+通り雨+
6 「あの時、雨さえ降らなかったらな」 と葉月は言った。 |
結局、ファミレスのスパゲッティーは俺がおごることとなった。 女の涙は高いんだよ、とかなんとか葉月は言っていた。肝に銘じる。 それからのことを彼女は一言も語らなかった。俺も聞かなかった。 あの時のキスから、彼女がどんな答えを得たのか。 ただあの高校球児が、甲子園に行って、メジャーで活躍している。とは聞いていない。 「あ、貴也さんだ」 と。そのうち、街中で、葉月が声を掛けてくるのを俺は心のどこかで待っている。 |