猿 | |
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唐 杜牧 |
月白煙青水暗流,
孤猿銜恨叫中秋。
三聲欲斷疑腸斷,
饒是少年須白頭。
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猿
月 白く 煙青 く水 暗 に流れ,
孤猿 恨みを銜 みて中秋 に叫ぶ。
三聲斷 たんと欲して腸 斷 ゆるかと疑 ふ,
饒 ひ是 れ 少年なりとも須 らく白頭なるべし。
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◎ 私感註釈
※杜牧:晩唐の詩人。八○三年(貞元十九年)〜八五二年(大中六年)。字は牧之。京兆萬年(現・陝西省西安)の人。進士になった後、中書舍人となる。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。李商隠と共に味わい深い詩風で、歴史や風雅を詠ったことで有名である。
※猿:サル。この詩と似た雰囲気の詩に、中唐・戴叔倫の『夜發袁江寄李穎川劉侍カ』「半夜囘舟入楚ク,月明山水共蒼蒼。孤猿更叫秋風裏,不是愁人亦斷腸。」がある。
※月白煙青水暗流:月は白く、靄(もや)は青く、水は(波を立てることなく)秘やかに流れ。 *この句は「主・述+主・述+主・述」(SA+SA+SV)の構造で、「〔月・白〕+〔煙・青〕+〔水・暗流〕」となる。 ・煙:かすみ、もやの類。 ・水:川(の水)。 ・暗流:表面に現れない水の流れ。=伏流、底流。また、表立たない内部のもめごとの喩え。思想の傾向や社会の動き。ここは、前者の意。
※孤猿銜恨叫中秋:中秋節(陰暦八月十五日の満月の夜)に、群を離れて、ただ一匹だけでいる猿が恨みを含んだ(かのように)鳴いている。 ・孤猿:群を離れて、ただ一匹だけでいる猿。作者自身の孤独な境遇の描写でもある。初唐・寒山に「寒巖深更好,無人行此道。白雲高岫閨C青嶂孤猿嘯。我更何所親,暢志自宜老。形容寒暑遷,心珠甚可保。」とあり、盛唐・孟浩然の『然宿桐廬江寄廣陵舊遊』に「山暝聽猿愁,滄江急夜流。風鳴兩岸葉,月照一孤舟。建コ非吾土,維揚憶舊遊。還將兩行涙,遙寄海西頭。」とある。 ・銜恨:恨みを根に持つ。 ・銜:(恨みなどを)含む。根に持つ。心に抱く。ふくむ。 ・叫:(動物が)鳴く。声を立てる。さけぶ。≒嘯。 ・中秋:中秋節のこと。陰暦八月十五日(の節句)。現在の九月中旬〜十月上旬の頃。家族全員が揃って祝う佳節。日本では中秋の名月(明月)のお月見で有名。(蛇足になるが、似て非なる「仲秋」は「秋三ヶ月(陰暦七月、八月、九月)の第二番目の月」である陰暦八月のこと。なお、「仲」とは、「孟」(はじめ(の月))「仲((まんなか)、なか(の月))」「季(すえ)(の月)」の「仲(なか)(まんなか)」。)。
※三声欲断疑腸断:三回、鳴いて(鳴き声が)途切れたので、腸が(悲しみのあまり)断たれたのかと思った。 ・腸断:(腸が断たれるような)非常な悲しみ。断腸の思い。盛唐・李白の『春思』に「燕草如碧絲,秦桑低克}。當君懷歸日,是妾斷腸時。春風不相識,何事入羅幃。」とあり、盛唐・王昌齡の『春怨』に「音書杜絶白狼西,桃李無顏黄鳥啼。寒雁春深歸去盡,出門腸斷草萋萋。」とあり、唐・顧况の『竹枝詞』に「帝子蒼梧不復歸,洞庭葉下荊雲飛。巴人夜唱竹枝後,腸斷曉猿聲漸稀。」とある。
※饒是少年須白頭:(その情景は)たとえ、若者であっても、きっと(悲しみのあまり)白髪頭(しらがあたま)になったに違いない。 ・饒是:たとい。もし。「饒是」で、一語の副詞。 ・饒:〔ぜう;rao2○〕たとい。もし。さもあらばあれ。 ・是:ここでは(副詞「饒是」の)副詞語尾として用いられる。特段の訳語はない。*注意:ここでは以下の意はない:(…は…である。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕の意)。 ・少年:若者。 ・須:…しなければならない。…すべきである。すべからく…すべし。 ・白頭:しらが頭になる。動詞。 *用法から判断して、ここでは「白頭」を動詞・「しらが頭になる」として使っている。名詞・「しらが頭」ではない。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「流秋頭」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●●○○●○。(韻)
2017.3. 3 3. 4 3. 5 3. 6完 2021.8.10補 |
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