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パシフィック・リム /
Pacific Rim /
Titanes del Pacífico /
Batalha do Pacífico /
Círculo de Fogo

Guillermo del Toro

USA 2013 131 Min. 劇映画

出演者

Charlie Hunnam
(Raleigh Becket - 退役軍人、元イェーガーのパイロット)

Paul Michael Wyers
(Raleigh Becket、若い頃)

Diego Klattenhoff
(Yancy Becket - 戦死したイェーガーのパイロット)

Tyler Stevenson
(Yancy Becket、若い頃)

Jane Watson
(ベケット兄弟の母親)

Robert Morse
(ベケット兄弟の父親)

Idris Elba
(Stacker Pentecost - イェーガー計画の司令官、森の育ての親)

菊地凛子
(森マコ - 怪獣孤児、ペンテコストの養女)

芦田愛菜
(森マコ、子供時代)

Peter Kosaka
(マコの父親)

Yiren Stark
(マコの母親)

Charlie Day
(Newton Geiszler - 怪獣学者、生物学系)

Trek Buccino
(Newton Geiszler、若い頃)

Burn Gorman
(Hermann Gottlieb - 怪獣学者、数字で理論をたたき出すタイプ)

Drew Adkins
(Hermann Gottlieb、若い頃)

Max Martini
(Herc Hansen - イェーガーのパイロット、チャックの父親)

Robert Kazinsky
(Chuck Hansen - イェーガーのオーストラリア人パイロット、ハークの息子)

Robert Maillet
(Sasha Kaidanovsky - イェーガーのロシア人パイロット)

Heather Doerksen
(Aleksis Kaidanovsky - イェーガーのロシア人パイロット)

Clifton Collins Jr.
(Tendo Choi - イェーガー基地の中国系アメリカ人管制官)

Ron Perlman
(Hannibal Chau - 闇市場で怪獣の臓器を売って儲けている男、キンキラ金の靴を履いている)

Santiago Segura
(チョーの子分)

Brad William Henke
(防壁の工事現場の監督)

Larry Joe Campbell
(防壁工事現場の労働者)

Ellen McLain
(Gipsy Danger AI、声の出演)

David Fox
(海辺でローリーを発見する男)

Jake Goodman (子)

Charles Luu
(ウェイ・タン3兄弟)

Lance Luu
(ウェイ・タン3兄弟)

Mark Luu
(ウェイ・タン3兄弟)

Joe Pingue
(Merrit - 漁船の船長)

Joshua Peace (士官)

Sebastian Pigott
(イェーガーの技術者)

見た時期:2013年7月

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ だめな予告編の後

久しぶりにファンタ以外の映画のために映画館に出向きました。いつもコマーシャルや予告編も楽しみにしていて、ちゃんと見るのですが、今回は劣化が目立ちました。今年のファンタには結構まともな作品が入っていて、トレイラーを見る限り合格点を越えるケースが多いのですが、映画館で紹介された間もなく公開予定の作品の予告は目を覆うばかりの安っぽいものはかり。予告編の作り方が悪いのではなく、映画のレベルが下がっているようです。

コマーシャルはと言うと、いつもおなじみスポーツ靴の CM もマンネリ風な上にどこと無くいつものように大金をかけて作らなかったような印象。気合が入っていません。今回目立ったのはビールに他のお酒を混ぜた商品で、いかにも化学実験場から出てきたような色のビール。若い層をこれでアル中にしようという作戦でしょうか。

★ 3D でも我慢して

原則として 3D 映画は嫌いで、時には眼鏡を外してしまうこともあります。別にスクリーンと私の席の間に物が飛んで来なくてもストーリーはちゃんと理解できますからね。選べる時は必ず 2D を選んでしまう古い世代です。

私にとって世界一のイケメン俳優はロン・パールマン。そのパールマンに世界一思いやりを示す監督がギレルモ・デル・トロ。その2人が組んだ作品だというので、内容を知る前からいずれ見ようと注目していました。

聞いてみると 3D しか無いと言うではありませんか。それで仕方なく我慢。

その後暫くしてガンダムがグエムルと対決するような内容と知り、トレイラーやメイキング・オブを見てみました。これはおもしろそうだというのがその時の印象。映画館のサイトを見ると 3D 超過料金を取られることになっていました。眼鏡を無料配布するためらしいのですが、あんなの1つ100円ぐらいで手に入るし、私の家にはファンタからただで配られた眼鏡が数個転がっているのです。あほらしい、と思いましたが、ロン・パールマンとデル・トロのためならと思って大枚はたく決心。幸い知人からプレゼントされたこの系列の映画館専用のクーポンがまだ残っていたので、それで支払い。自分の懐は痛まなかったのですが、それでもせっかく貰ったクーポンなので有効に使いたかったです。果たしてそれが有効だったかは以下を参照。

