WIZARDRY RPG
− OutLaws Edition −
■サンプルシナリオ■
◇シナリオプラン 『氷霧の結界』◇
<スクリプト集>
□セッション#1 雪原の最前線
絶え間なく雪が降り積もる中、前方から雪煙を上げながら向かってくる騎馬の集団があった。
君たちを見止めたのか、先頭の馬に乗った騎士が手を上げて馬を止めると、騎馬の集団は一斉に止まった。
先頭の騎士は兜を脱いで素顔を晒した。まだ年若い北方系特有の金髪に白い肌をした人間族の男だった。
「……馬上から失礼する。私はクールヘンレント王国の騎士エセルレッドと申す。もしや君らは、王都ネディアへと向かっている冒険者ではないか?」
「おお! そうか! それは話が早い。ぜひ、私の話を聞いてもらいたいが、いかがか?」
「実は、氷霧の結界から出現した怪物どもに近隣の集落が襲われているとの急報を受け、討伐に向かっている途中なのだ。ぜひとも協力してもらいたい。もちろん、後ほど報酬はしっかり支払う」
「これは強制力のない、単なるお願いだ。もちろん、君らには拒否する権利がある。だが、もし受けてくれるならば、探索者の認定に推薦ができる。どうだろうか?」
(依頼を引き受ける)
「よしっ、交渉成立だな。よろしく頼む!」
襲撃を受けた集落へと向かう途中、エセルレッドは君たちに話しかけてきた。
「君たちはこのクールヘンレント王国に訪れたのは初めてかな? 雪だらけで驚いたろう」
「ああ。見ての通り、混迷期に入ってからというもの雪に覆われる季節が一年のほとんどを占めるようになってしまった。特にこの数年は酷いな。もうほぼ一年中、雪が続いている」
「降雪も酷いが、それ以上に危険なのが氷霧の結界から出現する怪物どもだ。雪で命を落とすことはまず無いが、怪物は確実に人の命を奪う」
「我々騎士団も人数に限りがある。領内すべてを護りきることは難しい……。特に、こないだの遠征で精鋭中の精鋭を失ってしまった」
「……すまない。外国人の君たちに愚痴を言っても仕方ないな。忘れてくれ。それより、このような状況下で、君たちのように戦う意志をもって入国してくる冒険者は大歓迎だ」
「さあ、間もなく通報のあった集落が近い。警戒しよう」
前方に小柄な人間型の生き物どもが居た……。この距離でも分かるほど濃い血と獣のような匂いが鼻を衝く。
奴らもこちらに気が付いたようだ。向き直って、得物を振りかざして襲ってきた!
王城の衛士詰所にエセルレッドと一緒に入ると、エセルレッドは書机に着いた書記官と何やら話している……。
しばらくすると、エセルレッドは羊皮紙を丸めた書類と小ぶりの革袋を幾つか手にして戻ってきた。
「……待たせてすまなかった。探索者としての認定書だ。この街での身分証となる。無くすなよ?」
「それと、これはさきほどの戦いの報酬だ。受け取ってくれ」 (一人あたり300GPを入手する)
「これから何かと世話になると思うが、改めてよろしく頼むよ」
□セッション#2 武神の戦乙女
武神の神殿の前でちょっとした人だかりができている。どうやら誰かが言い争いをしているようだが……。
見ると、革鎧を着て槍を手にしたまだ年若いエルフ族の少女と、白い長衣を着た人間族の壮年の男が押し問答をしている。
少女はおそらく冒険者登録して間もない年齢に見える。背中まで届きそうな長く美しい黒髪を振り乱し、大仰な身振りで不満を表現していた。そして感情が昂っているのか、エルフ族にしては珍しく頬を紅潮させながら大声を上げた。
「……だから、わたし独りでも行くわ! 姉様たちが行方不明になってから何日も経ってるのよ! このままでは生還の可能性が刻一刻と失われていくが分からないの!?」
対して人間族の壮年の男は落ち着いて少女を宥めようとしていた。
「いいかい、ロスヴァイセよ。そなたはまだ初陣も済ませていないではないか。そなたが本当に単身で氷霧の結界に挑み、冥王の城に到達できると思っているのかね? “極光の姉妹”たちの安否が心配なのは、何もそなただけではない。少しは落ち着きたまえ」
「ですが、神官様! このままでは姉様たちが生還する可能性が、どんどん失われていきます……」
「ロスヴァイセよ。いま多くの冒険者たちがこの街を訪れている。まずはその冒険者たちとともに実力を鍛えなさい。どんなに時間が掛かったとしても、怪物どもと互角に戦えるようになってから、冥王の城に挑みなさい。今のままの実力で挑めば、間違いなく途中の道程で戦死することになる。それをレギンレイヴが喜ぶと思うかね?」
「……ですが。わたしは、すぐにでも初陣を行いたいです」
ロスヴァイセと呼ばれたエルフ族の少女は、肩を落として弱々しくそう呟いた。
「……まったく、仕方のない娘だ。だが、この危機に立ち向かう闘争心をもっていることは、実に良い。必ずや武神オーディンもご照覧されておられることだろう」
