+通り雨+
4 カキーンッという甲高い金属音と共に、白い点が、青い空へと吸い込まれていく。 カキーン。 「あ、貴也さんだ」 濃紺ソックスからスラリと伸びた足が言った。 一際大きな歓声と悲鳴が入り混じった。冷静なうぐいす嬢は告げる。七回表の攻撃は…… |
「陽は、イチローに憧れてるんだよ。背はちっちゃいけど、足なら負けないんだって」 「メジャー目指してんの?」 「さあ、どうだろ。英語を勉強してる気配はないよ」 彼女はベッドに腰掛けて、俺はベッドを背もたれ代わりにして床に腰掛けて。 「ね、お兄さんの名前は?」 葉月は色々なことを話した。 「メジャーは分かんないけど、高校球児としては甲子園が夢じゃない?」 「もしかしたら、私、ほしかったのかもしれない。陽の子供が」 |
カキーンッと甲高い金属音と共に、それは見る見る空へと近づいて、その思いを遂げられずに、グラブの中へと収まった。 歓声と悲鳴が入り混じる。 守備の次にはさあ攻撃だ。 ライトからベンチまで、元気よく走っていく少年の後ろ姿をじっと見る。 何年か前の自分の高校時代の姿と重ねる。 言えないよ、と微笑んだ彼女の姿を重ねる。 ホテルから出るときに、一つだけ約束を交わした。 試合も終盤、同点の場面で葉月は立ち上がった。 |