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上達の秘訣

ではこれからあなたに武道を教えます。ここはこうしてそこはそうして(手取り足取り)・・・というふうに指導してくれないとおそわった気分がしない[YES NO]・・・あなたはどちらですか? 「教えてくれないから解らない」と思ったことはありませんか? 武道に限らずどんな技術でも自分から学ぶつもりがなければ上達はありえません。

私は以前武道を学んでいる頃、毎回今日が生涯最後と自分に言い聞かせて練習に臨んだものです。最後の練習ですから1分1秒たりともおろそかにできない。仕事で疲れた時でも、体調不良の時も気を抜くことなく、先生の動作に集中することができました。過度な練習のためもうこれで倒れると思ったこともあります。
同じ練習の場には一緒に学ぶ人達がいるわけですが、練習の始めから終わりまで自分の意識の中には先生と自分しかいないため、周りの人達は全く見えませんでした。先生が他の人に教えている気配を感じたらすぐに近づいて、1回でも多く先生の動きを記憶しようと必ず見たものです。おそらく練習時間内に先生が動作を示したうちの99%は見ていたと思います。

私がこれまで師事した先生方から一様に特別な指導を受けることができたのも、自分の武道に対する意識を練習中の態度に感じてもらうことができたからではないかと思っています。
自慢したいのではありません。あなたに上達してほしいのです。同じ1時間の練習でも、あなたの意識の持ち方ひとつで他の人達と全く違う内容になります。

先生はあなたの学習態度に非常に敏感です。そのため、武道を習う上でやってはいけないことがあります。これをしたら先生はあなたに武道を教えることができないと感じ、あなたに対して教える気力を失ってしまいます。

例えば、直接教わっているときに先生の動きから目を離すのは、「私はさっきあなたの動きを見たからもう解りました。今あなたが一緒に動いても、私はまたわざわざ見る気はありません。もう充分です。」と言っているようなものです。少しでも目を離せばあなたの心の声は先生に届きます。

先生と一緒に套路を練習するときに先生より先に進んでしまうのは、「私はあなたの動きなんか見る必要ないんです。ほっといて、ただ自分で練習したいだけなんですから。」というあなたの背中に、先生の、教えようという気力は一気に半減してしまいます。

先生が教えているとき全く関係なく自分で練習している人もいますが・・・「私はあなたに教えてもらう必要ありません。教わらなくても自分で練習できますから。あなたから学ぶことなんてないんです。」・・・!!??最悪です。

「どうして?お金は払っているのだし、私はただ楽しみたいだけ、自由にやって何が悪いの。そんな文句言われる筋合いありません!」確かにこれも正論です。ひとりでいい汗かくことで満足して帰る人もいますから、これも決して悪いとは言いません。
ただ、あなたに少しでも上達したいという気持ちがあるなら、教わり上手になる秘訣を教えます。それは集中することです。せめて練習時間は先生の動きに集中しましょう。教えてもらうのではなく技術を盗むつもりで。

教えてくれなくて当たり前、もし先生があなたの手を取って教えてくれたらその技の感覚を絶対に忘れてはいけません。読書百遍意自ずから通ず。武道においてもひとつの形を百回見てください。自分のオリジナルで百回練習するのではありません。先生の正しい形を百回見るのです。その結果どうなるのかは実行した人にはわかるはずです。
私はこれまで先生から武術を教えてもらえるように努力し、今でも中国の先生方と交流を持ちその努力を続けています。先生方から貴重な伝統技術を受け継ぐために。

生前佐藤金兵衛先生が良く次の言葉を説明されていました。「子曰、學而時習之、不亦説乎」(子の曰わく、学びて時にこれを習う、亦た説(よろこ)ばしからずや)。論語の学而編冒頭の一説。学(まなぶ)は“まねぶ”が変化した言葉で、元々先生の真似をするという意味がある。習(ならう)はひな鳥が親鳥の飛ぶのを見て羽を自ら羽ばたかせるという意味であり、道場で先生を真似して、帰ってからそれを繰り返し練習する。単純なようだがこれが上達の秘訣、とおっしゃっていたのを思い出します。

あなたは今日の練習いい汗かいただけで終わりましたか、それとも自分の中の武術の種子に沢山の栄養を蓄えることができましたか。今日の練習で先生はあなたに武術を伝えたいと思ったでしょうか。