神官はそう言って聖印を切ってロスヴァイセを祝福した。そして、周囲を見渡すと、ふと君たちと目が合った……。
「ちょうど良いところに冒険者が居るではないか。そなたたちは冥王の城の探索者かな? ……ほう。もう探索の認定も受けている。ますます好都合! そなたたちにひとつ頼みがある」
「この街から北西におよそ1,400ヤード(約1,280m)ほど行ったところに古墳がある。かつて“楯の乙女”と謳われた古代の戦乙女を葬ったものだ。嘆かわしいことだが、この古墳になにやら邪なものが潜み、根拠としているようだ。古墳の探索を行い、その不埒なものを放逐してもらいたい」
「……そうか、引き受けてくれるか。それは重畳! 実はもうひとつ頼みがある。ここに居るロスヴァイセをぜひ同行させてほしい。古墳への道程はこの娘が承知している。また、自分の身を護る程度の武術の心得は身に着けている。決して足手まといにはならぬぞ」
(依頼を引き受ける)
「……ありがたい。さあ、ロスヴァイセよ。方々にご挨拶なさい」
神官に誘われて、エルフ族の少女は君たちの前に進み出た。槍を持つ手を胸に当て、名乗りを上げた。
「我が名はロスヴァイセ。武神に仕える姉妹の末席に名を連ねるものだ。どうかよろしく頼む」
古墳の深部、おそらく楯の乙女を葬った墓室と思われる玄室へと向かった。奥の方で鬼火のような青白い光源が怪しく揺れているのが見えた。
玄室に踏み込むと、石棺の上には目を覆うような邪悪な儀式の痕跡が残されていた。
「ははっ、さすがは古代の戦乙女“楯の乙女”よ! 我が僕にして呉れようと思うたが、なかなかに手強い……」
魔法の光源で照らされた玄室の中央に闇に溶け込むような深い紫の法衣をまとった妖術師が居た。
「おっと、招かざる客のご到着のようだ。いま取り込み中でな。用は後にしてくれ」
遥かな祖先の陵墓を穢されたのを目の当たりにしたロスヴァイセは激高した。
「何をしているのだ。この下郎! すぐにその忌まわしい儀式を止めろ!」
法衣姿の妖術師は、さも嬉しそうに顔を歪めた。
「ははっ、随分と活きのよい武神の信徒よな。“楯の乙女”を手懐けるのにはまだ時間が掛かる。まずは、そなたの骸から我が僕にしてくれよう!」
妖術師は事切れた……。玄室に静寂が戻った。
……いや、邪教の祭壇と化した石棺から何かが現れようとしている。
まるで蛍火のような燐光が集まると、武装した女性の姿が現れた。
「……我が一族の裔よ。我が妹よ。よくぞ邪教の徒を討ち果たしました。感謝します」
「父祖より受け継ぎしこの土地は、未曽有の危機に際しています。妹よ。どうか、剣を取ってこの危機からこの地と民たちを護って欲しいのです」
「我らは残念ながら見守ることしかできません。せめて、わたしがかつて振るった剣を授けましょう」 (ウルフバートを入手する)
「そなたの行く路に武神の加護があることを祈っています……」
まるで旅立つ我が子を見送る母のように慈愛の笑みを残して、女性の姿はかき消えた……。
武神の神殿に向かうと、神官がわざわざ戸口まで出迎えてくれた。
「門衛から報せを受けて待っておったぞ。よくぞ無事還ってきてくれた!」
「探索者たちよ。ロスヴァイセがなにか無茶をせんかっただろうか。……いや、何はともあれ、無事でよかった」
「……そうか。死霊術を操る妖術師が根城としておったとは、なんと怪しからんことだ。しかし、これで“楯の乙女”も、終末の刻まで安心して眠れよう」
「これは古代の名剣ウルフバートではないか! “楯の乙女”より授かったのか……。いや、これはもはやそなたたちの物だ。これからの戦いに役立ててもらいたい」
「おお、忘れるところであった。ロスヴァイセの初陣の介添え、まことにご苦労であった。これは報酬だ。どうか受け取って欲しい」 (ライフアミュレットを入手する)
「そなたたちの前途に武神オーディンの祝福があらんことを祈っておるぞ!」
ロスヴァイセは君たちの方へ向き直って、微笑みながら礼を言った。
「あなたたちのおかげで初陣を飾ることができた。本当にありがとう」
「これから“極光の姉妹”の末席として、名誉ある戦いに参加することができるわ」
「いつかきっと、また共に戦いましょう。それまでにもっと槍の腕を磨いておくわ!」
□セッション#3 冥王の城へ
前方から角笛の音とともに小柄な人間型の生き物の一団が、武具の音を鳴り響かせながら押し寄せてきた。
先頭に立って角笛を吹き鳴らしているのは、人間に匹敵するほどの体格の生き物だった。乱杭歯を剥き出しにした獣じみた形相をしている。酷い(暗黒語)訛りの共通語でそいつは叫んだ!
「敵だ! 侵入者どもは皆殺しにしろ!」
通路の前方から、まるで影の中から染み出したかのように、漆黒の甲冑をまとった戦士の一団が現れた!
