+通り雨+

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 3

 シャワーはいい。と彼女が言うから、男女でホテルに来て、するべきことを自然な流れですることにした。

 彼女をベッドに仰向けに寝かせて、紺色の大きなリボン、可愛いけど邪魔だしな。と思いながら、ゆっくりと、ほどく。シュルッと乾いた音がした。
 彼女の黒目がちで意志の強そうな瞳の中に俺が映っていた。
 なんで?
 とつい、口に出しそうになった。
 なんで俺たち、セックスするんだっけ?
 彼女に軽く、口づけをする。通算二度目のキスだった。

「…………、なんで?」
 とつい、今度は口に出していた。
 間抜けな質問だと自分でも思った。
 ヒッと彼女がしゃくりを上げた。瞳から次々と大粒の涙をこぼしながら。
 彼女自身上手くコントロールできないようで、手の甲で目の辺りをこすったりするから、赤くすれてしまっている。

 ベッドの上で泣きじゃくる彼女を、結構長い間、ただ見つめていた。
 早く消えてやればいい。たぶん彼女にとってそれが一番いいんだろう。と頭で分かってはいたのだ。
 その時は少し、意地悪な気持ちになっていたのかもしれない。
 あと、二回キスした縁、みたいなものも感じていたのかもしれない。勝手に。

「なんで?」
 彼女が泣き止んで、しばらくしてから、俺はもう一度聞いた。
 なんでこんなことしたの?
 親や教師みたいなことを聞いた。
「……ごめんなさい」
 叱られた子供や生徒みたいな答え方を、した。

 一度目のキスを思い出してみる。
 あの時の、微かな震え。
 怯えや恐怖に似た、少女期特有の感情の震え。
 俺は、それに気付いていて、気付かないフリをした、のかもしれない。
 やはり少し意地悪な気持ちになっていたようだった。
 これ、可愛いね。と言いながら、紺色のリボンを返した。
 少し意外。という顔をして、彼女はそれを受け取る。
 事情とか、色々想像もできたけど。
 お節介に聞いてみることもたぶん、できるけど。
 今度こそ、このまま帰ろう。それが一番大人でカッコいいだろう。

「あの」

 大人の余裕というやつを抱きながら、俺は笑顔で聞き返した。
 はい、なんでしょう?

「私、妊娠してるんです」

「……はい?」

「赤ちゃんがいるの、ここに」

 どう見ても膨らみの、生命の豊かさに欠けるお腹を手で押さえて彼女は言う。
 つい、どこに? とか間抜けな質問をする。

 彼女は、非常に女らしい微笑みを浮かべて、それに答えた。 

 

 

 

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