絶滅職人『洋傘直しクン』、いんてりげんちゃんだなす、『チュウリップの幻術』
っつーことで、『賢治童話を丸写しシリーズその104』だよん。(^
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洋傘直しは農園の中へ入ります。しめった五月の黒つちにチュウリップは無雑作に並べて植えられ、
一めんに咲き、かすかにかすかにゆらいでいます。
[洋傘直し、洋傘直し。荷物をおろし、おまえは汗を拭いている。そこらに立ってしばらく花を見ようと
いうのか。そうでないならそこらに立っていけないよ。]
園丁がこてをさげて青い上着の袖で額の汗を拭きながら向うの黒い独乙(ドイツ)唐檜(とうひ)の茂みの中
から出て来ます。
「何のご用ですか。」
「私は洋傘直しですが何かご用はありませんか。若し又何か鋏でも研ぐのがありましたらそちらの方
もいたします。」
「ああそうですか。一寸お待ちなさい。主人に聞いてあげましょう。」
「どうかお願いいたします。」
青い上着の園丁は独乙(ドイツ)唐檜(とうひ)の茂みをくぐって消えて行き、それからぽっと陽も消えました。
よっぽど西にその太陽が傾いて、いま入ったばかりの雲の間から沢山の白い光の棒を投げそれは向
うの山脈のあちこちに落ちてさびしい群青の泣き笑いをします。
有平糖(あるへいとう)の洋傘もいまは普通の赤と白とのキャラコです。
それから今度は風が吹きたちまち太陽は雲を外れチュウリップの畑にも不意に明るく陽が射しました。
まっ赤な花がぷらぷらゆれて光っています。
園丁がいつか俄かにやって来てガチャッと持って来たものを置きました。
「これだけお願いするそうです。」
「へい。ええと。この剪定鋏(せんていばさみ)はひどく捩(よじ)れておりますから鍛冶に一ぺんおかけなさらない
と直りません。こちらの方はみんな出来ます。はじめにお値段を決めておいてよろしかったらお研ぎいた
しましょう。」
「そうですか。どれだけですか。」
「こちらが八銭、こちらが十銭、こちらの鋏は二丁で十五銭にいたして置きましょう。」
「ようござんす。じゃ願います。水がありますか。持って来てあげましょう。その芝の上がいいですか。ど
こでもあなたのすきな処でおやりなさい。」
「ええ、水は私が持って参ります。」
「そうですか。そこのかきねのこっち側を少し右へついておいでなさい。井戸があります。」
「へい。それではお研ぎいたしましょう。」
「ええ。」
園丁は又唐檜(とうひ)の中にはいり洋傘直しは荷物の底の道具のはいった引き出しをあけ缶を持って水
を取りに行きます。
そのあとで陽が又ふっと消え、風が吹き、キャラコの洋傘はさびしくゆれます。
それから洋傘直しは缶の水をぱちゃぱちゃこぼしながら戻って来ます。
鋼砥(かなど)の上で金剛砂(こんごうしゃ)がじゃりじゃり云いチュウリップはぷらぷらゆれ、陽が又降って赤い
花は光ります。
そこで砥石に水が張られすっすと払われ、秋の香魚(あゆ)の腹にあるような青い紋がもう刃物の鋼にあ
らわれました。
ひばりはいつか空にのぼって行ってチーチクチーチクやり出します。高い処で風がどんどん吹きはじ
め雲はだんだん融けていっていつかすっかり明るくなり、太陽は少しの午睡(ごすい)のあとのようにどこか
青くぼんやりかすんではいますがたしかにかがやく五月のひるすぎを拵(こしら)えました。
(丸写しオシマイ)
『賢治童話を丸写しシリーズその104』でした。
『チュウリップの幻術
』の漫画の紹介
@片山愁:風の又三郎(角川書店) .
◆モダンなのら。(^
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片山愁の漫画版『チュウリップの幻術』は、大正モダニズムだにゃぁ。
片山愁チャン、えらい!誰も漫画化してにゃいこんな地味な作品を漫画化したのは、えらい!
『チュウリップの幻術』が好き、っつー感じが絵にも現れてて、好感を持ったにゃぁ。
ライバル漫画がないのでほめてる、っつーのもあるけど、絵が大正モダンしてるのは決して悪
くはにゃい。洋傘直しクンがエステル工学校の卒業生、っつーいんてりげんちゃんムードもほど
良く出ててえがっだにゃぁ。ま、いつも通りギャグもデフォルメもじぇんじぇんにゃいのは不満だけ
れどね。
っつーことで、『チュウリップの幻術』の漫画版、モダン、っつーのがえらいだなす。(^
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「オノマトペ(擬音語・擬声語・擬態語)なんて集めてどうすんの?」
だんだら:【そして日が照っているために荷物の上にかざされた赤白だんだらの小さな洋傘
は有平糖(あるへいとう)でできてるように思われます。】
だんだら、っつーの江戸ニュアンスだなや、好きだにゃぁ。(^
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有平糖(あるへいとう)、っつーのも好きだにゃぁ。(^ ^;
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『チュウリップの幻術』 .