その先頭には、燃えるような金色の長い髪をなびかせた氷のように冷たい美貌の戦乙女が立っていた……。
「よくぞここまで到達したな、王国の戦士たちよ。我が名はレギンレイヴ。この城の守備を任されている者だ」
「この地は氷霧の魔界ニヴルヘイムに属すようになったのだ。もはや人間の居るような場所ではない……。悪いことは言わぬ。速やかにこの地を去りなさい」
「いずれこの地を覆っている氷霧の魔力は、王国のすべてを呑み込むだろう。手遅れになる前に民を連れて、南へと逃げなさい。終末の刻は近いのだ……」
「……これは警告だ。次に遭うときは、戦となるぞ。さらばだ」
戦乙女に率いられた漆黒の戦士たちは、再び影の中に溶け込むかのようにして消えた……。
□セッション#4 巨人狩り/乙女の決意
エセルレッドが冒険者たちの定宿である冒険者の宿に訪ねてきた。
「探索で忙しいところ申し訳ない。……実は折り入って頼みがあって来たんだ」
「領内の集落でまた怪物どもの襲撃があったとの急報が入ったんだ。それ自体は珍しいことでもないんだが……」
そこまで言って珍しく言い淀んだが、意を決したように切り出した。
「どうやら、今度の襲撃は今までの小鬼属ではなく、巨人属の怪物らしいんだ。人里に巨人属の怪物が出現するのは初めてだ。……正直なところ、巨人属相手ではうちの兵士では荷が重い」
「そこで、怪物どもと実戦経験が豊富な君たちが居ることを思い出してね。協力してもらえないかと思ってな。救援の同行を頼めないだろうか?」
そこに息を切らせたロスヴァイセが飛び込んできた!
「ねえ、冥王の城でレギンレイヴ姉様と出遭ったって本当!?」
「あなたたちが冥王の軍勢を率いたレギンレイヴ姉様に遭って警告を受けたって本当なの?」
「……嘘よ! 武神を奉じる“極光の姉妹”の筆頭と謳われたレギンレイヴ姉様が、よりによって冥王の部下に収まっているなんて、とても信じられないわ!」
「ねえ、わたしを冥王の城に連れて行って! この目で確かめないと、居ても立ってもいられないわ!」
……さて、どうしたものだろうか?
(エセルレッドの依頼を受ける)
「信じられない! いいわ。わたしだけでも確かめに行くから!」
ロスヴァイセは激高してそう言い放つと、来たときと同じく疾風のように立ち去った……。
残されたエセルレッドは、ばつが悪そうに頭を掻きながら言った。
「……それは助かる。助かるんだが、本当に良いのか? 彼女、飛び出して行ってしまったぞ?」
「そうか。正直、依頼を受けてもらって、俺は助かる。さっそくだが、すぐに発とう。時間が経てば、それだけ被害が大きくなるからな」
(ロスヴァイセの依頼を受ける)
ロスヴァイセは飛び上がらんばかりに喜んでいる。
「本当!? ありがとう! あなたたちなら、きっとわたしの願いを聞いてもらえると信じていたの!」
エセルレッドはやや気を落としたようだが、気を取り直してこう言った。
「……そうか。行方不明とされていた“極光の姉妹”レギンレイヴは生きていたんだな。もし、何かの間違いなら、精鋭を取り戻す良い機会かもしれない」
「いや、良いんだ。もともと領内の防衛は、我ら騎士団の務めだ。君たちは本来の目的である、冥王の城の探索を進めてくれ。俺たちで何とかするさ」
襲撃を受けた集落へと向かう途中、エセルレッドは君たちに話しかけてきた。
「……実はここ最近、どうにも怪物どもの様子がおかしいんだ」
「今まで氷霧の結界から出現した怪物どもは、基本的に餌を求めて人里付近に出没して、家畜や人を見つけては襲い、その場で殺して喰っていた」
「だが、ここ最近では、家畜や人をなるべく殺さずに攫っているようなんだ」
「……理由は分からない。だが、この変化はどうにも気になる」
前方の雪原のあちらこちらが朱に染まっていた。集落を護るために戦い、斃れた男たちの亡骸が点在している。
そして、それを引きちぎり喰らう巨人どもが居た……。この距離でも分かるほど濃い血と獣のような匂いが鼻を衝く。
どうやら、奴らもこちらに気が付いたようだ。向き直って、得物を振りかざして襲ってきた!
