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1968 I/USA 165 Min. (ドイツ版 158 Min.) 劇映画
出演者
Henry Fonda
(Frank - モートンの手下)
Woody Strode
(Stony - フランクの手下)
Jack Elam
(Snaky - フランクの手下)
Jason Robards
(Manuel Gutierrez、Cheyenne)
Gabriele Ferzetti
(Morton - 地域の鉄道を支配する男)
Paolo Stoppa (Sam)
Charles Bronson
(ハーモニカを吹く流れ者)
Dino Mele
(流れ者、少年時代)
Claudio Mancini
(流れ者の兄)
Frank Wolff
(Brett McBain)
Claudia Cardinale
(Jill McBain - ニューオルリンズの娼婦)
Enzo Santaniello
(Timmy McBain - マクベインの息子)
Marilu Carteny
(Maureen McBain - マクベインの娘)
Keenan Wynn
(保安官)
Luigi Ciavarro
(保安官代理)
Lionel Stander
(酒場のおやじ)
見た時期:2004年8月
昨年のファンタの頃に見て書いたのですが、その後次々と違う作品が飛び込み、出すのが遅れていました。気合の入った作品なので没にするのは止め、遅まきながら出します。作られたのが1968年ですから半年ほど遅れてもそれほど大きな乗り遅れはないでしょう。
・・・っと、ファンタ最悪の作品が並んだところで一休み。往年の佳作で口直しを。ファンタの方は後でまたテンション上げてご紹介します。
★ 見たかなあ、見なかったかなあ
野外の映画館はマトリックスやハリー・ポッターのようなちょっと前に流行った作品もやるのですが、古典と言われる古い作品も上映します。以前は退屈かと思ってあまり興味がわかなかったのですが、最近は見に行きます。先日見た荒野の7人のように、今見ても立派な作品だと思える物が多いのです。それで、セルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンを見に行って来ました。自分では淀長さんの日曜洋画劇場で見たような気がしていたのですが、今回見てみると、ストーリーに心当たりがありませんでした。あまり前の話で忘れてしまったのか、当時色々マカロニ・ウエスタンを見ていたので混乱してしまったのか、良く分かりません。先日井上さんからこの作品はウエスタンというそのものズバリの名前で日本公開されていると連絡があったのですが、その日本名にも心当たりがありませんでした。やはり年だ。
★ 人材の宝庫
とにかくキャスト、スタッフの豪華さに驚かされます。脚本、アイディアに携わった3人というのがダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチ、セルジオ・レオーネ。
☆ アルジェント
アルジェントというのはファンタには欠かせない人で、駄作が多いのですが、数々の仕事の中には評価できる物もあります。監督さえしなければ素晴らしい仕事を残すというのが最近の私の評価です。映画には監督、俳優以外の仕事もたくさんあり、彼は裏方で才能を発揮することができる人のようです。例えば今年のファンタの前菜に出たデス・サイトは有り体に言えば駄作ですが、アイディアはけっこういいのです。監督だけでなく脚本を書いているのがアルジェント。このアイディアと似たような事を考え、ソウという作品を作ったアジア人の監督がいますが、そちらはかなりのインパクトがありました(アイディア自体はどちらかがどちらかをパクったと言ってもいいぐらいですが、全然違う場所で無関係の人たちが制作したようなので、パクリとは言いません。発明の分野などでもお互いを知らずに似たような事を考える人間は複数いるようですし)。プロデュースして他の人に監督させた作品にもB級としては結構行ける物があります。