★ 冒頭から大感激

大はずれの予告やコマーシャルがようやく終わり、普段の開演時間より10分早く始まったパシフィック・リム

後で見たら上映時間が120分を越えていました。なるほどそれなら超過料金も仕方無い。ドイツでは規定を外れる長さだと料金が高くなるのです。見終わってまだ興奮が冷め遣らずこの記事を書いているのですが、130分も越えているとか気がつきませんでした。

午後8時から2時間というのは私に取っては厳しい時間帯。私は井上さんほどではありませんが早起きの癖があって、そのしわ寄せが午後8時頃に押し寄せ、目は覚めていても頭が完全にブラックアウト状態になってしまうのです。その時間帯に上映と言うことで、血糖を上げるためにコーラを飲んだり、アイスクリームを食べたり色々工夫が必要。その上ファンタなどでは空調が間に合わないので酸欠にもなり、2重苦、3重苦の時もあります。

ところがこの日は睡魔も怪獣に恐れをなして近づいて来ません。見終わっても130分だったとは気がつかない。いきなり冒頭からガンダムに鷲掴みにされて映画の世界に引き込まれてしまいました。

ストーリーにではなく、冒頭のシーンに。心躍るすばらしい導入部です。私はデル・トロを比較的知っている方で、直接話をしたこともあるので、彼がいかにルンルン気分でこの作品の制作に携わったかが伝わって来るような錯覚に襲われました。

ガンダムの足音に合うような音楽を使っていたのもその効果を更に上げたかも知れません。2人の人間がロボットの中に入り操縦するシーンも、落ち着いて考えると馬鹿馬鹿しい話ですが、なぜか魅了されるのです。

大分前トム・クルーズなどが体を動かしながら何かをコントロールするサイバー SF を作っていて、暫くそういう描写がブームになりましたが、ああいうあほらしさがデル・トロの歓喜に押されて吹っ飛んでしまいます。良く考えて見ると馬鹿馬鹿しいシーンではあるのですが、私の心も一緒に躍ってしまうのですよ。

デル・トロがどの程度日本の観客を意識して作ったのかは分かりません。彼はメキシコ時代から日本の漫画やアニメのファンで、長く親しんでいる人ですが、元々は自分が楽しくて見始めた人。冒頭のシーンに出て来るガンダムにはチラッと鉄人28号の面影があり、私はますます楽しい気分。映画のタイトルが出て来るまでにかなりの時間がかかるのですが、うきうきしてそんなことは気になりませんでした。

★ ストーリーの前に

タイトルが示すように太平洋地域の各国が巻き込まれる事件を主題にしています。 タイトルになっているパシフィック・リムというのはこの地域のこと。つまり地震に苦しんでいる国々の集合体です。日本人、アラスカ人、カリフォルニア人、メキシコ人、チリ人、ペルー人、そして冷戦時代にはあまり話を聞きませんでしたが、ロシア人、中国人も皆中期、長期のスパンで見ると大きな地震にガーンとやられたことがあります。近年ちょっと付近を見回しただけでもスマトラ付近で呆れるような数の人々が津波に飲み込まれましたし、日本もやられたばかり。スマトラ付近は今も余震があると聞いています。他のニュースに埋もれた感がありますが、ニュージーランドもやられています。チリ地震の様子は今年のファンタでも取り上げられています。

と、まあこういった具合なので、メキシコ出身でカリフォルニアにいることの多いデル・トロ監督に取っては他人事ではありません。パシフィック・リムはその地域の国々が地震ならぬ、グエムルに襲われ、壊滅的な状態になるというところから話が始まります。

やれガンダムだ、グエムルだと例えましたが、パシフィック・リムの中ではちゃんとした名前があります。ガンダムがドイツ語のハンターを意味するイェーガー(Jäger)、グエムルが日本語をそのまま取って怪獣。太平洋のど真ん中の海底から出て来るので、海獣としてもいいかも知れません。

太平洋の地面には日本海溝を始め所々に深い切れ目があって、プレートの境界線だとか色々言われています。地学にはあまり詳しくないのですが、その深みに海獣の巣があり、そこから時々現われて、環太平洋諸国の大都市を壊滅させてしまったというのが話の前提です。

