 1998)

かのエドガー・アラン・ポーを主人公とした、一種不思議な小説。
ポーといえば、再婚を控えたある日に失踪し、5日後に意識不明で発見されて、そのまま意識を回復することなく死亡しました。このお話は、回想シーンを交えながら、タイトル通り、その最後の5日間に何が起こったのかを推理する歴史ミステリー・・・だと思って読み始めたのですが。
違ってました(笑)。
前半は、確かに史実にかなり忠実に、若妻ヴァージニア(なんとポーと結婚した時、13歳)との生活とか、文壇での数々のトラブルとかが描かれているのですが、中盤に至って急展開。
ポーは人格分裂を起こすわ、謎の石の破片を巡る冒険に謎の美女と共に巻き込まれるわ(これはポーの幻想の中の出来事とも未発表の小説の中身とも、現実の出来事ともつかない)、パリの兄の住処で殺人事件らしき状況(「モルグ街の殺人」と状況が酷似)を発見するわ、いくつものストーリーが錯綜します。はっきり言ってわけわからなくなってくる(笑)。しかも、事件の謎解きをするのが、なんとC・オーギュスト・デュパン(ポーが創造した史上最初の名探偵)という、マニア受けする筋立て。
ポーの作品を読んでいればいるだけ楽しめる作品だとは思いますが(ちなみに○には中学の頃にほとんど読み尽くしていますが、ほとんど内容を忘れちゃってたりします(^^;)、ちょっと後半の展開にはついていけないかも。

オススメ度:☆☆

2003.1.10


レディと蛮人 (SF)
(ハンス・クナイフェル&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2003)

「ペリー・ローダン・シリーズ」の最新巻にして287巻。
今回のサイクル(ローダン・シリーズで言う、物語の大まかな固まり)は、前回と違って快調です。ダブルプロットが効果的に使われています。今回はその代表ですね。
前半のお話は、半年後に迫った太陽系帝国第一執政官選挙にからむ謀略もの。後半は、メインの物語である“苦悶の声”の謎を解こうとするエピソード。どちらもスピーディな展開です。
でも、来月(2月)はローダン・シリーズ刊行がない月なんですね。
後半のお話がクリフハンガー的なラストになっているんですが(正確に言えばクリフハンガーというより“吹雪の山荘”か?)、続きは2ヶ月我慢ですか・・・。むうう。

<収録作品と作者>「レディと蛮人」(ハンス・クナイフェル)、「天空の金属」(クラーク・ダールトン)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.11


D.I.C. 血管内凝固症候群 (サスペンス)
(マイクル・パーマー / 福武文庫 1998)

D.I.C.・・・ああ、通販No.1の化粧品ね(って、ちゃうねん! そりゃDHC)。
と、ボケかますのはここまでにして(笑)。
初めてDICという医学用語を目にしたのは、例のO157感染症に関する文献を読んでいた時です(「殺人病ファイル」日経BP社 1995)。
正式名称は「播種性血管内血液凝固」。O157感染が悪化するとこの症状を起こし、場合によっては死に至る。なんとなく恐怖を覚えさせる語感で、印象に残っていました。血液の凝固作用に異常が生じるために、全身の血管に微細な血栓が詰まって、組織が壊死を起こす。一方で大出血が起こり、生命は危機に瀕する・・・といった症状です。もちろん原因はO157だけではなく、末期ガンとかいろいろなものがありますが。
今回、この作品を読んで長年の疑問が氷解しました。血液の凝固がひどくなるのになぜ全身出血が起こるのかという疑問です。つまり、血小板などの凝固因子の働きが偏ってしまうために、別の個所では凝固機能が極端に落ちて出血が止まらなくなるというわけだったんですね。Dr.パーマーの説明は明快で、よくわかりました。
っと、医学論議はここまで。
さて、このお話。それまで健康だった妊婦にこのDICが発生し、ふたりが死亡しひとりは腕をなくします。胎児も死亡。たまたま、この3人は主人公の産科医セーラが処方した漢方薬を服用していました。患者のひとりから医療過誤訴訟を起こされたセーラは、自分の潔白を証明するため、元大リーグのリリーフ投手だったという異色の経歴を持つ弁護士のマットと共に、謎と危険と陰謀が渦巻く医学界の暗部に身を投じます。
存在感のある脇役たち、中盤以降のめまぐるしい展開に、途中で読むのをやめることができませんでした。ただ、伏線のひき方が露骨だったりご都合主義的展開が目立ったり、広げすぎたプロットの辻褄を合わせるために苦労しているのがこちらにも伝わってきます。意外な犯人というのも、やり過ぎじゃないのかという気がしますが。少なくとも作者のサービス精神はひしひしと伝わってきます。ちょっとやりすぎてスベってますけどね(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2003.1.12


イギリス怪奇幻想集 (怪奇:アンソロジー)
(岡 達子:編 / 現代教養文庫 1998)

久しぶりに、古典的怪奇小説のアンソロジーを読みました(現代のホラー小説とは・・・、ちょっとちゃうねん)。
いずれも19世紀後半から20世紀前半に書かれた8篇。(なんせ原書自体が1937年刊のアンソロジーだそうで)
ブラックウッドとレ・ファニュの未読作があったのは収穫でしたが、他のはまあどうということもなく(やっぱり“古色蒼然”という形容がぴったりです)。
でも、今は亡き(?)教養文庫ですから、買っといてよかったんだろうな・・・。

