旅寒燈獨不眠,
客心何事轉悽然。
故ク今夜思千里,
霜鬢明朝又一年。
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除夜の作
旅館の寒燈 獨(ひと)り 眠らず,
客心(かくしん) 何事ぞ 轉(うた)た 悽然(せいぜん)。
故ク 今夜 千里を 思はん,
霜鬢(さうびん) 明朝(みゃうてう) 又 一年。
◎ 私感註釈 *****************
※高適:〔かうせき;Gao1Shi2〕盛唐代の詩人。(702年頃〜765年:廣コ二年)。字は達夫。滄州勃海の人。辺塞の離情を多くよむ。
※除夜作:十二月三十日の大晦日の夜の詩。旅愁を詠う。賈島の『渡桑乾』も「客舍并州已十霜,歸心日夜憶咸陽。無端更渡桑乾水,卻望并州是故ク。」と、異なった感じで旅愁を詠う。宋・范仲淹の『蘇幕遮』「碧雲天,黄葉地,秋色連波,波上寒煙翠。山映斜陽天接水,芳草無情,更在斜陽外。 黯ク魂,追旅思,夜夜除非,好夢留人睡。明月樓高休獨倚,酒入愁腸,化作相思涙。」や、最近では李叔同の『送別』で「長亭外,古道邊,芳草碧連天。晩風拂柳笛聲殘,夕陽山外山。天之涯,地之角,知交半零落。一觚濁酒盡餘歡,今宵別夢寒。」と使う。
※旅館寒燈独不眠:旅館の寒い冬の夜さびしげな灯火の下では、独(ひと)りでは眠れない。 ・旅館:旅人を泊める家。 ・寒燈:さびしげな灯火。寒い冬の夜のともしび。寒々とした灯火。作者の心情が反映した語である。後世、南宋・陸游は『夜遊宮』記夢寄師伯渾「雪曉C笳亂起。夢遊處、不知何地。鐵騎無聲望似水。想關河,雁門西,海際。 睡覺寒燈裏。漏聲斷、月斜紙。自許封侯在萬里。有誰知,鬢雖殘,心未死。」と使う。 ・獨:ひとりで。 ・不眠:ねむれない。意志の否定。もし、「眠らない」を表現したいとすれば「未眠」となる。
※客心何事転悽然:旅先での心細い気持に、何としたことか、ますます悲しくなってくる。 ・客心:〔かくしん;ke4xin1●○〕旅にある人の思い。旅先での心細い気持。南朝・梁・何遜の『相送』に「客心已百念,孤遊重千里。江暗雨欲來,浪白風初起。」とあり、杜甫の『登樓』に「花近高樓傷客心,萬方多難此登臨。錦江春色來天地,玉壘浮雲變古今。北極朝廷終不改,西山寇盜莫相侵。可憐後主還祠廟,日暮聊為梁甫吟。」や、張説の『蜀道後期』「客心爭日月,來往預期程。秋風不相待,先至洛陽城。」、杜ある。 ・何事:何としたことか。また、どのような事柄。どんなこと。ここは、前者の意。 ・轉:ますます。なんとなく。それからそれへと。いやましに。 ・悽然:〔せいぜん;qi1ran2○○〕いたましいさま。悲しいさま。
※故郷今夜思千里:故郷では今夜(家族が揃って「過年」(年越し)の宴会をして、)不在の家人=千里の路程の旅にいる作者のことを思い偲んでくれていることだろう。*大晦日は、家族全員が揃って団欒のひとときを過ごす習慣がある。 ・故ク:ふるさとでは。 ・今夜:今夜のこの時に。夜、月を眺めて、同じ月の光の下にいる遠く離れている家人(ここでは、作者)のことに思いを致す。杜甫の『月夜』「今夜州月,閨中只獨看。遙憐小兒女,未解憶長安。香霧雲鬟,清輝玉臂寒。何時倚虚幌,雙照涙痕乾。」に同じ。李白の『把酒問月』に「天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,拷喧ナ盡C輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲陝刀B古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」とあり、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。 夜來幽夢忽還ク。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」とある。 ・思千里:遠くに思いを致す。ここでは、故郷の家人が旅先の作者を思うこと(「王孫歸」)になる。古来、主として妻や母や家人は、遠く旅立っている者を偲ぶ。『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蛄鳴兮啾啾。」温庭の『折楊柳』に「館娃宮外城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草堺ト萋。」とある。 ・思:思う。賈至の『長門怨』「獨坐思千里,春庭曉景長。鶯喧翡翠幕,柳覆鬱金堂。舞蝶愁緒,繁花對妝。深情托瑤瑟,絃斷不成章。」とある。この聯「故ク今夜思千里,霜鬢明朝又一年。」を対句で構成されているとして、「思」は「又」と対になり、「思」の義を発語の助字とし「ここに」と訓むとの見方がある。『漢語大詞典』第7巻(漢語大詞典出版社 1994年上海)の440ページには、助詞として句首、句中に使われる、として『詩経』での例が載せられている。慥かに、対句と見るため「思」を発語の助字(助詞)と見れば辻褄が合うが(白居易のにも似たようなことがあるが)、この「旅寒燈獨不眠,客心何事轉悽然。故ク今夜思千里,霜鬢明朝又一年。」の語調・語法・文体といったものは、どちらかといえば、現代語にまで通じる表現であり、『詩経』とは語調が懸け離れている。ここは本来の動詞として「おもう」の意ととるのが妥当だろう。 ・千里:遥か遠方。前出・南朝・梁・何遜の『相送』の「客心已百念,孤遊重千里。」の青字部分参照。
※霜鬢明朝又一年:白髪(しらが)頭(のわたし)は、明日(元旦)で一歳、またしても歳(とし)を取るのだ。 *数え年の年齢の数え方で、正月の元旦で、誰もが一歳、歳(とし)が増える。 ・霜鬢:霜が降ったように白くなった鬢の髪。歳を取った風貌でもある。ここは、「愁鬢」ともする。陶淵明の『雜詩十二首』其七に「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」とある。 ・又:またしても。また。ここは、「更」ともする。 ・一年:一歳、歳(とし)を取る。後世、中唐・韋應物は『寄李儋元錫』で「去年花裏逢君別,今日花開又一年。世事茫茫難自料,春愁黯黯獨成眠。身多疾病思田里,邑有流亡愧俸錢。聞道欲來相問訊,西樓望月幾迴圓。」と使い、宋・陸游は『秋夜將曉出籬門迎涼有感』で「三萬里河東入海,五千仞嶽上摩天。遺民涙盡胡塵裏,南望王師又一年。」と使う。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「眠然年」で、平水韻下平一先。平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
●○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2007. 6.16完 2010.10.20補 2012. 3.25 4.10 |
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