櫻花開罷我來遲,
我正去時花滿枝。
半歳看花住三島,
盈盈春色最相思。
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東國の諸公に 呈す
櫻花 開き罷(をは)りて 我 來たること 遲く,
我 正に 去る時 花 枝に 滿つ。
半歳 花を看んと 三島に住(とど)まり,
盈盈たる 春色 最も相ひ思ふ。
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◎ 私感註釈
※康有為:戊戌(1898年:光緒二十四年)の変法の主役。1888年〜1898年。原名は祖詒。字は廣廈。号は長素、更生。康南海や南海先生と称される。広東南海県の官僚の家庭出身のため、前記のように称された。戊戌変法が挫折した後、康有為や梁啓超は日本へ亡命するが、帝政維持を主張する団体を組織する。満州民族の王朝打倒を呼号する革命派とは、異なる考えを持っていた。
戊戌の変法とは、1898年(光緒24年)に宣布された変法維新(欧化、近代化の改革運動)の政治運動。その由来は、アヘン戦争後、国威の衰頽が顕在化し、やがて、日清戦争(中国側の呼称:甲午戰爭)後、日本の欧化の優越性を目の当たりにしすることで、自国の後進性の改革の必要性と、西欧列強の対清朝中国蚕食という現実に直面して、危機感を持った先覚者が、政治の改革と軍備の改善を図り、日本の明治維新後の政府と帝政をモデルにした救国改良運動にある。康有為や梁啓超がその中心であった。やがて、1898年(光緒二十四年)に光緒帝によって宣布された変法維新は、百三日後、西太后慈禧のためにあえなく挫折する。それ故「百日維新」とも称される。
※呈東國諸公:戊戌の変法の失敗で、日本へ亡命している諸君に呈する。 *康有為、、梁啓超、譚嗣同 、また、張之洞にも詩作あり。 ・呈:(詩を)進呈する。 ・東國諸公:戊戌の変法の失敗で、日本へ亡命している諸君。また、カナダにての作なので、東方の中国や日本の皆さん、ともとれる。
※櫻花開罷我來遲:サクラの花が咲き終わってから、わたしが遅れて(日本へ)やって来て。 ・櫻花:サクラの花。日本の国花。 ・開:咲く。ひらく。 ・罷:おわる。やむ。 ・我來遲:康有為の来日が、サクラの開花時期よりも遅れたことをいう。年表から見ると、戊戌(1898年光緒二十四年)変法失敗後(八月)直ちに来日し、半年後の翌年二月にカナダに向かった。サクラの時期を過ぎた八月に来たことをいう。なお、この詩に基づいて梁啓超は『奉懷南海先生星加披兼敦請東渡』「不道桃源許再來,舊時魚鳥費疑猜。風吹弱水蓬莱近,春逐先生杖囘。萬事忘懷惟酒可,十年有約及櫻開。何時一舸能相即,已剔沈槍掃国ロ。」を作った。
※我正去時花滿枝:わたしがちょうど去ろうとしている時に、花は枝に満開になった。 ・我:わたし・康有為。 ・正:ちょうど。まさしく。 ・去時:でかける時。行くとき。 *作者は、半年後の翌年二月にカナダに向かった。サクラの時期を迎えるときに発ったことをいう。実際は二月と四月の違いはあるが、詩に表現するとこうなる。 ・花滿枝:花が枝に満開である。
※半歳看花住三島:半年の間、花を見るために日本にとどまった。「半歳 花を看て 三島に住(とどま)る」が普通の読み方。「已剔沈槍掃国ロ」も、「已剔沈槍」してから後に「掃国ロ」をするのではない。表現上の效果と制限のためにこうなった。この句と関聯がある白居易の『送王十八歸山』に「林間煖酒燒紅葉,石上題詩掃国ロ。」の聯も時間関係は逆転して表現している。「酒を暖めて(から)、紅葉を焼く」のではない。ただ、伝統的に文字順を尊重した読み下しが行われてきた経緯があるので、解釈時に時間順になおして考える必要がある。 ・半歳:半年の間。 ・看花:花を見る。 ・住:とどまる。 ・三島:日本を指す。本来は、東海にある「三壷」のことで、蓬莱、方丈、瀛州の三神山のこと。清末・秋瑾の『日人石井君索和即用原韻』「漫云女子不英雄,萬里乘風獨向東。詩思一帆海空闊,夢魂三島月玲瓏。銅駝已陷悲囘首,汗馬終慚未有功。如許傷心家國恨,那堪客裏度春風!」や清・梁啓超の『愛國歌』「泱泱哉!吾中華。最大洲中最大國,廿二行省爲一家。物産腴沃甲大地,天府雄國言非誇。君不見,英日區區三島尚崛起,況乃堂矞吾中華。結我團體,振我精神,二十世紀新世界,雄飛宇内疇與倫。可愛哉!吾國民。可愛哉!吾國民。」、清・康有爲の『呈東國諸公』「櫻花開罷我來遲,我正去時花滿枝。半歳看花住三島,盈盈春色最相思。」 と使う。
※盈盈春色最相思:春の風情が満ちあふれている時、(日本にいるあなた方を)一番思い起こす。 ・盈盈:満ちあふれるさま。 ・春色:春の気配。春の風景。 ・最:もっとも。一番に。 ・相思:。…を思い出す。 ・相:動作が対象に及ぶさまを表現する。
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◎ 構成について
作品全体の韻式は「AAA」。韻脚は「遲枝思」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●●○○●○。(韻)
●●○○●○●,
○○○●●○○。(韻)
2004.5.1 |
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