No. 99 ヒロコーポレーションに行ったこと
No.100 久しぶりのEM訪問
No.101 東京ハンドクラフトフェスvol.3
No.102 ’00sSomogyiOMと’77SomogyiCLASIC
No.103 HIKAWA ACOUSTIC GUITAR MiniConcert vol.7
No.104 白太について
No.105 サムピック・タブスペシャル
No.106 木目の巾と塗装〜「ラミレスが語るギターの世界」から〜
No.107 湿度が高いと空気は軽い〜それでも、湿気は低いところに溜まる?
No.108 胴の深さとギターの音色
No.99 ヒロコーポレーションに行ったこと
年の暮れにヒロコーポレーションのサイトから店長さんに宛てて年末年始の営業時間と営業日を確認して、かみさんを拝み倒して、1月5日、松も明けないうちに、新幹線を乗り継いで神戸まで行きました。
ひとつは、最新のラティスタイプのバックブレイスがされたギターが弾けるかもしれないと思ったこと、ショーウインドウにあるアートワークの施された’80s後半のソモギの音を確かめたかったこと、マートルウッド等の珍しい材のギターを弾いてみたい等、ヒロコーポレーションならではのソモギを感じたかった事も大きな動機でした。しかし、何より、’80sにソモジ氏の工房が火事になった時などの事を含めて、ずっとソモジ氏と信頼関係にあるという店長さんがどのような人物か知りたかったことが何年も前から一度は伺いたいと思った最も大きな動機でした。
新神戸駅でお店に連絡を入れた後で地下鉄駅で迷ってしまい、結局、タクシーを使って神戸駅まで行きました。でも、すぐに建物はわかり、吉野家さんで豚丼を食べてから伺いました。(本当は神戸牛が食べたかった・・。)
7階のお店の扉を開くと、ショーウインドウの中にギターが幾つかあることと、奥の部屋にギターケースが並んでいるものの、応接セットとパソコンがある、ほとんどプライベートな書斎のようなお店でした。
「どんな曲を弾かれるんですか」「どんな音を求めているのですか」「残響の長いギターと短いギターは、どちらがいいと思いますか」「今はどんなギターを弾いていますか」といった質問をされたと思います。
(aya−yu)「主に鉄弦でクラシックを弾きます」・(店長)「最近はそうした方も増えてきましたね」
(aya−yu)「ピアノサウンドを求めています」・(店長)「価格の事は今は考えずに、この話が終わったら、まずはギターを弾いて感じてみてください。先入観を持たず、どれだけの価値があるかをご自分で感じた上で判断してください。」
(aya−yu)「残響の長さの違いについて聞かれると、私はマーチンとギブソンの特徴が思い浮かびます。マーチンギターの残響は豊かなものが多く、ギブソンには歯切れのいいものが多い。何を弾くか、どんな音が好みかの問題で、音の優劣ではないと思っています。でも、今は残響の長いものが好みになっています。」・(店長)「なるほど。確かにそういう見方もできますね。私は、残響は長いほうがいいと思っています。長い残響は、じゃまな時には奏法によって短くすることができますが、短い残響のギターの音を長く延ばすことはできないからです。」
(aya−yu)「メインギターはギブソンのマークシリーズです。・(店長)(ちょっと考えて)「あの’70年代のギブソンですね。」・(aya−yu)「はい。好きなギターですがマークはピアノサウンドではないんですよね。」・(店長)(ちょっと考えて)「それでは、よければ、私がギターを作りましょう。新作ができたら弾いてみてください。先ほど価格を気にしないで、と言いましたが、例えば、やむを得ない事なのですが、今のソモギはとても高額になってしまいました。プレーヤーに弾いて欲しいのですが、実際にはプレーヤーには手が届きにくいのは事実です。」どうもメインがマークシリーズということで「ソモギ購入は金額的に無理」と判断されたような気がします。(笑)
