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〜ふかしぎアンケート感謝プレゼント小説<なかじまゆら様へ>〜

名探偵クライス 第2話

彼女が創り出したもの [解明篇] Vol.5


翌朝。
俺たちは、ザールブルグ・アカデミーの校長室にいた。
昨日、街へ帰る道々で、俺とマリーは何度もクライスに問いただしたのだが、彼の口から何も引き出すことはできなかった。
「明日にはすべてがはっきりしますよ」
と、謎めいた笑みを浮かべるだけだった。
そして今、校長室のテーブルの周囲に並べられた椅子に座ったクライスは、明らかにこの場の雰囲気を楽しんでいるかのようだった。マリーは、まだ寝足りないのか、寝癖のついた金髪を直そうともせず、あくびを繰り返している。俺はといえば、初めて足を踏み入れたアカデミー校長室に並べられた肖像画や、錬金術に関するものらしい置物などを、好奇心いっぱいに見まわしていた。もちろん、事件そのものに関する謎解きの期待もいや増していたのだが。
これからこの場で、アカデミー当局による『うに魔人』事件の真相究明委員会が開かれるのだ。俺たち3人は、証人として呼ばれているのだった。
重々しいきしみとともにドアが開くと、豊かな白い髭をたくわえた威厳のある老人が入って来る。壁に掛けられた肖像画と同じ顔・・・アカデミーのドルニエ校長だろう。校長はゆっくりと、俺たちの反対側の椅子に腰を下ろした。
「待たせてしまってすまない。間もなくイングリドとヘルミーナが来る。そうしたら、始めるとしよう」
ドルニエ校長は、穏やかな声で言った。
しばらく、居心地の悪い沈黙の中で待つ。
やがて、鋭いノックの音とともに、不機嫌な表情のイングリド先生が入って来る。激しい音をたてて、後ろ手にドアを閉める。
「おや? ヘルミーナはどうしたね?」
ドルニエ校長の問いに、イングリド先生はいまいましそうな口調で言う。
「ヘルミーナは、いません。消えてしまいました」
「何だって?」
「昨夜のうちに、出ていったようです」
俺はびっくりした。当事者が失踪してしまったのでは、真相は解明されずに終わってしまうのではないか。クライスを見たが、彼は無表情なままだ。
「この書置きが、残っていました」
イングリド先生が、表面には何も書いていない白い封筒を示す。
「読んだのかね?」
イングリド先生はうなずく。
「それで・・・? なにか、今回の事件の手がかりになるようなことは書いてあったのかね? 告白する内容とか・・・」
校長の言葉に、イングリド先生は憤然とした口調で答える。
「ヘルミーナが、そんなしおらしいことをするとお思いですか? 書いてあったのは、ただ、一言だけです。『自分の未熟さを鍛え直すために、旅に出る』と」
「何ということだ・・・」
校長は、白髭におおわれたあごに手を当て、テーブルに目を落とした。
「これでは、真相は闇の中ではないか・・・」
「その心配は、ご無用です」
校長が、はっと顔を上げる。イングリド先生も鋭い視線を向ける。
発言者は、クライスだった。
クライスは、芝居がかった仕草で立ち上がると、気取って眼鏡の位置を整える。
「私ならば、すべてをご説明できると思います」
「本当かね」
「はい。ですが、その前に、私の説明を補強するための証拠を、お目にかけたいと思います」
と、クライスはイングリド先生を見やる。
「地下実験室Aは、まだ閉鎖されたままですか」
「ええ・・・。ただ、ヘルミーナが置いていた私物や書物は、あの女が全部持ち出してしまったけれど」
「ふむ」
クライスはうなずいた。
「ですが、おそらくまだ残っているでしょう。ルーウェンくん、イングリド先生と一緒に行って、取ってきてもらえますか」