その彼が仕事始めと言ってもいいぐらい初期の頃にいきなりヘンリー・フォンダの出る作品の脚本に携わっていたのです。驚いたの何のって。それもハリウッド作品ではなかったのです。タイトルもちゃんとイタリア語。監督業、俳優業なども大体この時期からで、プロデュースに乗り出したのはその5年ぐらい後。何と音楽も書いてしまう人で、70年代の方のドーン・オブ・ザ・デッド(これは新作へのリンク)では曲も書いています。悪く言えばお金が無いから何でもその辺の人で間に合わせてしまったのかも知れませんが、器用に何でもこなしている人だと言う方がいいでしょう。こんなに何でもやってしまえる人としてはアンディー・ラウがいますが、アルジェントはラウより何となくうらぶれた感じです。1度ファンタに来たことがあり、顔を見た事があるのですが、ホラー映画の関係者としてはぴったりのアウトフィットでした。
☆ ベルトルッチ
ベルトルッチは今や大監督。ドイツでは物凄く尊敬されていて、世界の一流監督の1人という評価です。アルジェントよりやや早めに監督業に乗り出していて、作品数はそれほど多くありません。やはり日本で名が知られているのはラスト・タンゴ・イン・パリでしょう。マーロン・ブランドをああいう風に使ったのが独創的です。その後は作品を1つ作ると数年間を置き、乱発はしない主義のようです。で、時々大作と言われる物が飛び出します。私にはちょっと重過ぎるという印象ですが、質はアルジェントより高め。
☆ レオーネ
レオーネは1989年に60才という若さで亡くなっています。監督作品は1984年が最後。その後も映画に携わっていました。監督の仕事は60年代に集中していて、レオーネのスタイルといわれる物はこの時期に出ています。イーストウッドを使った名作荒野の用心棒、夕陽のガンマン、続・夕陽のガンマンが60年代の中盤。3本撮った次がこのウエスタンで、英雄にはチャールズ・ブロンソンを起用しています。
☆ ブロンソン
ブロンソンは50年代ローハイドなど色々なテレビの役で稼いでいましたが、大スターというステータスはまだ得ていませんでした。60年代に入りほとんど全員がスターに昇格となる荒野の7人に重要メンバーの1人で出演。ウエスタンではあのヘンリー・フォンダと共演という風に風向きが良くなって来ています。ウエスタンの年は彼の2度目の結婚の年でもあり、夫人が病死するまで20年以上仲良く暮らしていました。もっともブロンソンという人はその前にも同じ人と15年以上結婚しており、女性関係では落ち着いた人だったようです。
日本ではマカロニ・ウエスタンと言えばクリント・イーストウッドですが、ドイツではスパゲッティー・ウエスタンといい、作品ではこのウエスタンが最上位に上がって来ます。Spiel mir das Lied vom Tod (死の曲を演奏してくれ)などという不吉なタイトルになっていて、あのハーモニカのメロディーが今日でも強いインパクトを残しています。確かにあのシーンは暴力などが見えずとも残酷です。
どこがカットされたのかは分かりませんが、ドイツでは165分でなく158分。クレジットが長いのにも驚かされます。しかしこの間野外映画館で見て、《ああいう風に長く時間を取って、ゆっくり乾いた西部の雰囲気を味わうのもいいなあ》と思いました。バーやマクベインの家の中に自分もいるような気分が味わえました。また、列車を家にして、移動している鉄道のボスというのもユニークですし、そのボスが(筋萎縮症か何かの)重病に侵されていてそのために権力を徐々に失って行くなどという描写が従来の西部劇にない展開でおもしろかったです。レオーネ、アルジェント、ベルトルッチは西部劇という枠を使いながら頭が柔軟で、創造性のある話を作ったものです。
☆ フォンダ
この作品についてオスカー級の俳優ヘンリー・フォンダは何を考えたのでしょう。もらってはいませんが1941年という途方もない昔にすでに最優秀男優賞にノミネートされている人です。オスカーは彼に渡らず、ジェームズ・スチワートに行ってしまいましたが、一緒にノミネートされた中にチャールズ・チャップリンとローレンス・オリビエがいたという凄い話です。次にノミネートされた1958年にはアレック・ギネスに持って行かれたのですが、一緒に候補に挙がったのがマーロン・ブランドとアンソニー・クイン。その上結局もらえたオスカーは、先に名誉賞をもらい(死にそうだという話になると名誉賞が飛んで来るという噂ですが)、これでおしまいかと思われた次の年にもう1つ出演して、そこでオスカーをもらっています。フォンダとレオーネというちょっと考えられないコンビは、レオーネがフォンダを使ってみたいという気持ちだったことと、レオーネの作品に出たアメリカ人俳優がフォンダに近い所にいたことで実現したようです。公には《金を積まれたから出た》ということにしていますが、フォンダは気合の入った演技です。