<収録作品と作者>「早朝の礼拝」(マーガレット・アーウィン)、「セアラの墓」(F・G・ローリング)、「メディシン湖の狼」(アルジャノン・ブラックウッド)、「ラント夫人の亡霊」(サー・ヒュー・ウォルポール)、「ビュイックにつきまとう声」(アン・ブリッジ)、「白い道」(E・F・ボズマン)、「ウォッチャー」(J・S・レ・ファニュ)

オススメ度:☆☆

2003.1.13


きれいなお城の怖い話 (ノンフィクション)
(桐生 操 / 角川ホラー文庫 1998)

要するに、西洋史に残る変質者(笑)10人を紹介した本。
この著者、同じネタをいろんな本で使い回しているので、あまり新鮮味はありません。でも初めてお目にかかるネタはいくつかあったな・・・。
それと、エピソードによって文体が明らかに違っていたりするのですが、やっぱり交替で書いてるのでしょうか(この著者は、ふたりの女性の共同ペンネーム)。
それはまあどうでもいいんですが、「・・・ですネ」とか「・・・でしょうネ」とかいう語尾はやめてくれ。なんか、すごくバカにされてるような気分になるぞ。こういう文体が読者に受けるだろうと思っているのなら、考え違いも甚だしいと思います。

オススメ度:☆

2003.1.14


ガルムの報酬 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1998)

「グイン・サーガ」の第60巻(おお、やっと6割達成です。でも現実時間で20巻以上も遅れてるよ・・・)。
今回、ついにヤツが舞台から退場します。
「これは●ー●の分だ!」
「これは●●●の分!!」
いや、こういうセリフはないんですけど(読みながら心の中で叫んでました)。
はあああ、すっきり(笑)。
もっとどろどろぐちゃぐちゃなるかと思っていたのですが、意外とあっさり消えて行きましたな。でもなんとなく騒動のネタは遺していったような。
まあ、ここから先は怒涛の動乱ストーリーになる(はず)でしょうから、ヤツがうろちょろすると、ただでさえこんがらがった流れがますます混乱すると、作者も思ったのでしょうな。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.15


地球最後の日 (SF)
(フィリップ・ワイリー&エドウィン・バーマー / 創元SF文庫 1998)

うわ〜、懐かしいタイトルです〜。
1950年代を代表するSF映画、ジョージ・パル製作の「地球最後の日」を見た(もちろんテレビで)のは中学の時でした。これは、その映画のまごうことなき原作!(これまでジュブナイルとしては出ていましたけど、完訳は初めてだそうです)
読むと、映画がほぼストーリーに忠実に作られていたことがよくわかります。
設定は、かなりシンプル。宇宙の彼方から太陽系に侵入して来た未知の二重惑星。そして、そのひとつが地球と衝突するという恐るべき事実が判明します。世界中の科学者は、破滅する地球を脱出してもう一方の惑星へ移住するための宇宙船建造計画に乗り出します。
もちろん、書かれたのが1932年ですから(なんせ第二次大戦前で、スターリンとムッソリーニが現役でストーリー中に出てくる)、現代の科学知識から見ればツッコミどころはたくさんあります。にもかかわらず、今読んでも新鮮味が色あせていないのは驚きです。それは、当時の最新の科学知識に基づいて、荒唐無稽に堕することなくあくまでリアルに描ききっていることが理由でしょう。そして、作品全体に流れるヒューマニズム、人類と科学の未来に希望を失わない前向きの考え方。ちょっとオプティミスティック過ぎる感じも受けますが、これはこれでいいのでしょう。
ただ、限られた(というか、選ばれた)少数の人間が破滅を生き延びるという、ノアの箱舟を基本モチーフとしているあたり、やっぱり一神教の国の話だなと思いました。その点、同じ状況に追い込まれた時、地球そのものをロケットに仕立ててみんなで逃げるという日本人の発想(映画「妖星ゴラス」ですね)の方が健全ではないかと(笑)。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.16


恐怖の都・ロンドン (ノンフィクション)
(スティーヴ・ジョーンズ / ちくま文庫 1997)

ロンドンの諸所にまつわる幽霊や猟奇殺人などの、おどろおどろなエピソードを集めた実話集。
著者の身内が、実際にロンドンで猟奇バス・ツアーを主催しており、そのガイドブックとして書かれたものだそうです。観光(?)ガイドらしく、地図や写真、図版なども豊富。
中でも、切り裂きジャックに関しては最もスペースが割かれており、傷跡も生々しい殺人現場写真まで載っております(なんと!)。食前食後食事中には読まない方がよろしいですね(←と、文中で注意されているにもかかわらず、読みながらメシ食ってたやつ(^^;)。
なお、ロンドンに出没する幽霊亡霊に関して更に詳しく知りたいという方には(そんな人いるのか?)、ちと高いですが「倫敦幽霊紳士録」(J・A・ブルックス リブロポート)という本がお勧めです(←ただ、10年前の本なので絶版かも)。

