DB小説目次HOME

トラブルと遊べ! ヤンチャボーイ  〜ポタラで大騒動〜


トラブル1トラブル2トラブル3トラブル4トラブル5(最終章)


トラブル 3:トランコロの災難

 その時、リビングのドアが勢いよく開いて、亀仙人がマーロンの手を引き、「チャオ!」と入ってきた。
「おお、みんな揃っとるな。元気か〜?」

 そのとたん、悟空はソファの上にあったクッションを手当たり次第ひっつかみ、悟飯と一緒にトランコロへと突進した。
 悟空は、鉢植えの隣に座っていたトランコロの顔に、問答無用でいきなりクッションを押しつける。
『な、何しやがる―――――ばふっ』
 わめいているトランコロに構わず、持っていた残りのクッションを上からどんどん積み上げて彼の体を隠すと、悟空はトランコロの上にガバッとおおいかぶさって、暴れないように押さえつけた。
「いっち、にい、いっち、にい、いや〜、この頃体がなまっちゃって……。運動不足かなあ。ハハハハッ」
 その前で悟飯がわざとらしくラジオ体操を始めた。
「何やっとるんじゃ、おまえら……」
 亀仙人が呆れて言った。

「大丈夫ですよ、おとうさん、マーロンちゃんは見ていません」
 悟飯が小声で言うと、悟空はもがいているトランコロの耳元で言った。
「おい、静かにしろって。いくらなんでも、あんなちっこい子におめえの姿を見せるわけにはいかねえだろ。泣くだけならまだしも、ヘタすっと引きつけ起こすぞ」

 悟空に言われて、トランコロは渋々認めざるを得なかった。
 そうだ、自分でも驚くほどのこの迫力だ。亀仙人のじいさんなら、そろそろお迎えが来たっていい頃だが、マーロンはまずい。
 納得して静かになったトランコロの上から体をどかせると、悟空は、
「悟天、おめえ、ちょっとマーロンを隣の部屋へ連れてって遊んでやってくんねえか?」と頼んだ。
 素直な悟天はすぐにマーロンの手を引くと、リビングから出て行った。

 ベジータはジロリと亀仙人を一瞥して言った。
「てめえ、呼ばれもしないのになぜ来やがった」
「ごあいさつじゃのう。老い先短い年寄りはいたわらんか」
「老い先短いだと!? きさま、そのセリフをもう何年言ってやがる! そうしてほしいなら本当に老い先短くしてやるぜ」
「まあまあ、そう怒るなよベジータ。『3人寄ればもんじゃ焼き』って言うだろ? じっちゃんの知恵も貸してもらおうぜ」
「『文殊の知恵』です。おとうさん……」
 悟飯が赤面してそっと訂正した。

「今日はクリリンと18号はいねえのけ?」
 チチが亀仙人に尋ねた。
「ああ、あいつらならふたりしてお出かけじゃ。もうかれこれ1週間になるかの」
 その言葉にチチはええっと驚いて叫んだ。「家出しちまったのけ!?」
「なんでそうなるんじゃ! 旅行に行っとるだけじゃ。懸賞で『世界温泉めぐり』のクーポンが当たったんでな。あのふたり、新婚旅行も行っとらんから、ちょうどいい機会じゃろ?」
 チチはホッと胸をなでおろした。「なあーんだ、そうだったのけ。驚かさないでけれ。おらはまた、クリリンと18号が武天老師さまに愛想つかして出ていったかと思っただ」
「ずいぶんじゃの」

 亀仙人は気を取り直して続けた。
「まあ、そんなわけで、マーロンが年寄り相手で退屈しとるから、刺激の多い西の都まで遊びに来たというわけなんじゃ」
「刺激が欲しいのはじっちゃんの方じゃねえのか?」
 悟空が冷やかすと、亀仙人は、ほっほっほと笑って言った。
「いや〜、やっぱり都会はええのう。ピチピチギャルがわんさかじゃ」
 部屋に集まった面々を一通り見渡すと、亀仙人は尋ねた。
「ところで、いっぱい集まっとるが、今日は誰かの誕生日かの?」


 すべてのいきさつを聞きながら、亀仙人は難しい顔で腕組みをして考え込んでいる。聞き終えると、じいさんはトランコロを一喝した。
「まったくおまえたちときたら、強くなるのにいつもいつもそういう道具で楽しようとする! 武道に王道なしじゃぞ。せっかくそういう不思議な道具があるなら、おのれの欲のためじゃなく、もっと世のため人のために使おうとは思わんのか!! このたわけが!!!」