気性の荒い漆黒の馬たちを繋いだ馬車の荷台は頑丈な鉄格子の檻となっていて、集落の住民と思われる人々が詰め込まれていた。彼らは寒さに凍え、また怯えながら身を寄せ合っていた。
「もう大丈夫だ。いま出してやる」
エセルレッドは錠前を剣で破壊し、檻の中から囚われの人々を解放した。極度の緊張状態から解放された人々は、泣いて喜び、君たちに何度も礼を言った。
「さあ、またいつ何時怪物どもが襲ってくるかもしれない。ここをすぐに発とう」
エセルレッドは手早く兵士たちに指示を出し、人々に毛布を配って、移動の準備を始めた。
移動の準備が整うと、エセルレッドは周囲を気にしながら君たちにそっと囁いた。
「……君たちは暗黒語が読めるか? 暗黒語は、大昔の暗黒時代に“冥王”が配下の怪物どもが意思の疎通ができるように作り出した言語だ」
「さっきの檻の馬車に但し書きが書かれていた。なんて書かれていたと思う? ……飼料運搬用だそうだ」
「さっき斃した人喰い鬼どもを指揮していたのは、オークの変種“ウルク・ハイ”だった。ウルク・ハイは自然に発生した怪物じゃない。大昔の暗黒時代、オークどもを兵士にするために“冥王”が魔道実験で改良した変種だ」
「そいつが人喰い鬼を指揮して集落を襲い、住民をその場で殺さずに“飼料”として捕らえていた。……あまり深く考えたくはないが、悪い兆候だな」
冥王の城へと向かう途中、ロスヴァイセは独り言のように語った。
「……レギンレイヴ姉様、生きていたのならどうして神殿に還らなかったのかしら」
「遠征隊が消息を絶ったとき、神官様が法術のカンディを使ったけれども、生きているとも死んでいるとも判断がつかないと仰っていた……」
「でも、あなたたちはレギンレイヴ姉様に遭ったと言っていたわよね? 大丈夫。わたしと逢えば、きっと一緒に帰ってくださるわ……」
前方から角笛の音とともに巨人どもを引き連れた人型の生き物が、武具の音を鳴り響かせながら押し寄せてきた。
先頭に立って角笛を吹き鳴らしているのは、人間に匹敵するほどの体格の生き物だった。乱杭歯を剥き出しにした獣じみた形相をしている。酷い(暗黒語)訛りの共通語でそいつは叫んだ!
「敵だ! 侵入者どもは皆殺しにしろ!」
冷たく静かな回廊を渡っているとどこか遠くから鉄鎚で金床を叩くような力強い音が聞こえた。
槌音を辿っていくと、大勢の小鬼属の怪物どもが、炉で真っ赤に溶けた鉄を型に流し込み、剣や甲冑を作っている工房を見つけた。さらにその向こう側で、よりおぞましいものを目にした。
棺桶のような揺り籠に収められた、まるで泥のような膜に覆われた胎盤から、次々と膜を破って小鬼属ウルク・ハイが産み出されていた。ここはウルク・ハイの生産工場のようだ……。
「……なんて、おぞましい。すぐにでも踏み込んで、焼き払いましょう!」
ロスヴァイセはいきり立って今にも攻め込もうとするが、とてもこのまま踏み込んでも勝てる気がしない……。ロスヴァイセをなだめすかして、この場を離れることにした。
通路の前方から、まるで影の中から染み出したかのように、漆黒の甲冑をまとった戦士の一団が現れた!
その先頭には、燃えるような金色の長い髪をなびかせた氷のように冷たい美貌の戦乙女が立っていた……。
「レギンレイヴ姉様!?」
姉とも慕ってきたレギンレイヴを前にして、ロスヴァイセが駆け寄ろうとする。が、彼女を待っていたのは、レギンレイヴの構えた鋭い槍先だった。
「……ここまで追ってくるとは、何て愚かな。……ロスヴァイセよ、すぐに引き返しなさい」
「……どうして? ねえ、どうしてしまったの? ……なぜ?」
目に涙を浮かべて立ち尽くし、すがるように尋ねるロスヴァイセに向けて、レギンレイヴは無言で自らの胸元をはだけ見せた。雪のように白いその肌には、赤黒くおぞましい魔の刻印がびっしりと刻まれていた。
「……わたしはもう貴女の知っているレギンレイヴではない。冥王に忠誠を誓った化け物だ」
「……そんな」
「……これは最後の警告だ。速やかにこの地を去りなさい。間もなく、終末の刻が来る。……探索者たちよ、妹を頼みます」
どこか悲しそうに目を伏せ、レギンレイヴは身を翻した。そして戦乙女に率いられた漆黒の戦士たちは、再び影の中に溶け込むかのようにして消えた……。
□セッション#5 戦友の救出
一人の兵士が冒険者たちの定宿である冒険者の宿に訪ねてきた。
「ご相談したいことがあり、参りました。実は私の上官であるエセルレッド卿が、集落を襲撃した怪物討伐から帰還していないのです」
「率いて行かれた兵士の一部は救助した住民たちを連れて帰還したのですが……。隊長であるエセルレッド卿は、殿軍として独り戦場に残ったとのことです」
「大聖堂の司祭様に法術のカンディで生死を確認いただきましたが、結果は残念なことに死亡とのことでした」
「私たちは独断で持ち場を離れるわけにはいきません。そこで、隊長のお知り合いであるあなた方に何とか力を貸していたけないかと、相談に参ったのです」
「エセルレッド卿はこの城下で最も優れた騎士です。この状況下で、あの方を失いたくはない。なんとか遺体の回収をお願いできませんでしょうか? もちろん報酬はお支払いします」
「ありがとうございます。なにとぞ、隊長を宜しくお願いいたします」
エセルレッドが消息を絶った戦場へと向かう途中、案内役の兵士は君たちに話しかけてきた。
「……実はここ最近、どうにも怪物どもの様子がおかしいのです」
「今まで氷霧の結界から出現した怪物どもは、基本的に餌を求めて人里付近に出没して、家畜や人を見つけては襲い、その場で殺して喰っていました」
「だが、ここ最近では、家畜や人をなるべく殺さずに攫っているようなのです」
「エセルレッド卿も理由は分からない、と首を捻っておられました。そして、この変化はどうにも気になる、とも仰っていました」
前方の方で煙が立ち上っているのが見えた。そこに向かうと幾つかの馬車が止まり、野営が行われていた。
火を囲んでいたのは、巨人どもと武装した小鬼属の一団だった。この距離でも分かるほど濃い血と獣のような匂いが鼻を衝く。
どうやら、奴らもこちらに気が付いたようだ。向き直って、得物を振りかざして襲ってきた!