オススメ度:☆☆☆

2003.1.17


魔法の猫 (ホラー:アンソロジー)
(ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ:編 / 扶桑社ミステリー 1998)

猫は大好きです(で、実は犬は苦手)。
でも、子供の頃は、祖母が猫嫌いだったので、家の内外には絵・写真・実物とも一切排除されていたのでありました。その反動か、今は榊さん状態(笑)。ご近所に猫が多い(十数匹はいる)という環境も嬉しいです。
で、この本、猫をテーマにしたSF・怪奇・幻想小説を集めたアンソロジーです。
編者が序文で書いておられますが、猫は人間の身近にいる動物の中で、もっとも複雑で矛盾に満ちた関係を結んでいる存在と言えるでしょう。その分、猫にまつわる小説も多いのです。
その中から選びぬかれた本書の収録作品は、かなりレベル高いです。F・ライバー、ル・グィン、C・スミス、G・ウルフ、R・シルヴァーバーグ、M・スワンウィックといったSF畑の大物から、ホラーの御大S・キング、E・ブライアントまで。
そして、どの猫も魅力的(中にはグロいのもいますが(^^;)。レイディ・メイ、ドーフィン・・・。シュレディンガーの猫まで出てくるとは思いませんでした。
以前(つっても15以上前ですが)、徳間文庫から「猫に関する恐怖小説」というのが出ていました。そちらも秀作揃いでしたが、それとのダブりはふたつだけ(H・スレッサーとB・リゲットの作品)というのも嬉しいです。
猫好きならば必読ですよ!
なお、続編
「不思議な猫たち」、姉妹編「幻想の犬たち」(こちらは犬が主人公)も、扶桑社ミステリーから刊行されています。

<収録作品と作者>「跳躍者の時空」(フリッツ・ライバー)、「鼠と竜のゲーム」(コードウェイナー・スミス)、「魔性の猫」(スティーヴン・キング)、「猫は知っている」(パメラ・サージェント)、「シュレディンガーの猫」(アーシュラ・K・ル・グィン)、「グルーチョ」(ロン・グーラート)、「猫の子」(ヘンリー・スレッサー)、「猫に憑かれた男」(バイロン・リゲット)、「生まれつきの猫もいる」(テリー&キャロル・カー)、「愛猫家」(ノックス・バーガー)、「ジェイド・ブルー」(エドワード・ブライアント)、「トム・キャット」(ゲリー・ジェニングス)、「ソーニャとクレーン・ヴェッスルマンとキティー」(ジーン・ウルフ)、「魔女と猫」(マンリー・ウェイド・ウェルマン)、「古代の遺物」(ジョン・クロウリー)、「ささやかな知恵」(ロバート・シルヴァーバーグ&ランドル・ギャレット)、「シュラフツの昼さがり」(ガードナー・ドゾワ、ジャック・ダン&マイクル・スワンウィック)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.19


伝説の船 (SF)
(ジョディ・リン・ナイ / 創元SF文庫 1998)

明朗冒険SFロマンス(と定義してしまっていいのだろうか?)『歌う船』シリーズの、第6弾。前作「魔法の船」の続編です。
主人公コンビは、前作に引き続きキャリエルとケフ。(ちなみに原題の“THE SHIP ERRANT”は、訳せば「型破りの船」とでもなるのでしょうか。このコンビの特色をよく現わしています)
前作で惑星オズランの謎を解いたふたり(?)は、オズラン星で出会った知性体、通称“玉蛙”(文字通りカエルみたいな外見ですが、人類の知らないエネルギー・テクノロジーを持っている)種族の要請を受けて、かれらを母星へ送り届けるという任務に就きます。
送り届けてみると、惑星クリディでは、宇宙開発に事故が頻発し、過去50年間、宇宙へ進出できないでいるという事実が明らかになります。その背後に、宇宙海賊の暗躍と、第3の謎の知性体の存在がほのめかされます。案の定、星系内で攻撃を受けたキャリエルは、自らのトラウマ(以前、近接宙域での事故で、精神崩壊寸前までいったことがある)を抱えながら、相棒ケフやクリディ人有志と共に謎解きに乗り出します。
今回は、これまで合作者だった本シリーズの生みの親アン・マキャフリイは助言を与えるのみで、ナイの単独作品になっています。でもマキャフリイ節は健在。ユーモアとヒューマニティ(異星人に“ヒューマニティ”という用語が適切かどうかはわかりませんが)あふれるストーリーと、テンポの良い展開、存在感あるキャラクターたち。
その幕切れは、D・ブリンの名作「知性化戦争」を彷彿とさせる感動的なものです。
できれば、前作「魔法の船」と併せて読んでいただきたいな、と。(いや『歌う船』シリーズは全部!)

