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トラブルと遊べ! ヤンチャボーイ  〜ポタラで大騒動〜


トラブル1トラブル2トラブル3トラブル4トラブル5(最終章)


 このお話は「DB文庫」(DB小説の投稿サイト)の長編リレー小説のコーナーで別の方が執筆したお話に続けて書いたものです。今までのあらすじは下の通り。
<ここまでのあらすじ>
 魔人ブウ戦が終わった後の平和な世界。悟天とトランクスはパオズ山近くの荒野へ遊びにくる。家で見つけたポタラを悟天に見せ、きっと強くなれる道具に違いないからつけてみようと言うトランクス。
 そこへ神殿で様子を見ていたピッコロが血相を変えて飛んで来た。トランクスはなぜかピッコロを過去の女性関係(?)で突っ込み、たじたじとさせる。
 やがて事態は意外な方向へ―――?


トラブル 1:合体しちゃった!?

 トランクスに問いつめられるままに正直に答えていたピッコロだったが、ここでやっと我に返ることができた。
「そ、そうだった……。オレはナメック星人だった。長いこと地球に住んでいると、つい自分まで地球人のような気がしていたぜ」
「ピッコロさん、なにひとりでブツブツ言ってるの?」悟天が尋ねた。

 ピッコロは、ふたりをキッと見据えると、生徒に講義する先生のように言い聞かせた。悲しいかな、悟飯やこのチビたちと関わっているうちに、すっかり保護者然とした態度が身についてしまっている。
「いいか、チビども、よ〜く聞け。オレはナメック星人だ。ナメック星人というのはな、男も女もない。というか、男でもあり、女でもある。いわば両性具有なんだ」
「リョーセーグユー??」
 トランクスと悟天が声を揃えて言った。

「つまりだ」
 ピッコロは咳払いをすると、続けた。
「男だの女だのいなくても、ひとりで子孫を残すことができるということだ。ナメック星人は恋愛をしない。必要ないからな。だから、オレがいつまでも独り身なのは……」
「ひとりで子孫を残すんだって」
「どうやるんだろうね」
「コラッ、肝心なことを聞け! オレに恋人がいなかろうが、今まで誰ともつきあったことがなかろうが、そんなことは決して、けっっしておかしなことじゃなくてだな」
 力説しているピッコロの言葉をさえぎって、チビたちは声を揃えて言った。
「子孫を残すってどうやるの〜?」
「む……タマゴを産むんだ。口からな」
「ええ〜っ!? タマゴぉ!?」
「口からぁ!?」
「やってやってやってやってやって……」と口々にさえずりながら、ピッコロの周りを取り巻いて興奮しているトランクスと悟天を前にして、ピッコロは「しまった! 言うんじゃなかった」と死ぬほど後悔していた。

 黙れと言ったところで素直に黙るチビたちではない。そこでピッコロは一計を案じた。
「わかった。やってみせてやるからちょっと静かにしろ」
 トランクスと悟天はとたんにピタッと騒ぐのをやめた。ふたりともピッコロの口を凝視している。ピッコロは身構えると全身に力をこめた。
「ん……んんんんんんんををををををももももも……ぉう゛わっっっ!!!!」
 ぽこっ、と小さな白いタマゴがひとつ、ピッコロの口から出てきた。
「うっわーーーーーーーっ、すごいすごい!! すげえや!!」
「見せて! 見せて見せてよ、ピッコロさん!!」
 トランクスと悟天は頬を紅潮させ、目を見開いて、ピョンピョン飛び跳ねながら叫んでいる。ピッコロはタマゴをトランクスにポンと投げてよこすと言った。
「そら、やるぞ」
「えっ、ほんと!? やったぁ!!」
「いいなー、トランクスくん」
「おまえにもやるぞ、悟天」
 そう言うと、ピッコロはもう一度ふんばって、また1個、タマゴを口から出した。今度はそれを悟天に投げてよこす。

