横山秀夫 10


看守眼


2004/01/25

 本作収録の各編の主人公の肩書きを並べてみる。警察事務職員。しがないフリーライター。家裁の調停委員。県警警務部情報管理課課長補佐。地方紙の元外勤記者で、現在は編集局整理部の内勤社員。知事公室秘書課の参次兼課長。

 短編の雄たる横山秀夫の作品集は、何らかの共通するテーマに貫かれている。『顔 FACE』、『影踏み』では主人公が、『陰の季節』、『深追い』、『第三の時効』では舞台が、それぞれ共通していた。『真相』は、犯罪の当事者の「事件後」というテーマで結ばれていた。では、本作に共通するテーマとは何だろう。

 あえて述べるなら、主人公に公務員が多いということくらいか。正直、共通するテーマを見出せない。うがった見方かもしれないが、単行本にまとめられるだけ短編が出揃ったから、さあ単行本を出しましょうという版元の意向であるように思えてくる。

 もちろん、だからといって各編の価値には無関係である。「看守眼」だからこそ見抜けた真相。おいしい「自伝」の仕事の裏とは。いい気味だとほくそ笑んだはずなのに、つい「口癖」が。「午前五時の侵入者」は、地獄の使者か。編集局の喧騒とは対照的に、その頃「静かな家」では。嫉妬と疑心暗鬼にかられる「秘書課の男」。

 各編の切れ味、心理描写の妙は相変わらず。だからこそもったいないと思えてくる。作品集としては、各編の持ち味を相殺してしまっている気がするのだ。例えば家庭裁判所を、地方紙を、県庁を、共通の舞台にしたらどうだろう。例えば定年を迎える警察官の物語にしてみたらどうだろう。勝手な言い分だとは承知しているが。

 著作リストをご覧になればおわかりいただけるように、横山作品の版元は多岐にわたっており、それは売れっ子の証拠でもある。だからこそ、ファンとして刊行には慎重を期してほしいのだ。かといって新刊はやっぱり嬉しいわけで、悩ましいところである。

 と、ここまで書いてみて、一つ本作に共通したテーマに気がついた。誰もが小心者なのだ。誰もが不安なのだ。この僕自身も。



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