 柄にもなく真剣な表情で諭す亀仙人の言葉に、その場に居合わせたみんな(ベジータは除く)は、思わず頭を垂れて神妙に聞き入った。
『人のため……』
「そうじゃ。たとえば……」と亀仙人はビーデルとチチのほうを見た。
「むさくるしい野郎とガキんちょを合体させるんじゃなくて、ピチピチギャルと人妻の合体の方が、ずううぅぅ〜〜〜〜っと目の保養になるじゃろが! あ、ホレ、ぴちぴちぴち。ぷりぷりぷりっと♪」

「はっ、放せカカロット!!」
 悟空に羽交い締めにされながらベジータがわめいた。「このじじい、ぶっ殺さんとオレの気がすまん!!」
「ベジータ、おらが一発なぐってからにするだ」
 チチは拳を握りしめて亀仙人ににじり寄った。

「マーロンちゃん、そっち行っちゃダメだよ!」
 そのとき、悟天がちょっと目を離した隙に、リビングで繰り広げられる大騒ぎにひかれて、マーロンがトコトコと隣の部屋からやって来ていた。
 悟天の声にみんなが振り向いた時には、マーロンはすでにトランコロの目の前まで来て、彼を不思議そうに見上げていた。

「し、しまった」
 悟空はあわてて羽交い締めにしていたベジータを放して、マーロンに駆け寄ろうとした。
 ベジータは眉をしかめて叫んだ。
「もう遅い! 見てしまったぞ」
 チチは両手で顔を覆い、指の隙間からおそるおそるマーロンをうかがっている。
「な、泣くだぞ……泣くだぞ……」
 一同は固唾を飲んで成り行きを見守った。


 うきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!

 次の瞬間、マーロンのご機嫌な笑い声がリビングいっぱいに響いた。彼女は実にうれしそうに笑っていた。まるでトランコロにあやされてでもいるように……。
「わ、笑ってるわ……」
 ビーデルが悟飯と顔を見合わせて言った。
「どうなってやがるんだ。あのチビの美的感覚は」
 ベジータも呆然としてつぶやいた。


 にこにこしてトランコロを見上げていたマーロンは、「だっこ」と両手を彼に差し出した。見ていた一同は思わず「おお!」と感嘆の声を上げた。
 ためらっていたトランコロだったが、しゅるしゅると両腕を伸ばすと、マーロンを軽々抱き上げた。彼女はくすぐったそうに笑っている。トランコロは喜びにうち震えながら、勝ち誇って叫んだ。
『見ろ! こんなチビでも、人間、顔じゃないってことを知ってるんだ。きさまらもちょっとは見習え!』

「って言うより、あいつのことをオモチャだと思ってるだけなんじゃねえのけ?」
 チチの言う通り、見ればマーロンはちっちゃいもみじのような手で、ぽかぽかとトランコロの顔をたたいていた。と、思うと、いきなり2本の触覚を握ってぐいぐい引っ張り始める。
『イ、イデデデデデ……コ、コラッ、よしなさい。それは引っ張っちゃダメだってば……や、やめろ、ふごっ』
 今度はちっちゃな指を2本ずつ、トランコロの両方の鼻の穴に容赦なく突っ込むと、残りの3本を口の両端に引っかけて、左右にびろ〜んと引っ張った。
『ほひっ、はひゃへはひゃへ、ほひっ、はひほひゅふっ、ひゃへほっ、はひっ』
「あいつ何言ってんだ?」悟空が首を傾げた。

 顔をぶんぶん振って、やっとのことでマーロンの手をふりほどくと、トランコロは思わず怒鳴りつけた。
『やめろと言ってるんだ! 人が下手に出てりゃつけあがりやがって、このクソガキィ!!!』
 そのとたん、今まできゃっきゃと笑っていたマーロンはぴたっと笑いやんだ。きょとんとしてトランコロの顔を見つめている。

 やがて彼女はひっくひっくとしゃくり上げて、ついに泣き出してしまった。
「びええぇええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜ん」
『あっ、あっ、な、泣くな。オレが悪かった。泣くなったら……。ごめん……ごめんなさい。許して』

 トランコロはおろおろとマーロンを抱きかかえたまま、部屋の中をウロウロしながらあやし始めた。両腕を天井まで長く伸ばし、『高い、高〜い』をやったり、ベロベロバアをしてみたりするのだが、彼女はなかなか泣きやまない。