「なんだかニワトリのタマゴみたいだね、トランクスくん」
「そうだな。オレ、もっとでっかくて変わった色してると思ってたのに……。でも、いいや。家に持って帰ってかえしてみようっと」
「ふん、好きにしろ」
 そう言いながらピッコロは心の中で、してやったりとほくそ笑んでいた。
 こういう時、“力”が使えるのは便利だ。いずれこのタマゴが何の変哲もないただのゆで卵だとわかったときのチビたちの顔が見ものだな。
 オレはやせても枯れてもピッコロ大魔王だ。子供にやさしいただのおじさんなどとなめられてたまるか。
 しかし、自分が産んだタマゴだとだまして、ゆで卵を渡すというのは、大魔王にしてはかわいらしすぎる行為だということにピッコロは気づいていなかった……。
 
 子供たちがおとなしくなったところで、ピッコロは尋ねた。
「そういえばトランクス、おまえ、さっきオレのために力になるとか何とか言ってたな。あれはなんだ?」
「ああ、あれ? ピッコロさんに彼女がいないんなら、オレたちがなんとかしてやろうと思ってたんだけど、もういいや。ナメック星人は恋愛しないんだろ」
 欲しいものを手に入れたものだから、現金なものだ。トランクスはあっさりと言った。
 その時ようやくピッコロはトランクスの左耳に光っているポタラに気づき、一番重要なことを思いだした。
「そっ、そうだ。こんなくだらん事をしている場合ではない! おまえら、そのポタラをどうして手に入れた!?」
「え? ポタラって、このイカリングのこと?」
 トランクスが自分の耳をさわった。
「イ、ヤ、リング、だ」 
 どうでもいいことだが、生真面目なピッコロは訂正せずにはいられない。

「パパが持ってたんだよ」
「パパが!? い、いや、ベジータが? あいつ、何だってポタラなんか……」
「パパが持ってたってことはさ、すっごく強くなれる道具ってことなんだろ? な、悟天」
「うん! だからボクたち、つけてみようと思ったんだよね」
 うれしそうに持っていた片方のポタラを右耳につけようとする悟天に、ピッコロはあわててどなった。
「ま、待てっ!! つけるな、悟天!! お、おまえたち、それをつけたらどうなるかわかってるのか!?」

「どうなるの?」二人はキョトンとしてピッコロを見上げた。
「融合してしまう。つまり、おまえたちは合体してひとりになってしまうんだ」
「なあんだ。それならフュージョンと一緒じゃんか。びっくりさせないでよ」
「違う。フュージョンは体や気の大きさが同じような者同士しかできないという制限があるが、ポタラにはそんな制限はない。どんな相手とでも合体できるのだ。だが、そのかわり一度合体してしまえば―――」
「どんな相手ともだって」
「じゃあ、オレ、ピッコロさんと合体してみようかな。悟天とはいつもフュージョンでやってるもんな。おい、悟天、ピッコロさんにそれ、つけてやってよ」
「うん、わかった」
「ちょ、ちょっと待て!!」
 ピッコロが止める間もなく、悟天はチョロチョロとリスのようにすばしっこくピッコロによじのぼると、ピッコロの右耳にポタラをつけてしまった。
 次の瞬間、ピッコロとトランクスの体は強力な磁石で引き寄せられるようにぶつかったと思うと、あたりの空間がねじ曲がったかのような衝撃がおそい、閃光が走った。
 悟天は思わず両腕で目を覆った。

 しばらくたって、おそるおそる顔から腕を離した悟天は、
「ひぇえぇえ……」
と悲鳴をもらすと、ペタンとしりもちをつき、そのままズリズリと後ずさった。ショックのあまり、泣きべそをかいている。
 
  一瞬前までピッコロとトランクスであった“それ”は、手品のように手鏡を出現させ、おそるおそる覗き込んだ。
 そのとたん、ギャッと叫んで手鏡を放り投げると、酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくさせてパニックに陥っている。