気性の荒い漆黒の馬たちを繋いだ馬車の荷台は頑丈な鉄格子の檻となっていて、集落の住民と思われる人々が詰め込まれていた。彼らは寒さに凍え、また怯えながら身を寄せ合っていた。
君たちは錠前を壊し、檻の中から囚われの人々を解放した。極度の緊張状態から解放された人々は、泣いて喜び、君たちに何度も礼を言った。
錠前を壊す際に、檻に書かれていた文字が気になった。それは、大昔の暗黒時代に“冥王”が配下の怪物どもが意思の疎通ができるように作り出した言語である暗黒語で書かれていた。
そこには汚い文字で「飼料運搬用」とだけ、書かれていた。
人間を運搬していた檻付きの馬車に、「飼料運搬用」と書かれている。どういう意味かを考えると、暗澹たる思いがするようだった。
あちらこちらに怪物どもや兵士たちの骸が転がっている戦場跡で、魔法を頼りにエセルレッドの遺体の探索を行った。
ひときわ激しい戦いが行われたと思われる場所で、それは発見された。雪原を覆う冷気によって、まるでつい先ほどまで生きていたように保たれていた。
おそらく最期の瞬間まで力の限りに戦い続けたのだろう。全身の甲冑はぼろぼろに破損し、右腕は失われていた。残った左手に固く握られていた剣も、半ばで折れていた。
その姿を見て、案内役の兵士は膝から崩れ落ちて男泣きに泣いた。
君たちはエセルレッドの目を閉じてやり、用意してきた遺体袋に収め、遺体運搬用ソリに乗せて帰途につくことにした。
エセルレッドの遺体を街に運び込むと、城門からの報せを聞いたのか、兵舎から出てきた大勢の兵士たちがそれを出迎えた。兵士たちは君たちに敬礼を行った後、エセルレッドの遺体を収めた遺体袋を受け取ると、楯に乗せて担ぎ上げて大通りを進み、大聖堂へと運び込んだ。
大聖堂では司祭がそれを出迎えた。そして、エセルレッドの遺体は祭壇に運び込まれた。しかし、身に帯びていた甲冑の破損があまりにも激しかったため、鍛冶屋が呼ばれ、まずそれを解体するところから始まった。
破損した甲冑を脱がすことに成功すると、さっそく蘇生の儀式が始まった。
……囁き……祈り……詠唱……念じよ!
エセルレッドの蘇生に成功した!
「……そうか。俺は戦死したのか。そして、わざわざ戦場まで行って俺の死体を回収して、蘇生してくれたとは……」
「何て礼を言ったら良いのだろうか。君たちは命の恩人だ」
「この礼はいずれ戦場で返すよ。本当にありがとう」
武神の神官が冒険者たちの定宿である冒険者の宿に訪ねてきた。
「探索で忙しいところ申し訳ない。……実は折り入って頼みがあって参りました」
「あなた方が探索で不在の間に、ロスヴァイセが他の冒険者たちを募り、単独で冥王の城へと探索に行ってしまったのです。……そして、未だ帰還していないのです」
「嫌な予感がしましてな。今朝、試しに法術のカンディを使いました。どうにも、予感が的中したようで、あの娘の死亡が確認できました」
「……まったく、愚かな娘です。己の実力もわきまえず勝手なことばかりしおって……。だが、可愛い我が子のようなものでして、何とか助けてやりたい。どうか、あの娘の遺体の回収をお願いできませんでしょうか? もちろん報酬はお支払いします」
「まだ望みはあると思っております。かつて冥王の城へと挑み還ってこなかったレギンレイヴは、法術のカンディを使っても生きているとも死んでいるとも判別がつかなかったのです」
「レギンレイヴの時とは状況が異なる。早く遺体を回収できれば、蘇生させることができるかもしれません。無理は承知ですが、どうかお願いいたします」
前方から角笛の音とともに巨人どもを引き連れた人型の生き物が、武具の音を鳴り響かせながら押し寄せてきた。
先頭に立って角笛を吹き鳴らしているのは、人間に匹敵するほどの体格の生き物だった。乱杭歯を剥き出しにした獣じみた形相をしている。酷い(暗黒語)訛りの共通語でそいつは叫んだ!