ギターの保管室から持ってきてくれたのは、既にホールド済の’95sキルトマホガニーのソモギと、オリジナルブランドのメイプルものの「フィールズ」でした。キルトマホガニーのソモギはラティスのバックブレイスがされていましたが、昨年のニューポートギターフェスのものとは配置等少し異なるものでした。でも、音色的には最近のラティスブレイスのギターたちと同じ系統の音色で、マホの明るさとラティスブレイス独特の音の深さがマッチして綺麗な澄んだ音で鳴っていました。想像した通り、バックブレイスの影響は、トップのラティスブレイスに比べると遥かに小さいと感じました。
例によって鉄弦トレモロの音色を試したくてフィンガーピックを使おうとしたら断られてしまいましたし、ビブラートを強くかけるのも止められました。ホールドされたギターを特別に試奏させてもらっているのですからやむを得ないと思いつつ、試奏なのに緊張して、いつも弾いているプレリュードその他、ぼろぼろでした。「君をのせて」などを弾いていたら店長さんに「失礼ですが、ご職業は学校の先生ではないですか?」と私の本業を言い当てられました。(笑)
フィールズのギターは、メイプルということもあり、甘く軽やかな音と感じました。製作者が違えばギターの音は変わりますから、もちろんソモギの音とは異なりますが、これもとてもいいギターと思いました。どちらのギターも、とてもセッティングの状態がよかったです。
まだ、初めての訪問なので、ウインドウの’80sソモギの音の確認をお願いするまでのことはできなかったのですが、今回はこのくらいでいいかと思い、御礼を言って、また、5時間かけて大宮まで新幹線の乗り継ぎで帰りました。兵庫・大阪の他のお店にも余裕があれば寄りたかったですが、年始めの休日で、指定に乗り遅れると大変なことになると思い、我慢をしました。
店長さん、想像していた通りの方で楽しかったです。
また、伺えたらと思います。
No.100 久しぶりのEM訪問
すっかりご無沙汰してしまいましたが、調さんから声をかけて頂いて、栃木県足利市にあるLiveSpaceEMのギターフリークの集まりにいってきました。早いもので、2年ぶりくらいに友人とおじゃましました。
EMに着くと、以前の通りのようすで懐かしさを感じました。7〜8人の方々がいらっしゃったでしょうか。お子さんたちの以前よりも成長された様子が2年間余りの時間を感じさせてくれました。
ずっと話しにででいたD18Aを初めて弾かせて頂きました。とても艶やかで伸びのある綺麗な高音が素晴らしかったです。よい悪いということではないですがD18GEとは印象の異なるギターですね。他にもいろいろ弾かせて頂きましたが、亀岡ギターを初めて弾いた事も心に残りました。ギターショーで時々見かけるものの、自分の馴染みの製作家を回るだけで時間がいつもいっぱいになってしまい、一度弾きたいと思っていたギターの一つでした。思ったよりも高音まで太くしっかりとした音だと感じましたし、フレットワークもよくできていたと思います。
私は今、はまっているソモギを4本、持ち込みました。予想通り(?)、最新作のラティスブレイシングを使った’95sMDフライングバードよりも、昔のソモギのほうを気に入られた方がほぼ全員でした。’95sMDはとても綺麗な音だと言って下さいますが、判る範囲で聞けた方たちの好みの様子を書けば、ネックの扱いやすさと普通の音色だということで’97sSJに一票、私も含め素直な音の伸びの美しさから’83sDメイプル三票、ソモギの音作りの原点とも言える’77sDローズが素晴らしいと言われた方が一〜二票といったあたりだったと思います。製作家がいいと感じる音が必ずしもプレーヤーや一般の人たちにいいと感じられるとは限らないことが改めてわかりました。
もう一つの意外な収穫は、もう、かなり以前よりお名前だけは存じ上げていたアコキングさんと直接お会いできたことです。先日盗難に遭った’39sD28の話やブルージーさんのリペアマンさんだったIさんのお話、さらに以前ウッドマンさんで盗難に遭ったJ35の話など、いろいろさせて頂きました。
調さんの奥様(前様?)とお話した事も心に残っています。