オススメ度:☆☆☆☆☆

2003.1.21


悪魔の発明 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)

テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第4弾。
今回は、タイトル通り、妖かしの不気味な発明品の数々が展覧に供されています。もちろん、その発明者も合わせて。
副題が“23人のマッドサイエンティスト”となってはいますが、すべての作品にフランケンシュタイン(←注! これは発明者の名前であって怪物の名前ではありません)博士が登場するわけではありません。いかにもの妖しい科学者もいれば、歴史上の実在人物だったり、発明者そのものは隠されていたり。
どれも粒揃いで、ありそうなネタもあれば、「よくこんなの思いついたな!」という愕然のネタもります。中でひとつだけ選べと言われれば、岡崎弘明さんの「空想科学博士」でしょうか。ばかばかしいネタでありながらリアルに、そしてユーモラスなのに背筋をぞっとさせるラストを描ききる筆力はすごいです。

<収録作品と作者>「大いなる作業」(篠田 真由美)、「イモーター」(小中 千昭)、「<非−知>工場」(牧野 修)、「星月夜」(横田 順彌)、「死の舞踏」(井上 雅彦)、「雪鬼」(霜島 ケイ)、「明日、どこかで」(山田 正紀)、「レタッチ」(我孫子 武丸)、「よいこの町」(大場 惑)、「果実のごとく」(岡本 賢一)、「決して会うことのないきみに」(森岡 浩之)、「F男爵とE博士のための晩餐会」(芦辺 拓)、「32」(斎藤 肇)、「俊一と俊二」(田中 啓文)、「空想科学博士」(岡崎 弘明)、「ラジ・ザ・モンスター」(ラジカル鈴木)、「ビデオの見すぎにご用心」(友成 純一)、「白雪姫の棺」(田中 文雄)、「スウェット・ルーム」(安土 萌)、「柴山博士臨界超過!」(梶尾 真治)、「断頭台?」(菊地 秀行)、「ハリー博士の自動輪 ―あるいは第三種永久機関―」(堀 晃)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.23


ウイルス・ゾーン(上・下) (サスペンス)
(アンドリュー・ゴリチェク / ハヤカワ文庫NV 1998)

タイトルからして、R・プレストンのベストセラー「ホット・ゾーン」を意識していることはよくわかります(ネタや、その料理の仕方も含めて)。
本書がデビュー作というゴリチェクは、現役の生物学博士。その知識を駆使して書いたバイオ・サスペンス(メディカル・サスペンスというにはちょっと語弊があります。後述)のネタは、あのエイズ。
イギリスで開かれる国際エイズ会議で重大発表をする予定だったウイルス学者が、惨殺されます。捜査を担当するスコットランドヤードのマクファデン警部は、謎を解く鍵を求めてアメリカへ飛び、被害者の元恋人の人類学者マギーと出会います(お約束通り、このふたりは・・・)。ところが、この事件を巡ってアメリカ国務省情報局、そして被害者が顧問を務めていた製薬会社(折しも画期的なエイズ新薬の発売を予定していた)が暗躍を始めます。命まで危険にさらされる主人公ふたりは、プロの工作員や殺し屋からの逃避行を続けつつ、謎の核心に迫っていきます。
ウイルスをネタにしていても、主人公は医療関係者でなく病院を舞台にしていないあたりが、ロビン・クックやM・パーマーのメディカル・サスペンスとは一線を画しています。少なくとも、プロットの作り方、ストーリーテリングはパーマーよりも上(あくまで主観ですが)。
余韻を残し、読後感のよいラストも気に入りました。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.24


戦闘機甲兵団レギオン(上・下) (SF)
(ウィリアム・C・デーツ / ハヤカワ文庫SF 1998)

これは、本格的な戦争SFです。
戦争SFと言えば、有名なのがハインラインの「宇宙の戦士」(映画のタイトルにもなった原題“スターシップ・トルーパーズ”も有名かも)とかJ・ホールドマンのヒューゴー賞受賞作「終わりなき戦い」があります。本作も、その系譜に連なるものです。
ただ、違いがあります。「宇宙の戦士」は、言ってみれば第二次大戦の海兵隊(正規兵)、「終わりなき戦い」はベトナムのグリーンベレー、で、この「戦闘機甲兵団レギオン」はタイトルからお分かりの通り、フランスの外人部隊をモチーフにしているのです。当然、正規軍とレギオン軍団の対立の構図などもあり。
でも、それ以上に出色なのは、2種類の特徴ある異種族が登場すること。ひとつは、人類版図に侵攻してきたフダサ人。かれらは人類とは全く異質のメンタリティを持っており、他のあらゆる種族を潜在的脅威とみなして、本能的に殲滅しようとします。もうひとつは、半獣人のような外見の誇り高い戦士種族(FF10のロンゾ族のイメージがぴったり)ナー。レギオン軍団の辺境基地である惑星アルジェロンの先住種族です。
さらに、人類帝国内部でも優柔不断の(というより人格破綻者)皇帝や、自己保身と権力欲に固まった宇宙海軍提督、利益を確保したい故に皇帝に叛旗を翻す企業家たち・・・といった内紛の兆しを含み、事態は複雑に展開していきます。
前半こそ、この複雑なプロットやサブストーリーのネタ振りが重なって、ちょっともたもたしますが、後半に至って、それらの伏線が見事なまでに生かされて、まさに怒涛の展開になります。映画の「特攻大作戦」や「コマンド戦略」もかくやという、アドレナリン全開状態。燃えます。
1回読み終わった後、クライマックスシーンを何回も読み返してしまいました。
ただまあ、戦争はあくまでフィクションの中だからこそ面白いのですが。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.28


ジャクソンヴィルの闇 (ホラー)
(ブリジット・オベール / ハヤカワ・ミステリ文庫 1998)

