賈島三月晦日贈劉評事　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Jia Dao

三月晦日贈劉評事
	賈島

三月正當三十日，
風光別我苦吟身。
共君今夜不須睡，
未到曉鐘猶是春。

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三月晦日　劉評事に贈る

三月　正まさに當たる　　三十日，
風光　我が苦吟くぎんの身に　別わかる。
君と共に　今夜　　睡ねむるを須もちゐず，
未いまだ　曉鐘げうしょうに到らざれば　　猶なほ是これ春。

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◎　私感註釈

※賈島：中唐の詩人。７７９年（大暦十四年）～８４３年（會昌三年）。字は浪仙。范陽の人。初め、僧侶で無本と号し、後、韓愈に認められて（「推敲」の故事）還俗、仕官した。五言律詩にすぐれる。

『歴代絶句類選』二
卷之二第三十九葉

※三月晦日贈劉評事：陰暦・三月のつごもり（春の最後の日）に劉評事に詩を贈る。　・三月：陰暦の三月は、春季の最後の月。季春。　・三月：〔さんぐゎつ；san1yue4○●〕陰暦・三月は季春で、春の最後の月。また、三ヶ月。ここは、前者の意。前者の例では、盛唐・李白の『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』「故人西辭黄鶴樓，煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡，惟見長江天際流。」や、盛唐・李白『宣城見杜鵑花』「蜀國曾聞子規鳥，宣城還見杜鵑花。一叫一廻腸一斷，三春三月憶三巴。」や、盛唐・杜甫『絶句漫興』「二月已破三月來，漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事，且盡生前有限杯。」があり、後者の例（「三月」で「三ヶ月」の意の場合）『詩經』王風の「采葛」「彼采葛兮。一日不見，如三月兮。　　彼采蕭兮。一日不見，如三秋兮。　　彼采艾兮。一日不見，如三歳兮。」、盛唐・杜甫の『春望』「國破山河在，城春草木深。感時花濺涙，恨別鳥驚心。烽火連三月，家書抵萬金。白頭掻更短，渾欲不勝簪。」とある。後者は〔さんげつ；san1yue4○●〕と読む。　・晦日：〔くゎいじつ；hui4ri4●●〕一ヶ月の月末の日。陰暦では三十日。つごもり。みそか。蛇足になるが、上の挿絵は十五夜の満月だが、晦日とは月の光が全く隠れて見えなくなる夜をいうので、不適切……。　・贈：（詩歌を）贈呈する。　・劉：姓。劉評事については不詳。　・評事：大理寺（最高裁判所）に属する下級の裁判官。

※三月正當三十日：三月（季春＝春の季節の最後の月）のちょうど三十日みそか（最後の日）になって。　・正當：ちょうど…になる。　・三十日：みそか。陰暦で一ヶ月の最後の日。前出・「晦日」と謂うところは同じ。

※風光別我苦吟身：（春の）風光は、苦心して詩を作っているわたしに別れを告げた。　・風光：美しい自然のながめ。景色。また、草木が風に揺られて光ること。すぐれた趣（おもむき）。おもかげ。光栄。ここは、前者の意。　・我：わたし（作者自身）。「風光別我苦吟身」の節奏は「風光別我　苦吟身」で、兼語文のような構成。「別我」＋「我苦吟身」「わたし＝苦吟身」の意になろうか。　・苦吟：苦心して詩歌を作ること。

※共君今夜不須睡：あなた（春の神）と一緒に、今宵（春の季節の最後の夜）を過ごして、眠らないでいよう。　・共君：あなたと（一緒に）…。　・君：あなた。春を擬人化した表現。　・今夜：春の季節の最後の日である三月三十日の夜。前出「晦日」「三十日」でもある。　・不須：…する必要がない。…に及ばない。もちいず。　・睡：ねむる。

※未到曉鐘猶是春：夜明けを告げる鐘の時刻になっていないので、なおまだ春の季節だからだ。（春よ、それまでは、ここに居てくれ）。　・未到：まだ…になっていない。　・曉鐘：黎明を告げる鐘の音。夜明けの鐘。　・猶是：なおまだ…だ。

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◎　構成について

韻式は、「AA」。韻脚は「身春」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。

○●●○○●●，
○○●●●○○。（韻）
●○○●●○●，
●●●○○●○。（韻）