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トラブルと遊べ! ヤンチャボーイ  〜ポタラで大騒動〜


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トラブル 5:そして誰もいなくなった

 トランコロはブルマから手渡された茶色い小瓶に入った液体をうさんくさそうにながめた。
『本当にこれで元に戻れるんだろうな』
「疑うんならずっとその姿でいるのね」
 腕組みをしたまま、ブルマはムッとして言う。
 ちょっとためらったあと、トランコロは覚悟を決めてその液体を飲み干した。
 どうせこんな体だ。これ以上ひどくなれるものならなってみろってんだ。

 一瞬のち、彼はのどをかきむしりながら苦しみだした。
『うっ……ぐっ……く……くくく……ぐあっ……』
「トランコロさん!!」
「だ、大丈夫かよ」
「見てらっしゃい。大丈夫よ! ……たぶん」
「た、多分って、おまえ、実験で確認したんじゃなかったのか?」と、ベジータが尋ねた。
「ポタラは試したんだけど、この薬はまだなのよ。だって、そうそう気やすく試せないのよ。原料がなかなか手に入らないんだもの」
 一同はほとんど絶望的な気分で息を飲み、もがき苦しむトランコロを見守った。

 やがて、苦しんでいたトランコロの動きが止まると同時に、彼の体から目も眩む閃光がほとばしり、ボン!と乾いた音がした。
 光から顔をそむけていた一同が再びトランコロに向き直ると、そこには、ほうけたように立ちすくむトランクスとピッコロがいた。

 ふたりはゆっくりと向き合うと、お互いの顔を見合わせた。
「トランクス……」
「ピ、ピッコロさん……」
 とたんにワッとみんなの間から歓声が起こった。
「やった〜!! 元に戻ったぞ」
「よかったなあ、おい」
「これで万々歳じゃぞい」

「おめでとう!ピッコロ、トランク……ス?」
 クリリンが言いかけて気づいた。
「お、おい、このふたり……」
 ベジータも気づいた。
「なんか、ちょっと違和感を感じるぞ」

「そういや、なんか変だよな。なんでだ? こっちがピッコロでこっちがトランクスだろ……」
 悟空がひとりずつ指さして確認しながら言った。
 みんな、ピッコロとトランクスのふたりをじっくり見上げ、見下ろした。
「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
 一同はのけぞった。なんとピッコロの体にはトランクスの顔が、トランクスの体にはピッコロの顔がくっついていたのである。

「ほーっほっほっほっほ。ちょーっとだけ薬の配合を間違えちゃったみたいね〜」
 ブルマが笑ってごまかした。
「笑ってる場合か!いったいどうしてくれるんだ」
 トランクスの小さな体の上についたピッコロの顔が、カンカンになって怒っている。
「すぐに薬を作り直すんだ、ブルマ!」
 ベジータがふたりから顔をそむけ、口もとを手で押さえながら言った。
「無理よ。言ったでしょ。あの薬、フラッペ山の氷筍から抽出した成分と、竜が谷のドラゴン蜂の巣からとった原料を使ってるの。何年かにいっぺんしか手に入らないんだから、そう簡単には作れないのよ」

「じゃ、じゃあ、オレたちずっとこのままの姿で……!?」
 ピッコロの体の上のトランクスの顔がひきつった。
「大丈夫!こんなときのドラゴンボールじゃないの」
 ポケットからドラゴンレーダーを取り出すと、ブルマは言った。
「さ、みんな手伝って!」


 それから数日後、みんなの協力の甲斐あって、ドラゴンボールは7つ集まり、やっとピッコロとトランクスは念願の自分の顔と体を手に入れたのだった。
「よかったな〜、ピッコロ、トランクス。でもよ、オラ、合体が解ける前に一緒に修行しときゃよかったな」
 トランコロと一戦交えてみたかった悟空はちょっと残念そうだ。
 悟天とトランクスは喜び勇んでさっそくふたりで遊びに行った。彼らも今度のことでちょっとは懲りただろう。

「オレは帰る……」
 悟天とトランクスが飛んで行くのを窓から見送ると、言葉少なにピッコロは立ち上がった。
 ちょっとの間、みんなの方を何か言いたげに振り向いたが、そのまま無言で飛び去った。
 神殿へ向かって全速力で飛びながら、彼はもう二度と、絶対に、決して、こんりんざい、死んだって、あのチビどもと関わるものかと悲壮な決意を固めていた。


 修理されたリビングルームの中、ブルマが集まったみんなの前にご馳走を運びながらにこやかに言った。
「ま、お騒がせしたおわびってやつよ。ちょっとしたパーティーを開くから、みんな食べてってね」

 そのとたん、クリリンと18号があわてて腰を浮かせた。
「オ、オレたちは失礼するよ」
 ご馳走によだれをたらさんばかりの悟空と悟飯を引っ立てて、チチも急いで席を立った。
「さ、おらたちも帰るべ」
「あら、どうしたのよ、みんな。遠慮しなくてもいいじゃない」