生物の海獣に対抗するのが機械のイェーガー。人間のパイロットが2人1組で乗り組み戦います。元々は1人のパイロットでやっていたのですが、荷が重過ぎ、2人に変更。2人は双子のように息が合わないとだめで、そのため親子、兄弟、夫婦コンビが登場。

★ いざ本題

海獣の被害が出始めるのは2013年夏ごろから。つまり今月か来月あたりから。 まずサン・フランシスコで強い地震が起き、直後に海獣の攻撃を受けます。人、物共に甚大な被害。これを機に警戒システムが作られるのですが、秋になるとフィリピンのマニラがやられます。この2件だけで環太平洋警戒システムが始まります。年が明けてまだ冬のメキシコがやられ、春になるとオーストラリアの大都市シドニーが。この頃イェーガー計画が立てられます。まだ4回目ですでにこういう大きな国際的な計画が立てられるのはちょっと感心。官僚だ、利権だと言って揉めないんですね。

秋の始めにガンダム計画、いえ、イェーガー計画が具体的になり、ガンダムの製造が開始されます。翌年の2015年明けてすぐ1期目のガンダムが行動開始。4月にはカナダのバンクーバーがやられ、その後次々と各国のパイロットがこの計画に参加を始めます。

被害地域はその後も拡大を続けます。東京、香港、ロサンジェルス、サン・ホセ、サン・ディエゴ、マニラ(またかい)、こんな感じで太平洋地域はぐるっと見渡してもまともに機能する場所が無くなっています。ここに挙げていない町、地域も都市の機能がガタガタになってしまい、インフラを立て直すどころではありません。

ざっとまとめると、太平洋の船の航行が妨げられる上、各国とも重要なインフラが破壊され、恐ろしい数の難民を作り出し、機能不全状態に陥っています。食べ物を作る工場も機能しないので、実際に起きた地震、津波後の各国の状況そのままの状態。それが同じ時期に何カ国にも渡って起きています。

というのを前提として始まるのですが、2013年から映画中の《現在》までに身内を海獣に殺されたり、戦闘で命を失う人がたくさんいて、その後の登場人物にもそういう過去が引き金になって軍で活躍しようという人が入っています。

イェーガーを使った作戦は当初うまく行っていたのですが、数は力。海獣は次々に新しい種類の生物として現われ、対処が間に合わなくなってしまいます。

冒頭のかっこいいガンダム出撃シーンは映画の《現在》から数えて5年前。ベケット兄弟が活躍していた頃です。しかし兄ヤンシーは戦死。そのため弟ローリーは引退。

海獣退治の1つの方法はイェーガーによる攻撃ですが、もう1つの方法は海獣が乗り越えられないような防壁を作ること。日本でも地震、津波の後国土強靭化の1つの方法として考慮されているやり方。物凄くタイムリーなテーマを盛り込んであります。ローリーはガンダム作戦から身を引いて、そういう壁を作る工事現場で労働者として働いていました。

次から次から数が増えて襲って来るだけではなく、力も強くなって来る海獣相手に人類は完全に人手不足。退役した戦士を呼び戻さなければ間に合わないというのでローリーも呼び出されます。5年の間に改良型も出ていて、基地では生物学的研究も進んでいます。しかし予算、人材的には万策尽きたところで、間もなく開始される新しい(消極的な)作戦に移行するまでしか予算が出ないことが国際会議で決められ、最後通牒が渡されます。手元に残ったガンダムは4機。

★ 注目の俳優 1

注目の俳優2は無論ロン・パールマンですが、先に出て来るので、その前にクリフトン・コリンズ2世に注目。これまで色々な芸名で出演していた人で、クリフトン・ゴンザレス・ゴンザレスという名前をご存知の方もおられるかと思います。端役、脇役、悪役で100本弱、主としてアメリカの作品に出ています。何が注目かと言うと、彼はメキシコ系で、メキシコからアメリカにやって来て活躍した初めてのメキシコ人役者の直系の孫だからです。このおじいさんがゴンザレス・ゴンザレスという名前だったので暫くその姓を名乗っていました。

もらえた役柄はぱっとせず、だめ男や悪役が多かったのですが、パシフィック・リムでは長く彼を知っている者が目を見張るようないい役です。台詞も多く、デル・トロ監督に三顧の礼を持って招かれたのかと思ったほどです。私も彼にやっといい役が回って来たと思いました。一時期は俳優を辞めるのではないかと心配したこともありました。