「マーロン!!」
 突然、クリリンの声が響いたと思うと、開いていたドアから彼が駆け込んできた。
 ちょうどあやし疲れたトランコロの腕から下に降ろされるところだったマーロンは、けろりと泣きやむと、「パパァ」と満面に笑みを浮かべて父親に向かって駆け出した。
 続いて部屋に飛び込んできた18号は娘を胸にしっかりと抱き寄せた。

「ママ!」
「何もされなかったかい?マーロン」
 18号がこわばった顔で娘に尋ねると、トランコロは憤慨して言った。
『するかっ、されたのはオレの方だっ』
 キッとトランコロをにらみつけ、クリリンは叫んだ。
「きさま、よくもマーロンを人質に」
『人質!?』
「地球を侵略に来た宇宙人だな、きさま。顔を見ればわかる!」

 あっけにとられているみんなの前で、クリリンは片腕を高々と掲げると、その上方に円盤状の気の塊を出現させた。
「ちょ、ちょっと待―――」
 悟空がハッとして叫んだ。
 が、遅かった。
「気円斬!!」

 クリリンの放った気円斬がうなりを上げてトランコロに襲いかかる。寸前でトランコロはさっと身をかわした。
 しかし、それて行った気円斬は、空中でブーメランのように曲がると、再び彼めざして突進して来た。
「追尾気円斬だ!」
 悟空が気づいて叫んだ。
「フリーザが、おっと、使っ、わっ、てた、ひえっ、やつだ」

 逃げ回るトランコロを追跡して部屋中をブンブン飛び回る気円斬をよけながら話すので、何を言ってるのかわからない。みんな、流れ弾ならぬ流れ気円斬に当たらないよう、必死で逃げまどった。
「クリ、うわっ、待っ、ひゃあ!」 ビュンッ!!
「トラン、キャッ、敵じゃ、あっ」 ギュン!!
「やめ、あぶあぶ、危な、わっ」 ブンッ!!

 みんなして「トランコロはピッコロとトランクスだ。敵じゃない。やめろ」と口々に言おうとするのだが、飛んでくる気円斬をよけるのに必死で、なかなかまとまった言葉がしゃべれない。
 追尾気円斬はトランコロの気を執念深く追い続ける。カーテンを切り裂き、ソファを引き裂き、花瓶を輪切りにし、TVのブラウン管を割りながら、なおも飛び続けている。
 床に伏せていたベジータの堪忍袋の緒が切れた。彼は思わず気円斬に向かって上体を起こして叫んだ。
「いいかげんにしやがれ!」
「危ねえ、ベジータ!!」
 とっさに悟空がベジータの頭を床に押しつけた。

 ごんっ!

 ベジータの頭すれすれをかすめて気円斬は飛んで行った。勢い余って床に顔を強打したベジータが、赤くなった鼻を押さえながら顔を上げた。
「カカロット、きさま……わざとやってないか?」
「お、鼻血出てんぞ、ベジータ」
 鼻から手を放したベジータは、その手についた血を見て愕然とした。
「オ、オレの高貴な血が……」
 とばっちりで壊れたワインセラーから、粉々になったワインボトルのコルク栓を拾うと、悟空はそれをベジータに投げて寄越した。
「ほら、これでも詰めとけ」
「詰めるかっ、こんなもん!!」


 追尾気円斬は相手に当たるまで消えることはない。逃げ疲れてゼーゼーと肩で息をしていたトランコロは、部屋の隅に追いつめられた。
 うなりを上げて飛んでくる気円斬に向き直ると、額に両方の手のひらをかざし、それを前に突きだした。
『ビッグバン魔閃光!!』
 トランコロの手から発射された光弾はまっすぐに気円斬に向かうと、まともにぶち当たった。
 フラッシュのような強い光と激しい爆発音がして、両方の気は混ざり合い、花火のように四方八方に飛び散って消滅した。

「き、消えた……」
 みんなはへたへたとその場に座り込んだ。いつの間にかちゃっかり廊下に避難していたクリリン一家が、リビングのドアを開けて戻って来た。
「ふ〜っ、危ないところだった」
「危ねえのはおめえだべ!」
 チチがカンカンになって叫んだ。彼女の服は気円斬がかすったところが裂けてボロボロになっている。
 クリリンは自分に集中する非難の視線を痛いほど感じながら、引きつり笑いを浮かべた。
「え? オレ、なんかまずいことしちゃった……かな?」