 無理もない。鏡に映し出されたのは、この世のものとは思えない“怪物”だったのだから。
 合体というより、できそこないのつぎはぎとでも言ったほうがよさそうな姿だ。
 胴体はトランクスらしく、道着の胸元からのぞいている肌は人間のものだ。だが、その胴体の両脇からにょっきり出ているのは緑色をしたピッコロの腕だった。
 下半身はゆったりしたピッコロのズボンに包まれているが、足もとはトランクスのブーツをはいている。ターバンはかぶっていないのだが、おなじみのあのマントはちゃんとまとっていた。

 そして……そう、問題は顔だ。
 描写するのも恐ろしいのだが、簡単に言えばピッコロの顔がベースになっていて、その上にトランクスの髪がのっている。ほとんどピッコロの顔だが、完全にそうだと言い切れないのは、眉毛がしっかりついているからだ。
 彼は二本の触覚にかかる髪を時々うっとおしそうにかきあげながら、ようやく言った。
『オ、オレ、どうなっちゃったんだろ……』
 うろたえた声は少々甲高くて、ピッコロがボイスチェンジャーでいたずらしたような声だった。
「ト、トランクスくん」
 悟天が悲しそうに言った。
「もう一緒に遊べないの?」
『バーカ、何言ってんだよ。30分もしたらちゃんと元に……うあ? ……ちょっと待て! これはフュージョンじゃないから永久にこのままだぞ!! うっそー、冗談じゃないよ。だからオレはやめろと言ったんだあ』
 しゃべっていることまで支離滅裂だ。合体がうまくいかなかったのだろうか。ポタラの中にも不良品というのはあるのかもしれない。

 しばらくたって、ようやく落ち着きを取り戻した彼は、これからどうすべきかを考えた。
『とにかく、カプセルコーポへ行ってドラゴンレーダーを借りよう。ポタラは界王神さまの持ち物だから、神龍の力が及ぶとは思えんが……』
 冷静になった声はピッコロの特徴が強く出ていた。しかし、渋い声もこの姿ではかえって滑稽に響く。
『行くぞ、悟天。……どうした?』
 悟天はもじもじしながら言った。
「ボ、ボク……びっくりしてオシッコ……もらしちゃった」
 『しょうがないやつだな』
 彼は面倒見よく、悟天に新しいパンツとズボンを出してやった。悟天は着替えると、嬉しそうににっこり笑ってお礼を言った。
「ありがと。えーと、ピッコクス……さん?」
 ちょっと考えてから彼は答えた。
「トランコロだ」


 トランコロと悟天は大急ぎで空を飛んでカプセルコーポに着くと、開いていた最上階の窓から中へ入った。一刻も早くブルマを見つけてドラゴンレーダーを借りなければならない。
 彼らが廊下を駆けだしたとたん、目の前の重力室からちょうどべジータが出てきた。
『パパ! 大変なことになっちゃったんだよぉ〜!!』
 トランコロは哀れな声でベジータに抱きついていった。
「なななななんだっ、このバケモノはっっ!!」
 必死でトランコロの腕を払いのけると、ベジータは後方へ3メートルほど回転しながら飛びのき、着地と同時に身構えた。

「きさま、どこから来やがった。勝手に人さまの家にあがりこみやがって」
『オレだよぉ、パパ……』
 トランコロが鼻を真っ赤にして、グスグスと泣きべそをかきはじめた。
「黙れ! きさまのようなバケモノにパパなどと呼ばれる筋合いはない!!」
「おじさん、これ、トランクスくんとピッコロさんなんだ」
「なに!?」

 ベジータは驚いて悟天を見ると、次いでトランコロのほうを見た。そして、その両耳に揺れているものに視線を当てると、彼はすべてを悟った。
 ベジータの顔から音を立てて血の気が引いていく。
 「バ、バカやろう! ピッコロ、きさま、なんだってポタラなんかつけやがった!!」
『ふ、不覚だった……』トランコロは恥じ入って目を伏せた。
「ポタラでの合体は永久に戻れない。それがどういうことかわかっているのか」
『きさまに言われなくてもわかっている―――ってそんなに怒鳴らなくてもいいじゃないかあ。えぐっえぐっ……』
「な、泣くな!!」
 じっとトランコロを見つめて話しているうちに、ベジータはだんだん胸が悪くなってきた。彼は手で口を押さえてうめいた。
「せ、生理的に好かん顔だ……」
『ひどいや、パパ』
 トランコロはまたべそをかいている。ベジータはドスのきいた声で凄んだ。
「いいか、今度パパなどと呼びやがったら……ぶっ殺す」
 