この作品、ミステリ文庫で出ているにもかかわらず、ホラーです。
しかも、サイコホラーみたいな超自然的要素が薄いミステリもどきではなく、本格的ノンストップ・ホラー。クーンツ、キング、C・バーカーをごった煮にしてS・ハトスン風味(つまりかなり悪趣味)を加えたという感じでしょうか。
これがフランスの女性作家の手で書かれたというから驚きです。フランス作家のホラーって、初めて読みましたよ。
舞台はアメリカ、ニューメキシコ州の辺鄙な町ジャクソンヴィル(フロリダ州に同名の町が実在しますが、こちらのジャクソンヴィルは架空の町のようです)。平和な夏を迎えたかに見えるこの町に、ゴキブリが異常繁殖するという事態が起こります。そうこうしているうちに、少女が切り刻まれた死体となって発見されます。インディアンの血を引く保安官、FBIから派遣されたふたりの捜査官、軍人あがりの老人、法医学者、そして12歳になるふたりの少年・・・かれらは、町に秘められた血なまぐさい謎に気付き、それを解明しようとします。しかし、邪悪な魔の力はひそやかに町を席巻しようとしていました・・・。
面白いし、ぐいぐい引きこまれていきますけれど、ひとつだけご注意。虫嫌いの方は、読まない方が良いです。ゴキブリやら、ハエの幼虫やら、これでもかというくらい、うじゃうじゃ出てきます。家中に充満し、体内を(!)這い回ります。食欲なくなります(でも、お昼食べながら夢中で読んでた。消化に悪いぞ(^^;)。
だけど、ホラー好きなら必読と言えます。ミステリ文庫なのでホラーだと気付きにくいですが、掘り出しものと言えます。ちなみに続編
「闇が噛む」も同文庫から刊行されています。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.1.30


眩暈 (ミステリ)
(島田 荘司 / 講談社文庫 1998)

えっと、かなり異色のミステリです。
冒頭の100ページ以上が、ある青年(少年?)の手記で占められています。
ひらがなだけの文章から、10歳の子供の文章(なんと10歳にして「占星術殺人事件」を読破している)、そして18歳、21歳と手記は進みます。江ノ島が見えるマンションで、若い義母と暮している青年は、なぜか大気汚染や水質汚濁、農薬残留野菜など、環境問題に強い関心を持っています。そんなある朝、突然闖入してきた強盗に、来客(父親の秘書をしている男性)と義母は殺されてしまいます。あわててマンションを飛び出した彼の目に映った情景は、まさに核戦争後の荒廃した世界でした。部屋に戻った彼が衝動にかられ、ふたつの死体を切断して繋ぎ合わせたところ、なんとその両性具有の身体が甦った・・・。
この手記を発見した大学教授は、精神病者の妄想だと判断しますが、名探偵、御手洗潔は書かれた事はすべて事実だと主張します。そして、徐々に明かされていく驚天動地の真相・・・。
確かに、かなり無理のある設定なのですが、読み進むうちに納得させられてしまう手腕は見事です(でも途中のミスディレクションには気付いたぞ)。
ところで、巻末に載せられている長文(34ページに及ぶ)の解説はいったい何でしょうか。このN崎さんという評論家(?)、こ難しい言葉を使って偉そうに分析して、ひとりで悦に入っているようですが、こういう物の書き方をする人は嫌いです(←あくまで好みの問題)。俺は読者より格上なんだぞ、というスタンスがイヤ。

オススメ度:☆☆☆

2003.2.2


暗黒の復活(上・下) (サスペンス)
(アン・ベンソン / 徳間文庫 1998)

原題がすごいです。“THE PLAGUE TALES”。直訳すると「疫病物語」(そんなタイトル、誰も買わないんじゃ(汗))。
その点、邦訳のタイトルの方が気が利いてます。ここで復活する暗黒とは何かというと、ペスト。かつて世界を席巻し、黒死病と呼ばれました。
ここで、原題が“TALES”と複数形になっていることに注目してください。
時代を隔てたふたつの物語が、同時並行で語り進められます。
ひとつは、14世紀のヨーロッパ。墓を暴いて死体解剖を行った罪で、故郷を追われたユダヤ人医師アレハンドロは、素姓を隠してアヴィニョンに落ち延びますが、ひょんなことからイングランドのエドワード3世の宮廷に派遣されます。他のヨーロッパ諸国と同様、イングランドでもペストが流行しており、アレハンドロは必死に疫病を防ごうとしますが・・・という話。
もうひとつは、2005年のイギリス。世界は、数年前に致命的な病原体の大流行に襲われたことがあり、今やプライバシーよりも検疫が優先されるという状況になっています。そんな中、アメリカから地質調査に訪れたジェニーは、採取した土壌サンプルの中に数百年前の衣類のかけらを見つけますが、その布にはペスト菌が胞子状態で眠っていたのです。不幸な偶然から、ペスト菌は活性化してしまい・・・という話。
ふたつの物語はペストという共通の縦糸でより合わされ、絡み合っていくのですが、それ以上はネタバレにつき自粛。
主人公たちを窮地に追い込むために発生するいくつもの事件が、かなり(作者にとって)都合のいい偶然の上に成り立っているところが気になりますが、まあいいでしょ(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2003.2.6