★ ペアのティームワーク

イェーガー操縦で1番大切なのは2人のパイロットのティームワーク。ところが人材不足に悩む現在、とても2人がうまくやって行けるまで待つ時間はありません。その上計画中止を言い渡されており、大変。

そのため多少無理をしてでも新しいコンビを作ろうということで、兄を亡くしてまだ立ち直っていないローリーと両親を海獣に殺されて孤児となり、司令官ペンテコストに引き取られた形の森マコが組むかもしれないということになります。

トム・クルーズがこの作品の重要な役にキャスティングされたという話が暫くありました。もう50歳台に入ったので、主人公の役は無理。どの役になるはずだったのだろうと思ったら、どうもこの司令官だったようです。クルーズは下手な俳優ではありませんが、この時期を見るとオブリビオンの主演を取ったのは正解だったと思います。

彼ほどのスターでだんだん年を取って来ると仕事の範囲が狭くなって来るので、時々準主演の仕事を取るのは悪い作戦ではありません。ただ、両作だけ比べるとクルーズはオブリビオンの方が良さが出せたと思います。

エルバは演技者としてはあと少し何かが足りない印象。なので別な俳優を当てても良かったのかも知れません。デル・トロ監督はこの役に白人の中年男性を起用していつも白人が指令するステレオ・タイプの映画にしたくなかったそうで、その意見には賛成。現実にもパウエルのように軍のトップに上がる人が出る時代。なのでここにオブリビオンに出ていたモーガン・フリーマン以下ベテランのアフリカ系俳優の中から誰かを選んでも良かったですし、ラテン系の人を起用しても良かったかと思います。

さて、ペンテコストはあれこれ理屈をつけて森マコの出撃を阻もうとし、ローリーには別な男性パイロットをつけようとします。マコは上昇志向が強く、自分も参加したいのでテストをさせろとか、色々言ってねじ込んで来ます。

いささか男尊女卑の傾向のある軍(未来の話だとすると女性の少なさには驚きます)でマコは隅に追いやられた形である上、養女とは言っても我が娘を命の危険にさらしたくないペントコストは話が合ってしまい、マコの出番はなかなかやって来ません。

★ 注目の俳優 3

私の好みでは3番目になってしまうのですが、登場順で行くとコリンズ2世とほぼ同じ時に登場するのが主演のチャーリー・ハナム。ただ主演だから注目したのではなく1つにはロン・パールマンとのコネがあるので取り上げます。

英国人のハナムがどういうわけかアメリカのテレビ・ドラマ、サン・オブ・アナーキーの主演をやっていて、荒くれ男のオートバイ・クラブが舞台。ロン・パールマンの妻の連れ子という役柄のため、このシリーズではほとんど毎回2人は撮影現場で顔を合わせていました。

どういう順序でパシフィック・リムのキャストが決まって行ったのかは分かりませんが、デル・トロとパールマンはそのキャリアの大部分で知り合い状態。なので パールマンの線でコネができたのかも知れません。デル・トロはハナムをその前の大作のどこかで使おうとしたという噂もあります。多分ヘルボーイの続編でしょう。

もう1つ大感激したのは剣道のシーン。イェーガーの基地で「私にもやらせろ」と言い出し、森マコとローリーが対決。その際の棒の扱い方は見事です。一応こういうシーンは振り付けがあって、俳優はダンスをするように舞うのですが、ハナムはこれまで見た欧米の俳優の中で1番隙がありません。昨日までのナンバー・ワンはマトリックスでキアヌ・リーブスと練習試合をするローレンス・フィッシュバーンだったのですが、フィッシュバーンはどうも前にボクシングのような欧米の格闘技を学び、その後カンフーや空手を身につけたか、スタント監督の振り付けに合わせて振舞った時に過去のボクシングか何かの技術が役立ったという感じで、隙は多少ありました(とは言え、当時の他の俳優と比べると群を抜いていました)。

それに比べハナムは360度ぐるりと隙が無く、上の方からつま先まで、上下左右東西南北全ての方向でしっかりカバーしていました。どこから攻撃を受けても敵より先にそこに手が回っているという感じで、驚きました。

女優にそこまで武術を求めても仕方ないですが、菊地凛子は隙だらけ。スタント・コーディネーターに言われた通り舞って見せただけ。役の性質上彼女が勝つのですが、とても勝ったようには見えず、ハナムが負けたふりをしてあげたように見えてしまいます。ま、この点は他の女優にやらせても同じ事で、ハナムの仕上がりが良過ぎたと言えます。