そして、クライスは俺とイングリド先生に、その証拠品とはどんなものなのか説明した。
俺とイングリド先生は、すぐに地下実験室へ下りた。
クライスが言っていた物は、確かにそこにあった。『講師用:生徒の使用禁止』と記された棚の中に。
俺は、それを手に取り、落としたりしないように注意しながら、校長室に戻った。
「ああ、あったようですね」
俺が取ってきた2本のガラスびんをテーブルに置くと、クライスはそれをみんなに指し示した。
そのびんのひとつは、確か、昨日、俺たちが地下実験室を家捜しした時にも目にしたものだった。
俺は、テーブルに並んだびんをあらためて見つめた。
一方のびんには、赤黒く、どろりとした液体が半分ほど入っている。そして、もう一方のびんの液体も同じようにどろりとしているが、こちらは濃い緑色だ。
「何だろう・・・。こんな薬品は見たことがないな。イングリド、きみはどうかね?」
ドルニエ校長が興味深そうに見る。イングリド先生は、黙って肩をすくめた。
クライスが静かに言う。
「この2種類の薬品と、あと『うに』がひと山あれば、あの怪物・・・マルローネさんの命名によれば『うに魔人』ですが・・・それを、創り出すことができます」
「何ですって!?」
マリーが叫ぶ。眠気もすっかりけしとんだという様子だ。
「もちろん、ここで実際に調合してみて、それを証明することは、あまりに危険なので行うわけにはいきませんが」
「それにしても・・・その薬品は、いったい何なのかね」
クライスは、意味ありげにマリーの方を見やった。
「おわかりになりませんか。この薬品の正体は、錬金術にはごく基本的な、ありきたりのものです。例えば、マルローネさんの工房にすら置いてあるような」
「なんか、その言い方、とげがあるわね」
マリーの発言は無視し、クライスは続ける。
「これは、『祝福のワイン』と『植物用栄養剤』です」
「ええっ、うそぉ!? 色や見た目が全然違うよ」
「確かに見た目は違いますね。なにしろ、数十倍に濃縮されたものですから」
イングリド先生の目が光った。
「ヘルミーナの仕業ね」
クライスがうなずく。
「そうです。イングリド先生もご存知なかったところをみると、ヘルミーナ先生が独自で編み出した技術でしょう。おそらく、旅をすることが多かったヘルミーナ先生が、基本的な薬品を持ち運ぶ手間を減らすために、このような方法を考案したのだと思います。必要に応じて、蒸留水などで薄めて元の濃度に戻し、使っていたのでしょう。私たちのように、研究室やショップに行けば、すぐに薬品が手に入る環境にいる者には、とても思いつかない知恵だと言えるかも知れませんね。私がこの知見を得たのは、下宿先の家主さんが調理用のソースを濃縮して使っているのを見た時でしたが」
そうだったのか・・・!
俺ははたと膝を叩いた。マリーとルイーゼが料理を習っていたあの時、ハドソン夫人は自慢げに、“秘伝のソース”について講釈してくれたものだった。あの時、クライスの目に宿ったひらめきを、俺も覚えている。
「しかし、そのような基本的な材料から、あのような恐ろしい怪物が、果たして生まれるものだろうか」
ドルニエ校長がつぶやく。
クライスは、テーブルに沿って歩きまわりながら、
「基本は、『生きてるうに』です。ヘルミーナ先生の著書、『魂の秘術・改訂版』に載っている、ヘルミーナ先生のオリジナルレシピです。これについては、私もマルローネさんの工房で実際に調合してみました」
俺とマリーがうなずく。クライスは右手を眼鏡に添え、
「しかし、生命付与の術は、非常にバランスが難しいものです。通常の場合、バランスが狂ってしまえば、それは失敗に終わるだけです。しかし・・・」
足を止め、テーブルの上の『祝福のワイン』と『植物用栄養剤』の濃縮液を指し示す。