★ スターのアンサンブル
毛並みの良いハリウッドの大スターにレオーネは思いっきりの悪役をやらせています。武器も持っていない子供を撃つなど、《ポリティカリー・最大級・インコレクト》です。《嬉々として》とは言いませんが、しっかりとした骨太の演技。善玉のブロンソンの陰がやや薄くなるぐらいです。カルディナーレは当時の西部としてはちょっと合わないメイクですが、役は重みがあり、家族を皆殺しにされても、男にやられても立ち上がるという強さを表現しています。ここで思い出したのは Trigon - The Legend of the Pelgidium。この主演女優も亭主と息子を殺され、悪漢に襲われてもしぶとく立ち上がる女性を演じていました。現実路線の西部劇です。図式に填まった規則だらけの西部劇を見せられてうんざりしていた人にはそれが当時新しく思え、大ヒット。そのタッチをカルディナーレも出しています。華麗な美人なので観客はちょっとそちらの方に目を奪われ、背骨の強さがややかすみますが。もう1人好感が持てたのが鉄道王を演じるガブリエレ・フェルゼッティー。彼の演技がいいのか脚本がいいのか分かりませんが、なかなかいい役です。
★ あらすじ
筋はわりと単純で、砂漠と言ってもいいほど乾いた土地に先見の明のあるやもめが住んでいました。最初の妻はどうやら普通の女性だったようですが、すでに死亡。3人の子供を抱え再婚を考えます。先月ニューオルリンズまで出かけ結婚したのが娼婦。偏見を持って見ると彼女のステータスは不利ですが、先見の明のある男は、このぐらい根性の座った女性でないと3人の先妻の子をかかえ、西部でやって行くのは無理と考えたようです。この男マクベインは近くに鉄道が建設されることを計算に入れ、投資、駅の建設などについて考えていました。ところが地域の鉄道王モートンの手下フランクに片づけられてしまいます。で、娼婦ジルが家族に合流すべく到着した時には一家は全滅していました。犯人はシャイアン(ロバーズ)ということになっていました。
ジルはニューオルリンズへ戻る決心がつかず、取り敢えずこの地にとどまります。遺産を相続したジルは競売にかけようとしますが、お話にならないぐらい低い値段がつき、だれかが高い値をつけようとすると、フランクの手下が邪魔をします。そこへどこからともなくふらりと現われた流れ者が 5000 $ という値をつけます。男はそんな大金を持っている様子はありませんでした。すると何を思ったのかシャイアンをとっ捕まえ、保安官に引き渡します。懸賞金が 5000 $。シャイアンは1度護送されますが、逃げて来ます。流れ者とシャイアンはジルに遺産の所有権を戻します。その上この流れ者はどういうわけかフランクの手下を片づけて行きます。下から始め徐々に上に上がり、モートンを片づけ、最後はフランクと一騎打ち。もちろん勝ちます。なぜフランクと一騎打ちになるのか、なぜいつもハーモニカを吹くのか。そこは謎で、最後に分かるようになっています。
★ 音楽はモリコーネ
音楽の使い方も個性的で、特定の登場人物に特定の音がつけられています。これはモリコーネの功績。それで《ブロンソンが来ると死のハーモニカ》と覚えてしまった人もいるようです。家族が、間もなくやって来る後妻を迎えようとパーティーの準備をしているところへフランクたちがやって来て容赦なく殺してしまうシーンはタランティーノの結婚式襲撃を思い出させます。このシーンを直接引用したというわけではありませんが、乾き切った西部の土地、これから楽しい事が起こるはずの時間、そこへ殺戮、雰囲気は同じです。タランティーノを取り上げていたら切りが無いので今日はこの程度で。
イタリアは以前デシーカなどの時代に1度世界を制覇。マカロニ・ウエスタンでも1度制覇。あの頃モダンでユーモラスな泥棒映画でも軽く世界にこんにちは。そろそろまた出て来てもいいのではないでしょうか。今度はぜひフランスに負けないような犯罪映画やスリラーで行ってもらいたいものです。待ってますよ。
っと思っていたら出ました、6時間の大作。スリラーではありませんが、過去40年の社会の変遷を国民にざっと思い出させるようなストーリーを1つの家族に託して長い物語を仕上げています。これが新しいイタリアの波のきっかけになるかは分かりませんが、気合は入っていました。
後記: なりませんでした。
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