絶句 烏江
生當作
人傑
,
死亦爲鬼雄。
至今思項羽,
不肯過
江東
。
**********************
絶句 烏江
生きては 當に 人傑と 作
(な)
るべく,
死しては 亦 鬼雄と 爲
(な)
る。
今に至りて 項羽を思ふに,
江東に 過
(よぎ)
るを 肯
(がへん)
ぜざるを。
私感訳注:
※烏江:安徽省を流れる川の名。ここのほとりで、項羽が劉邦によって滅ぼされた。終焉の地。 *項羽の生き様を詠うとともに、項羽の姿を通して、
金との抗争
に対する宋の軍のあるべき姿をも謂う。詩題を「絶句」また「烏江」「夏日絶句」とする本もある。なお、この詩と似たものに辛棄疾の『浪淘沙』賦虞美人草「不肯過江東,玉帳葱怱。…」がある。この詩は聯でみるとわかりやすい。「生當作人傑,死亦爲鬼雄。」と「 至今思項羽,不肯過江東。」との聯で、とりわけ、「至今思項羽,不肯過江東。」は、(読み下しの語調は別として、散文調に)「今に至りて項羽の江東に過る(こと)を肯(がへん)ぜざる(こと)を思ふ」とすれば明解である。
※生當作人傑:(人は)生きる(限り)は、衆に抜きんでて優れた人物(と謂われるよう)になるべきであり。 ・生當:生きてはまさに……となるべく。蘇武の詩には「生當復來歸,死當長相思。」
とある。 ・人傑:衆に抜きんでて優れた人物。豪傑。史記高祖本紀に「此三者,(蕭何たち三人)皆
人傑
也。吾能用之,此吾所以取天下也。」と出てくる。蛇足だが、時代が下がって曹操も劉備のことを『三國志・魏書・武帝紀第一』でも述べている。
※死亦爲鬼雄:死んでも、殉国の英雄と(讃えられるように)なるべきである。 ・鬼雄:幽鬼の中でぬきんでている者。殉国の英雄。『楚辭』「九歌」中の「國殤」に「身既死兮神以霊,
魂魄毅兮爲
鬼雄
。」
と英傑を讃えている。前出「人傑」に対応して使われている。
※至今思項羽:今になっても(項羽が烏江を渡って逃げようとしなかったことを)思い出す。 *ここは聯「至今思項羽,不肯過江東。」として見るところで、「今に至って項羽を思い起こす(のだが),(彼・項羽が)江東に渡ることを肯(がえ)んじなかったということを思い起こす。」「今になって、項羽が江東に渡って(逃走することに)同意しなかった、ということを思い出し、(彼の雄々しい意気に)心打たれた。」 ・至今:今に至って。今なお。今に至るまで。 ・項羽:秦末の武将で、漢王・劉邦と呼応して秦を滅ぼし、西楚覇王となる。やがて、劉邦と天下の覇権を争ったが、垓下の戦いで大敗して、烏江で自殺する。『史記(中華書局版・金陵局本)・項羽本紀
』に「
項王
(項羽)軍壁垓下,兵少食盡,漢(劉邦)軍及諸侯兵圍之數重。夜聞漢軍四面皆楚
※1
歌,項王乃大驚曰:「漢皆已得楚乎?是何楚人之多也!」項王則夜起,飮帳中。有美人名虞,常幸從;駿馬名騅,常騎之。於是項王乃悲歌
慨,自爲詩曰:「
力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝。騅不逝兮可奈何,虞兮虞兮奈若何
!」歌數
,美人和之
,
。
項王泣數行下,左右皆泣,莫能仰視。」
(
※1
:蛇足:楚は、項籍(字は羽)の本国。ここから「四面楚歌」の言葉が生まれた。)なお、虞美人がこの詩に答えた「漢兵已略地,四方楚歌聲。大王意氣盡,賤妾何聊生。」
も(『史記』の古註に出ている唐・張守節の『史記正義』に)あり、勝者の漢の高祖・劉邦の『大風歌』「大風起兮雲飛揚。威加海内兮歸故鄕。安得猛士兮守四方。」
よく戦乱の世を生き抜いた気概を表している。
西楚覇王・項羽。
。
※不肯過江東:(項羽は)烏江を渡って(逃げることを)承知しなかったこと(を思い出す)。 ・不肯:承知しない。がえんじない。 ・過:川などを渡る。 ・過江東:江東に渡る。 *江東は項羽の故郷だが戦いに敗れ、江を渡って故郷に逃げ帰るのを潔しとしなかった。杜牧も『題烏江亭』
で「勝敗兵家事不期,包羞忍恥是男兒。江東子弟多才俊,捲土重來未可知。」と歌っている。そのくだりは、『
史記・項羽本紀
』には「於是項王乃欲
東渡烏江
。烏江亭長
(=艤)船待,謂項王曰:『江東雖小,地方千里,衆數十萬人,亦足王也。願大王急渡。今獨臣有船,漢軍至,無以渡。』項王笑曰:『天之亡我,我何渡爲!且籍與江東子弟八千人渡江而西,今無一人還,縦江東父兄憐而王(この王は動詞)我,我何面目見之?縦彼不言,籍(=項羽)獨不愧於心乎?』」とあり、その昂ぶりが二千年の時を越えて伝わってくる。
2000. 3. 6
3.28完
5.29補
7.16
11.12
2002.11.21
2003. 7. 8
10. 7
2010. 5. 9
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