李煜　阮郎帰　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩

阮郞歸
漢詩　阮郎帰
呈鄭王十二弟

東風吹水日銜山，
春來長是閑。
落花狼籍酒闌珊，
笙歌醉夢間。

珮聲悄，
晩妝殘，
憑誰整翠鬟。
留戀光景惜朱顏，
黄昏獨倚欄。

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阮郞歸
呈鄭王十二弟
　　　　　　　　　　　　　

東風　水を吹きて　　日　山に銜（かく）れ，
春　來れば　　長（つね）に　是れ　閑たり。
落花　狼籍　　酒　闌珊，
笙歌　　醉夢の間。

珮聲　悄として，
晩妝　殘（くづ）る，
誰に憑（たよ）りて　　翠鬟を　整へん。
光景に　留戀して　　朱顏を　惜しみ，
黄昏に　　獨り　欄に倚る。

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私感注釈

※阮郞歸：詞牌の一。詳しくは下記「◎構成について」を参照。
※呈鄭王十二弟：。李煜の十二番目の弟、従善のこと。その人物に呈した詞。「宋史」巻四百七十八・列伝二百三十七・世家一に「從善字子師，僞封鄭王，累遷太尉、中書令，…（官位・役職）。（年）…奉方物來貢，…留京師。…煜手疏求遣從善歸國，優詔不許。」とあり、宋の都京に留め置かれた弟に呈したものと思われる。
※東風：春風。
※吹水：水面に（川面に）吹きかかる。
※東風吹水：春風が水面に吹いている。
※日銜山：日が山に隠れようとしている。日が山と山の間に沈みかかっていること。「日銜山」は、「日落（西）山」のこと。また、「日已銜山」のことになろう。銜：口にくわえる。含む。
詹幼馨先生の「南唐二主詞研究」（武漢出版社）など幾つかでは、「這裏用来形容陽光照射到山上。」としているが、これだと太陽が山から離れたところにあって、照らしていることになる。ここはやはり、山間に沈む情景ではないか。
※春來：春になる。春が来た。春さる。
※長是：いつも。長（chang2）は常（chang2）と同義に使われる。
※閑：のどかである。詞語としては、空しい、意味もなく。日常普通である。関係のない。
※落花：散りゆく花。
※狼籍：乱雑に取り散らかしている。
※落花狼籍：花びらが辺り一面に散っているさまをいう。
※闌珊：終わりに近づく。盛りを過ぎる。
※酒闌珊：酒盛りが終わりに近づき、興も冷めてきた雰囲気をいう。
※笙歌：笙に合わせて唱うこと。笙：左端
※醉夢間：酔っぱらって、夢か現かよく分からない内に。
※珮聲：宮廷の女性が身につけている玉（ぎょく）の音。
※悄：ひっそりとしている。ひそやかである。
※珮聲悄：宮廷の女性が、皇帝召されることがないため、女性の動きが無く、身につけている玉の飾りの音もひっそりとして響かないことをいう。
※晩妝：夜の化粧。
※殘：くずれる。残はきっちりとした形のものが、缺けて駄目になること。
※憑誰：誰に頼もうか。誰に頼って。
※翠鬟：カワセミの羽のように麗しい（女性の）みどりなす髪。みどりの黒髪。美女の譬え。
※留戀：（白話）恋々として去るに忍びない。懐かしむ。
※光景：景色。眼前の状況。
※朱顏：若者。麗しい若者。
※惜朱顏：過ぎ行く青春の時節を惜しむ。劉希夷「洛陽女兒惜顏色，行逢落花長歎息。今年花落顏色改，明年花開復誰在。」の用法に同じ。
※留戀光景惜朱顏：今見える眼前の春の光景に未練があり、別れ去るに忍びなく、過ぎ行く青春の時節を惜しむ。
※黄昏：たそがれ。薄暗くなった夕刻。
※獨倚欄：独りだけで欄干によりかかる。倚欄：欄干によりかかって、遠望しながら待ち望み、物思いに耽ること。詞ではよく出てくる表現の一。

◎　構成について
　　
　双調。四十七字。　　平声一韻到底韻。　韻式は「ＡＡＡＡ　ＡＡＡＡ」。韻脚「山閑珊間　殘鬟顏欄」で第七部平声。

　　　○●●○○（平韻）。
　　　○●○（平韻）。
　　　○●●○○（平韻），
　　　○●○（平韻）。

　　　○●●，
　　　●○○（平韻），
　　　○●○（平），
　　　○●●○○（平韻），
　　　○●○（平韻）。
　