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鼓角縁邊郡,
川原欲夜時。
秋聽殷地發,
風散入雲悲。
抱葉寒蝉靜,
歸來獨鳥遲。
萬方聲一概,
吾道竟何之。
秦州雜詩二十首 其三
鼓角 縁邊の郡,
川原(せんげん) 夜ならんと欲するの時。
秋に 聽けば 地に 殷(いん)として 發(おこ)り,
風に 散じて 雲に 入りて 悲しむ。
葉を 抱(いだ)ける 寒蝉は 靜かに,
歸り來たる 獨鳥 遲し。
萬方 聲 一概なれば,
吾が道 竟(つひ)に 何(いづ)くにか 之(ゆ)かん。
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◎ 私感註釈
※杜甫:盛唐の詩人。
※秦州雜詩二十首:秦州:現・甘肅省南部天水市。長安の西300キロメートルのところで、西域の入り口に近い。
※鼓角縁邊郡:軍陣で使う鼓や角笛が(聞こえてくる)辺疆部の。 ・鼓角:〔こかく;gu3jiao3●●〕陣中で時を知らせるなどの合図に用いる、つづみとつのぶえ。戦鼓とラッパ。 ・縁邊:〔yuan2bian1●○ 「縁」は両韻〕周辺。外周り。ここでは、国境、辺塞のことになる。 ・郡:古代の行政区劃で、国の下に置かれる区劃。更にこの下に郷、里がある。
※川原欲夜時:広い平原が夜になろうとする時。 ・川原:〔せんげん;chuan1yuan2○○〕平原。広野。広々として人影のないところ。平川広野。一川。王維の『臨高臺送黎拾遺』「相送臨高臺,川原杳何極。日暮飛鳥還,行人去不息。」、南宋・張孝祥の『六州歌頭』に「長淮望斷,關塞莽然平。征塵暗,霜風勁,悄邊聲。黯銷凝。追想當年事,殆天數,非人力。洙泗上,絃歌地,亦羶腥。隔水氈鄕,落日牛羊下,區脱縱橫。看名王宵獵,騎火一川明,笳鼓悲鳴,遣人驚。」
や、賀鋳の『青玉案(凌波不過横塘路)』の「若問閑情都幾許?一川煙草,滿城風絮,梅子黄時雨」(一川煙草:一面に茂れる草)や呂本中の『滿江紅』東里先生の「東里先生,家何在、山陰溪曲。對一川平野,數間茅屋」などがある。「かわら」ではない。また、川のみなもと。川源。ここは、前者の意。 ・川:はら。原(はら)。広野。 ・欲夜時:夜が更けようとする時刻(に)。 ・夜:夜になる。動詞。
※秋聽殷地發:秋に、地を震わせて起こってくるのが聞こえて。 ・秋聽:秋に…を聞く。「秋聽」という単語はない。 ・殷:〔いん;yin3●両韻〕震わす。音声の響くさま。雷の音。
※風散入雲悲:(その音は)風が吹き散らして雲の間に入りこむがほどに(響き渡って)悲しいものである。 ・風散:(鼓角の響きを)風が吹き散らして。 ・入雲:雲の間に入り込む。
※抱葉寒蝉靜:(もう秋なので、嘗て世を賑わしていた)秋口のセミも葉にくるまって、静かにしており。 *この「抱葉寒蝉靜,歸來獨鳥遲」聯は、ただの季節の変わり目の風景描写なのか、それとも諷諭なのか。どちらともとれる。 ・抱葉:(寒気を避けるために)木の葉を体に巻き付ける。木の葉を抱(いだ)く。 ・寒蝉:秋口のセミ。
※歸來獨鳥遲:戻ってくべき、一羽だけの鳥は、なかなか帰ってこない。 ・歸來:(故郷や、我が家など、本来帰ってくべきところに)帰ってくる。戻ってくる。「歸山」ともする。対句だけを考えれば後者の方が完成度が高いが味わいは前者にある。 ・獨鳥:一羽だけの鳥。 ・遲:スピードが遅い。のろのろとしている。ぐずぐずとしている。
※萬方聲一概:四方八方から聞こえてくる物音は、(全て軍鼓であって)一様であるので。 ・萬方:四方の国々。諸方。各方。 ・聲:音声。音。 ・一概:一様である。すべていっしょに。大体に。いっさい。すべて。
※吾道竟何之:わたしの(とるべき)道は、(これから)一体どこへ行(けばよい)のか。 ・吾道:わたしの(採るべき)道。 ・竟:けっきょく。つまり。とうとう。ついに。 ・何之:どこに行くのか。いづくにかゆかん。王維の『送別』に「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」とある。 ・之:行く。
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◎ 構成について
韻式は「AAAA」。韻脚は「時悲遲之」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●●●,
○●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
2005.3. 2 3. 3完 2014.8.18補 |
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