 ブルマの誘いをしどろもどろになって丁重に辞退しながら、みんなはそそくさと帰って行き、あとにはブルマとベジータのふたりだけが残された。
「なんなのよ、みんな」
「さて、トレーニングでもするか……」
 ぎこちなくつぶやくと、ベジータも部屋を出ていこうとする。

「あら、待ってよベジータ。この料理、ムダになっちゃうじゃない。あんただけでも食べてよ」
 疑い深いまなざしを料理に向けたベジータは、「遠慮する」とひとこと言うと、重力室へ向かいかけ、ふと足を止めた。
「そう言えば、ブルマ、おまえトランクスにポタラをオレのものだと言ったそうだが」
「ああ」
 ブルマは思い出して微笑んだ。
「あんたのものだって言っておけば、あの子がいたずらすることもないだろうと思ったんだけど、逆効果だったみたいね」
「戦闘服のポケットなんかに入れておきやがって、オレがもし使ってしまったらどうするつもりだった?」

 ブルマは笑いとばした。
「あんたが持ってるのが一番安全なのよ。孫くんと合体するのは二度とイヤなんでしょ。だからって、あんたが孫くん以外の誰とも合体するわけないし。だったら、あんたはポタラを持ってても絶対に使いっこないってことじゃない。違う?」
「…………」
「でも、ピッコロと合体したあんたを見てみたかった気もするわね」
 ブルマは好奇心を抑えかねて言った。
「……マッドサイエンティスト……」
「えっ、何か言ったあ?」


 カメハウスへの道すがら、空を飛びながらクリリンは18号に言った。
「当分カプセルコーポへ行くのはやめような、18号」
「ああ、料理に睡眠薬でも混ぜられて、眠らされてる間に実験台にでもされちゃ大変だからね」
「ブルマさんのおまえを見る目、あれ絶対、改造したがってる目だぜ」
 18号はブルッと身震いすると叫んだ。
「やめてくれよ、クリリン! 冗談じゃないよ、まったく」

 打ち消そうとするように18号は頭を振ったが、つい想像してしまった。
 手術台に縛り付けられた自分。その横に立ち、喜々として工具をふるっているブルマ。作業台には数々のアタッチメント……。

―――さあ、18号、これからあんたの腕はこのアタッチメントでずいぶん使いやすくなるわよ〜。
 これが料理用の包丁とおたま付きのやつ、これが掃除用のバキュームホースとハタキ付き、いちいち掃除機を引っぱり出さなくてもいいんだから、便利でしょ〜。
 ほーっほっほっほっほ……。

 ぞわぞわあ〜っと悪寒が走って、18号は両方の二の腕を握りしめた。
「あたし、改造されたのがドクター・ゲロで、まだましだったかもしれない」


 さて、みんなの心にブルマへの不信感を植え付けはしたものの、この騒動は一件落着した。
 しかし、実はこの話には、世にも恐ろしい後日談があるのだ。

 数週間後―――

 ある快晴の午後、トランクスと悟天はカプセルコーポの屋上に並んで座っていた。 目の前を2匹のモンシロチョウがもつれ合うように飛んでいく。庭の楠の枝ではスズメたちがかしましく飛び移り、鳴き交わしていた。

「風が気持ちいいね、トランクスくん」
「そうだな。眠くなっちゃうよ。ふぁあ〜あ」と、トランクスは大あくびをもらした。
「もう、体、慣れた?」
「ん? ああ、体か? バッチリだよ。もともと自分の体だもんな。合体が解けたあとはしばらく変な感じだったけど。それにしても、パパもママもひどいよな。オレ、よくグレなかったと思うよ」

 悟天がエントランスを見下ろして言った。「ねえ、トランクスくん、あれ、ヤムチャさんの車じゃない?」
「あ、ほんとだ」

 それは確かにヤムチャの車だった。新しい恋人が出来た時に、15年ローンを組んで買った赤いエアカー。調子が悪いのか、何度もつんのめりながら前に進んでいる。
 彼は車を苦労して庭の方に回して停めると、車から降り立った。これからデートらしく、えらくめかし込んでいる。

「ヤムチャさーん」
 トランクスと悟天がヤムチャの前に舞い降りてきた。
「よお、久しぶり!」ヤムチャが白い歯を見せて笑った。
 ひとしきり冗談を飛ばしたりしてチビたちにかまったあと、彼は腕時計をのぞき込んで、そわそわしながら言った。
「トランクス、ブルマいるかい? ちょっとこの車、見てほしいんだよな」
「どうしたの? 故障?」
「ああ、修理工場に出してるヒマがなくてさ。急いでるんだ」

「『でえと』だね、ヤムチャさん」悟天がうれしそうに言った。「にいちゃんと一緒だ」
「そういや、悟飯はあの、ビーデルだっけ、あの子とうまくいってんのか?」
「うん、それがね、にいちゃん、ビーデルのおねえちゃんに絶交されてたんだけど、誤解がとけたみたいなんだ。またふたりで仲良くグレートサイヤマンやってる」
「安上がりなカップルだな。まあ、オレもいくら何でも悟飯より先に結婚できるだろう。クリリンに先を越された時はさすがにショックだったけど……。そうだ、まだ天津飯がいたっけ」