「敵だ! 侵入者どもは皆殺しにしろ!」
冷たく静かな回廊を渡っているとどこか遠くから鉄鎚で金床を叩くような力強い音が聞こえた。
槌音を辿っていくと、大勢の小鬼属の怪物どもが、炉で真っ赤に溶けた鉄を型に流し込み、剣や甲冑を作っている工房を見つけた。さらにその向こう側で、よりおぞましいものを目にした。
棺桶のような揺り籠に収められた、まるで泥のような膜に覆われた胎盤から、次々と膜を破って小鬼属ウルク・ハイが産み出されていた。ここはウルク・ハイの生産工場のようだ……。
ここで生産されたウルク・ハイが兵士として使われているのだ。何とかしなければならないが、工房に居る小鬼属の怪物が多すぎる……。ひとまず、この場を離れることにした。
通路の前方から、まるで影の中から染み出したかのように、黒い装束をまとった戦乙女が現れた……。
その腕には、力なく横たわったロスヴァイセの身体が抱かれていた。
「……探索者たちよ。そなたたちに頼みがあります。この娘を王都へ連れ帰ってもらいたいのです」
「……一途で、愚かで、可愛い我が妹。無謀にもわたしを追ってこの魔界に入り込み、命を落としたのだ」
「わたしはもはやこの娘の知っているレギンレイヴではない。冥王に忠誠を誓った化け物と化してしまった」
美しい戦乙女は自嘲気味にそう語ると、自らの胸元をはだけ見せた。雪のように白いその肌には、赤黒くおぞましい魔の刻印がびっしりと刻まれていた。
「もう間もなく、この地を覆っている氷霧の魔力は、王国のすべてを呑み込むでしょう。手遅れになる前に民を連れて、南へと逃げなさい。終末の刻は、いよいよ近い……」
「…………探索者たちよ、どうか妹を頼みます」
そう言ってレギンレイヴは、君たちにロスヴァイセの遺体を託した。
どこか悲しそうに目を伏せ、レギンレイヴは身を翻すと、影の中に溶け込むかのようにして消えた……。
ロスヴァイセの遺体を武神の神殿に運び込むと、神官が出迎えた。
「ご苦労様でした。……よくぞ、このように綺麗な状態のままで、遺体を取り戻してくれました。本当にありがとう。……おかえり、ロスヴァイセ」
ロスヴァイセの遺体を祭壇に安置すると、神官は蘇生の儀式を執り行った。
……囁き……祈り……詠唱……念じよ!
ロスヴァイセの蘇生に成功した!
「……あれ? ここは、どこ? そうだ、レギンレイヴ姉様は!?」
君たちは冥王の城でレギンレイヴに遭い、ロスヴァイセの遺体を引き取ったことを告げた。
「……どうして? レギンレイヴ姉様、どうしてしまったの? ……なぜ?」
大粒の涙を流しながら、声を上げて泣くロスヴァイセの背中を、ただ眺めることしかできなかった……。
□セッション#6 悪意の壺
ロスヴァイセが冒険者たちの定宿である冒険者の宿に訪ねてきた。
「……この間は。ありがとう。みっともない姿を見せてしまったわね。反省している」
「それはともかくとして、今日は頼みがあって来たの」
「レギンレイヴ姉様のこと、とても気になって神官様に神殿の古書を調べてもらった。そうしたら、古書の中に魔界に棲む知識を蓄えた魔法の壺の伝承が記されていたの!」
「神官様はいまの魔法技術ではレギンレイヴ姉様を戻すことはできないと仰っていた。でも、人外の魔法を知っている魔法の壺の知識なら、可能性があるって!」
「どうかお願い! もう一度、冥王の城に一緒に行ってもらいたいの!」
冷気に覆われた玄室の中央には、古びた粗末な壺がぽつんと置かれていた。君たちの気配を感じ取ったのか、その壺はひとりでにこちらを振り向くと饒舌に話し始めた。
「やあ、おはよう。こんにちは。あるいは、こんばんは、かもしれない。ごきげんよう、探索者の諸君」
「ははっ。おいらは見ての通り、常に機嫌は上々。で、諸君はおいらに何の御用かな?」
(何者か?)
「ははっ。見ての通り、ただの壺さ」
(何かを知っている?)
「ははっ。知っているかもしれないし、知っていないかもしれない」
(妖術によって支配された者を救う方法を知っているか?)
「ははっ。君らはなぜ、それをおいらが知っていると思うのかい?」
「ははっ。それは君らの期待に基づいた勝手な先入観だね」
「ははっ。物事はすべからく不可逆的でね。魔法は特にそうだ。汚れたシーツみたいに洗濯すれば良いというもんじゃないさ」
「ははっ。一度、掛けられた呪いはそう簡単には消えない。諦めることだね」
「あらら。泣いちゃうの? 泣けば許されるの? ははっ」
「あれ? 逆切れですか? そういうの許されるんですかね?」
「そういうの、やめてくださいよね。ちょっと本気だしますよ」
(キャヴィルポットと戦闘になる)
怒りに任せて叩き割った壺の残骸から、悪臭のする液体が零れている。その中から黒い鍵が出てきた。 (ブラックゲートキーを入手する)
冷たく静かな回廊を渡っていると今日は金床を叩く槌音が聞こえない。訝しく思い工房を覗くと、今日は小鬼属の怪物たちが仕事をしていないようだ。
棺桶のような揺り籠に収められた、まるで泥のような膜に覆われた胎盤がおぞましくも脈動している。今のうちに処分してしまった方が良さそうだ。
「貴様ら、何をしている? 侵入者だ、殺せ!」
どこから現れたのか深い紫の法衣をまとった妖術師が声を張り上げると、武装した衛兵が殺到してきた!