 一同は爆弾が落ちたあとみたいなリビングの中で、切り裂かれてあちこち詰め物の出ているソファに座った。
 クリリンと18号は旅行の帰りに空港からカメハウスへ電話をし、ウミガメから亀仙人とマーロンがカプセルコーポを訪れていると聞いたので、まっすぐこちらへ向かったのだった。
 カプセルコーポに着いたら、みんながリビングに集まっているとブリーフ夫人が教えてくれた。
 ふたりして部屋の前まで来たとたん、開いていたドアから、マーロンが人相の悪いやつに捕まっているのが見えて、心臓が縮み上がったと言う。

「ええ〜っ、ピッコロとトランクスが合体!?」
 事情を聞いたクリリンは飛び上がって驚いた。「道理であいつらの気を感じると思ったよ」
 亀仙人が呆れて言った。
「気を感じたんなら、なんでわからなかったんじゃ?」
「いや〜、セルの例があるでしょう?ピッコロとトランクスの細胞を持った新たな敵だと思っちまったんすよ」
 クリリンは頭をかいて弁解した。

「そういえば、トランコロさんは?」
 悟飯があたりを見回して言った。トランコロの姿はリビングの中から消えていた。
「ションベンでも行ってんだろ」
 悟空はあっさり片づけると、クリリンの方へ向き直った。
「それにしても、さっきの追尾気円斬はすごかったな。おめえ、いつの間にあんな技身につけたんだ?」
「最近なんだ。オレ、18号と結婚してからずっと闘うのやめてただろ? 修行もろくにやらなかったし……。それで魔人ブウが現れた時、なすすべもなくやられちまって、こいつらを守ることもできなかった……」

 当時の苦い想い出をかみしめながら、クリリンが18号とマーロンを見やった。
「もうあんな思いするのイヤなんだよ。だからオレ、これだけは誰にも負けないっていう技を身につけようと思ったんだ。そりゃ、悟空やベジータに比べたら、てんでたいしたことないかも知れないけど……。自分の愛する者くらい自分で守りたいじゃないか」
「バ、バカ。そんなこっぱずかしいこと、平気で言うんじゃないよ!」
 18号は頬を赤らめて顔をそむけた。やがて彼女はそっとクリリンの顔に視線を戻すと、自分に暖かいまなざしを注いでいる夫と見つめ合った。
「クリリン……」
「18号……」

「てめえら、ふたりで盛り上がってんじゃねえ」
 ベジータがうなるように言った。
「オレの家を滅茶苦茶にしやがって!」
「まあまあ、いいじゃねえかベジータ」
 悟空がとりなした。
「そう言や、トランコロの技もすごかったよな。ちゃんと追尾気円斬の中心をたたいてた。たいしたやつだぜ」
「あの野郎、勝手にオレの技を使いやがった……」
「かたいこと言うなよ、ベジータ」
 ベジータは両方の拳を握りしめると、ぶるぶると震わせた。
「気にいらんのだ……あのネーミングのセンスの悪さが!!」
「そ、そうか……。なんだかわかんねえけど、おめえが怒るのももっともだ」
「悟空さ、わかんねえなら納得しねえでけれ」
 チチが溜息をついて言った。


「トランコロさん、遅いですね」悟飯がそわそわして言った。
「大丈夫よ。子どもじゃないんだから」
 ビーデルが言うと、悟飯は、「いや、やっぱり心配だから、僕、ちょっと探してきます」と言って、部屋を出ようとした。

 そのとたん、ドアが開いておずおずとトランコロが入って来た。一同は彼の姿に息を飲んだ。
「な、なんだよ、おめえ。その格好は!?」
 トランコロはピンクの花模様のスカーフで頬かむりをしていたのだ。頭にかぶった布の両端を顎の下で几帳面に左右対称のちょうちょ結びにしている。

『や、やはりターバンを巻かないと調子が狂う』訊かれる前に先回りしてトランコロは答えた。『だから、ママのスカーフを借りて来たんだ』
「ママという言葉がこれほど似合わんやつも珍しいのお」
 亀仙人がヒゲをしごきながら言った。
「おめえ、花売り娘みてえだな」
 悟空が楽しそうに言うと、ベジータが青い顔でうめいた。
「や、やめろ。不気味なことを言うな。……想像してしまった」

『オレだって好きでこんな格好しているわけじゃない。他にいいのがなかっただけだ』
「僕のを貸しましょうか?」
 悟飯が自分のターバンをほどき始めた。トランコロはあわてて遮った。
『い、いや、いい。オレのことは構うな』