あと、お昼に食べたお蕎麦も絶品でした。
例によって家庭の事情で早めに帰らせて頂きました。皆さんに見送って頂いた時に「ギターのほうが車よりずっと高いんですね。」ということが話題になりました。東北道の料金も安くなるし、荷物も沢山積めるので、ギター関連のお出かけはいつも国内M社「Toppo」という軽自動車です。(笑)
No.101 東京ハンドクラフトフェスvol.3
5月26日(土)、王子にある「北とぴあ」で今年もハンドクラフトギターフェスティバルが開かれました。シーガルさん、スミさん、クレーンさん、 ウォーターロードさん、ヨコヤマさん、バードランド(ノースウッド)さんなど
いろいろなギターを試奏させてもらいました。
最初に弾いたシーガルさんのギターは、暫く前から採用されている障子の枠を思わせるような目の比較的細かいラティスブレイシングのギターと、プリウォータイプのギターでした。ラティスブレイシングのギターは煌びやかでシャリーンとした音のギターで、一方のギターはサイドバックの材が特殊なもの(ジリコーテ?)でしたが、深みのある戦前らしい音色で鳴っていました。どちらもそれぞれの個性をしっかり表現したギターだと感じました。
スミさんのギターはサイドバックにジリコーテを使ったものを弾かせてもらいました。いつも通り艶やかで綺麗な音のギターで、「君をのせて」を弾いたら、スミさんが「このギターは、その曲をイメージして作ったんですよ。」とおっしゃっていました。確かに美しさの中にも落ち着いた音の印象があり、しっかりとしたギターだなと感じました。ネックの丸みが少し変わっていて、慣れると弾きやすそうだなと思いました。
クレーンの鶴田さんの19世紀ギターは、相変わらず細工が美しく、ガット弦の音色も気持ちよかったです。今年はサウンドホールをくり抜いた後の丸い廃材をプレゼントしてくださいました。
ウォーターロードさんは、興味深いテナーギターを弾かせてもらいました。普通のギターよりも低いチューニングで、面白い鳴りのギターでした。ウォーターロードさんらしい綺麗なインレイで、仕上げも素晴らしかったです。
ヨコヤマさんのギターは初めて弾きました。トップ、バックともにラティスブレイシングのギターを弾かせてもらいました。ソモギの音よりも、やはりモーリスの高級カスタムギターに近い印象があり、ここでもまた、「ブレイシングが同じでも作り手によって音が変わる」というデビッド・ラッセル・ヤングの言を思い出しました。バックブレイスについて、「バックにもラティスブレイシングを貼ると、音のまとまりがよくなるようです。でも、一般の背の高いラダーブレイシングのほうが高域に煌びやかさがでるので、オーダー主の好みによって変えています。」と話されていました。
バードランドさんの手がけるノースウッドも、とてもいいギターだと思いました。太くしっかりとした音で、以前弾いたリンダマンザーのよいものに近い印象でした。見栄えが比較的地味なので、そのよさに気がつく人が少ないかもしれませんね。
異色なクレオバンプーさんの竹ギターはヘッドがなく塊柱の立てられたギターもありました。染村さんのページで「ギターに魂柱を立てたらどうなるか」という話題がありましたが、実際に魂柱を立てると、やはりトップとバックの振動を抑え込む様に干渉し合い、鳴りが抑えられてしまうのがわかりました。私には「アコギに魂柱」という発想がなかったので、面白かったです。また、ヘッドのないギターは倍音が増すものの音が暴れてしまうそうです。ヘッドの重量の大切さも改めて感じました。(ソモジ氏はヘッドの形状は音に関係ないと雑誌のインタヴューに応えておられましたが、ちょっと違うかな・・。笑)
No.102 ’00sSomogyiOMと’77SomogyiCLASIC
数ヶ月の間に、売れ残りの(?)二本のソモギを手に入れてしまいました。ほとんど自爆状態です。