「あら、お客様かしら?」
 ちょうどそこへブルマの母親が通りかかった。顔なじみの悟天に挨拶すると、彼女は平然とトランコロをお茶に誘った。
「あなた、ちょっとお顔の色がすぐれないみたい。そうだ、ハーブティーはいかが? 血行がよくなるわよ」
『ほっておいてくれ。もともとこういう顔色だ』
「ブルマはどこだ?」
 母親のペースで事が進まないよう、ベジータは割り込んだ。夫人はにこにこした顔のまま、ちょっと首を傾げた。
「ブルマさん? 今日は地方工場の視察とか言ってたけど、どこだったかしら?」
 ベジータは軽く舌打ちした。当然ながら彼は会社のことにはノータッチだ。ブルマがどこにいるのやら、皆目見当がつかない。
 いつ戻る? と尋ねると、夫人はうふふふっと意味ありげに笑って、ベジータの目の前で人差し指を左右に振った。
「今日中には戻るわよ。もう、さ・み・し・が・り・や・さん」
「……………………」 


 夫人の誘いを振り切って、トランコロ、悟天、ベジータの3人(いや、4人と言うべきか)は、リビングルームのソファに腰をおろした。
 開口一番、ベジータが言った。
「いったいどうしてこんなことになった?」
『おまえにも責任があることを忘れるな、ベジータ。もとはと言えば、おまえがポタラなんか持っているから―――』
「オレが? 冗談はよせ。オレはそんなものは知らん」
 ベジータはトランコロと目を合わせないようにして言った。
「でも、トランクスくん、おじさんが持ってたって言ってたよ」
『戦闘服のポケットに入ってたんだ。ママが、これはパパのだから触っちゃダメよって……』
「ブルマが!? ……どういうことだ」

 眉間に深いしわを刻んでベジータが考え込んだ時、グレートサイヤマンの格好をした悟飯がうしろにビーデルを従えて入ってきた。
「こんにちは、ベジータさん。あれ、悟天も来てたのか」
「うん。にいちゃん、またビーデルのお姉ちゃんと“でえと”してたんだね。えへへ。知ってるよ、ボク。そういうの、“でえと”って言うんだ。お母さんが言ってた」
「デッ、デッ、デートだなんて……そんな……」
 悟飯は赤くなって照れている。ビーデルも赤面してムキになって叫んだ。
「パ、パトロールしてただけよ! へんなこと言わないの!!」
 ビーデルは持っていたケーキの箱を、「これ、おみやげね。結構いけるのよ。ここのケーキ」と言ってテーブルに置くと、ヘルメットをとった。

「近くまで来たついでに寄ったんですけど……。そういや、トランクスは?」
 悟飯はあたりをキョロキョロ見回すと言った。その時になって初めてベジータと悟天はトランコロがいないことに気づいた。
「ちっ、あいつどこへ行きやがった」
 探しに行きかけたベジータは、部屋の隅にふと目をやった。
「そんなところで何をしている」
 ソファの後ろにでかい体を縮こめ、必死になって気を消して隠れているトランコロを見下ろすと、ベジータは冷たく言った。
『たっ、頼む! 後生だ。悟飯にだけは……』
 だが、トランコロが哀願する目つきで見上げた時、ベジータの後ろからのぞきこむ悟飯と無情にも目が合ってしまった。

『はっ、はじめまして! ボク、トランクスくんの友達のトランコロです。よろしくね!!』
「ピッコロさん? ……それにトランクスの気も……?」
 とっさに口から出まかせを言ったトランコロだったが、悟飯には通用しなかった。


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