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トラブルと遊べ! ヤンチャボーイ  〜ポタラで大騒動〜


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トラブル 4:トランコロの逆襲

  応接間に着き、みんながソファに座ると、給仕ロボットがお茶のサービスを始めた。どうやら水が出るようになったらしい。
 今度はトランコロも自重して、おとなしく普通のカップでお茶を飲んでいる。が、彼のようすはさきほどからずっと、どことなくソワソワしている。

「おめえ、さっきションベン行っとかなかったのか?」
 悟空が訊くと、トランコロはビクッと振り向いて答えた。
『あ、ああ、いいんだ。オレのことは構うな』
「そっか?行きたい時は遠慮せずに行けよ。我慢すっと体に毒だぞ」

「それで、トランコロの今後の身の振り方だけど」
 クリリンが切り出した。
「やっぱり、ここか神様の神殿に落ち着くしかないだろうな」
「ここはダメだ!」
 すかさずベジータが異議を唱えると、トランコロがつぶやいた。
『オレ、グレちゃおうかな……』

「そうすると神殿か。デンデとポポに押しつけるのはちょっとかわいそうな気もするな」
「オラはどこでもいいぞ。落ち着き先が決まったら教えてくれ。いつでも修行の相手になってやっからな」
 悟空がうきうきして言うと、18号が待ったをかけた。
「ブルマの意見を聞いてからにしなよ。一応、息子なんだろ」
 チチも同調した。「そうだべ。こんな息子でも母親にしてみれば、離れるのはつらいかも知れねえだ」
「ふん、何言ってやがる」ベジータは鼻で笑った。「ブルマがこんなやつを息子だと認めるものか」
「わからねえだよ。出来の悪い子ほどかわいいって言うだからな」
「勝手に追い出すと怒るかもしれないねえ」18号がベジータを横目で見て言った。
「けっ、それがどうした」
「泣くのは間違いないね」
「う……」

 18号の脅しがきいたのか、ベジータはトランコロをカプセルコーポに置くことをしぶしぶ認めた。
『パパ、ありがとう』
 涙を流してとびつかんばかりにしているトランコロをベジータは牽制した。
「ただし、オレの半径2メートル以内に近づくな。いいな」
『わかったよ、パパ』
「……………………」
 目を閉じ、額に青筋を立ててこらえているベジータを見て、クリリンはトランコロにそっと耳打ちした。
「おい、慣れるまでしばらく、その“パパ”ってのはやめてやれよ」

 ベジータは給仕ロボットから白いナプキンを取り上げるとトランコロに差し出した。
「とりあえず、そのイカれた格好をなんとかしろ。これと取り換えるんだ。きさまを見ていると、こっちの色彩感覚まで狂ってきやがる」
 トランコロは急いで頭を押さえ、ムキになって叫んだ。
『オ、オレにかまうなと言ってるだろ。オレはこのスカーフが気に入ってるんだ!』

「何をビクついとるんじゃ?」亀仙人が不思議そうに言った。
 悟飯はトランコロのただならぬようすに気づくと、心配そうに尋ねた。
「トランコロさん、さっきので、どこかケガしたんじゃ……すごい汗ですよ」
『だっ、大丈夫だ。ケ、ケガはない!』
「えっ、毛がない!?」
 トランコロは頭を押さえたまま、ソファから30センチも飛び上がって叫んだ。
『けっ、けっ、けけけけけ毛がないないわけないだろう。ケ、ケガだ、ケガ!!』
「何をそんなにうろたえている」
 ベジータが不審をつのらせて、ソファから立ち上がると近づいて来た。
「そうだべ、怪しいだ」チチも詰め寄って来る。
 クリリンも疑惑のまなざしを向けた。「なんか変だよな」
『なっ、なんでもない! オレに構うな。よ、寄るな!!』
 トランコロはみんなにじわじわ詰め寄られ、ガードするように両手を前に突きだしながら後ずさりを始めた。
 ドン、と後ろに突き当たって振り向くと、悟空が立っている。
「おめえ、なんか隠してんな? これ、取ってみろ」
『やっ、やめろ!!』
 トランコロが頭を押さえるより早く、さっと悟空がスカーフを取った。

「ああっっ!!!」
 みんな絶句した。トランコロの頭は気円斬によって、てっぺんの髪の毛がくるりと丸く剃り取られていたのだ。

「そ、それで隠してやがったのか」
「な、なんだか、なんだか……ぷっ……」
「しっ、刺激すんじゃねえだ、笑うでねえぞ」
 みんな口々に囁きあい、笑いをこらえている。

 その時、悟空がうっかり口をすべらせた。
「おめえ、カッパみてえだぞ」
 一同はたまらず「ぶっっ」と吹き出してしまった。
「おとうさん……みんな思ってても言わなかったのに……」
 悟飯がトランコロをすまなそうに見やって言った。