ヒュウガ・ウイルス (SF)
(村上 龍 / 幻冬舎文庫 1998)

なんか、ここのところ、ウイルスやら疫病やらのお話が多いような気がしますが・・・。
どうやら、この頃、そっち関係のタイトルの本を片っ端から買っていたようです。
このタイトルでなかったら、決して買ってなかったでしょう。村上 龍さんって守備範囲外だし。
「五分後の世界2」という副題がついています。同じ作者の「五分後の世界」と同じ世界設定を使っているわけですね。でも前作を読んでいなくても問題なし。
我々の現実の歴史とは異なる歴史を刻んでいる別世界が舞台。ここでは、日本は太平洋戦争で本土決戦のあげくに負け、連合国に分割統治されました。しかし、ごく少数の日本人は長野の地下にトンネルをめぐらし、“アンダーグラウンド(UD)”と呼ばれる戦闘国家を築いています。
九州のとある都市で発生した疫病(場所は宮崎あたりと思われます。だからヒュウガ・ウイルス)の調査を依頼されたUD部隊は、現地に向かいます。同行を許されたCNNの女性キャスターの視点から、物語は描かれます。
各章が、ウイルスが細胞へ浸透していく(そして免疫機構がそれを迎え撃つ)過程に沿って描かれていたり、ウイルスファンや免疫学マニア(どんなやつだよ)には堪らない趣向が凝らされています。それだけに、読む人を選ぶかも。

オススメ度:☆☆☆

2003.2.8


邪馬台国はどこですか? (ミステリ)
(鯨 統一郎 / 創元推理文庫 1998)

歴史ミステリというジャンルがあります。
基本的には、現代の人が、歴史上の人物や事件にからむ謎を解いていくというお話。
海外では、ジョセフィン・テイの「時の娘」を嚆矢とし、D・カーの後期の諸作(現代人が当時にタイムスリップしたりしますが)。日本での古典と言えば高木彬光さんの「成吉思汗の秘密」でしょうか。歴史上の人物が更に先の時代の謎を解くもの(井沢元彦さんの「猿丸幻視行」とか)や、現代の事件と歴史上の謎をからめて解くもの(斎藤栄さんの「奥の細道殺人事件」とか)もあります。
で、この「邪馬台国はどこですか?」ですが、更に嬉しいのは、これが“酒場のホラ話”ネタであること。
“酒場のホラ話”とは英国伝統の小話形式で、パブに集まった人たちが口々に大ボラを吹き合うというもの。SFではA・C・クラークの「白鹿亭綺譚」がありますし、アシモフの連作ミステリ「黒後家蜘蛛の会」もそのバリエーションですね。
う、前置きが長くなりすぎた(汗)。
舞台はカウンターだけの狭いバー。登場人物は4人のみ。大学の歴史学教授・三谷とその助手の才媛・静香、バーテン・松永と職業不詳の男・宮田。いつも、宮田がとんでもない歴史解釈を持ち出して、正統派の静香と論争になるという筋立てで、邪馬台国をはじめ、聖徳太子の正体、本能寺の変、キリストの復活など6つの歴史上の謎に、あっと驚く新解釈が与えられます。
まあ、基本的に“ホラ話”なので、かなり強引な論理展開をするところもありますが、思わず「そうだったのか!?」と膝を打ってしまうことも。思考実験としてはかなり上質です。
歴史好きなら、一読の価値があるかも。
ただ、最後のふたつのネタは説得力なかったぞ(読む方の知識の量や関心の高さも関わると思いますが)。

<収録作品>「悟りを開いたのはいつですか?」、「邪馬台国はどこですか?」、「聖徳太子はだれですか?」、「謀反の動機はなんですか?」、「維新が起きたのはなぜですか?」、「奇蹟はどのようになされたのですか?」

オススメ度:☆☆☆

2003.2.8


八八艦隊物語2 暗雲 (シミュレーション戦記)
(横山 信義 / 中公文庫 1998)

大艦巨砲主義の日米が太平洋戦争で戦ったらどうなるか? というシミュレーション戦記。
前巻の“マーシャル沖海戦”で大勝利を収めた日本は、余勢を駆ってポート・モレスビー攻略作戦を実行に移します。一方、キンメル将軍戦死の後を受けて米太平洋艦隊司令長官に就任したニーミッツは、ハルゼー率いる機動部隊によるゲリラ戦を展開しながら、反撃の機会をうかがいます。
そして、機は熟し、ポートモレスビーは日本軍の八八艦隊にとっての罠となるのでした。
まさに、正史におけるガダルカナルの様相を呈するポートモレスビー。日本軍が駆逐艦による“ネズミ輸送”をやったり、ジョン・F・ケネディ中尉の魚雷艇が登場したり、芸が細かいです。

オススメ度:☆☆☆

2003.2.9


エキセントリック (ノンフィクション)
(荒俣 宏 / 集英社文庫 1998)

