漢詩 陸放翁
聽雨
南宋 陸游
髮已成絲齒半搖,
燈殘香燼夜迢迢。
天河不洗胸中恨,
却頼檐頭雨滴消。
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雨を 聽く
髮 已
(すで)
に 絲と成り 齒 半ば 搖らぐ,
燈 殘
(すた)
れ 香 燼きて 夜 迢迢
(てうてう)
たり。
天河は 洗がず 胸中の恨,
却って 檐頭の雨滴に 頼みて 消さん。
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◎私感訳注:
※聽雨:雨音に耳をすます。雨音を注意して聴く。雨音を耳をそばだてて聴く。
※髮已成絲齒半搖:頭髪は、とっくに白い絹糸のように白髪となり、歯は半分はぐらぐらと揺らぐようになっている。 *歳を取ったことをいう。 ・髮:頭髪。 ・已:とっくに。すでに。 ・成絲:白い絹糸のように白くなる。 ・絲:絹糸。 ・半:半分。なかば。 ・搖:ゆらぐ。
※燈殘香燼夜迢迢:(火を灯(とも)してから長時間が経ったので)ともしびの火がすたれてきて、香炉の香木も燃え尽きてきて、夜が深々と更けてゆく。 ・燈殘:ともしびの火がすたれてくる。火を灯(とも)してから長時間が経ったので、油や灯芯が切れてきたために焔(ほのお)が小さくなること。長い時間が経ったことの表現。 ・香燼:香炉の香木が燃え尽きる。前出の「燈殘」ととともに「香燼」も長い時間の経過を表現することば。宋詞の婉約詞
に多く見られる。 ・迢迢:〔てうてう;tiao3tiao2○○〕遠いさま遥かなさま。高いさま。ここでは、夜が深々と更けてゆくさまをいう。
※天河不洗胸中恨:天の川(宮廷)は(わたしの)胸中の恨みを雪いでくれない(ので)。 *両宋・張元幹の『石州慢・己酉秋呉興舟中作』に「雨急雲飛,瞥然驚散,暮天涼月。誰家疏柳低迷,幾點流螢明滅。夜帆風駛,滿湖煙水蒼茫,菰蒲零亂秋聲咽。夢斷酒醒時,倚危檣C絶。 心折,長庚光怒,群盗縱横,逆胡猖獗。
欲挽
天河
,
一洗
中原膏血
。兩宮何處?塞垣只隔長江,唾壺空撃悲歌缺。萬里想龍沙,泣孤臣呉越。」
とある。 ・天河:天の川。銀河。宮廷の前の川を「天河」といい、そこの橋を「鵲橋」ということからすれば、裏の意として宮廷を暗示している。 ・不洗:雪ごうとしない。 ・胸中:(作者の)胸の内。 ・恨:うらみ。ここでは、民族の恨み、金に対する恨み、また、金に対して動こうとしない不甲斐ない宮廷のことになる。
※却頼檐頭雨滴消:(それとは)反対に、軒端(に降ってくる)雨のしずくに頼って、(胸中の恨みを)癒してもらおう。雨音を聴いて心を落ち着かせよう。 ・却:反対に。逆に。かえって。 ・頼:たよる。 ・檐頭:〔えんとう;yan2tou2○○〕ひさしの先。軒先。軒端。 ・頭:端、先、尖端。 -頭:名詞・動詞・形容詞などの後に附き、名詞をつくる。 ・雨滴:雨のしずく。雨だれ。「檐頭雨滴」=檐滴:ひさしの雨だれ。 ・消:けす。≒銷。ここでは、「胸中恨」を消すことになる。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「搖迢消」で、平水韻下平二蕭。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2006.10.31
11. 1
11. 2
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