□セッション#7 人魚の誘惑
水音が聞こえる。ふと視線を移すと、水路の水面から若い女性の顔がこちらを覗いている。
その表情は、何ともいえない邪悪な意思を含んだ笑顔だった。水面から何かが幾つも飛び出してきた!
(スキュラとの戦闘になる)
どこかから哀愁を帯びた哀歌の調べが聞こえてくる。凪いだ湖面から突き出した岩礁に、可憐な容姿の人魚が独り腰かけて歌っていた。
「……こんにちは。このような場所に何か御用かしら?」
「この湖は一見静かに凪いでいるように見えるけれども、恐ろしい場所よ。船が無くては、まず向こう岸には渡れないでしょうね」
「実は、ここに魔法の瓶詰めの船があるの。欲しい?」
「では、対価にあなたたちの魂をちょうだい」
「せっかく魂を集めていたのに、残念だわ……」
人魚は泡となって消えた……。
(ボトルシップを入手する)
□セッション#8 死者の軍勢
通路の前方から、まるで影の中から染み出したかのように、漆黒の甲冑をまとった戦士の一団が現れた!
その先頭には、燃えるような金色の長い髪をなびかせた氷のように冷たい美貌の戦乙女が立っていた……。
「……探索者たちよ。まだ諦めずにこの地を探索していたのだな」
「残念だが、この先を進ませる訳にはいかない。予言を成就させる訳にはいかないのだ」
「不本意だが、仕方あるまい。さあ、勝負だ!」
「……そなたたちは強いな。そなたたちなら、あるいは未来を変えることができるかもしれん」
「わたしの装備を譲ろう。王国の民と、ロスヴァイセをどうか、頼む……」
戦乙女の亡骸はすぐに塩の柱となり、ぼろぼろに崩れ去ると塵となって、風に消えた……。
(ミーナッドランス、マンティスグラブ、マンティスブーツを入手する)
□セッション#9 運命の女神
巨大な石碑が立っていた。複雑な意匠とともにルーン文字(キアス)が刻まれている。その石碑に刀身を半ば埋めるように長剣が突き立っていた。
(古代語を習得している)
「世界の終わりに際して、世界樹に繋がれた獣どもが解き放たれる。獣どもに打ち勝つためこの剣を封じる」
言葉を読み解くと、石碑に刻まれたルーン文字が不思議な光で明滅し、剣がひとりでに抜け落ちた。
(グラムを入手する)
天にも届かんばかりの巨大な樹の根元に小さな泉が湧いていた。その畔から囁くような小さな声が聞こえた。
「……怖ろしい。遂に来たわ」
「……破滅の足音ね」
「……ええ、終末の刻が訪れる」
「……氷の時代が終わり、炎の時代がやってくる」
「……破滅をもたらすものが、来る」
おぼろげな姿をした女の亡霊が現れた。
(ウィードシスターと戦闘になる)
「……破滅をもたらすもの。それはお前たちだ」
「そら、世界樹に繋がれていた獣どもが解き放たれるぞ。お前たちの街を襲うだろう……」
不吉な予言を残して、ウィードシスターたちは影のように消えた……。
□セッション#10 解き放たれた獣たち
王城の兵舎に向かうとエセルレッドが出迎えてくれた。
「どうした、探索は順調か?」
(怪物の襲来が予想されることを話す)
「それは大変だ! すぐに城外の住民を城壁内に避難させなくては。良いことを教えてくれた」
「俺にできることは他にはないか?」
(グラムを渡す)
「こんな素晴らしい剣を俺に? こんな物は、受け取れない」
「……いや、分かった。この剣に誓おう。君たちが不在の間、必ずこの街は護る。任せてくれ」
武神の神殿に向かうとロスヴァイセが出迎えてくれた。
「どうしたの? 何か、あった?」
「……そう。レギンレイヴ姉様は、天上(ヴァルハラ)へと赴いたのね。きっと武神の御前に仕えていることでしょうね」
「わざわざ、姉様の最期を報せてくれて、ありがとう」
(怪物の襲来が予想されることを話す)
「それは大変! すぐに神官様と相談して対策を考えないと。伝えてくれて、ありがとう」
「わたしにできることは他にはない?」
(ミーナッドランスを渡す)
「……これはレギンレイヴ姉様の槍。こんな名槍をわたしなんかに渡して良いの?」
「……わかったわ。“極光の姉妹”の末席として、あなたたちが不在の間、必ずこの街を護るわ。心配しないで」
突如周囲の温度が急激に下がるのが分かった。何か良くないものが近づいている。地響きとともに、前方から巨大な獣が現れた。
(フェンリアーと戦闘になる)
風鳴りが聞こえる。何か良くないものが近づいている。風が逆巻くとともに、頭上から何か巨大な竜が舞い降りてきた。
(ニーズホッガーと戦闘になる)
(グラムを渡していた場合)
城塞都市の被害はかなり甚大だったようだが、飛竜レスバーグを仕留めることは成功したようだった。
「おお! 君たちも無事だったんだな」
エセルレッドが出迎えてくれた。
「約束は守ったぞ。街の被害は最小限に抑えられたと思う。君たちも探索を続けてくれ。俺は俺の役目を果たすよ」
(グラムを渡さなかった場合)