まず、荒俣さんによる「エキセントリック」の定義を引用します。
「エキセントリックとは、中心から外にいること、を本義とする。周辺にいて、中心の権威に属さない位置。その位置を保ちながら、しかも中心を脅かす。(中略)隠者は別格だが、エキセントリックは破格なのである」(本文8ページより)
うわ〜、素晴らしい生き方だよ! こういう風に生きたいよ!
・・・と思いませんか? 思わない方は、この本は向いていません(笑)。
同意された方、ぜひご一読ください。
荒俣さんが憧れる、古今東西のエキセントリックな奇人大集合の一巻です。
いろいろな雑誌に載ったものをまとめたものなので、いささか本として一貫性を欠いてはいますが、まあご愛嬌。どこから読むのも自由です。

オススメ度:☆☆

2003.2.11


大洪水 (冒険)
(マックス・マーロウ / 創元ノヴェルズ 1998)

「大洪水」・・・このタイトル見て、ちょっと不安になったのですね。
これまで、大嵐が来るとか大水が襲ってくるとかいうパニック小説はいくつか読んだのですが、みんなハズレだったのですよ。これと同じ作者の
「メルトダウン」とか、J・バーンズの「大暴風」とか。
でも、これは面白かったです。洪水以外にもいろんな要素が絡み合ってて。(その意味では、この邦題はあまりに即物的。原題の“WHERE THE RIVER RISES”の方が含蓄があります)
舞台は南米アマゾンの奥地。そこで珍しい卵の化石が見つかったということを聞いて、イギリスとフランスの古生物学者の男女3人が調査に来ます。ところが、噂を聞きつけた別の3人組の学者とカメラマンが現れ、同行することに。で、この合流したメンバーがそれぞれ一癖も二癖もありそうな連中で、正に腹に一物、手に荷物(笑)。
で、化石が発見された村に着いてみれば、折からの大雨で河は増水、落雷にあって村の発電機は壊れ、無線も使えず、陸の孤島状態。更に、一行のひとり(ドイツ人の女性カメラマン)が殺され、更に村長の若妻も殺人者の毒牙にかかるという事態に・・・。
アマゾンらしく、アリゲーターやブッシュマスター(毒ヘビ)、アナコンダなどの動物陣も充実しています(笑)。犯人当ては割と簡単でしたけど。映画化したら、きっと面白くなりそうです。
主役のひとり、イギリス人生物学者の助手の女性が、小柄で知的で性格が良くて、しかも眼鏡着用(しかもその眼鏡がしょっちゅうずり落ちて、指で押し上げている)と、絵に描いたような○に好み(笑)。これだけでも読む価値があった?

オススメ度:☆☆☆

2003.2.13


地底大戦(上・下) (ホラー)
(D・プレストン&L・チャイルド / 扶桑社ミステリー 1998)

以前に紹介した怪物ホラー「レリック」の続編です・・・つーか、続編以上。
前作が「エイリアン」なら今回は「エイリアン2」。“今度は戦争だ!”って(←古い)。
前作では、アマゾンの奥地からやって来たと思われる怪物“ンブーン”がニューヨーク自然史博物館を恐怖のどん底に陥れるという話でした。あれから1年半・・・。川底のヘドロの中から発見された首なしのふたつの死体。その死体のひとつは、骨格に著しい異常があり、人類学的調査のために博物館に運び込まれます。折しも、ニューヨークの地下鉄の廃線に住むホームレスの間では、首をもぎとられて殺される事件が頻発していました。
前作に続き、ヒロインの生物学者マーゴ、ニューヨーク市警の警部補ダゲスタ、とぼけているけど凄腕のFBI捜査官ペンターガスト、前回の事件を契機に研究者から事件ジャーナリストに転身したスミスバックなど、おなじみの面々が活躍します。
博物館の地下(前作)という閉じられた空間から、今回は舞台がニューヨークの地下を迷路のように走る捨て去られた地下道ということで、これは正に恐るべき現代のダンジョンと化しています。バイオハザード状態(笑)。
とにかく面白いです。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.2.15


神住む森の勇者(上・下) (ファンタジー)
(J・グレゴリイ・キイズ / ハヤカワ文庫FT 1998)

以前に紹介した「水の都の王女」の続編。というより、ふたつ合わせて一続きの大長編ととらえた方がいいかも。
水の都の王女として大河の神の血を受け継いだ少女ヘジと、彼女に夢で呼びかけられた北方の若者ペルカルの出会いと、ふたりの都からの脱出を描いた「水の都の王女」。物語はその直後から始まります。 数少ない仲間たちと一緒に、平原で暮らす騎馬の民マング族の元に身を寄せるヘジ。ところが、大河の神は、1回は死んだはずの殺し屋ゲーを復活させ、ヘジの後を追わせます。
呪い師の才能を開花させ、複数の神々の思惑に操られるように、はるか北の大河の源流を目指すヘジたち。一方、ゲーはヘジの良き理解者だった老司書ガーン(愛すべき脇役No.1)を伴い、船で大河を遡ります。
きめ細かに描き出された異世界の風俗と神々、そして、緊密に計算され尽くしたプロット。最後までどう転ぶかわからないストーリーを、見事に納得できる結末にまとめあげた手腕はさすがです。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.2.20


神の鉄槌 (SF)
(アーサー・C・クラーク / ハヤカワ文庫SF 1998)