「もし、濃縮された原液がそのまま使用されたとしたら、激烈な生命反応を誘発し、巨大化、狂暴化といった変異体が生じる可能性を否定することはできません」
「それでは・・・」
ドルニエ校長が、乾いたくちびるを舌で湿らせながら、つぶやく。
「やっぱり、犯人はヘルミーナだったのね」
イングリド先生が、言葉を絞り出す。意外にも、怒っているような様子はなく、絶望しているような口ぶりだった。
「それは、違います」
クライスが静かに言った。あまりにも平静な口調だったので、あやうくその言葉の重大さを聞き逃してしまうところだった。
「どういうこと!?」
イングリド先生が問い詰める。
「昨日、ヘルミーナ先生は、はっきりとおっしゃいました。『あの怪物は、わたしが創ったのではない』と。イングリド先生、ヘルミーナ先生は、あからさまな嘘をつくような人だと思いますか」
イングリド先生は、額に手を当て、首を振った。
「いいえ・・・。彼女は、そんな人間ではないわ。隠し事をすることは多いけれど、嘘をついたことはない・・・」
「その通りだ」
ドルニエ校長も、うなずく。
「じゃあ、誰が犯人だって言うのよ!?」
マリーの言葉は、その場にいたクライス以外の全員に共通の思いだったろう。
「ちょっと待ってくれ。その前に・・・」
俺は口を挟んだ。
「俺が森で見た、ヘルミーナ先生がやっていた儀式は何なんだ? どんな意味があるんだろう?」
「ああ、あれですか」
クライスが俺の方を向いた。
「あれは、ヘルミーナ先生が、先生なりに、事態の収拾をはかろうとしていたのでしょう。なんらかの術を使ってね」
「説明になってないぜ」
「ちょっと待ってちょうだい。いったい何を見たの?」
イングリド先生にはまだ話していなかったのを思い出した。
俺の話を聞くと、イングリド先生はうなずいた。
「それは、おそらく『ゲート』の術ね。ヘルミーナが東の大陸を旅していた頃に会得した技で、魔法陣の中へ敵を誘いこみ、その結界を利用して異界へ放り出して消してしまうというものよ」
「そうか。それを使って、怪物を消し去ろうとしていたわけか」
俺の疑問は氷解した。
「でも、なんで『うに』を燃やしてたんだろう?」
マリーが質問する。
「怪物をおびき出すためですよ」
クライスが答える。
「『うに』を粗末にするとバチがあたる・・・この言い伝えは、真実だったということです。あの怪物は、自然の本能のなせる技か、自分の同類、つまり『うに』を、虐待から守ろうとしていたと考えることもできます」
「あ、そうか。だから、“うに投げ”をしていた武器屋の親父さんを襲ったのか・・・」
マリーが納得したように言う。クライスはうなずいて、
「あのような言い伝えが残っているということは、遥かな昔にも、ああいった怪物が出現したことがある、名残かも知れませんね」
「それはそれとして・・・」
イングリド先生はクライスを見る。
「さっき、ヘルミーナは犯人ではないと言ったわね。では、本当の犯人はどこにいるの?」
クライスは向き直った。
「確かに、はからずも今回の事件をお膳立てしたのは、ヘルミーナ先生です。ヘルミーナ先生の濃縮薬がなければ、このような事件は起こらなかったわけですからね。しかし、ヘルミーナ先生が予想もしなかった偶然によって、怪物が創り出されてしまった・・・。言ってみれば、今回の事件は、不幸な事故だったのです」
「何ですって!?」
「どういうことかね」
イングリド先生とドルニエ校長の声が重なる。
「私がそれを告げたところ、ヘルミーナ先生も納得したようでした」
クライスは淡々と言った。
「そっか、あの時か」
マリーのつぶやきに、俺は昨日、怪物が退治された後でクライスがヘルミーナ先生に何事かをささやきかけていたことを思い出した。

