秋瑾詩詞　満江紅　碇豊長の詩詞　漢詩qiujin

◎私感注釈

※滿江紅：詞牌の一。詳しくは下記「◎　構成について」を参照。夫とそれを取り巻く環境に強烈に嫌悪感を示した詞で、革命家、闘士と成長する前の、個人的な叫びである。
※小住：（白話）暫時滞在する。〔白話〕それがし…に滞在する。　・小：〔白話〕それがし。わたし。
※京華：京。花の都。みやこ。帝都。
※早又是：はや、またもや……になった。
※中秋佳節：仲（中）秋節。秋節。中秋の佳節。
※早又是中秋佳節：はやくもまた中秋節になった。
※籬下黄花：垣根の下の菊の花。黄花：菊の花。陶淵明の「飮酒」二十首中の其五に「採菊東籬下，悠然見南山。」

がある。言ってみれば、この「飮酒詩」以降、中国の菊は全て東籬の下に咲くが如くになった。
※開遍：咲くことがあまねきこと。開：花が咲く。
※爲籬下黄花開遍：（中秋節になった）ために、垣根の下の菊の花が咲くことがあまねく（咲くように）なった。
※秋容：秋の様子。秋のかたち。秋色。
※如拭：ぬぐうが如く、ぬぐったようにはっきりとする。くっきりとした。
※秋容如拭：秋の様子はぬぐったかのようにくっきりとして。
※四面：周り。「史記・項羽本紀」の「四面楚歌」を踏まえている。「夜聞漢軍四面皆楚歌，項王乃大驚曰：『漢皆已得楚乎？是何楚人之多也！』」　「史記」原文と「垓下歌」

が元になっている。また、虞美人作と伝えられる「漢兵已略地，四方楚歌聲」

もある。
※歌殘：歌は完全ではない。
※終破楚：ついに楚を破った。
※四面歌殘終破楚：歌は完全ではないものの、ついには楚を破った。状況の苛烈さが完膚無きものでなくとも、圧倒されそうになった
※八年風味：八年間の深い意味。彼女の年譜を基にして考えるに、この詞は一九〇三年に北京へ出てきたときとすれば、その八年前、結婚している。ここの意味は「この八年間の結婚生活は」になろう。
※徒思：いたずらに思う。つい意味もなく思い出してしまう。
※浙：浙江省。ここでは、彼女の故郷の浙江省紹興等を指している。
※八年風味徒思浙：この八年間の結婚生活の意味は、いたずらに故郷の浙江・紹興を思い出させるものであった。夫と結婚生活への不満である。
※苦：苦にする。
※將：…を。…を以て。

※儂：わたし。詩詞でよく使われる。
※強派：（白話）しいる。
※作蛾眉：淑女とふるまう。
※苦將儂強派作蛾眉：わたしに良家の淑女とふるまうよう強いてくることを苦痛に感じる。
※殊未：（古・白話）ついにまだ…だ。何としたことか、まだ…だ。
※未屑：（白話）潔しとしない。屑：いさぎよい。
※殊未屑：（良家の淑女、手弱女とふるまうことには）ついにいまだに潔しとしないでいる。
※身不得：この肉体は…できない。この体つきは、（男の内には）いれてもらえない。
※男兒列：男の仲間。
※身不得，男兒列：この肉体は男の仲間に入れられないが。
※心却比，男兒烈：心は男児よりも激しい。比：…よりも。「［形容詞］＋於」で、「…よりも　□い」という意味を持つ。例えば、「Ａ大於Ｂ」では、「Ａは、Ｂよりも大きい」という意味になる。杜牧の「山行」「霜葉紅於二月花。」

等が有名。
※算：（白話）…だと思う。…ということになる。…に数えられる。
※平生：平素、日常。一生涯。
※肝膽：肝臓ときも。転じて真心。
※算平生肝膽：平生の心は、……と思っている。
※因人常熱：人のために、いつもあつくなる。人：他人。長沙本

では「不因人熱」となっている。「不因人」は、「人に頼らない」の意で、「後漢書・梁鴻傳」に「某不因人而熱者也」とある。また「晏子春秋・第三卷」にも「晏子對曰：『……事君不因人而進，則臣和矣。』…」とある。
※俗子：俗人。
※胸襟：気持ち、胸の内、心の中。（白話）度量。ここは後者・白話の意。
※誰識我：誰が私の心を分かってくれようか。識：しる。
※俗子胸襟誰識我：俗人どもの度量では、誰が私の思いを理解できようか。
※英雄末路：英雄の最期は。
※當：当然…になるだろう。まさに…べし。
※磨折：（白話）難儀をする。苦労をする。
※英雄末路當磨折：英雄の最期は当然のことながら、苦労が多いことだろう。
※莽紅塵：果てしのない俗塵。紅塵：繁華雑沓。転じて、浮き世。俗世間。俗塵。莽：草深い。粗い。そそっかしい。ここでは莽蒼の意味、茫漠としている、広々としている、で使われている。
※何處：いずこに。どこで。
※覓知音：真実の友を見つける。覓：もとめる。知音：真実の友。
※莽紅塵何處覓知音：果てしのない俗塵に身を置きながら、どこで真実の友を見つけることができようか。
※靑衫濕：青い服が涙で濡れる。靑衫：身分の低い者の着る青い服。白居易の「琵琶行」の最後の句

でもある。多分その詩中の「…弦弦掩抑聲聲思，似訴平生不得意。低眉信手續續彈，説盡心中無限事。 ………自言本是京城女，家在蝦蟆陵下住。十三學得琵琶成，名屬敎坊第一部。曲罷曾教善才伏，妝成毎被秋娘妬。 ………暮去朝來顏色故。門前冷落鞍馬稀，老大嫁作商人婦。商人重利輕別離，………滿座重聞皆掩泣。座中泣下誰最多，江州司馬（すなわち作者）靑衫濕。」

を言いたかったのだろう。　「私はちゃんとした家の娘で、立派な教育を受けてきた。しかし、はからずも、この俗物の夫と結婚したが、彼は俗世間の利ばかりを重んじ、夫婦の情愛、信義を軽くしている。」また、序でも「自敘少小時歡樂事，今漂淪憔悴，轉徙於江湖（全国各地のこと）間。予出官二年，恬然自安，感斯人言，是夕始覺有遷謫意。」

とあり、今昔の感や遷謫の思いを持ったのだろう。