ハナムはベッカムかと言えるほどトレーニングをしてあり、筋肉質の体をちょくちょく見せるシーンがあります。若い女性ファンを集めるために若手のスター俳優がそういうシーンを盛り込むのはこの業界では普通ですが、類似の俳優がたくさんいる中、この剣道のシーンは見事です。このシーンが無かったら私もただのファッション・モデル系のイケメン俳優として見過ごしていたと思います。

ハナムの殺陣は西洋のフェンシングや、ボクシングのような守り方ではなく、日本の剣道や他の武道風で、バタ臭くありません。どこでどうやって学んだのかは分かりません。お見事。

★ ペアの見直し

ストーリーの流れは、
 ・ 2013年夏を境に地球が海獣に襲われる
 ・ 人類が優勢だったのが劣勢に転じる
 ・ 重大な人材、機材不足に陥る
 ・ アルマゲドン式の奇策が必要になる
 ・ そこに最後の望みの4人が投入される
といったもので、実に平凡。

こういう企画の映画では監督や脚本家はこういう枠内で何かしら特徴を出せる話をひねり出さなければなりません。日本の怪獣映画や漫画、アニメにも通じているデル・トロは、《体長100メートルの怪獣にも50メートルの魂》という論法はやらず、海獣への思いやりは無し。日本国内ならそれでもいいですが、国際的には通用しないとの判断でしょう。

日本以外の世界でも一応通用し、今求められているテーマは何か。そこでひねり出したアイディアは、親子、兄弟、友人のつながり。非常時に相手を認め直すという運びです。

なので色々なペアが登場します。

まず何よりもガンダムは2人の人間の心が解け合い、信頼し合わないと機能しないという設定になっています。そこで、兄弟、親子、夫婦と思われる人たちが組んでパイロットになっています。兄を失って弟が「もうだめだ」とタオルを投げてしまうのはそのせいです。

最近まで見ず知らずだったローリーとマコが組めるかというところで少しはらはらさせておいて(誰もが結末を見通せるのではらはらしないでしょうが)、そこに親子の絆ゆえに戦闘に出したくない義父を絡ませます。

もう1つのペアは、つい最近まで子供っぽく喧嘩ばかりしている学者2人。学派が違い、相手の鼻持ちなら無い態度を嫌悪する2人。しかし最後人類を救わなければならなくなりいよいよと言う時には協力体制。

あまり深く描いていませんが父親コンプレックスを持つ娘と、息子も出て来ます。人種は違えど愛情を持って大事に育ててくれている父親に逆らうことができず、しかし内側から湧き出る上昇志向。その狭間で揺れる少女森マコです。年齢的には大人なのにまだ父親コンプレックスから抜けていないために少女の要素を残しています。

もう1組は父親が完璧過ぎてか、本質的な所で逆らえず、その埋め合わせとして普段つまらないところで盾を突く息子。息子にきつい言葉も吐いて躾けなければ行けないと分かっていても言葉を控えていた父親という、これまたステレオ・タイプの親子関係。

デル・トロは日本でも他の国でも通用しそうな教育テーマをアクセサリーとして取り入れています。でも、主眼がガンダム出動シーンにあったことは「全部お見通しだ!」

なぜかと言えばガンダム出撃のシーンになると、ソウル系の音楽を行進曲のようにアレンジしてガンガンかけるのです。そうなると観客は元気溌剌、行け行けどんどんになってしまいます。

★ 注目されると困る俳優

名前だけはかなり前から聞いていた国際女優菊地凛子。超有名な監督の作品でデビューしており、外国の映画祭で絶賛されたことになっていたので、そういう女優が日本からも生まれたのだろうと思っていました。そのうちに有名な賞にノミネートされたり受賞したりで株がどんどん上がっていました。なのでいずれ私も何か見ようと思っていました。

パシフィック・リムは彼女が女性の中では主演なので、いい機会と思っていました。しかし見てびっくり。他の日本の若手俳優と同じで学芸会路線。ドイツ語版パシフィック・リムでは声はドイツ語に吹き替えられたものと思います。ドイツでは日本人が演じる映画の場合こんな具合です。

ドイツ語以外の作品中全体的な部分はドイツ人声優がドイツ語に吹き替えます。日本では映画館上映の場合オリジナル版を字幕で流すことがほとんどでしたが、ドイツでは元から映画全体をドイツ語に吹き替えてしまいます。見る側に取って楽といえば楽ですが、元々の俳優の演技のうち声の部分は概ね平凡になってしまいます。ジュラルディン・チャップリンやピート・ポスレスウェイトのように声で周囲をなぎ倒すような演技ができる人の場合そのすばらしい演技は堪能できません。

