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        同崔載華贈日本聘使

                     
唐・劉長卿


憐君異域朝周遠,
積水連天何處通。
遙指來從初日外,
始知更有扶桑東。






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崔載華(さいさいくゎ)(とも)に 日本の聘使(へい し )に贈る               
(あは)れむ 君 異域( い ゐき)より  周に朝すること 遠く,
積水(せきすゐ) 天に連なりて  (いづ)れの處か通ず。
遙かに(ゆびさ)す  來ること初日(しょじつ)の外よりと,
始めて知る  更に 扶桑( ふ さう)の東 有るを。

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◎ 私感註釈

※劉長卿:盛唐の詩人。709年?(景龍年間?)〜780年?(建中年間?)。字は文房。河間(現・河北省)の人。進士に合格して官吏となるも下獄、左遷された。ために、詩には失意の情感や離乱を詠うものが多い。五言詩に優れていることから「五言(の)長城」と称された。

※同崔載華贈日本聘使:崔載華とともに、日本の使節に(この詩を)贈る。 ・同:…とともに。…といっしょに。 ・崔載華:詳細は不詳。劉長卿には『贈崔九載華』『送張起崔載華之閩中』、『茱萸灣北答崔載華問』、『酬李員外從崔録事載華宿三河戍先見寄』と争闘密度の濃い交遊があったのが覗える。 ・聘使:〔へいし;pin4shi3●●〕(招き寄せた)使節。ここでは、日本から招き寄せた使節のことになる。

※憐君異域朝周遠:あなたは、異国から遥々と中華に朝謁に(来たのを)気の毒に思う。 *この「憐君異域朝周遠」句を連動文のようにとって読むがいいのか。劉長卿には似通ったものに前出・『贈崔九載華』「
憐君一見一悲歌, 歳歳無如老去何。 白屋漸看秋草沒, 雲莫道故人多。」があり、これも連動文のように読まれているが…。 ・憐君:あなたを気の毒に思う。 ・異域:〔いゐき;yi4yu4〕よその土地。外国。異郷。盛唐・王維の『送祕書晁監還日本國』に「積水不可極,安知滄海東。九州何處遠,萬里若乘空。向國惟看日,歸帆但信風。鰲身映天K,魚眼射波紅。ク樹扶桑外,主人孤島中。別離方異域,音信若爲通。」とある。 ・朝:〔てう;chao2○〕朝廷に参る。参内(さんだい)する。朝賀、朝拝の「朝」。 ・朝周遠:遠路を中華の地に朝拝しに来る。 ・周:中国古代の国名。中華、唐土、漢土の意。陳子昂の『感遇詩』に「昔日王子,玉馬遂。」(殷:〔いん;yin1〕古代の王朝名)とあり、王維の『奉和聖製送不蒙都護兼鴻臚卿歸安西應制』に「雜虜盡,諸胡皆自。」(鄶:〔くゎい;kuai4●〕周代の国名。祝融の子孫の封ぜられた国。今の河南省内)とある。*この部分は七忘斎主人にいろいろと教えていただいた。 また、国のまわり。国の隈。

※積水連天何処通:深い海は天に連なっているが、どこで通じているのだろうか。 ・積水:深く積もった水で、海のこと。前出・王維の『送祕書晁監還日本國』に「
積水不可極,安知滄海東。」とある。「汎舟大河裏,積水窮天涯。」「積水浮香象,深山鳴白鷄。」、金・元好問の『山居雜詩』に「鷺影兼秋靜,蝉聲帶晩涼。陂長留積水,川闊盡斜陽。」とある。 ・連天:天にまで連なる。遙か果てまで、ずっと広がっているさまをいう。趙『江樓書感』「獨上江樓思渺然,月光如水水連天。同來翫月人何處,風景依稀似去年。」 や、李清照の『點絳唇』に「連天衰草,望斷歸來路。」 がある。 ・何處:どこ。いづこ。

※遥指來従初日外:遥か、朝日の向こう側から目指して来て。  ・來從:…より来る。「來從+場所」で「初日外」(朝日の向こう側=朝日の出るところよりも向こう側)で、「朝日の出るところよりも更に東側
から来た」ということ。 ・初日:〔しょじつ;chu1ri4○●〕朝日。旭日。≒初陽。 ・外:…の向こう側。

※始知更有扶桑東:やっと分かった(のは、)扶桑のそのまた東があるということなのだ。 ・始知:やっとわかった。 ・更:その上。一層。さらに。 ・有:…がある。…を持っている。ここでは、「(海の東に扶桑の木があるのを知ってはいたが、その)扶桑の東側というもの
がある(そして、そこに日本があるということ)」のことになる。蛇足になるが、日本語で「ある」という語は、古漢語では主として「有」か「在」。ただ、漢語では「有」と「在」とでは、意味が大きく異なる(「有扶桑東」⇔「在扶桑東」(扶桑の東にあり))ので、ここはあくまでも「有」の意での「ある」。なお、「在」の用例に「倭人帶方東南大海之中,依山島爲國,舊百余國。」(『魏書』)や 「韓東南大海中,依山島爲居,凡百余國。」(『漢書』)(…にあり)がある。  ・扶桑:〔ふさう;fu2sang1○○〕日の出る東海の中にあるとされた神木。扶木。後に日本の異称となる。『山海經』第九 海外東經に「下有湯谷,湯谷上有扶桑,十日所浴,在K齒北居水中有大木九日居下枝,一日居上枝」とあり、第十四 大荒東經に「大荒之中有山名曰:孼搖頵羝,上有扶木〔扶木當爲榑木〕,柱三百里其葉如芥,有谷曰:温源谷,湯谷上有扶木〔扶桑在上〕,一日方至一日方出,皆載於烏。」とある。 ・東:(そのまた)東の方。前出・王維『送祕書晁監還日本國』で謂えば「ク樹扶桑とある、「外」の部分。

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◎ 構成について

韻式は「AA」。韻脚は「通東」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は次の通り。
   

○○●●○○●,
●●○○○●○。(韻)
○●○○○●●,
●○●●○○○。(韻)
2011.9. 6
     9. 7
     9. 8
     9. 9完
     9.17補
     9.18

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