ミステリ&SF感想vol.125 |
2006.05.31 |
『パズラー』 『脳髄工場』 『暗黒星雲のかなたに』 『ストップ・プレス』 『殺意は必ず三度ある』 |
パズラー 謎と論理のエンタテイメント 西澤保彦 | |
2004年発表 (集英社) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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脳髄工場 小林泰三 |
2006年発表 (角川ホラー文庫 H59-7) |
[紹介と感想]
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暗黒星雲のかなたに Stars Like Dust アイザック・アシモフ |
1951年発表 (沼沢洽治訳訳 創元SF文庫604-04・入手困難) |
[紹介] [感想] 『宇宙の小石』・『宇宙気流』と並び、アシモフの未来史〈ファウンデーション・シリーズ〉に先立つ初期三部作の一つです。帝国に対する反乱計画という題材が中心となっているせいか、三部作の中では帝国という存在が最も大きく描かれているように思います。また同時に、三部作の中で最もミステリ寄りの作品という印象を受けます。
主人公のバイロンは反乱をもくろんでいた領主の息子であり、物語はこのバイロンを中心に据えたスパイスリラー色の強いものとなっています。実際のところ、特に前半は単に宇宙を舞台としているというだけの、地球に置き換えても成立しそうな物語で、SFをあまり読み慣れない方でもとっつきやすい作品になっているのではないでしょうか。 再三にわたって窮地に追い込まれるバイロンですが、そこからの脱出はあっさりとうまくいきすぎている感があり、やや物足りない部分もあります。が、計画の詳細を知らされないまま地球で学生生活を送っていたバイロンが、巻き込まれたスパイ戦の中で成長していくというビルドゥングス・ロマン的な要素が主眼になっている(お約束(?)のロマンスもありますし)と考えれば、これはこれでいいのかもしれません。 物語後半は、反乱軍の根拠地となっている惑星の探索という、後の『第二ファウンデーション』を思わせるミステリ風の展開となっています。さして難しい謎ではありません(『第二ファウンデーション』よりもフェア(?)ですし)が、解決はなかなか鮮やかです。ただ、“地球の古文書”に関する最後のオチはやや微妙なものに思えますが……。 2006.05.14再読了 [アイザック・アシモフ] |
ストップ・プレス Stop Press マイクル・イネス | |
1939年発表 (富塚由美訳 国書刊行会 世界探偵小説全集38) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] “全篇が壮大なプラクティカル・ジョーク”(カバー見返しより)と評される、ユーモラスな大作です。虚構のヒーローである〈スパイダー〉が現実に現れて悪戯を仕掛けるというメタフィクション的な趣向に加えて、エリオットの頭の中にしかないはずのアイデアが勝手に実現されるという、“思考―虚構―現実”の三者の境界が混沌となるような奇妙なプロットが興味を引きます。 また、エリオット家の人々にしても招かれる客たちにしても、登場するのは風変わりな人物ばかり。彼らが〈スパイダー〉の悪戯を受けて、あるいはそれと無関係に、様々な文学作品からの引用を交えつつ全編を通じて繰り広げる会話や行動が、本書の最大の見どころとなっているのは間違いないでしょう。 ただしそれは、“ドタバタ”と表現するにはあまりにも上品かつ優雅で、ひいき目に見ても“爆笑”にまで至る場面は数少ない上に、やたらに多い登場人物がそれぞれに自己主張することもあってひたすら長く、読み通すにはかなりの根気を要します。もちろん人による部分もあるかとは思いますが、少なくとも(英国)文学についてのかなりの素養がなければ本書を十分に楽しむのは不可能ではないでしょうか。 何だかよくわからないまま進んできた事件が、最後の最後になって急にピントが合ったようにくっきりするという構図は嫌いではありませんし(C.ディクスン『パンチとジュディ』を思い出しました)、事件の真相そのものもまずまず面白いものではあるのですが、枝葉を刈り込めばせいぜい短めの長編といった事件が500頁以上のボリュームにまで膨らんでいるというのは、少々辛いところです。時間と心に余裕のある方にのみおすすめ。 2006.05.19読了 [マイクル・イネス] |
殺意は必ず三度ある 東川篤哉 | |
2006年発表 (ジョイ・ノベルス) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 『学ばない探偵たちの学園』に続く、〈私立鯉ヶ窪学園探偵部シリーズ〉の第2弾。前作でも随所に野球に関するマニアックなこだわりが見受けられましたが、本書では大々的に野球がテーマとなっています。とはいえ、まずは不可解なベース盗難事件という“変化球”から入ってくるあたりは、何とも作者らしい組み立てだと思います。また、プロローグに置かれている“読者への挑戦状”ならぬ“読者への宣誓”には苦笑。
ほとんど学園内で完結していた前作とは違い、学園の外に舞台が移っていることもあってか、探偵部の三人の傍若無人なまでのマイペースぶりは少々控えめになっていますが、案外このくらいがちょうどいいのではないでしょうか。相変わらず滑り気味のギャグを交えながらも前作よりテンポがよくなり、さらに読みやすくなっているように感じられます。 トリックは総じてよくできています。少々わかりやすくなっている部分もないではないですが、現象と解決の鮮やかさは十分なインパクトを備えていますし、全体がうまくまとまっているところも見逃せません。また、見立て殺人の見どころの一つである見立ての理由も秀逸です。解決直前のユニークなギミックも含めて、最初から最後まで楽しめる快作といっていいでしょう。 2006.05.20読了 [東川篤哉] |
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