白雲山上白雲飛, 幾戸人家倚翠微。 行盡白雲雲裡路, 滿身還帶白雲歸。 |
白雲山上 白雲 飛び,
幾戸の人家か 翠微に 倚(よ)る。
行き盡す 白雲 雲裡の路,
滿身 還(ま)た 白雲を 帶びて 歸る。
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◎ 私感註釈
※太宰春臺:延寶八年(1680年)〜延享四年(1747年)。江戸中期の儒学者。古文辞学派。名は、純。字は徳夫。通称弥右衛門。紫芝園、春台(春臺)は号になる。信濃の人。
※登白雲山:妙義山東側の主峰である白雲山に登る。 *作者は妙義神社に詣ったのであろうか。白雲山に登った時の作。 ・白雲山:妙義山山塊の東側を形成する北より白雲山、金洞山、金鶏山の山峰の一つで最北に位置する山。群馬県甘楽郡妙義町にあり、その東側山麓に妙義神社ある。上毛三山の一。
※白雲山上白雲飛:妙義山東側の主峰である白雲山上に、白い雲が飛び。中国(唐)詩の雰囲気を漂わせる詩である。 ・白雲:白い雲。俗世間を超越したことを暗示する語でもある。唐の王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」 や、唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」 また、崔(さいかう:cui1hao4)の七律『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡州。日暮ク關何處是,煙波江上使人愁。」、漢の武帝・劉徹の樂府『秋風辭』「秋風起兮白雲飛,草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳,懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河,中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌,歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」 「白雲」の語はなく「雲」だけになるが、晉・陶淵明の『歸去來兮辭』の「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。乃瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。ス親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。已矣乎,寓形宇内復幾時。曷不委心任去留,胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願,帝ク不可期。懷良辰以孤往,或植杖而耘。登東皋以舒嘯,臨C流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」 や唐の賈島『尋隱者不遇』「松下問童子,言師採藥去。只在此山中,雲深不知處。」 がある。 ・飛:雲が速く動くさまを表現する。前出漢・武帝の樂府『秋風辭』「秋風起兮白雲飛」による。
※幾戸人家倚翠微:数軒の民家が、山の中腹に寄りかかってある。 ・幾戸:数戸の。幾軒かの。 ・人家:人の住む家。本来は白雲の郷には、人は住まないものであるが、意外にも住んでいた、という驚きの気持ちを詠っている。単に景色の描写だけではない。前出、杜牧の『山行』の「白雲生處有人家。」に基づく。 ・倚:寄る。 ・翠微:山の中腹、八合目あたりをいう。宋の岳飛の『池洲翠微亭』に「經年塵土滿征衣,特特尋芳上翠微。好水好山看不足,馬蹄催趁月明歸。」 がある。もっとも、後世は固有名詞になっている。
※行盡白雲雲裡路:充分に白雲山と呼ばれる妙義山歩きまわって。 ・行盡:行き尽くす。歩き尽くす。充分に歩いて。 ・白雲:ここの「白雲」は白雲山のこと。 ・雲裡路:雲の中の道。「裡(裏)」は●の場合に使い、○の場合には「中」を使う。
※滿身還帶白雲歸:体中になおまた、白い雲の超俗の雰囲気を携えて、元の所に帰るとしよう。 ・滿身:体いっぱい。全身。一身。後世、河野鐵兜は『芳野懷古』で「山禽叫斷夜寥寥,無限春風恨未銷。露臥延元陵下月,滿身花影夢南朝。」と使う。 ・還:また、なおまた。「還」は○の場合に「使い、●の場合は「尚」等を使う。 ・帶:おびる。 ・白雲:白い雲、また、超俗の雰囲気。 ・歸:本来いるべき所にもどる。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「飛微歸」で、平水韻上平五微(微飛歸)。次の平仄はこの作品のもの。
●○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成16.4. 3完 10.23補 平成17.8.24 平成19.4.17 |
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