城塞都市の被害はかなり甚大だったようだが、飛竜レスバーグを仕留めることは成功したようだった。
街に帰還した君たちの姿を見止めた顔見知りの兵士が近づいてきた。
「ご無事でしたか……。何とか、街を護ることができました。エセルレッド卿のお陰です」
そこまで言って感極まったのか、兵士は男泣きに泣き出した。
「……立派なご最期でした。エセルレッド卿があの飛竜と刺し違えたお陰で、この街は救われたのです……」
(ミーナッドランスを渡していた場合)
城塞都市の被害はかなり甚大だったようだが、魔犬ガームを仕留めることは成功したようだった。
「あなたたちも無事だったのね!」
ロスヴァイセが出迎えてくれた。
「約束は守ったわよ。街の被害はできるだけ出ないように戦ったわ。大丈夫よ。あなたたちが探索に行っている間、きっと街を守るから!」
(ミーナッドランスを渡していなかった場合)
城塞都市の被害はかなり甚大だったようだが、魔犬ガームを仕留めることは成功したようだった。
街に帰還した君たちの姿を見止めた武神の神官が近づいてきた。
「ご無事でしたか……。武神のご加護があったようですな」
そこまで言って神官は、顔を歪ませて目尻を拭った。
「きっとロスヴァイセも天上(ヴァルハラ)から、あなた方を祝福していることでしょう。……あの娘は立派に使命を果たしました」
□セッション#11 黄昏の乙女
死者の宮殿の玉座に腰かけていたのは、黒い衣装を身にまとった若い女性だった。厳つい石造りの玉座には似つかわしくない、処女雪のように白い肌をした美しい娘はけだるげに応えた。
「……ヘルヘイムへようこそ、探索者たちよ。特に名のるつもりはないが、わたしはこの地を統べる王だ」
「終末の刻は、間近に迫っている。これは覆すことのできぬ事実だ。そなたたちが何を為そうともそれは変わらない」
「もはや言葉は要らぬな。……さあ、始めようか」
(ダスクメイデンと戦闘になる)
「……ああ、これで氷の時代が終わり、炎の時代が始まる……。やはり、予言は成就されるのか」
ダスクメイデンはそう独り言のように呟くと事切れた。その亡骸は霜に覆われると、やがて溶けて霧となって、風に消えた……。
あとには青く輝く氷のような立方体だけが残されていた。
(エンシェントウィンターカスケットを入手する)
□セッション#12 神話の終焉
陽炎の向こう側で何か巨大な影が、しきりに身体を動かしている。それは何か舞踏なのだろうか、時には緩やかに、そして激しく、力強く、しなやかに、四肢を大きく振り回している。やがて身体を縮めると、唐突に跳んだ!
君たちの前に、その巨体とは不釣り合いなほど、軽やかにそれは着地した。無駄のないほどに鍛え上げられた、均整のとれた肉体をもつ巨人の戦士だった。
「……君らが勝てば、世界は救われる。私が勝てば世界は終わる」
「さあ、始めようか。殺し合いをね」
(ファイアージャイアントロードと戦闘になる)
「……実に見事だった。君たちは勝利した。……だが、まだ世界は救われてはいない」
「このムスペルヘイムの深奥に、世界創成の熾火が未だ燃えている。私が世界に解き放つはずだったものだ。それを鎮めなくては、まもなく世界は原初に還るだろう」
「私の剣を持っていきたまえ。おそらく役に立つはずだ」
ファイアージャイアントロードは事切れた。その亡骸はすぐに黒い炭へと変わり、ぼろぼろに崩れ去ると灰となって、風に消えた……。
あとにはファイアージャイアントロードの振るっていた一振りの長剣が残されていた。
(レーヴァテインを入手する)
□セッション#13 陽はまた昇る
炎の世界の深奥で、ひときわ光り輝く炎の塊が見えた。それは定期的に脈打つかのように躍動し、徐々に立ち上がろうとしていた。まるで巨大な蛇が鎌首をもたげるかのように。
さながら太陽のように燃えるそれは、まさしく原初の炎と呼ぶにふさわしく、見るものを魅了した。……そしてすぐに直感した。これが、滅ぼすべき真の敵なのだと。
そう、この場でこれを斃さねば、世界は滅ぶ。そう理解した。炎はますます燃え盛っている。もう猶予はない。
君たちは内心に湧き上がる深い畏れを押し殺しながら、剣を抜いた……。
(ワールドサーペントと戦闘になる)
火の粉を盛大に散らしながら、巨大な炎の蛇は地面に崩れ落ちた。あちらこちらに散らばった残り火の火勢はやがて収まり、先ほどの激戦が嘘のように静寂が取り戻された。
これで終わったのだろうか?
感傷に浸る間もなく、大地が鳴動を始めた。この灼熱の魔界の基礎であった熱源が失われ、世界が崩壊を始めたのだ!
このまま、ここに居ては崩壊に巻き込まれてしまう。ふと君たちの荷物の中からひときわ光を放つものに気付いた。冥王ダスクメイデンから得た古の冬の小箱である。
(エンシェントウィンターカスケットを使用する)
小箱の魔力を解放すると、まばゆい光に包まれた。気付くと、君たちは地上に帰還していた。