一本は、あるプロギタリストが使っていたというラティスブレイシング・トップのOMです。’05MDに比べて中高音が前に出る感じで、ギターソロをするには使いやすいことと、何より、これまで弾いたラティスブレイスのギターの中で、最も響きのよいギターと感じています。ただ、前オーナーのプロギタリストの方が、自分の好みでヘッドのつき板を交換されていたために「売れ残り」状態になっていたように思いました。しかも、そのつき板は、何故か塗装もされておらず、明らかに「変な色」でした。青爺さんにつき板のラッカー塗装をお願いして、作業が完了してから引き取らせてもらいました。もはやオリジナルとの区別はつかないと思います。もともと個人製作のカスタムギターですから、個々のパーツがオリジナルであるかどうかなど、さして重要なことでもないと思うのですが・・。
以前から思っていたことですが、いくらよい音のギターでも、ソモギの場合、見てくれが悪いと売れないのではないか、という感想を持ちました。でも、おかげで縁ができたのだと思います。
(それと、新品のソモギを購入して、すぐにつき板を交換しておきながら塗装もしないで数年で手放した、「MDもお持ち」だというプレーヤーの方、当然どなたかは聞いてはいないのですが、そんな我侭、思い当たるとしたら・・あの方かも・・と思っています。)
クラシックは、かなり以前に弾いて、その時には「綺麗な音だけれど音が澄みすぎて味わいが薄いかも」と感じていたのですが、ここ一年くらい気になり続けて、何かのたびに青爺さんに「修理から戻ったらホールドを」とお願いしていたギターです。正直な所、リセット等の修理から戻ってきたギターのネックの状態やサドルの状態は、古いクラシックによくあるパターンで、それほどいい状態とも思っていないのですが、音はよくなりました。特に澄みすぎていた1〜2弦の音に響きの美しさが感じられるようになったことが大きいです。特に’77sはソモジ氏にとって
ナイロン弦中心の製作家としての最後の年であることの意味が大きく感じられています。カーメルクラッシックギターフェスティバルでご自分の作品を「素人」のものと感じられ、一時は製作家をやめようかと考えられた時期の作品であったそうですが、逆を言えば、ナイロン弦の製作に、それまで大きな自信を持っていたことの裏返しなのだと思います。多分、ご本人の当時の評価ほど悪いギターではないと思います。個人的にはクラシックの名工に負けない、なかなか気持ちのいい音だと思います。
それにしても・・ソモギもとうとう6本です。変なものばかりですが・・・。
No.103 HIKAWA ACOUSTIC GUITAR MiniConcert vol.7
ヒカワミニコンも、7回目を終了しました。アコースティックギターの生の音を大切にしたコンサートを、小さな規模でいいから開きたい。そうした中でアコースティックギターの音のよさを知る人を増やしたい、という願いから始めたコンサートでした。
始めの頃は、会場が職場の学区にあることもあり、教え子や同僚の先生達が多かったと思いますが、最近はいろいろな方が来てくれるようになったと感じています。1回目は出演者も3人だったのが、今回は8組12人の方達が参加してくださいました。有難いことだと感謝しています。今回も、それぞれの出演者が、それぞれの個性で、とても素敵な演奏を聴かせて下さいました。
実は今回は、私にとって少しばかり強い思い入れがありました。昨年、第2回のコンサートに来てくれた教え子のひとりが他界しました。結果的に、その子の力になれなかったことをある部分で悔やみつつ、今、してあげられることの一つとして、あの子の卒業時にも歌い、第2回ミニコンでも歌った歌を歌おうと考えました。当時の教え子のなかで今回来てくれた子達もおり、彼らへのメッセージでもありました。演奏はつたなく、申し訳ないようですが、短いけれど私にとっては大切な時間であったと思います。