宇宙から来た“なにか”が地球に衝突する・・・。古来、このネタのSFはたくさんあります。
先にご紹介した
「地球最後の日」では未知の惑星が、「悪魔のハンマー」(ニーヴン&パーネル)では彗星が、「さよならジュピター」(小松左京)ではブラックホールが、「シヴァ神降臨」(ベンフォード&ロツラー)では小惑星が(←しかしなんで“しょうわくせい”と入力すると“昭和九世”と変換するかね、うちのパソ子は)。
で、この「神の鉄槌」でも、とある小惑星が地球との衝突コースに乗っていることが判明します。しかし、まだ時間はあるので、かねてよりの計画に基づき、宇宙船ゴライアス号がその小惑星“カーリー”へ向かいます。ところが・・・という次第。
細かく描き込めば、大長編になったかも知れないネタ(未来の宗教やら、火星の植民やら、コンピュータと脳の直接接続やら)を、クラークはあえて短い場面の描写を積み重ねて、あっさりと描き切ります。物足りないくらいに。
このお話、映画「ディープ・インパクト」の原案ともなっています。

オススメ度:☆☆☆

2003.2.22


赤い激流 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1998)

「グイン・サーガ」の第61巻です。
今回は、つなぎの回という感じで、表立った大きなイベントはありません。
ただ、
前巻で退場したはずの“ヤツ”がしっかり悪夢の中に出て来たり、マルガではあのお方とあの人がかなり今後に影響しそうな密談をしてたり、勘所は押さえてます。
やたらと町や砦の名前がたくさん出てくるので、巻頭の地図と首っ引きで進撃ルートをチェックしたり、なんか戦略シミュレーション風味(笑)。
次回は、ついに決戦か?(って、物語的には大した相手ではないかも(^^;)

オススメ度:☆☆☆

2003.2.23


蚊學の書 (エッセイ?)
(椎名 誠 / 集英社文庫 1998)

えっと・・・。タイトル通り、「蚊」の本です(笑)。
書名にひかれて、ついつい買ってしまったもの(椎名さんって、基本的に守備範囲ではないのですが)。
何でも、とある島でキャンプをした椎名さん、夜中に蚊の群れに猛襲されて、それがきっかけで蚊についていろいろ知りたいという気持ちになったそうです。
はい。わかります。
世界各地の蚊や、蚊取り線香や蚊帳や、蚊のつく地名・人名・川柳にことわざなど、ありとあらゆる蚊の薀蓄がこめられています。けど、第1章の蚊に襲われるドキュメンタリーがいちばん面白くて、後半に行くと、ちとテンションが下がってしまいます。残念。

オススメ度:☆☆

2003.2.24


銀河英雄伝説10 落日篇 (SF)
(田中 芳樹 / 徳間文庫 1998)

ついに「銀英伝」、最終巻です。
書庫の過去ログを追いかけてみたら、
第1巻「黎明篇」を読んだのは、去年の1月だったのですね。ほぼ1年をかけて、読み終えたと。
なるほど、少し前から暗示はされていましたが、こういうふうに終わるわけね。
打ち上げ花火のように派手に終わるのではなく、線香花火の最後の火のように消えて行く英雄たち・・・。銀河の壮大な歴史絵巻に、ふさわしい幕切れと言えましょう。(あの人も退場するんだね。意外と言えば意外でしたが、もっともと言えばもっとも)
アンネローゼさんの最初にして最大の活躍シーンが、個人的には白眉でした(笑)。
願わくは、生き残りし人々に、幸多からんことを。

オススメ度:☆☆☆

2003.2.26


暗黒のメルヘン (幻想:アンソロジー)
(澁澤 龍彦:編 / 河出文庫 1998)

澁澤 龍彦さんが、ご自身の好みを丸出しにして選んだ、日本の幻想小説アンソロジー。
もちろん、編まれたのが30年以上前ですから、現代作家のものは入っていません。
三島由紀夫とか石川淳とか安部公房とか、守備範囲外の作家がいっぱい。全16編中、読んだことがあるのは3作だけだったので、新鮮でした。ちなみに過去に読んでいたのは乱歩の「押絵と旅する男」、小栗虫太郎の「白蟻」、夢野久作の「瓶詰の地獄」でした。趣味偏りまくりやん(汗)。
“スタイルにとことんこだわる”とおっしゃる澁澤さんの選択基準で集められただけあって、とにかくどの作品も読み応えがあります。濃密なコク、というか。猫が主題の作品がふたつ(「猫の泉」と「恋人同士」)あるのも嬉しいです。

<収録作品と作者>「龍潭譚」(泉 鏡花)、「桜の森の満開の下」(坂口 安吾)、「山桜」(石川 淳)、「押絵と旅する男」(江戸川 乱歩)、「瓶詰の地獄」(夢野 久作)、「白蟻」(小栗 虫太郎)、「零人」(大坪 砂男)、「猫の泉」(日影 丈吉)、「深淵」(埴谷 雄高)、「摩天楼」(島尾 敏雄)、「詩人の生涯」(安部 公房)、「仲間」(三島 由紀夫)、「人魚紀聞」(椿 實)、「マドンナの真珠」(澁澤 龍彦)、「恋人同士」(倉橋 由美子)、「ウコンレオラ」(山本 修雄)

オススメ度:☆☆☆

2003.2.28


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