九州の遺跡探訪
目次
(長崎県・佐賀県・福岡県)

 の夏(2009年7月)九州の遺跡を巡った。あいにく、山口・九州を集中豪雨が襲い、1/3を満たない行程で打ち切らざるをえなかった。九州中部・南部・東部(豊後水道沿岸)は次の機会に残した  
長崎県・島原半島に遺る原山支石墓から始まり、佐賀県に入り、背振山地を右回りに唐津、前原、福岡、大宰府を訪れた。縄文時代晩期に朝鮮半島南部から伝わった水田稲作技術、それを伝えた渡来人と縄文人が開始した九州の弥生時代、九州特有の支石墓と甕棺墓などを見学し、次第にムラからクニ、国、王国を築いていった跡を垣間覗いてみようとした。九州の弥生王墓に特徴的な副葬品としての剣・戈・矛と多鈕細文鏡と前漢鏡の数々を見ることができた

弥生時代の終り、九州での王国の成立とともに畿内に強力な権力が誕生し、BC300年頃からAD250年頃まで500年余り続いた弥生時代はヤマト王権を中心にした古墳時代に移る。今回の旅程に従い、佐賀県と福岡県の幾つかの前方後円墳を訪ねた

ここでは、撮影の許可された範囲で、遺跡探訪の旅を振り返る。項目を、水田遺跡、王国、支石墓群、甕棺墓、幾つかの古墳と別け、九州の弥生時代の幕開け、古墳時代への移行を、旅のメモとして整理する

訪れた遺跡において、王墓が成立した時期と埋葬・副葬された鏡・青銅器を、年表として示す。
表は弥生時代の開始をBC400とする旧根年代区分で作製していたが、最近の歴博による新年代区分を付記した(2019.4)

*弥生地代の開始年代は、2003年の歴博の「水田稲作の開始時期に関する研究」発表以来、従来の定説よりほぼ500年溯った。
藤尾慎一郎・今村峯雄・西本豊弘:弥生時代の開始年代ーAMS−炭素14年代測定による高精度年代体系の構築ー、
                総研大文化科学研究、2005.3
藤尾信一郎:「弥生時代の歴史」 講談社現代新書 2015.8  によると、弥生時代の時代区分は以下のようになる。
          弥生早期前半(前10世紀後半〜前9世紀中頃)、弥生早期後半〜前期後半(前9世紀後半〜前5世紀)、
          弥生前期末〜中期前半(前4世紀〜前3世紀)、弥生中期後半〜中期末(前2世紀〜前1世紀)、弥生後期(1世紀〜3世紀)
 ー目次ー ○数字は左上地図内の数字と一致
1a. 水田遺跡 板付(福岡市)、菜畑(佐賀県)
P板付遺跡(弥生館)、G菜畑遺跡(末盧館)
1b. 王国 早良国(福岡市)と末盧国(佐賀県)、伊都国(福岡市)、奴国(春日市)
M吉武高木、H宇木汲田、H桜馬場、L三雲南小路、L平原(曽根遺跡群)、L井原鑓溝、O奴国の丘
2a. 支石墓群 原山(長崎県)、金立(佐賀県)、志登、石ケ崎(前原市)
@原山支石墓群、D金立支石墓群、K志登支石墓群、M石ケ崎支石墓
2b. 甕棺墓 吉野ヶ里(佐賀県)、奴国の丘(福岡市)、金隈遺跡(福岡市)
E吉野ヶ里、O奴国の丘(須玖遺跡)、P金隈遺跡
幾つかの古墳 佐賀県と福岡県
D西隈古墳、C船塚古墳、F久里双水古墳、I谷口古墳、J一貫山銚子塚古墳、K今宿大塚古墳
L古賀崎古墳、L井原一号墳、L築山古墳、L端山古墳、L狐塚古墳、L銭瓶塚古墳、Lワレ塚古墳
博物館・資料館など A佐賀県立博物館、L伊都国歴史博物館、N福岡市博物館、O奴国の丘歴史博物館、P福岡市埋蔵文化センター、Qちくしの歴史博物館、R大宰府・九州国立博物館・九州歴史博物館

 1。縄文晩期から弥生時代の初めに、水田農耕が菜畑遺跡や板付遺跡に伝わり、朝鮮半島南部の墓制である支石墓が北九州沿岸部や有明湾沿岸部に伝来した。
2。弥生時代は朝鮮半島との交流の中で到来した。北九州における初期のクニまたは国である(宇木汲田遺跡)や早良国(吉武高木遺跡)では、紀元前7〜6世紀の中国遼寧地方に起源をもつ
多鈕細文鏡が宝器として埋葬されている。縄文晩期に相当する起源前5〜3世紀(新区分では弥生前期〜前期始め)は中国では戦国時代で、多鈕細文鏡は朝鮮半島を経由して、或いは朝鮮半島で製造されて持ち込まれたと見られる。多鈕細文鏡は、宇木汲田と吉武高木の他に、本村籠遺跡(佐賀県大和町)、増田遺跡(佐賀県)、若山遺跡(福岡県小郡市)で2面、原の辻遺跡(長崎県壱岐)、梶栗浜遺跡(山口県)や大県遺跡(大阪府)、御所市名柄字宮(奈良県)、さらに長野県から、合計11面が出土している。ほとんどが、水田農耕が日本列島で始めて行なわれた地域からの出土である。
3。これに引き続き、弥生時代中期から後期には、北九州一円で甕棺墓が流盛し、魏志倭人伝の国々(末盧国、伊都国、奴国など)に、前漢鏡と後漢鏡および青銅器(剣、矛、戈)が、宝器・祭祀用としてもたらされている。中国では起源前202年に前漢が成立し、紀元前108年には楽浪郡が朝鮮半島に設置され、楽浪郡を経由しての中国文化の伝来が重要な道となる。
4。佐賀県と福岡県の大型前方後円墳の規模・現状・保存状況を知る。古墳時代のヤマト王権との関係を知る上で重要である。
参考書
寺沢薫:日本の歴史02「王権誕生」、講談社学術文庫、2008.12
鳥越憲三郎:「弥生の王国 北九州古代国家と奴国の王都」、中公新書1171、1994.1
八幡一郎、田村晃一編:「アジアの巨石文化 ードルメン・支石墓考」、六興出版、1990.11
福岡市立歴史資料館:特設展図録「早良王墓とその時代」墳墓が語る激動の弥生社会、1986.10
伊都国歴史博物館:常設展示図録、2004.10
奴国の丘歴史資料館:常設展示図録、2005.3
佐賀県教育委員会編:「弥生時代の吉野ヶ里」−集落の誕生から終焉までー、2008.3

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