殊能将之 04


鏡の中は日曜日


2001/12/12

 今年も恒例の『このミス』が発表されたが、舞城王太郎さんの『煙か土か食い物』と殊能将之さんの『黒い仏』のランクインには驚いた。無難な作品が選ばれがちな『このミス』だが、こうしたアクの強い作品を歓迎する声は決して少なくないようだ。

 さて、今年早々に『黒い仏』を刊行した殊能さんから、暮れも押し迫ったこの時期に新刊が届けられた。殊能さんの今後の方向性を占う意味で、注目していた一作だ。

 探偵役は前作に引き続いて石動戯作。ということはあの路線なのか? 結論から言うと、真面目半分おふざけ半分な作風は一緒。しかし、賛否両論のあの力技がツボにはまった方には物足りないかもしれない。

 読みながら既視感を感じていたのだが、それもそのはず、巻末の参考文献一覧には綾辻行人さんの「館」シリーズ全6作が挙げられていた。舞台となるのは梵貝荘なる館。本家に倣って平面図を載せているのはまだしも、これは『水車館』に『迷路館』だし、あれは『人形館』に『黒猫館』だし…いいんですか、これ?

 本作のネタばらしをすることは、綾辻さんの「館」シリーズのネタばらしをすることでもある。まったく厄介な作品を書いてくれたもんだ。これから元祖「館」シリーズを読む予定がある方は、本作を先に読まない方がいい。そして全作読破済みの綾辻ファンの方、どう思いますか? 綾辻さんご本人の心中やいかに。

 殊能さんお得意のうんちく、今回はフランス文学で勝負してきた。前回が仏教だったので今回は「仏」文学にしたのかどうかは知ったことではないが、相変わらずわっかりましぇーん。この馬鹿馬鹿しさは決して嫌いではないんだけど。

 来年は本家本元の綾辻さんが、この食えぬ作家に目にもの見せてくれることを期待したい。このままシリーズ化しちゃうのか? 次は何を企んでいるんだ?



殊能将之著作リストに戻る