 クリリンが自分の勘違いをトランコロに詫びた後、掃除ロボットに後は任せて、一同は取りあえず応接間に移動することにした。
 先頭にベジータ、続いてクリリン一家と亀仙人、悟空とチチ、トランコロ、悟天、少し離れて最後尾に悟飯とビーデルの一行が廊下をゾロゾロと応接間へ向かって歩いていく。

「パパたちがいない間、おじいちゃんと一緒で楽しかったか?マーロン」クリリンがだっこした娘に微笑みかけた。
「うん。ビデオ見たし、ご本も読んでもらったの」
「ビデオ?」18号の目がキラッと光った。「どんなビデオだい?」
「んっとねえ、女のひとがいーっぱい、水着でわんつーわんつー」
「そ、それで、ご本っていうのは?」
「まーがれっととぼぶの、いけないわだめよのお話」

 みし……!

 乾いた音にみんなが注目すると、亀仙人の顔面に18号の足がめり込んでいた。足を引き抜きながら、彼女はすごんだ。
「今度マーロンに変なもの見せたら承知しないよっ」
「ほんの冗談じゃよ、冗談。ふぉっふぉっふぉっ」
 じいさんは割れたサングラスを外すと、ポケットからスペアのサングラスを出してかけた。
 顔の真ん中には18号の靴型がくっきりついている。
 ふたりはまた何事もなかったかのように歩き出した。

「じっちゃんと18号の息、ぴったりだな」
 悟空が感心してチチに耳打ちすると、チチがうなずき返した。
「まるで、どつき漫才を見ているようだべ」

 ビーデルはわざとゆっくり歩いていた。他の者たちに悟飯との会話を聞かれないようにするためだ。
 充分な距離がとれたところで、彼女は意を決して切り出した。
「ご、悟飯くん、前からずーっと気になってて、聞こうかどうしようか迷ってたんだけど……」
「なんですか?ビーデルさん」
「あ、あなた、もしかして……ピッコロさんて人に、と、特別な感情を持ってる……とか?」
「特別な感情?」
 不思議そうに聞き返す悟飯にビーデルはあわてて言った。
「あ、いえ、違うんならいいのよ。そ、そうよね。いくらなんでも……。いやーね、わたしったら。悟飯くんがいつもピッコロさんピッコロさんって言ってるから、もしかして悟飯くんてピッコロさんのこと、す、好きなのかな〜ってちょっとだけ思ったりなんかして……」
「あ、知ってたんですか」悟飯は明るく笑った。
「!!!!!!!!!」

「ビーデルさん?」
 あんぐり大きな口を開けて固まってしまったビーデルの顔を、悟飯は不審そうにのぞきこんだ。ビーデルはやっとのことで自分を取り戻すと、おそるおそる尋ねた。
「そ、それじゃ、考えたくないけど……あの、トランコロのことも……?」
 悟飯は力強くうなずいた。「もちろん好きですよ。たとえどんな姿になっても、ピッコロさんはピッコロさんです」
「……………………」
 ビーデルはショックのあまり、足もとをふらつかせている。
「どうしたんですか? ビーデルさん」
「そ、そんな……そりゃ、恋愛は自由だけど……でも……悟飯くんがそんなシュミだったなんて……っ。ひどい、ひどすぎるわっっ」
「ビーデルさん?」
「さよならっ、悟飯くん。もう会わない!!」
「あ、もう帰るんですか? さようなら」
 ビーデルは開いていた廊下の窓から空へ飛び去った。

 悟飯が一行に追いつくと、一番うしろを歩いていた悟天が気づいて言った。
「あれ、にいちゃん、ビーデルのおねえちゃんは?」
「なんだかあわてて帰ったよ。急用でもあるのかな」
「やっぱりビーデルのおねえちゃん、オシッコ我慢しきれずに帰っちゃったんだよ。ほら、ずっともじもじしてたじゃないか」
「なんで? ここにもトイレはあるだろ?」
「にぶいなあ、にいちゃんは」
 やれやれというように肩をすくめると、悟天はませた口調で言った。
「にいちゃんの前でトイレに行くのが恥ずかしかったからに決まってるじゃないか。そういうの、何て言うか知ってる? 『オトメゴコロ』って言うんだ」
「そうだったのか……」
 悟飯はやっと合点がいったようにうなずいた。
「おまえ、よく知ってるな」
 悟天は得意満面で胸を張って答えた。
「おかあさんに教えてもらったんだ。おとうさんもにいちゃんもオンナゴコロがちっともわからないから、せめてボクだけはわかるようになって欲しいんだって」
「ふーん」
 


トラブル2へ戻る /トラブル4:トランコロの逆襲 へ続く