ドイツの映画館でなぜ字幕上映が拡がらなかったかは謎ですが、原因はドイツ語の単語の長さと文法にあるのかも知れません。

ドイツ語というのは文字にして書くととても長くなる言語です。書くは《schreiben/write》、歌うは《singen/sing》、英語とそっくりな言葉でも2文字ぐらい長いのです。

そして文法の規則のために《I have written a book about German meal.》などという時、《I have》という部分と《written》という部分が前と1番後ろに分かれてしまい、人は《I have》と聞いて、「ああ、この人は何かやったんだな」とは分かるのですが、何をやったかは最後の《written》を聞くまでさっぱり分からないのです。

この並べ方は絶対に変えるわけに行かないので、英語のように一箇所に何をやったかが全部まとまって並んでいる言語と比べ、物事を理解するのに時間がかかります。時には《I have》と《written》の間に延々《友人に無理にと勧められたため、その気は無かったけれど、やっぱり考え直して、毎日原稿を2枚書くという方法で》などと3行ぐらい文章が入っていることがあります。

英語なら一箇所にまとまって置いてある言葉が前後に大きく離れてしまう規則は完了形のみならず、《I can...》、《I will...》、受動態などいくつもあり、これを映画の字幕でやられると、さらっと読み流すことができません。

そういう風に考えると、1番短くコンパクトにまとまるのが中国語。次が英語か日本語。英語の場合は冒頭で何がどうしたということが大体つかめるような語順。日本語は単語に《てにをは》がついていれば、後続の述語を省略してもざっと意味がつかめる上に、中国語と同じようにコンパクトな漢語、漢語のルールで作られた和語が並べば、最後まで読まなくても想像がつきます。その上日本語と中国語は縦書きにも横書きにもできるので、真ん中のスターの映っている場面を避けて横に縦書きで書く事もできます。

今どうなっているんだろうと思うのが韓国語。私が子供だった頃は韓国語は漢字ハングル混じりの正書法でしたので、事情は大体日本と同じでした。その後1度5年ほど漢字を国として廃止。やっぱり不便だというので再導入。ところがその後改めて廃止。そのため現在は全ての言葉をハングルで書いています。日本語と比べ音素が多いので恐らくは音異義語が少ないのだろうと思いますが、便利になったか不便になったかは見方によります。漢字を習うということは2000字ぐらいは必要なので、そこに力を注がなければなりません。ハングルだけだと当初習うのには時間がかかりません。後は同音異義語が少なく、あまり混乱しないことを祈るばかりです。日本語でこんな事をやったら、翌日から大混乱でしょう。

ここの文脈で考えると、ハングルのみになった場合文字数が増えるだろうと思われるので、書いた文章が長くなってしまうでしょう。となるとドイツ語と同じで映画館で素早く読めるかが問題です。韓国語は勉強したことが無いので、どの程度問題があるのか、無いのか分かりませんが。

ま、それは別なテーマなので話を元に戻しますと、ドイツでは映画館、テレビ共日本人だけが演じている作品でも、台詞は全部ドイツ語になってしまいます。これですとドイツ人声優のみで間に合います。

私などに声がかかったのは、部分的に日本人が日本語で話すシーンが挿入された作品。映画全体は外国が舞台だったり、話全体は外国語を使う人で進み、そこにちょっと日本人が出て来る場合。

そういう時はドイツ人声優に日本語の発音を教え込むか、日本人をどこかから呼んで来てその部分だけ日本語で言わせます。私は両方見たことがありますが、どちらも一長一短で、うまく行きません。日本人が母国語を話しているシーンをドイツ人声優にやらせると、必ず違和感が起きるようなアクセントが残ります。アメリカ人の政治関係者などには、成人してから日本語を学んだ人でもアクセントがほとんど無い人が育っていますが、俳優の世界はまだそこまで行っていません。

日本人に日本語を言わせるのはいい考えですが、ドイツの芸能界には日本語を母国語とした日本人の俳優はほとんどゼロか完全にゼロ。録音スタジオのある場所にそういう俳優がいるわけではありません。なので全く職業の違う人間に声をかけ、その場を取り繕うわけですが、俳優の訓練を受けたことの無い人がマイクの前で演技をするのは大変。惨憺たる結果になります。時には東アジアの他の国の人を連れて来てやらせたと思われる例もあるのですが、そうするとその人の母国語のアクセントが強く、この方法もだめです。