クライスは窓辺に寄り、外で鳴り渡るアカデミーの鐘の音を聞いていた。
「そろそろ七の刻ですね・・・。失礼ながら、イングリド先生の名前を使って、重要参考人を呼んであります。もうそろそろ、来る頃ですが・・・」
その時、小さなノックの音がした。
「お入り」
ドルニエ校長の声に、ゆっくりドアが開き、水色の錬金術服を着た金髪の生徒がおずおずと入って来る。マリーが息をのむ。
それは、ルイーゼだった。
ここで俺たちに会うとは思っていなかったのだろう、ルイーゼはぽかんとしてこちらを見つめていたが、イングリド先生にうながされて、空いていた席につく。
イングリド先生が、もの問いたげにクライスを見る。
クライスは、ひとつ咳払いをして、
「ルイーゼさん、これからいくつか質問をさせていただきます。簡単な質問ですから、答えられると思います。よろしくお願いしますよ」
「は、はい・・・」
「あなたは、ヘルミーナ先生が講師を務めた補習の2日目に、『生きてるうに』の調合の実習をされましたね」
「はい・・・」
「うまくいきましたか?」
ルイーゼが恥ずかしそうにうつむく。
「いえ、失敗してしまって・・・。居残りまで、したんですけれど」
俺は思い出した。確かに、マリーの工房へ実験をしに来た時、ルイーゼはそう言っていた。
「居残り実験は、地下実験室Aでなさったのですね」
「はい・・・」
「その時、他に誰かいましたか?」
「いえ、わたしひとりでした。ヘルミーナ先生も、他のご用事で、席を外されていましたし」
「では、その時の手順を、思い出せる限り、説明してください」
「はい・・・。『うに』が入ったかごを作業台の隣の床に置いて、器具を揃えました。それから、ガラス戸棚から、必要な薬品を取り出しました」
「ちょっと待ってください。あなたは、『生徒用』と書かれた棚から薬品を取り出しましたか」
「はい、たぶん・・・」
「確信がありますか」
「あ、いえ・・・」
ルイーゼは、しどろもどろになった。
「わたし、目が悪いし、時々ぼんやりしてしまうので、右も左もわからなくなってしまうんです」
マリーの工房でのルイーゼの言葉が、記憶の中からよみがえった。彼女は確かに言っていた。『・・・それに、わたし、目が悪いもので、よく見て確かめないと、すぐ間違えてしまうんです。時々、右も左もわからなくなったりして・・・』
クライスは、先ほどからテーブルの上に置かれたままになっている、ヘルミーナ先生の濃縮液を、ルイーゼの方に押しやる。
「ルイーゼさん・・・。あなたがその時、棚から取り出して使ったのは、このびんではありませんか」
ルイーゼの顔がぱっと輝く。
「あ、そうです。これです」
「間違いありませんか」
「はい」
ルイーゼはきっぱりと言った。
声にならないざわめきが、俺たちの間に広がる。
と、いうことは・・・?
クライスは冷静な態度で質問を続ける。
「ところで、あなたはその後日、マルローネさんの工房でも『生きてるうに』の実験を行いましたね。その時に使った薬品と、この薬品とは同じものだと思いますか」
「あ、ええと・・・」
ルイーゼは小首をかしげた。
「マリーさんの工房で使わせていただいた『祝福のワイン』と『植物用栄養剤』は、ずいぶんさらさらしていて、補習の時に使ったのとは違うと思いました。こちらは粘度がかなり高かったですし」
俺は更に思い出して、衝撃を受けていた。マリーの工房で調合をしながら、ルイーゼはつぶやいていたのだ。『あら、変ね、こんなにさらさらしていたかしら。補習の時と違うみたい』と。
「わかりました。それでは、説明を続けてください」
「はい・・・。それで、乳鉢に『うに』をひとつ入れて、参考書に書かれたレシピ通りに薬を注ぎました」
「正確に、どのくらいの量ですか?」
「試験管に、4分の1です」
ただし、通常の数十倍の濃度で、ということだ。クライスの推論では、『生きてるうに』の変異体を創り出すのに十分な量である。
「それから?」
「しばらく暖めましたが、反応がないので、失敗したと思って、その日の実験は止めにしました。もう時間も遅かったですし」
「続けてください」
「はい、続きは次の日にしようと思って、器具を片付けて、実験室に鍵をかけて、事務室に鍵を返して、帰りました」
「それだけですか?」
ルイーゼは上目遣いに天井を見上げる。
「あ、思い出しました。部屋を出ようとした時、ローブの裾が引っかかって、実験で使っていた『うに』を、乳鉢ごとかごの中に落としてしまいました」
「薬品を吸収させた『うに』を、他の『うに』がたくさん入ったかごの中に、落としてしまったというわけですね」
「はい・・・」
「それを、どう処置されましたか」
「片付けるのは明日でいいと思って、そのままにしてきました。でも、翌日来てみたら、実験室は閉鎖されてしまっていて・・・」
「ありがとうございました。質問は以上です」
クライスは、右手で眼鏡の位置を整え、一同を見渡した。
Q.E.D.・・・証明終り。彼の目は、明らかにそう宣言していた。
ドルニエ校長もイングリド先生も、マリーも俺も、言葉をなくしていた。