『き〜〜さ〜〜ま〜〜らぁ〜〜〜〜』
 ボッと火のついたような音がして、トランコロの体は一瞬にして黄金のオーラに包まれた。
「超サイヤ人だ!!」みんなは驚きの声を上げた。
 金色の眉の下の緑色の瞳は怒りに燃え、2本の触覚はオーラの揺らぎに合わせてゆらめいている。
 髪も金色の炎となって燃えている……のはいいのだが、てっぺんの剃りあとを隠すには、いささか短すぎた。
 つるつるに剃られた頭頂部をふちどるように、チョロチョロと逆立つ髪は見ていてなんだかもの悲しい。しかし、みんな、これ以上トランコロを刺激すまいとして、必死で笑いをこらえている。

「これはオレの息子じゃねえ……息子じゃねえんだ……」
 ベジータはいやいやをするように首を振りながら、ブツブツつぶやいて自己暗示をかけていた。彼の美意識は現実逃避したがっているので、笑うもへったくれもないのだった。

「おめえの頭……何かに似てっぞ」
 悟空が首をひねりながらつぶやいた。我に返ったベジータがさえぎって叫ぶ。
「やめろ、カカロット、きさまはこれ以上何も言うな!!」
「気にしないで下さい、トランコロさん。とってもよく似合ってますよ! そのヘアスタイル」
 とりなそうとして、悟飯が一生懸命叫んだ。
「バ、バカッ! 火に油を注ぐんじゃねえ!!」

 悟空はポンと手を打った。
「そっか、おめえの頭、火の出過ぎたストーブの芯に似てんだ」
「バカやろう! 余計なこと言いやがって!!」
 そのとたん、トランコロの気は一段と高まった。
 台風のような強い風が応接間の中で巻き起こったかと思うと、壁の額が外れて落ち、シャンデリアがガチャガチャ揺れ始める。
 みんな両腕を顔の前に掲げて風を防ぎ、姿勢を低くしてこらえた。

 マーロンはこれから何か楽しそうなことが起こりそうだとばかりに、きゃっきゃとはしゃいでいる。18号はそんな娘を抱き上げると、応接間の窓を開けて空へ浮かび上がった。
「じゃ、やばくなりそうだから、あたしは先に戻ってるよ。遅くならないうちに帰りなよ、クリリン」
「えっ、お、おい、18号」
 クリリンの返事も待たずに、18号はマーロンを抱いたまま、さっさと飛んでいってしまった。
「そんなあ……。なんでオレだけ……」

 トランコロは唇をゆがめて顎を突き出すと、両手を腰に当ててふんぞり返った。
『きさまら〜、人がおとなしくしてりゃ調子に乗りやがって。このオレを怒らせてそんなに死にたいか。ああ〜ん?』
「おい、カカロット……。あいつ人格変わってるぞ」
「おめえがひでえことばっか言うからだぞ、ベジータ」
「きさまが言うか?」

『ふはははは、オレさまの恐ろしさをとくと味わいやがれ! オレは極悪非道なピッコロ大魔王と残虐で凶悪なサイヤ人、ベジータ王子の血を引いてるんだ!』
「うわあ、考えてみたら、これ以上ないほどひどい取り合わせだよな」
「き、きさま、侮辱しやがって。取り消せ! クリリン」

 トランコロは気をどんどん増大させながら、不敵な笑みを浮かべて、とうとうと語りだした。
『オレが本気になったらどういうことになるか、目にもの見せてくれる! 街は廃墟となり、人間どもは逃げまどい……』
「オ、オレの家が……」
 ベジータは風を受けて暖炉の上から次々落ちて割れる写真立てやボトルシップを見てハラハラしている。そんな彼を見て、チチがかたわらにいるクリリンに言った。
「なあ、ベジータってずいぶんオレの家、オレの家ってこだわるようになっただな」
「マイホームパパのサイヤ人かよ。似合わねえなあ」
「聞こえてるぞ、てめえら! 悪口はもっと遠慮して言いやがれ!」
『どいつもこいつも一人残らず皆殺しに……おい、聞いてるか!?』

「聞いてます、聞いてます」
 悟飯があわててトランコロを振り返った。トランコロは気を取り直して続けた。
『ドラゴンボールで元に戻そうとしてもムダだ! そんなもの真っ先に破壊してくれるわ!!』
「おい、どうでもいいけどよ。やるんなら早くやろうぜ。オラ、さっきからおめえと闘ってみたくてうずうずしてたんだ」
 悟空がうきうきと構えを取ると、チチが横から言った。
「悟空さ、服は破かねえでけれよ。直すのが大変だからな」
「やめろ、カカロット! やるんなら外でやれ。オレの家をぶっ壊す気か!!」
「あ、また言った」
 クリリンが言いかけると、ベジータはギロッとにらみつけた。

 トランコロは地団駄を踏んで悔しがった。
『きっ、きさまら、さっきからゴチャゴチャと……。人の話は最後まで聞けと学校で習わなかったかああ!!!』
「みなさん、静かにして下さい。トランコロさんが怒ってますよ」悟飯が気を使って言った。
『オレはさっきからず〜〜〜〜〜〜〜っと怒ってるんだ!!』

 トランコロの気はさらに増大した。天井はめくれ、壁にひびが入り、ソファやテーブルはふっとばされて壁にぶち当たった。窓ガラスがパリンパリンと砕け散る。
「オ、オレの……」言いかけてチラッとクリリンを見やると、あわててベジータは口を押さえた。