というわけなので菊地凛子の出来が最悪と言っても、台詞の部分は評価から外しています。この部分はドイツの吹き替えスタッフが人材を揃え切れていないだけのこと。菊池の責任ではありません。

私がこりゃまずいと思ったのはそれ以外の演技の部分。致命的なのは姿勢と歩き方。これは俳優のみならず日本人女性一般に言えることで、外国で見かけた女性のほとんどと同じです。日本人も俳優として大金を稼ぐからにはそれなりに俳優学校へ行ったり、スタントのトレーニングを受けたり、色々訓練をしているものと思われます。たまたま町でスカウトされ、大スターになった人でも、最初は素人らしさで売り、そのうちに貰ったお金で訓練を積んで行くのではないかと思います。例えばメイクなどが徐々に上手になって行く様子が見られます。

ところがある所で日本ではそれがぴたっと止まってしまい、そこから先はなぜか学芸会のレベルに留め置かれてしまいます。いったいなぜなんだろうと思うのですが、本人がそれ以上上を目指しておらず、日本ではそれでも《お約束》として通用するのかも知れません。1度イケメン俳優と言われる青年を見て愕然としたことがあるのですが、この人も国内では大スターということでした。その後ある事件に巻き込まれ芸能界を去ったようですが、発声もだめ、視線、立ち居振る舞いもだめでした。

私が以前見た菊池の作品は SURVIVE STYLE5+ だけなのですが、この作品はオムニバス形式で、1人の出番が短いため判断ができませんでした。どこに出ていたのか覚えていません。その後いきなりほぼ主演のパシフィック・リムを見たのですが、まだ演技と言えるレベルに届いていませんでした。幸い脚本が強い演技力を要求していなかったので、ボロはあまり出ていませんが、今のうちにしっかり演技の基礎をやっておかないと、良いオファーが来た時大変です。また今基礎を固めないと将来オファーが来なくなってしまいます。

彼女に限らず日本では俳優教育はどうなっているのでしょう。アメリカもアメリカだからいいというわけではなく、しょーもない俳優もちょくちょく現われます。ただ長くは続かず、1発、2発当てても、やがて消えて行きます。シャーリー・マックレーンのような下積みの長い人でも毎日練習を欠かさない世界です。

所変わって英国、アイルランド系の俳優は無名俳優に至るまで基礎訓練ができていて、何かの弾みで大きな企画にキャスティングされてもすぐそのまま通用してしまいます。いくつかの俳優養成学校があり、そこで主演としても脇役としても通用する力をつけているようです。そのため、中年になってから急に有名になる人もいます。

ドイツは日本といい勝負のレベルで、学芸会とは言いませんが、1つのパターンに縛られたままです。台詞の言い方もちゃんとしておらず、変にワンパターンで押し通す人がスターのレベルにまでいます。いったいこれはどういうことなのかと私は80年代から考え続けているのですが、未だに答は見つかっていません。

ところがドイツには少数ですが有能な若手俳優も出て来ているのです。私が時々話題にする人たちで、今では中堅と言える年齢になっています。よりによってその人たちは俳優学校に行っていません。ダニエル・ブリュール、ユルゲン・フォーゲル、そして監督もやるデトレフフ・ブックです。ブックはすばらしい作品を作り、その中で俳優もやり、ベルリン映画祭で話題になった後で映画学校に入り、卒業しています。しかし入る前にすでに技術も能力も身につけていました。他のテレビ、映画常連の有名俳優は目も当てられない状況です。そのお仲間と考えるなら菊池もあのレベルでいいのだろうと思いますが、周囲にましな人が集まると落差が見えてしまいます。

日本の俳優が全部だめだと言っているのではありません。山田五十鈴、嵯峨三智子親子は重量級の大俳優。どこへ出しても恥ずかしくありません。こういった俳優が時々出ていたことを考えると、日本はそうだめな国ではありません。しかしファンタに日本から劇映画が来るとため息が出てしまいます。演劇を基礎から教える学校が無く、俳優一人一人の努力に頼っているからなのでしょうか。あるいは英語圏で大国だからアメリカとイギリスが目立つだけで、世界の大半はだめなのでしょうか。

★ 注目の俳優 2

心情的には注目の俳優 1 がパールマンなのですが、出番が後の方で、短いので、2 にしました。過去の恩義に篤いデル・トロはパールマンが初期の作品に飛んで来てくれたことを忘れず、その後折あるごとにパールマンを使おうとします。パールマンはジョン・ジャック・アノー監督からも時々声がかかる人です。