ミニコンの規模が拡大するのは、有難いことである半面で、難しさもでてきています。一つは「出演者の十分な演奏時間の確保」と「聴く側の許容時間」との折り合いです。それぞれに味のある出演者の参加希望を簡単に拒否して閉じてしまいたくない・なるべくオープンに色々な方に出て頂きたいものの、無制限に受け入れるのも難しい。私のお客に子ども達がいることもあり、時間をかせぐことも兼ねて「オープニング」と称して、フライングで私の演奏の大半を「始まり前」に終わらせてしまうように工夫もしましたが、それでも今回、3時間を越えてしまいました。「十分に聴けてよかった」と思う方もいると思いますが、「聴き疲れ」された方も多いのではないかと思います。計算上では、同じ出演者数でも、ロスを省けばもう少し短くできるはずで、今後の検討課題です。
もう一つはPAの問題です。もともと音響設備は補助的に使い、全てをシンプルに、「ギターの生音が響く範囲でのコンサート」をするのがねらいでした。最低限のセッティングはしても、自分自身もPAマンにはならずにプレイヤーでありたいと今も思っています。学生時代にオーディオアンプでのPAから始めて、1本1本のキャノンコードを手作りし、もう30年も、色々な場所で音響に関わってきたので、嫌いではないことですし、お蔵入りさせている機材・道具類も数知れませんが、そこを追求するほど、私の願った「生音を大切にしたコンサート」から遠ざかっていくことになります。ただ、演奏される方が増え、来てくださる方が増えたときに「これを使えば便利だな」と思うものは多くあり、どこで折り合いをつけるかが私にとってのもう一つの課題です。機材が増えれば、セッティングに時間もかかり、また、扱える人は減っていくでしょう。
でも、きっとこうしたことは「うれしい悲鳴」なのだと思います。ミニコンがなければ、多分、会うことのなかった人と出会えて、また、コンサートを通してアコースティックギターに注目してもらい、自分自身の自己表現ができるということは素晴らしいことなのだと思っています。最も大切なのは、そこに集まる人であり、コミュニティであるのだと考えています。「アコースティックギターを通した繋がり」をこれからも大事にしたいです。
出演してくださった方々、聴きにきてくださった方々、本当にありがとうございました。
No.104 白太について
私の’69D45は、とても面白い仕様になっています。まず、塗装がつや消しのセミグロスフィニッシュです。他のメーカー等のつや消しの場合、オイルフィニッシュなど、ラッカーを塗っていないギターが多いと思いますが、マーチンの本来のつや消しは、一旦、ラッカーで仕上げた後に表面の艶を消しています。その為、古くなると、人の体でこすれるピックガード周りなど、艶がでてきてしまうという不思議な現象が起こります。もちろん、塗装のチェッキングも入っています。
もう一つ、面白いのが、バックの「白太」です。白太というのは、材木の表面近くの、最も若い部分です。赤身に比べて、まだ、セルロース等強固でなく、軽く腐りやすく虫にも食われやすい部分と言われます。実際、私のD45のクラックは、ピックガード下の所謂「マーチンクラック」以外は、この「白太」にしかありません。白太にそって補強のピースを入れてもらっています。最近のルシアー物など、白太の入ったギターが多いですが、数十年後にクラックが入る可能性は高いので、使われている場所によっては、音への影響もでるかもしれませんね。
でも、とても綺麗です。同じ時期に’68D45もショップにあったのですが、一期一会の出会いのなせる業で、このギターが今、私の手元にあります。
ただ、白太のギターは、くれぐれもご注意を・・・。
No.105 サムピック・タブスペシャル
最近、タブギタースクール特製のサムピックを使っています。理由は二つ。一つは、ストリングヒッティングをサムピックを着けたままやった時に、普通のサムピックだと、ひっかかることが多く、弾きながら気を使うこと。もう一つは「アルハンブラの思い出」を始めとしたトレモロ奏法を鉄弦でやる時にトレモロと低音弦の音のバランスがとれることです。柔らかいので、力を入れても、比較的一定の音量になります。逆に言えば抑揚はつけにくいかもしれません。歌の伴奏でベース音をガンガン鳴らすのにも不向きな気はします。使い方次第のサムピックだと思います。フィンガーピックは、もう30年近くも使っているものが3セットほどあります。その中でも、最近は、タカミネの厚手で先が曲がっているフィンガーピックを、先を少し削って使うことが多いです。材質から異音が小さいことと、曲がっているので力が入るためです。
