xinqiji XinQiji xin qiji Xin Qiji Shici Shijie shicishijie
落日塞塵起, 胡騎獵淸秋。 漢家組練十萬, 列艦聳高樓。 誰道投鞭飛渡, 憶昔鳴髇血汚, 風雨佛狸愁。 季子正年少, 匹馬黑貂裘。 今老矣, 掻白首, 過揚州。 倦游欲去江上, 手種橘千頭。 二客東南名勝, 萬卷詩書事業, 嘗試與君謀。 莫射南山虎, 直覓富民侯。 ![]() |
落日 塞塵を 起こし,
胡騎 淸秋に 獵す。
漢家の 組練 十萬,
艦を 列ねて 高樓を 聳えしむ。
誰か道(はか)らん 鞭を 投ずるがごとくして 飛渡し,
昔を憶ふに 鳴の 血汚あり,
風雨 佛狸を 愁ふ。
季子 正に 年少にして,
匹馬の 黑き貂裘。
今 老いたり,
白首を 掻けば,
揚州を 過ぐ。
游に 倦(う)みて 江上に 去らんと 欲し,
手づから 種(う)う 橘 千頭。
二客は 東南の 名ある勝(すぐ)れしひとにして,
萬卷の 詩書の 事業,
嘗て 試みに 君 與(と) 謀(はか)れり。
射る 莫れ 南山の 虎を,
直(ひとへ)に 覓(もと)めよ 富民侯を。
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◎私感註釈
※水調歌頭:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。この作品も多数の故実を踏まえて作られている。下片は全て反語となっている。
※舟次揚洲和楊濟翁、周顯先韻:。舟が揚州にとまって、楊濟翁と周顯先に和韻して、詞を作る。この作品は、後世、鄭成功の『出師討滿夷自瓜州至金陵』「縞素臨江誓滅胡,雄師十萬氣呑呉。試看天塹投鞭渡,不信中原不姓朱。』や毛沢東
に影響を与えている
※次:留まる。宿る。
※揚洲:長江の北岸にある街。江南の側から見れば、金に対して背水の陣を布いた位置にある戦略上の要衝。
※和:和韻する。
※楊濟翁:人名。楊炎正のこと。江西省吉水の人で、詞人。
※周顯先:人名。
※落日:夕日。勢いが衰えた、という意もある。
※塞塵起:辺疆、辺塞の地に戦塵が舞い上がる。
※落日塞塵起:夕方になって、辺疆の地に戦塵が舞い上がり。
※胡騎:北方異民族の軍馬。金の軍隊。
※獵淸秋:清々しい秋に狩りをする。 ・淸秋:「天高く秋馬肥ゆる秋」は、胡が中原に進出する時期をいう。
※胡騎獵淸秋:金の軍馬は(天高く秋馬肥ゆる)秋に狩りをする(という名目で兵を中原へ動かす)。
※漢家:南宋の帝室を指している。「長恨歌」の「漢皇重色思傾國」 「聞道漢家天子使」
の「漢家」の用法に同じ。
※組練:組甲被練のこと。いろいろなよろい。日本風に云えばよろいかぶと。転じて、精強な軍隊。 ・組甲:組み紐でおどしたよろい。(甲はかぶとではない。) ・被練:帛で作ったよろい。下級兵士が用いる。
※漢家組練十萬:我が南宋軍の精鋭が十万。
※列艦:川に軍船を並べて浮かべる。
※聳高樓:戦艦である楼船の高殿を凛々しく聳えさせること。
※列艦聳高樓:戦艦を列ねて、楼船の高どのを威風堂々と聳えさせて(防禦の陣を張って)いる。
※誰道:誰が一体推し量ったことだろうか。誰がはかっただろうか。 ・道:はかる。推し量る。ここでは、「言う」の意味はない。
※投鞭:兵力の多くて強いこと。「晋書杜預伝」「以吾之衆,投鞭於江,足斷其流。」現代語でも成語として、“投鞭斷其流”があり、意味は同じで、「兵士の持っている鞭を川に投げると、そのために流れが止まる」ことで、「兵力の多くて強いこと」をいう。
※飛渡:天塹というべき長江を簡単に越えて渡ること。「南史」「長江天塹,古來限隔,虜軍豈能飛渡?」、「晋書杜預伝」「北來諸軍乃飛渡江也。」などに使われている。
※誰道投鞭飛渡:誰が大勢力が簡単に長江を越えてくると想像したろうか。。
※憶昔:昔の(故実を)思い起こせば。我が国の「平家物語」の「遠く異朝をとぶらへば、」や「近く本朝をうかがふに」に当たろう。
※鳴:鳴箭をならして。
:かぶらや。なりや。音を発する矢。 ここでは、鏑矢で太子に射殺され匈奴の頭曼単于を指している。
※血汚:横死、非命に斃れることを指す。
※憶昔鳴血汚:思えば、(匈奴の頭曼単于は、太子勢の)鏑矢で、射殺され。
※佛狸:北魏の太武帝(拓跋燾)の幼名。外征の失敗後、臣下によって殺された。
※風雨佛狸愁:風雨は非命に斃れた北魏の太武帝を悼んでいる。
※季子:戦国時代の遊説家・蘇秦の字。「合従連衡」の「合従」(縦に並んだ六国同盟)を主張したことで有名。後出の「黑貂裘」は蘇秦が資金としてもらったもの。
※正年少:若かったとき。辛棄疾自身が若かったときの蹶起、従軍ことも指しているか。
※季子正年少:蘇秦が若かった頃、(遊説で活躍して)。