沈黙が続く中、ルイーゼの柔らかな声が響く。
「あの・・・。なにか、あったんですか?」
わずかに小首をかしげ、きょとんとした表情で、“彼女”は尋ねた。


こうして、事件の真相は解明された。王室騎士隊に対して、アカデミーからどのような報告がなされたのか、俺は知らない。少なくとも、ルイーゼが咎めを受けるということはないようだ。
イングリド先生からは、俺とクライスに対して、調査費としてかなりの銀貨が支払われた。銀貨は、ふたりで相談の上、マリーと三等分することにした。
「そうでもしないと、あの“爆弾娘”は何を言い出すかわかりませんからね。まあ、口止め料代わりですよ」
というのがクライスの言である。
武器屋の親父は包帯姿のまま、店に出ていた。来る客来る客に、『うに魔人』と渡り合った武勇伝を吹聴しているという。
再び、ザールブルグに平和な日々が戻っていた。
そんなある朝・・・。
轟音が、『職人通り』を揺るがした。
地震のような揺れを感じて、俺はベッドから飛び起きた。あわてて廊下に出ると、クライスも部屋から飛び出して来る。
屋根裏部屋の入り口から顔だけ覗かせて、ナタリエがぼやく。
「なんだよ、うるさいな・・・。さっき寝たばかりだってえのに、安眠妨害だよ・・・」
俺とクライスは顔を見合わせると、うなずき合った。
朝っぱらからこんな騒ぎを起こすのは、マリーしかいない。
ふたりが駆けつけると、マリーの工房のドアは吹き飛び、中から黒煙がもうもうと上がっていた。野次馬が次々と集まってくる。消火のため、自警団も駆けつけてきた。
「おい、マリー!!」
「マルローネさん!!」
俺たちの呼びかけが聞こえたのか、煙の中からすすだらけになったマリーが、よろよろと姿を現わす。
「マルローネさん! 今度は何をやらかしたんですか!?」
「あ、あははは。ちょっと、ヘルミーナ先生の真似をして、『祝福のワイン』を濃縮しようとしたのよ。10本分を大釜にぶち込んで、一晩かけてかき混ぜながら煮詰めてたんだけど、ちょっと居眠りしちゃったらしくて。あはは」
「笑い事じゃありません! けがでもしたらどうするんですか! だいたい、あなたの実力で、ヘルミーナ先生と同じことをしようなど、無謀もいいところです」
「何よ! 挑戦するってのは大事なことじゃない!」
「物には限度というものがあります。実力に見合った行動をとっていただきたいものですね」
「何よ、あんただって、戦いの時にはてんで役に立たないくせに!」
「私は騎士でも冒険者でもありません。あなたこそ、爆弾を使うしか能がないじゃありませんか」
「むっか〜っ!! じゃあ、それしか能がないってやつを、見せてあげようじゃないの!」
「待ちなさい! 街中で爆弾を使うのは、アカデミーで禁止されているでしょう」
「知ったこっちゃないわ!」
周囲の人垣が唖然として見守る中、ふたりの言い合いは終わりそうにない。
「ああ、はいはい、わかったから、もう一生やっててくれ」
俺は背を向けると、ハドソン夫人のうまい朝飯にありつこうと、ひとりで下宿へ戻っていった。

<おわり>


○にのあとがき>

大変お待たせいたしました(汗)。「名探偵クライス」第1話の掲載から2年以上も経過してしまいましたが、ようやく第2話です。
第1話を書いた頃から寝かせてあって、発酵しすぎて(笑)、ほとんど産業廃棄物と化していたこのネタですが、「ふかしぎアンケート2002」ご回答御礼リク権を差し上げたなかじまゆらさんからのリクをいただき、陽の目を見ることができました。

最初の構想はもっと単純でした。真犯人(笑)はヘルミーナさんで、彼女の怪しい実験に巻き込まれたルイーゼさんが、クライスやマリーに相談をしに来るというだけのお話。
ルイーゼさんをルーウェンやクライスの下宿に同居させるという案は、第1話を書く前からできていました。ルイーゼさん準レギュラー化計画(笑)。誰が何と言おうと、今回の主役はルイーゼさんです(どきっぱり)。

「名クラ」恒例となった、ワイマール家のご令嬢の一瞬だけの登場シーンは、間違いなく○にの趣味です(笑)。
クライマックスシーンで隊長が出てくる必然性はまったくなかったのですが、「エリー」のゲームに出てきた時、“ヤツ”にはまったく魔法攻撃が通用しなかったのを思い出して、止めを差すために(笑)急遽出演が決定。まあ、隊長ファンへのサービスということもありまして。
ちなみに、本作に出てくる“ヤツ”は、「エリー」の時の“ヤツ”とは別物かと思います。こちらは人工物なのに対して、あちらは“天然もの”ですし(笑)。

あと、いつものことながら、○にの他の小説に関連した描写がいくつか出てきます。
アウラさんと黒猫は、第1話のエピソードを引き継いでいますし、ルイーゼさんが男性が苦手という設定は、カスターニェ買い出し紀行の時に作ったもの。また、「ルイーゼが子供の頃、父親が失業した」とハドソン夫人が嘆いているのは、103番目の願い事の第1章のエピソードのことで、“ヤツ”に突っ込んでいくルーウェンが「昔、同じようなことがあった」と回想しているのは、鋼鉄の甲虫事件のことです。そして、「去年の夏の大事件」というのは、もちろんリリーの同窓会で描かれた事件のことです。

感想など、お聞かせいただければ嬉しいです〜


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