日月不肯遲,
四時相催迫。
寒風拂枯條,
落葉掩長陌。
弱質與運,
玄鬢早已白。
素標插人頭,
前途漸就窄。
家爲逆旅舍,
我如當去客。
去去欲何之,
南山有舊宅。
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雜詩十二首
其七
日月 肯へては 遲れず,
四時(しいじ) 相ひ 催して 迫る。
寒風 枯れたる條(えだ)を 拂ひ,
落葉 長陌を 掩ふ。
弱質 運與(と) (おとろ)へ,
玄鬢 早や已(すで)に 白し。
素標 人頭に 插さば,
前途 漸(やうや)く 窄に 就(つ)く。
家は 逆旅(げきりょ)の舍 爲(た)りて,
我は 當(まさ)に去るべきの客の如し。
去り去りて 何(いづ)くにか 之(ゆ)かんと 欲す,
南山に 舊宅 有り。
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◎ 私感註釈
※陶潛:東晉の詩人。。。雜詩十二首は、老年期の作八首と壮年期の作四首とに分けられ、これは八首の方のもの。故、雜詩八首ともする。これは、其七になる。この詩は、陶淵明の『自祭文』に重なる部分が多い。
※日月不肯遲:月日の運行は、積極的に年月の経過を遅らせることはしないものの(ゆっくりと確実に) ・日月:月日の運行。時間の経過。 ・不肯:積極的には…しない。あえては…しない。 ・遲:年月の経過を遅らせる。
※四時相催迫:四季(の移ろい)が、せきたてて、迫ってくる。 ・四時:〔しいじ、しじ;si4shi2〕四季。一日中。ここは、前者の意。 ・相:…てくる。動作が及んでくる表現。 ・催:せきたてる。うながす。もよおす。ここは、前者の意。 ・迫:せまる。
※寒風拂枯條:冬の寒々とした風は、冬枯れの葉のない細い枝を吹きはらう。 ・寒風:冬の寒々とした風。 ・拂:はらう。ここは、しなやかな枝を吹く風で動かされているさまをいう。 ・枯條:冬枯れの葉のない細い枝。 ・條:しなる細い枝。
※落葉掩長陌:落ち葉が長い道を覆い尽くしす。 ・掩:おおう。 ・長陌:長い道。 ・陌:田畑の中を東西に走る路。あぜ道。道。ここは、韻脚でもある。
※弱質與運:(わたしの)ひ弱な体は、まわりあわせの時と共に、おとろえてきて。 ・弱質:弱いたち。ひ弱な体質。蒲柳の質。 ・與:と共に。一緒になって。 ・運:まわりあわせ。運命。時。おり。機会。 ・:〔たい;tui2〕おとろえる。すたれる。=頽。
※玄鬢早已白:黒い髪も、早すでに白くなり。 ・玄鬢:黒い髪。黒い鬢。 ・玄:黒い。 ・早:はやくも。 ・已:すでに。とっくに。 ・白:しろくなる。動詞の用法。
※素標插人頭:白いしるし(白髪)が人の頭に現れる。 ・素標:白いしるし。白髪のこと。 ・素:白い。 ・插人頭:ここでは、髪の毛が白くなってきたことを、こう表現している。
※前途漸就窄:(髪に白い物が混じりだしたということは、)人生の前途も、だんだんとせばまってきている(証明だ)。 ・前途:人生の将来。行く末。 ・漸:ようやく。だんだんと。 ・就:なる。つく。おもむく。 ・窄:せまい。せばまる。
※家爲逆旅舍:(我が)住処は、(人生の)仮の宿である。ここは後出「南山有舊宅」句中の「舊宅」に対して使われている。ここの「逆旅舍」や次の句の「當去客」は、陶淵明の『自祭文』に同じ。後世、李白が『春夜宴桃李園序』の中で「夫天地者,萬物之逆旅;光陰者,百代之過客。」として、使っている。 ・家:自宅。自分の住処。 ・爲:…とする。…となす。 ・逆旅舍:宿屋。旅館。旅人をむかえる建物。 ・逆旅:〔げきりょ;ni4lyu3〕宿屋。 ・逆:むかえる。 ・旅:旅人。・舍:建物。
※我如當去客:わたしは、去っていくべき旅人のようである。 ・如:…のようである。 ・當去客:去っていくべき旅人。 ・當:まさに…べし。 ・去客:旅人。過客。
※去去欲何之:去っていき、どこへ行こうとするのか。 ・去去:『古詩十九首』之一に「行行重行行,與君生別離」とある。 ・欲何之:後出王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。」がある。
※南山有舊宅:南山には、旧宅ともいうべき先祖からの墓地があるのだ(。そこへ行く)。後世、王維がこの詩句から『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」がある。 ・南山:陶淵明の隠棲した近くにある盧山を指す。なお、前出、王維詩の南山は、終南山を指す。 ・舊宅:ここでは、陶淵明の先祖からの墓地をいう。陶淵明の『自祭文』の「陶子將辭逆旅之館,永歸本宅」に同じ。
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◎ 構成について
韻式は「aaaaaa」の入声韻。韻脚は「迫陌白窄客宅」。平水韻で見れば主として入声十一陌(陌客白窄迫)になる。この作品の平仄は次の通り。
●●●●○,
●○○○●。(韻)
○○●○●,
●●●○●。(韻)
●●○●○,
○○●●●。(韻)
●○●○○,
○○●●●。(韻)
○○●●●,
●○○●●。(韻)
●●●○○,
○○●●●。(韻)
2003.7.25 7.26 7.27 7.28完 10. 2補 11.18 |
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