のオノマトペ
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@てくてく:【てくてくあるいてくるその黒い細い脚はたしかに鹿に肖(に)ています。】
Aだんだら:【そして日が照っているために荷物の上にかざされた赤白だんだらの小さな洋傘は有
平糖(あるへいとう)でできてるように思われます。】
Bちらちら:【[洋傘直し、洋傘直し、なぜそうちらちらかきねのすきから農園の中をのぞくのか。]】
Cきくっ:【[洋傘直し、洋傘直し、なぜ農園の入口でおまえはきくっと曲るのか。]】
Dぽっ:【青い上着の園丁は独乙(ドイツ)唐檜(とうひ)の茂みをくぐって消えて行き、それからぽっと陽も
消えました。】
Eぷらぷら:【まっ赤な花がぷらぷらゆれて光っています。】
Fガチャッ:【園丁がいつか俄かにやって来てガチャッと持って来たものを置きました。】
Gふっ:【そのあとで陽が又ふっと消え、風が吹き、キャラコの洋傘はさびしくゆれます。】
Hぱちゃぱちゃ:【それから洋傘直しは缶の水をぱちゃぱちゃこぼしながら戻って来ます。】
Iじゃりじゃり:【鋼砥(かなど)の上で金剛砂(こんごうしゃ)がじゃりじゃり云いチュウリップはぷらぷらゆれ、
陽が又降って赤い花は光ります。】
Jすっす:【そこで砥石に水が張られすっすと払われ、秋の香魚(あゆ)の腹にあるような青い紋がも
う刃物の鋼にあらわれました。】
Kチーチクチーチク:【ひばりはいつか空にのぼって行ってチーチクチーチクやり出します。】
Lどんどん:【高い処で風がどんどん吹きはじめ雲はだんだん融けていっていつかすっかり明るく
なり、太陽は少しの午睡(ごすい)のあとのようにどこか青くぼんやりかすんではいますがた
しかにかがやく五月のひるすぎを拵(こしら)えました。】
Mだんだん:【雲はだんだん融けていっていつかすっかり明るくなり、太陽は少しの午睡(ごすい)のあ
とのようにどこか青くぼんやりかすんではいますがたしかにかがやく五月のひるすぎを拵
(こしら)えました。】
Nすっかり:【いつかすっかり明るくなり、太陽は少しの午睡(ごすい)のあとのようにどこか青くぼんや
りかすんではいますがたしかにかがやく五月のひるすぎを拵(こしら)えました。】
Oぼんやり:【太陽は少しの午睡(ごすい)のあとのようにどこか青くぼんやりかすんではいますがたし
かにかがやく五月のひるすぎを拵(こしら)えました。】
Pじっ:【[おお、洋傘直し、洋傘直し、なぜその石をそんなに眼の近くまで持って行ってじっとなが
めているのだ。]】
Qむくむく:【[あの、黒い山がむくむく重なり、その向うには定めない雲が翔け、渓の水は風より軽
く幾本の木は険しい崖からからだを曲げて空に向う、あの景色が石の滑らかな面に描い
てあるのか。]】
Rポタポタ:【それは音なく砥石をすべり陽の光が強いので洋傘直しはポタポタ汗を落します。】
Sほっ:【洋傘直しは剃刀(かみそり)をていねいに調べそれから茶いろの粗布の上にできあがっ
た仕事をみんな載せほっと息して立ちあがります。】
21チラッ:【主人らしい人の縞のシャツが唐檜(とうひ)の向うでチラッとします。】
22じっ:【「赤い花は風で動いている時よりもじっとしている時の方がいいようですね。」】
23ぎらぎら:【「あの花の盃の中からぎらぎら光ってすきとおる蒸気が丁度水へ砂糖を溶(とか)したと
きのようにユラユラユラユラ空へ昇って行くでしょう。」】
24ユラユラユラユラ:【「すきとおる蒸気が丁度水へ砂糖を溶(とか)したときのようにユラユラユラユラ
空へ昇って行くでしょう。」】
25おっ:【「やりますとも、おっと沢山沢山。」】
26あんまり:【「あんまり気取ってやがる、畜生。」】
27きゃんきゃん:【「まん中に居てきゃんきゃん調子をとるのがあれが桜桃の木ですか。」】
28やっぱり:【「やっぱり巴丹杏(はたんきょう)やまるめろの歌は上手です。」】
29ガリガリ:【「みんなガリガリ骨ばかり、おや、いけない、いけない、すっかり崩れて泣いたりわめ
いたりむしりあったりなぐったり一体あんまり冗談が過ぎたのです。」】
30パチパチパチパチ:【「パチパチパチパチやっている。」】
31よろよろ:【洋傘直しは荷物へよろよろ歩いて行き、有平糖の広告つきのその荷物を肩にし、も
う一度あのあやしい花をちらっと見てそれからすももの垣根の入口にまっすぐに歩いて
行きます。】
32ちらっ:【有平糖の広告つきのその荷物を肩にし、もう一度あのあやしい花をちらっと見てそれ
からすももの垣根の入口にまっすぐに歩いて行きます。】
『チュウリップの幻術』のオノマトペ、これで、おすめえだぁ。まんず、えがっだなす。
スネオ 拝 (^ ^;
2006.10.15.
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