蠶婦吟 | |
南宋・謝枋得> |
子規啼徹四更時,
起視蠶稠怕葉稀。
不信樓頭楊柳月,
玉人歌舞未曾歸。
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蠶婦 の吟
子規 啼徹 す四更 の時,
起きて視 る蠶 稠 くして 葉稀 なるを怕 るるを。
信 ぜず樓頭 楊柳 の月,
玉人 の歌舞 未 だ曾 て歸らざるを。
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◎ 私感註釈
※謝枋得:南宋末の人。文学者。新王朝の元に仕えるのを拒んで食を断ち死んだ(1226年〜1289年)。字は君直。号は疊山。諡は文節。信州弋陽の人。南宋末に乱を逃れて、(現・福建)の建寧の山中に隠れ住んでいたところ、新王朝の元に出仕を求められる。しかし、謝枋得はこれを峻拒した故、大都(現・北京)に送られた。やがて、その地で食を断って死んだ。(この自尽のし方は、伯夷・叔齊に倣ったもので、新たな王朝の粟(禄)を食むのを潔しとしないことを表した自殺。伯夷、叔齊は殷末周初の人で、不義にして新たな王朝の周の粟(禄)を食むのを潔しとせず、これを拒んで、首陽山に隠れ住み、薇(ゼンマイ)を採って生活し、やがて飢えて死んだ。詳しくはこちら。謝枋得の境遇は文天祥と似ており、詩も文天祥の『正氣歌』「天地有正氣,雜然賦流形。下則爲河嶽,上則爲日星。於人曰浩然,沛乎塞蒼冥。皇路當C夷,含和吐明庭。」と主張、内容が同じになっている。)
※蚕婦吟:養蚕をする女性のうた。 *北宋・張俞に『蠶婦』「昨日入城市,歸來涙滿巾。遍身羅綺者,不是養蠶人。」がある。
※子規啼徹四更時:(農家の養蚕をしている女性は)ホトトギスが、鳴き亘る四更(午前二時)頃になると。 ・子規:ホトトギス。哀しげな啼き声がする鳥とされ、夏の季節を表す鳥である。また、蜀王の霊の化した鳥で、幽冥界との往復をする鳥でもある。盛唐・李白の『聞王昌齡左遷龍標遙有此寄』に「楊花落盡子規啼,聞道龍標過五溪。我寄愁心與明月,隨風直到夜郎西。」とあり、同・李白の『宣城見杜鵑花』に「蜀國曾聞子規鳥,宣城還見杜鵑花。一叫一廻腸一斷,三春三月憶三巴。」とあり、清末・秋瑾の『昭君怨』に「恨煞回天無力,只學子規啼血。愁恨感千端,拍危欄。 枉把欄干拍遍,難訴一腔幽怨。殘雨一聲聲,不堪聽!」とある。 ・啼徹:鳴き声が響きわたる、意。 ・四更:一夜を五つに分けた時間・時刻の単位で、その四つめの更で午前二時頃のこと。なお、初更(午後八時頃)・二更(午後十時頃)・三更(午前零時頃)・四更(午前二時頃)・五更(午前四時頃)となる。一夜を五更に分けるため、夜の長い秋冬の一更は時間が長くなり、春夏の一更の時間は短くなる。
※起視蚕稠怕葉稀:(寝床から)起き上がって、(蚕(かいこ)を)見まわって、蚕がたくさんなので(餌の桑の)葉が足りなくなっていないか、ということが気にかかり、見まわっている。 ・起視:(寝床から)起き上がって、(蚕(かいこ)を)見まわる。 ・稠:密である。 ・怕:おそれる。 ・稀:まれである。
※不信楼頭楊柳月:高殿の側の楊柳の(梢に掛かった高く上りつめた)月(=夜も更けた時)に、(高殿の方から美女たちの音楽と舞踊のざわめきとが聞こえて来るとは、)信じられない。 ・不信:信じられない。信じない。 ・楼頭楊柳月:高く昇った月。高殿の側に(高く昇った月から傾いて)楊柳の上に月移った月。
※玉人歌舞未曽帰:(夜も更けたのに、高殿の方からは)美女たちの音楽と舞踊とで、まだ帰っていないとは、(信じられない)。 ・玉人:姿の美しい人。 ・歌舞:歌い踊る。また、音楽と舞踊。 ・未曽:まだ…していない。いまだかつて…したことがない。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「時稀歸」で、平水韻上平四支(時)・上平五微(稀歸)。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2019.8.14 8.15 |
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