デル・トロはパールマンを使えるならさっさと脚本を書き変えてしまえるらしく、パシフィック・リムではあっても無くてもいいような役を貰っています。しかしそこはパールマン。貰った役に文句をつけたりはしません。やな奴を演じるなら嫌味たっぷりにしようってんで、金歯、キンキラ金の派手な靴で現われ、ナイフをポランスキーのように振り回し、あわや訪ねて行った男の鼻がジャック・ニコルソンのように切られてしまいそうになります。

彼の役はガンダムが駆除したグエムルの死体を闇で売りさばく男。刺身が数千人分できそうな上、内臓は漢方に使われ、ビアグラの代用にも。

しかしそういう商売をしていたことが祟って、後半の後半、グエムルに食べられてしまいます。しかし悪い奴ほど長生きをするのが常。そう簡単には諦めません。

ユダヤ系のパールマン、メキシコ・ドイツ系のコリンズ。どういうわけかハンニバル・チョウとかテンドー・チョイというわけの分からない役名になっています。

★ ハッピーエンドに行く前に

話の途中で一体なぜ急にこんなにたくさん太平洋にグエムルが現われたのかという話になります。どうやらエイリアンが地球に送り込んだ生物らしく役目は露払い。先に送り込んでおいて、人類を滅ぼし、その後悠々とエイリアン本体が来ることになっているらしいのです。最近このテーマの作品が増えています。そして科学者が DNA 検査をしたところ、姿形の違う海獣でも DNA は一致。クローンされているようなのです。

近年世界情勢が変わり、国際的に組む相手が変化しています。1つの案が環太平洋条約。過去に習いブロック化を試みているようです。これがいいアイディアか、うまく行くかはともかく、これまでと違った国々が協力関係を築こうとしているわけです。

1つ確実に役に立ちそうなのは地震、津波の際の連絡、協力。この国々ではいつどこで地震が起きるか分からず、一旦起きるとこちら側と向こう側に津波が押し寄せる危険を伴っています。どの国も長い歴史の中でいつか酷い目に遭っているので、お互いの被害に対する同情も言葉だけの上滑りではありません。

そんな現実を横目で見ながらパシフィック・リムを見ると、映画の中で描かれるような協力体制は、変な貿易交渉をするより役に立ちそうで、被災した地域にすぐ病院船を送ったり、瓦礫処理隊を結成したりという話の方が早くまとまるのではないかと思います。

パシフィック・リムは実はエイリアンの話だったわけですが、オブリビオンと同じくエイリアン本体の姿はありません。パシフィック・リムの企画が311より前からあったのかは知る由もありませんが、津波被害が出てしまった日本に取っては変にタイムリーな感じがします。

★ お決まりのハッピーエンドへ − 東西折衷案

冒頭からこの作品はハッピーエンド、大団円と「お前のやる事は全てお見通しだ!」なのですが、最後日本風アルマゲドン的解決と、ゲルマン伝説的な解決になります。デル・トロは日本人が自分を犠牲にして世を救うパターンを承知しているのかも知れません。

いよいよ最後2機しかないガンダム。グエムルの巣の場所を突き止め、海溝深く核爆弾をぶち込もうという作戦です。アルマゲドンザ・コアの海底版。

2組のペアで出撃し、戻るのは1組だけ。マコと組んだローリー組と司令官と組んだ ハンセンの息子。ここに至るまで散々喧嘩をしていた学者2人が、グエムルのクローンの事をつきとめ、蜂で言えば女王蜂に当たるグエムルを海溝深くで殺してしまえば問題が一気に解決するという結論を導き出し、更にそのグエムルの巣に入り込むための方法も突き止めてあったため。最後喧嘩友達の2人は和解します。気にかかるのは太平洋のど真ん中で核を爆発させて、汚染は大丈夫かと言う点。今日本では汚染水が太平洋に流れ出したのではないかと騒ぎになっているところですし。

おもしろいのは父親的な司令官と、親子喧嘩をしていた息子が組んだペアが死ぬところ。東西折衷で、東洋的なのは父親が子供の世代を生かすために自分を犠牲にするところ。日本には子供を殺してまで自分だけ生き残ろうという人はまずいないでしょう。ゲルマン悲劇的なのは息子を心から愛していても成り行きから父親が生き残ってしまう話。

2組のペアを出すことで東西のパターンを両方取り入れています。欧米の観客にも日本の観客にも大絶賛を受けること間違いなしと思ったのでしょうね、きっと。

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