 気の爆発に合わせて、トランコロのオーラもさらに大きくなった。
 だが、彼にとって不幸なことに、気を大きくすれば大きくするほど、申し訳程度に残った彼の髪はこっけいなほど逆立ってしまうのだ。
 みんな見ないようにしようとするのだが、怖いもの見たさでつい目が行ってしまう。トランコロに悪いとは思いつつ、一同はこらえきれずにお腹を抱えて爆笑した。
『笑うなっ、笑うなと言ってるんだ』


「みんないいかげんにしてよっ!!」
 悟天の悲痛な声が響き、一同は思わず笑うのをやめた。
「そんなに笑うことないじゃないか。……そ、そりゃボクだって、ちょっとは笑ったけど……でも……」
 悟天はトランコロを振り向いて言った。「ごめんよ、トランクスくん」

『悟天……』
 トランコロは超サイヤ人の状態を解いた。同時に応接間に吹き荒れていた風もやみ、ベジータはひそかに胸をなでおろした。

 悟天は泣きそうになりながら続けた。
「トランクスくんだって、最初は軽い気持ちだったんだ。まさか、こんなことになるなんて思わなかったんだ。元に戻れなくなって、一番悲しいのはトランクスくんなんだよ。それを……それを……みんな、あんまりじゃないか! トランクスくんがかわいそうだよ!!」

「悟天……」
 ちょっぴり反省してうつむくみんな(くどいようだがベジータは除く)の中から、悟空は悟天の前へと歩み寄ると、その肩を両手でそっと包んだ。
 そして、悟天の目の高さまでしゃがんで、ベソをかいている息子の顔をのぞきこんで優しく言った。
「悟天、ピッコロのことも……ちょっとは言ってやってくれねえか?」
 見るとトランコロは壁の方を向いてしゃがみこみ、カーペットの毛をむしりながらいじけていた。


 バタンとドアが開き、ブルマが現れた。彼女は一同を見渡しながら明るい声で言った。
「ただいま! あら〜、みんな揃ってどうしちゃったの?」
「ブルマ!」
 みんなはワッと一斉にブルマを取り囲んだ。
「よ、よく帰ってきてくれただな」
「ブルマさ〜ん」
「待っておったぞい」
「バ、バカやろう! 今まで何してやがった!!」
「おばさん、遅いよ」
『ママ……!!』
「これで一安心だな」

 ブルマはみんなの勢いに押されて、二、三歩後ずさった。
「ちょ、ちょっと何よ、みんなして。熱烈歓迎ってわけ?」
 苦笑しながら一同を見渡したブルマは、トランコロと目が合うと、ギャッと叫んでぴょんとベジータに飛びついた。
「なななななによ、あんた!」
『ママ……』
 トランコロは目をうるうるさせてブルマに近づいて来る。
「あんたみたいなバケモノにママなんて呼ばれる覚えはないわよ。よ、寄らないで! あたしの半径10メートル以内に近寄らないでよ!!」
「似たもの夫婦……」クリリンが思わずつぶやいた。

「おい、ベジータ、おめえ、なんとか言ってやれよ」
 しょうがねえな〜というように悟空が言う。口ごもっているベジータに気づくと、ブルマは訊いた。
「あんたの隠し子?」
「お、おそろしいことを言うな!」
「だって、そっくりじゃない。目つきの悪いとこなんて」
「ケンカ売ってんのか、おまえ」

「おばさん、これ、ピッコロさんとトランクスくんなんだよ。ポタラで合体しちゃったんだ」と、悟天が言った。
 たっぷり3分間は固まってしまったあとで、ブルマは「ええ〜〜〜〜〜っ!?」と叫ぶと、まじまじとトランコロをながめた。
「ふうーん、じゃ、成功だったわけね、そのポタラ。動物実験じゃうまくいったんだけど、人間で試したことなかったから……」

 今度はみんなが驚く番だった。
「何じゃと!? それじゃこのポタラは……」
「ブ、ブルマさんが」
「つ、つ、作った……?」
「そ」と認めると、ブルマは満足そうににっこり笑ってうなずいた。「やっぱりあたしって天才よね〜」
「なんだってポタラなんか作っただべ?」
 チチが呆れて言うと、ブルマはけろっとして答えた。
「ベジータが孫くんとポタラっていうイヤリングつけて合体したって話聞いたら、無性に血が騒ぎだしてさ、思わず作っちゃったってわけよ」
「思わず作っちゃったって……こんなぶっそうなモノを……」
 クリリンが言うと、ブルマはあっさり言った。
「科学者のサガってやつね」
『おいっ、きさまの妻だろう! 言ってやれ、なんとか言ってやれ!!』
 トランコロはブルマを指さしながら、呆然としているベジータに向かってわめいた。

 まあまあと言うように両手を広げてみんなを鎮め、ブルマは得意げに言った。
「みんな落ち着きなさいよ。あたしが元に戻す当てもなく、こんなもの作ると思う?」
「え? それじゃ……」
「当然でしょ」
 ブルマはウインクした。


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