寒冬夜 | ||
良寛 |
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草堂深掩竹溪東, 千村萬落絶人蹤。 遙夜地爐燒榾柮, 只聞風雪打寒窗。 |
草堂 深く掩 す竹溪 の東,
千村萬落 人蹤 を絶 つ。
遙夜 地爐 に榾柮 を燒 き,
只 だ聞く風雪 の寒窗 を打つを。
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◎ 私感註釈
※良寛:江戸後期の禅僧。寶暦八年(1758年)〜天保二年(1831年)。漢詩人。歌人。越後国(現・新潟県)出雲崎の人。俗姓は山本。名は栄蔵、後、文孝と改める。号は大愚。諸国を行脚、漂泊し、文化元年、故郷の国上山(くがみやま)の国上寺(こくじょうじ)に近い五合庵に身を落ち着けた。晩年、三島(さんとう)郡島崎に移った。高潔な人格が人々から愛され、子供達も慕ったが、人格の奇特さを表す逸話も伝わっている。ただ、遺されている漢詩は陰々滅々としたものがある。
※寒冬夜:寒い冬の夜。
※草堂深掩竹渓東:粗末な(わたしの)家は、竹の生えた谷川の東で(雪によって)しっかりと掩い隠されており。 ・草堂:草葺きの家。粗末な家。自分の家を謙遜していう言葉。 ・掩:〔えん;yan3●〕おおう。おおいかくす。かばう。
※千村万落絶人蹤:極めて多くの村落では、人の足あとが(降雪のために)無くなった。 ・千村万落:極めて多くの村落。 ・絶:たつ。たえる。なくなる。 ・人蹤:〔じんしょう;ren2zong23○●〕人の足あと。人通り。
※遥夜地炉焼榾柮:長い夜、囲炉裏(いろり)で、ほたを焼(た)いて。 ・遥夜:〔えうや;yao2ye4○●〕長い夜。南唐後主・李Uの『蝶戀花』に「遙夜亭皋閑信歩。乍過C明,早覺傷春暮。數點雨聲風約住。朦朧淡月雲來去。 桃李依依春暗度。誰在秋千,笑裏低低語?一片芳心千萬緒,人間沒個安排處!」とあり、北宋・秦觀の『如夢令』に「遙夜沈沈如水,風緊驛亭深閉。夢破鼠窺燈,霜送曉寒侵被。無寐,無寐,門外馬嘶人起。」とあり、清末・文廷式の『夜坐向曉』に「遙夜苦難明,他洲日方午。一聞翰音啼,吾豈愁風雨。」とあり、現代・毛澤東は『虞美人・一九二〇年』で、「堆來枕上愁何状,江海翻波浪。夜長天色總難明,寂莫披衣起坐數寒星。曉來百念キ灰盡,剩有離人影。一鉤殘月向西流,對此不抛眼涙也無由。」とする。 ・地炉:地上や床に設けた炉。いろり。 ・焼:たく。 ・榾柮:〔こつとつ;gu3duo4●●〕ほた。きりかぶ。木の切れ端。こっぱ。
※只聞風雪打寒窓:ただ、風雪が冬の窓辺を打つ音が聞こえて来るだけだ。 ・只:ただ…だけ。 ・聞:聞こえる。聞く。 ・打:うつ。「打」は、比較的新しい言葉。 ・寒窓:冬の窓。寒々として侘びしげなまど。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「東蹤窓」で、平水韻上平東(東韻)・蹤(冬韻)・窓(江韻)で…。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●○○○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
令和3.9.28 9.29 |
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