※匹馬:=一匹馬。一頭の馬。独りだけで。
※黑貂裘:黒てんの皮ごろも。趙の李兌が、蘇秦に活動資金として渡したものの一で、これゆえ秦に行けた。 ・貂裘:(てうきう;diao1qiu2)てんの皮ごろも。
※匹馬黑貂裘:単騎で、黑貂裘を携えて行動を起こした。作者自身の若かったときの蹶起をも重ねている。
※今老矣:今は老いてしまった。 ・矣:…てしまった。
※掻白首:白髪頭を掻く。杜甫の「夢李白」を踏まえているとすれば、嘆きの思いで一杯である。「夢李白」は「浮雲終日行,遊子久不至。三夜頻夢君,情親見君意。告歸常局促,苦道來不易。江湖多風波,舟楫恐失墜。出門掻白首,若負平生志,冠蓋滿京華,斯人獨憔悴。熟云網恢恢?將老身反累。千秋萬歳名,寂寞身後事。」これらをを言いたいのか。
※過揚州:。平生の志に負(そむ)くが若(ごと)くでいるままに揚州を過ぎようとしている。
※倦游:宦游に倦んだ。仕官を求めて各地を渡り歩くことに疲れた。
※欲去江上:江上へ行きたい。隠居したい。 ・江上:江湖に(世間に)。長江の上に。長江に。ここは、前者の意。
※倦游欲去江上:仕官を求めての動きには、倦み疲れたので、民間の許へ帰りたい。退官して、隠棲したい
※手種:手ずから植える。
※橘千頭:千本の橘の木。三国時代、丹陽の太守李衡が、子孫のために橘千本を植えて、その実入りで生活できるように図った故事で、太守がそれを「千頭木奴」と謂ったことに由来する。我が国の「子孫のために美田を買わず」の逆。
※手種橘千頭:(隠居して)手ずから橘を千本植えて、その収入で生活して暮らそう。隠居して、自分自身のことのみをするということ。国事を忘れて、自分のみを構って過ごそうということ。
※二客:楊濟翁、周顯先を指す。
※名勝:名門。名家。
※二客東南名勝:(楊濟翁、周顯先の)お二人は、この地の名家の人である。
※萬卷詩書事業:筆の力で訴えていき、再び純朴な風俗に戻していこうという行為。杜甫の「奉贈韋左丞丈」に「讀書破萬卷,下筆如有神。……致君堯舜上,再使風俗淳。」。
※嘗試:かつてしようとしたことがあった。つまり、成功はしなかったということ。言葉をぼやかしている。
※與君:あなたと。
※謀:計画を立てる。つまり、実践までには至らなかったと謂うこと。意図的に語勢を弱めている。
※嘗試與君謀:かつて、あなたと(文化革命の事業)を手がけようと思ったことがあった。
※莫射:射殺してはならない。
※南山虎:終南山の虎。李廣が終南山に蟄居したとき、自らそこの虎を退治したことを指す。
※莫射南山虎:終南山の虎を射殺した(勇猛な外征の将軍)李廣のようになってはならない。外征や北伐など、国家、民族の大事に思いを致すな。反語であり、強烈な朝廷批判である。
※直覓:ひとえに求めよ。
※富民侯:漢代の官職。武帝が外征を悔い、庶民の困窮を憐れんで、丞相を富民侯としたこと。高位高官。「富民」の語からでも国内だけを見つめる、という感じが出ている。
※直覓富民侯:ひたすら(国内だけを見つめる)高い官位を得ることのみを考えよ。これも強烈な反語である。
◎ 構成について
双調。九十五字。平韻一韻到底。韻式は「AAAA AAAA」。韻脚は「秋樓愁裘 州頭謀侯」で第十二部平声十一尤。
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●●○○。(韻)
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●●○○。(韻)
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●●○○。(韻)
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●●○○。(韻)
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●○○。(韻)
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●●○○,(韻)
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●○○
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●●○○。(韻)
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●●○○。(韻)
2002.4.4 4.5 4.6 4.7 4.8完 |
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