小山重疊金明滅, 鬢雲欲度香顋雪。 懶起畫蛾眉。 弄妝梳洗遲。 照花前後鏡。 花面交相映。 新帖繡羅襦。 雙雙金鷓鴣。 |
菩薩蠻
小山 重疊して 金 明滅,
鬢の雲 度(わた)らんと欲(す) 香顋の雪に。
懶げに起き 蛾眉を 畫く。
妝を弄び 梳洗 遲し。
花を照らす 前後の 鏡。
花面 交(こもご)も 相(あ)ひ映ず。
新たに帖りて 羅襦に綉りするは、
雙雙 金の 鷓鴣。
****************** 私感訳注: ※菩薩蠻:詞牌の一。詞の形式名。双調 四十四字。換韻。詳しくは 「構成について」を参照。 この詞は、花間集のトップに載せられており、それに倣って、ここでも最初に取り上げることにした。女性が朝起きてくる様子を詠っているが、懶起畫蛾眉や雙雙金鷓鴣で、女性の微妙な心理を表している。 ※温庭 ![]() ※小山:屏風。 *難しい語である。今まで幾通りも考えられてきた。字義通りだと、小さな山。しかし、これは、唐突で後の句に繋がらない。普通は屏山、つまり屏風ととる。この解釈は、花間集中の温庭 ![]() ※重疊:(古・現代語)幾重にも重なり合う。前の語の小山が屏風と見れば、幾重にも折れ曲がっている屏風のことになる。文字通りに読めば、幾重にも屏風で取り囲んだ、ともとれるが、情景が浮かびにくい。小山を屏風以外の意味にとった場合の方が意味が通りやすい。羅隱の『江南行』に「江煙 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ※金明滅:明滅は、きらきら、ぴかぴかとしている様子。例えば流螢明滅 ![]() ※鬢雲:豊かな鬢(横の方に生えている髪)。女性の豊かな髪の毛の形容。または、寝乱れた髪の形容。雲鬢。白居易の長恨歌に「雲鬢花顔金歩揺」 ![]() ※欲度:わたらんと ほっす。雲が流れて来、懸かろうとしている。(寝乱れた)髪が懸かってきていること。 ※香顋:香しい女性のおとがい。香は、女性を暗示する語。顋は、あご。おとがい。 ※雪:ゆき。(女性の)肌の白さの比喩。香顋雪と表現されているので、「香わしい顋(ほほ)の雪(の白さ)」の意に読んでいるが、ここは本来、「香雪顋(香しく雪の(如き)顋)」となるべきところ。韻を踏むため、香顋雪と顛倒させている。それに合わすため、雲鬢とすべきところを鬢雲とし、表現を統一させている。 ※懶起:ものうく起きる。物憂げにおきる。 ※畫:かく。えがく。文字以外のものをかくこと。ここでは黛で眉を画いていること。 ※蛾眉:蛾の触覚のように、すんなりと伸びた女性の美しい眉の比喩。日本では、比喩であまり蛾などを使わないが、文化の違いが分かって、興味をそそられる。 ※弄妝:(妝=粧)化粧をする。弄は、現代語では、するという意味。ここでは、現代語のような積極性はないようだ。 ※梳洗:髪を梳り、顔を洗う。化粧をする。梳沐。蛇足だが、「洗」は本来、「せい」と読むべきもので、現代語の「xi3」と正しく対応している。「先」の影響で慣用音が定着したか。蛇足だが、他に「夢」等も違う形での激しい転訛の例がある。 ※遲:おそい。動きがゆっくりとしていること。化粧して、見せる男性が身近にいないことを暗示している。遅のおそい、という意味は、時間的に日が高くなったという意味ではない。 ※照花:はなを てらす。花は美しい女性の顔。または女性の花簪、或いは、花を彫った頸飾。照は「鏡に映す」という動詞。わざわざ、ピカピカと照らし出すという意味ではない。鏡に映すことを現代語では、照鏡子という。 ※前後鏡:合わせ鏡。 ※花面:花のように美しい女性の顔。雪膚花貌参差是の花貌のこと。ただし、照花の語の意味を花簪ととった場合は、花簪と顔の意、にしないと繋がりにくい。 ※交相映:こもごも あい 映ず。花面を美しい女性の顔ととった場合は、前後の合わせ鏡にこもごも あい 映っている、となる。花面を花簪と顔の意にとった場合は、花簪と顔が美しさを競って鏡に映っている、となる。その際、相の意味は、「明月來相照」 ![]() ※帖:この字も人々を困らせており、今までは貼字と見なして解釈されてきた。はる。模様をはるように縫い取る。 ※綉:綉=繍でぬいとる。ぬいとり。 ※羅襦:うすぎぬの着物。羅は、うすぎぬ。襦は、短い上着、または肌着。漢字そのものの意味では下着が強いが、普通上着ととる。上着がいいか、肌着がいいか。縫い取りのある肌着は痛くて心地悪いと思うので、やはり上着か…。 ※雙雙:つがいに揃った様子をいう。現代語では、量詞(助数詞)を繰り返す場合は、そのようなのがいくつもあるときの表現。つがいになった鳥が、あちらこちらにいる様子。もっとも詞ではリズム重視のため、また、一句の文字数の規定に合わせるため、双の一字でいいところを双双としないとも限らない。 ※鷓鴣:鳥の名。しゃこ。キジ科の鳥。ここでは、雙雙鷓鴣で、男女一緒になることを暗示しており、詞ぜんたいでは、懶起畫蛾眉でも暗示されるように、そのことが、叶わなくて、一人でいる女性の艶めいた寂しさを詠っている。 ◎ 構成について 双調 四十四字。換韻。全ての句が押韻する。押韻の平仄が入れ替わる多彩な詞。
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() となる。押韻は、換韻で、韻式は「aaBB ccDD」韻脚は「滅雪」は第十八部入声で、「眉遲」は第三部平声で、「鏡映」は第十一部去声で、「襦鴣」は第四部平声。 |
2000.9.26 9.27 9.28 9.29完 10. 3 10. 4 10.22(日) 2007.5.10 |
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() メール |
![]() トップ |