「ヤムチャさん、結婚するの?」
 トランクスが核心を突く質問をした。
「実はこれから指輪を買ってプロポーズしに行くつもりなんだ」
「へえー、がんばってね!」
「おう」と、ヤムチャは微笑んだ。

 ヤムチャの依頼で車を調べたブルマは、あっさり言った。「ああ、これはダメね」
「ダ、ダメって、おい、ブルマ、すぐには直らないってことか?」
「すぐにじゃなくて、直らないの。完全にアウトね。だからウチの車を買いなさいってあれほど言ったのに。いくら安いからって他社のなんか買うからよ」

「またそれかよ〜。だってすげえ破格値だったんだぜ。あの時はオレもぜんぜん金なかったし……。なんとかしてくれよ、ブルマ。オレ、これから大事なデートなんだ」
「いくらあたしが天才でもこればっかりは無理よ。あきらめてウチのを買い換えるのね。安くしといてあげるわよ。取りあえず今日はあたしの車を貸してあげる」
 ブルマは自分の車のキーをヤムチャに手渡すと、「これから出張なのよ」と行ってしまった。

「参ったなあ。指輪を買ったら車買い換える金なんて残らねえよ。かと言って指輪なしじゃ……」
 ヤムチャはがっくりうなだれた。トランクスと悟天は顔を見合わせると、瞬時にして意志疎通をはかった。
「でも、トランクスくん、あれは……」
「まあ、オレにまかせとけよ」

 悟天に皆まで言わせず、トランクスはヤムチャの方を向くと言った。
「ヤムチャさん、彼女にプレゼントするのって指輪じゃなくてもいいんでしょ?」
「え? まあ、プロポーズの時は指輪と普通決まってるけど……」
「いいじゃんか、かたいこと言いっこなしだよ。オレ、いいもの知ってんだ。ちょっと待ってて。取ってくる!」
「あ、待ってよ、トランクスくーん」
 ふたりはヤムチャに答えるひまも与えず、家の中へとすっ飛んで行った。

 家に入ると、トランクスはまっすぐブルマの研究室へと向かった。そのあとをひとあし遅れて悟天が追う。
 研究室のドアをそっと開けると、おあつらえ向きに中には誰もいない。
「ラッキー! ママはもう出かけたんだな。……えーと、多分、ここらあたりに……あ、あった!」

 トランクスは母親が研究の失敗作も捨てずにとっておいて、別の研究に生かしていることを知っていた。
 目当ての品は小さな箱に入ったまま、いろんなガラクタがつっこんである段ボール箱の中に一緒に放り込まれていた。トランクスはそれを手に取ると、悟天と再び来た道を戻ってヤムチャのもとへと急いだ。

「ヤムチャさーん、あったよ〜」
 トランクスは小箱を高々と掲げると離れたところから叫んだ。それを手渡されたヤムチャは、ふたを開けてみて目を丸くした。
「きれいなイヤリングじゃないか。トランクス、おまえこれをどうしたんだ?」
「へへっ、ちょっとね」
 トランクスは得意げに人差し指で鼻の下をこすっている。
「ブルマのじゃないのか?」
「大丈夫、もういらないものなんだ。ヤムチャさんにあげるよ。これ、指輪の代わりになるだろ?」
「そうだな……。でも、タダでもらうってのも何だし。じゃ、ボーナスが入ったら必ず代金は払うよ。サンキュー」
 ヤムチャは礼を言うと、ブルマの車を借りてカプセルコーポをあとにした。

「ねえ、トランクスくん、ほんとに大丈夫かなあ。ポタラなんかあげて」
 小さくなってゆくヤムチャの乗った車を見送りながら悟天が行った。
「平気だって。考えてもみろよ悟天。イヤリングって普通、ふたりで片方ずつするか? あれはひとりが両方の耳につけるもんだろ。ポタラをひとりでつけてるぶんには全然大丈夫じゃんかよ」
「そっかあ。トランクスくんって、あったまいい!」
 悟天は尊敬のまなざしで、ひとつ年上の友を見た。
「へへ、まあな」トランクスは胸を張った。

 だが、彼らは知らなかった。今、ヤムチャの向かうジンジャータウンには、やっかいなおまじないがはやっていることを。

「一組のアクセサリーを分け合ってつけた恋人同士は、必ず結ばれる……か」
 車を走らせながら、ヤムチャはつぶやいた。
「ロマンティックなおまじないだよな。……へへ」
 彼は助手席に置いた小箱にチラッと目をやった。春の日射しを受け、イヤリングの石は神秘的な光を放っている。
「これ、男がつけてもおかしくないデザインだよな」
 ヤムチャはわくわくしながら、恋人の待つジンジャータウンへとアクセルを踏み込んだ。

…………………………………………しーらないっと。


「トランクスくん、いいことをしたあとって気持ちいいね」
 悟天がカプセルコーポの庭で伸びをしながら言った。
「そうだな。よし、悟天、久しぶりにピッコロさんのところへでも行こうぜ。バレーボール持ったか?」
「うん!!」
 ふたりは競争するように青い空へ飛び上がると、あっという間に見えなくなった。


(おしまい)


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