以前、無謀にもタブギタースクールの打田さんの前で一回、中川イサトさんの前で一回、ギターソロを弾きましたが、テクニックはともかく、音色は褒めていただきました。その理由は多分、私がフィンガーピック使用者だからなのだと思います。
何にしても、タブのサムピックは、私にとって都合のいいアイテムです。
No.106 木目の巾と塗装〜「ラミレスが語るギターの世界」から〜
荒井貿易出版部の「ラミレスが語るギターの世界」にも、興味深い内容が多く載っています。ギターの歴史に関する内容は、幸い、私の「ギターの歴史」のコーナーと矛盾する部分がなく、ほっとしたりもしました。そうした中で、私の興味を惹いたのは、表面板についての次の記述です。
「ギター・ヴァイオリン等の表面板に使われる中部ヨーロッパの板は、その年輪が明瞭で、年輪の間の層が日焼けした色合いを持ち、年輪巾が均等で−狭すぎも広すぎもせず−、繰り返すが、明瞭な年輪を持つものがきわめて上質である。というのは、年輪は楽器の弦と同じ機能を持っており、長さ方向の振動には最も抵抗を示すからである。(垂直方向の振動には、広範囲に振動するニスの助けが必要だが、それは全く別の事柄である。)」
つまり、トップの振動は、リンダマンザの自伝にもある通り、木目を伝う特性があり、塗装の助けによって、その垂直方向に音を広げているということです。
面白いのは、ソモギギターは、2000年以降、比較的、木目の広いものが増えているように感じます。これは、ラティスを張り巡らせた為に横方向の振動伝達が普通のギターより伝わりやすくなっていることが考えられると思います。伝え聞きで恐縮ですが、ソモジ氏もご自身のセミナーで、トップ板の木目の巾の影響の大きさを話されていたと聞いています。
できあがったギターは、その材の特製を利用した「製作」がされてしまっていますから、木目の巾の影響を感じるのは難しいと思いますし、良い悪いの問題でもなく、飽く迄、材の個性として捉えるべきものだとも思います。けれど、材の選定に始まる製作者の技術・努力・工夫を感じずにおれない内容でした。
ちなみにラミレスは、トップ板を薄くしすぎるのは、消耗して長持ちしないギターになるとおっしゃっています。ソモギは・・・どうでしょうね。(笑)
No.107 湿度が高いと空気は軽い〜でも、湿気は低いところに溜まる?
化学の時間に勉強したはずなのに(笑)・・・。
これまで全く不思議に思わなかったのが、「水蒸気は窒素や酸素より軽い」ということです。窒素は28g/mol、酸素は32g/mol、それに対して水蒸気は18g/mol。水蒸気の含まれる空気は当然軽くなります。それだけの理屈から考えれば、当然、「高いところほど湿度が高い」ことになります。
でも、以前、雑感に書いた通り、コレクターのGさんは「湿気は低いところに溜まる」と書かれており、それはGさんの経験に裏打ちされたものと思っています。私自身も自分の経験からそれに納得していますし、弥生時代の高床式倉庫も(ねずみ返しのこともありますが)高い位置のほうが湿気が少なく保存にいいという先人の経験から作られたものと思います。実際に我が家は1階のほうが2階よりも、かなり湿度が高いです。水蒸気が軽いなら、2階のほうが湿りそうなものですが、そうでないのは何故でしょうか。
私はこれを、地面から上ってくる水分と、通風の問題ではないかと思っています。
そう考える根拠となる私の経験の一つは、北向きの家に住んだことです。現在住んでいる家はそうでもないのですが、以前の家は、北向きでベタ基礎でもないため床下が湿気でカビだらけになり、JAの「ナギストンマット」で除湿処理をした上に床下換気扇で強制換気をしたりしました。湿った土の影響は大きく、特に密閉性のいい最近の建材で上から覆った家の1階の湿気はすさまじいものがありました。そこまで極端でなくとも地面に近い日陰は湿りやすいことから「高床式倉庫」という発想が生まれたのではないかと思います。
