〈チョーモンイン・シリーズ〉西澤保彦 |
シリーズ紹介 |
“新本格ミステリ”ムーブメントの終期、第二長編の『完全無欠の名探偵』を皮切りに、『七回死んだ男』や『人格転移の殺人』などのSF設定を取り入れたミステリ――いわゆる“SF新本格”を次々と発表した西澤保彦による、各種の超能力を題材にしたSFミステリのシリーズです。 物語の舞台は、一般には知られることなく様々な超能力者たちが実在する一方、超能力の不正使用を取り締まる秘密組織、〈超能力者問題秘密対策委員会〉――略称〈チョーモンイン〉が密かに活動する世界。その〈チョーモンイン〉の出張相談員(見習)・神麻嗣子{かんおみ・つぎこ}が、能力を悪用した超能力者を“補導”すべく、売れないミステリ作家・保科匡緒{ほしな・まさお}(注:こちらは男性)と美貌の警部・能解匡緒{のけ・まさお}(注:こちらは女性)らとともに、超能力が関わる事件を解決していく、というのがシリーズ各エピソードの基本形です。 各エピソードでは超能力が扱われていますが、“不可能犯罪の真相が超能力によるものだった”というような“ダメSFミステリ”の典型とは違って、“超能力が使われたこと”自体は――場合によってはある程度“どのように使われたのか”まで――早い段階で明かされる形になっており、それを前提とした“誰が超能力者なのか?”や“何のために超能力が使われたのか?”といった謎の解明が、通常の犯人探しなどとともに興味の中心となります。その前提部分を担っているのは〈チョーモンイン〉による超能力の観測で、その点では、魔術による捜査が重要な役割を果たすランドル・ギャレットの〈ダーシー卿シリーズ〉に通じるところがあるように思います。 (水玉螢之丞氏によるイラストも相まって)魅力的な登場人物たちによる(大筋では)コメディタッチの物語も楽しいところで、シリーズが進むにつれて神麻嗣子・保科匡緒・能解匡緒の三人の関係が深化していくとともに、新たなシリーズキャラクターも加わってきて、にぎやかな作品世界になっています(シリーズの詳細は、「神麻嗣子の超能力事件簿 - Wikipedia」をご覧ください)。 |
作品紹介 |
このシリーズは2014年7月現在、長編と短編集を合わせて全八冊が刊行されており、刊行順に並べると以下のようになります。
ただし、最初の三冊について作中の時系列(発表順)では、『念力密室!』に収録されたエピソードの間に『幻惑密室』と『実況中死』が挟まる形になっており、以下のような順序になります(その後は基本的に刊行順)。
前述のように、作品を重ねるにつれて登場人物たちの関係が変化していくので、できれば作中の時系列に沿った上の順番で読んでいくのが望ましいのですが、難しい場合はとりあえず最初に『念力密室!』を読むことをおすすめします。シリーズ最初のエピソードが収録されているのももちろんですが、超能力がシンプルでなおかつ純粋に“密室を構成する手段”として扱われているため、超能力の設定や扱いががやや複雑な『幻惑密室』に比べてとっつきやすいと思われるからです。
2006年に『ソフトタッチ・オペレーション』が刊行された後、長らく新作が途絶えているのが残念ですが、『念力密室!』の「あとがき」で |
念力密室! 西澤保彦 | |
1999年発表 (講談社ノベルス・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
2014.07.10再読了 [西澤保彦] |
幻惑密室 西澤保彦 | |
1998年発表 (講談社ノベルス・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想]
*1: 本書では新キャラの“アボくん”も登場します。
*2: 正式名称は一応伏せておきます。 *3: 最初が60分、その作用中に二度目を発動すると45分、以下、三度目が30分、四度目が15分(五度目は使えない)とされていますが、そこに生理的・心理的な根拠はありませんし、個人差はまったくないのかと気になってしまいます。 *4: 設定が細かく具体的になればなるほど特殊なものになっていくわけで、これが特定の一人の超能力についての話ならばまだわかるのですが、(超能力者探しもあるのでやむを得ないのでしょうが)〈ハイヒップ〉なる超能力すべてがそうだというのはちょっと……。 2014.07.02再読了 [西澤保彦] |
実況中死 西澤保彦 | |
1998年発表 (講談社ノベルス・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想]
*1: 自覚なしに送信するだけという性質上、超能力の不正利用ができないため。
*2: 最初に“パス”がつながったことは観測されていますが、これも超能力の性質上(なのか?)、それ以上の観測はできないようです。 *3: 長めに引用すると、 “犯人の意外性で読ませるなんて企画は、現代の本格ではもう無理というのは常識である。読者は「犯人を当てられなかったから」意外性を感じるわけではない。「完全に疑惑の対象外だったから」驚くのである。しかし、これだけミステリが浸透した時代となると読者も周到で、登場人物という登場人物は一応全員疑う。(中略)極端な話、たとえ路傍の石であっても小説の中に登場してくる以上、見逃してはもらえない時代なのである。”(139頁)といった具合で、思わず苦笑させられつつも、ミステリ作家の苦労に改めて頭が下がります。 2014.07.08再読了 [西澤保彦] |
転・送・密・室 西澤保彦 | |
2000年発表 (講談社ノベルス・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: 移動(瞬間移動など)・目撃(この作品の分身など)・時間(『幻惑密室』の〈ハイヒップ〉など)といった具合に、アリバイ工作の手段としては様々なものがあり得るのが難しいところで、真相を隠しつつフェアに書こうとすれば条件や手順などが煩雑になってしまうきらいがあるように思います。
*2: いうまでもないかもしれませんが、密室に比べると犯人にとってのメリットが明らかなため、ストレートなホワイダニットは成立しません。 *3: もっとも、ラリイ・ニーヴン「タイム・トラベルの理論と実際」(『無常の月』収録)で指摘されているように、実際には地球自体が移動しているわけですから、空間的な移動なしの時間移動は成り立たないことになりますが。 *4: すぐに思いついたのは、久住四季『トリックスターズM』くらいです。 *5: 本書だけを読むと何のことだかよくわからないかもしれませんが……。 *6: 例えば、被害者を殺害した後で被害者の姿に“擬態”して目撃させ、犯行時刻を偽装するトリックなど。 2014.07.15読了 [西澤保彦] |
人形幻戯 西澤保彦 | |
2002年発表 (講談社文庫 に24-15・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: 本書から先に読んでも、意味がよくわからないだけで他に大きな問題はなさそうですが、できるだけ順番に読む方が望ましいでしょう。
*2: そもそも、(題名で“不測の事態”が示唆されているので問題ないかもしれませんが)(一応伏せ字)被害者の死因(ここまで)からして、かなり苦しいところがあります。 *3: 実際に作中でも、超能力の不正使用にはあたらないと判断されている節があります。 2015.06.14読了 [西澤保彦] |
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