私のもう一つの経験は、昔賃貸マンションの2階に暮らしていたときの、当時赤ん坊だった娘のために使っていた蒸気式の加湿器の影響です。風邪をひきにくくしたいと思い、冬場は加湿をし続けて2年ほど暮らして、ようやく手に入れた我が家に引っ越した日にタンスを動かしてびっくりしました。ちょうど、そのタンスの裏側だけにびっしりとカビが生えていたからです。湿気が高いところに溜まるなら、天井にこそカビが生えるはずですが、特に天井には異常はありませんでした。部屋には流しもなく、なにもしなければ湿度は低めの部屋でした。だから加湿が必要だったのです。この原因は、通風と温度差、それによる結露の問題ではないかと思っています。風通しの悪いところは、他との温度差ができやすく、結露もできやすく、そうした場所は比較的低い位置に多いのではないかと思います。ベッドの下などは、人間から放出される水分と体温の問題でも結露が起こるように思います。そうした経験から、人は「湿気は低いところに溜まる」と考えるようになったのではないかと考えました。
ギターにとっても、空気中の湿度自体の問題以上に、ギターと空気との温度差による結露、特に内部結露の影響は大きなものがあるような気がしています。私の部屋の真ん中にある(外部とは接触していない)ロッカータンスが周りよりも常に湿度が高い事も、ギターケース自体が湿気やすいことも、それなら納得できるように思います。
本来、地球上で水蒸気は上に登り、上空で冷やされて雨となって落ちてきます。しかし閉じられた箱の中で、飽和状態に近付いた空気の中の拡散した水蒸気は、ちょっとした温度差で水滴となり、そこにある物を湿らせることになります。木材を構成するセルロース等は親水性で、木材繊維は毛細管現象を起こして水を吸い上げますから、水滴(結露)はすぐに木材を緩めることになるのではないかと思います。そして、「水」自体は低きに流れます。「湿気」と「湿度」を分けて使うのは語弊を生むので気をつけたいですが、やはりギターの保管も洗濯物の部屋干しも、通風のいい高い位置のほうがいいのだと思います。
No.108 胴の深さとギターの音色
以前、クラインギターのスティーヴ・クライン氏が、雑誌等のインタヴューで「胴の深さは音にはあまり影響しない。ボディの容量とトップ面の広さが特に低音に影響する。胴が深いと高音がこもるだけ。」といった趣旨のコメントをしていたのを何度か読みました。最近、アーヴィン・ソモジ氏がそれと似た話をされたと教わって、面白さを感じています。
実際、クラインギターのトップは広く、胴は薄くできています。けれど、(いい悪いでなく)その音は深さや重たさのある他のギターの音とは一線を画するものです。(マークシリーズはとても胴厚は深かったりします。)
実は、アーモンドグリーンさんにショーバットというDタイプボディなのに胴厚が半分程度の薄いギターがありました。よい音なのですが、音の深みに関して、弾いたときにクラインと同様の傾向を感じたのです。高域が前に出る、ややギラギラとしたとでも表現できる音かもしれません。勿論、その音を好まれる方もいると思いますし、先に書いた通り、いい悪いでははなく音の傾向の問題ですが、私自身には大きな違いが感じられています。
もう一つ、青爺さんでテーパードボディの6弦側の薄く作られたソモギギターを試奏させてもらった時に、低音弦、特に6弦の残響がとてもタイトで高音弦の伸びやかさとの違いに違和感を覚えたことがあります。これも悪い音ではないのですが、後ろ指をさされそうなほど相当数のギターを弾いてきた経験からすると、独特の不思議な感覚だったのです。
胴厚が浅くなれば、高い周波数の音が強調されていくのには間違いないと思いながら、それがどの程度の影響を及ぼすかについては、偉大な製作家たちの見識と、私の経験や感覚は食い違いを起こしました。でも、それも楽しからずや、です。同じ印象を持つ方は他にもいてくださるようですし・・。