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坂本龍馬 坂本竜馬



 
 
              
          愛酒詩  
                       坂本龍馬

酒者可呑酒可飮,
人生只有酒開膽。
醉中快樂人無知,
大地爲蓐天爲衣。
英雄生涯眞乎夢,
厭迄呑酒醉美姫。



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酒を愛するの詩

                       
酒は 呑む可
(べ)し  酒 飮む可し,
人生 只
(た)だ 酒 有りて 膽を開く。
醉中の快樂  人 知る無し,
大地を 蓐
(しとね)と爲(な)して  天を 衣と爲す。
英雄の生涯  眞
(まこと)に 夢なりて,
(あ)く迄 酒を 呑みて  美姫に 醉はん。


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◎ 私感註釈

※坂本龍馬:天保六年(1835)〜慶応三年(1867)。幕末の尊王攘夷派の志士。統一国家構想を練って、大政奉還を成功させることに尽力をしたが、中岡慎太郎とともに暗殺される。土佐藩出身。

※愛酒詩:酒を愛する詩。蜀山人や銅脈先生に系がる狂詩の要素もある豪胆な詩篇。回天の大業を成した快男児ならではのものである。六句よりなる詩は、中古以降は減ったが、上代では様々なものがある。なお、同時代の高杉晋作も似た雰囲気のものを作っている。『煙管自讃』「詩酒可愛,美人可憐。時喫煙去,一息過天。」や「半醉半醒非酒狂,如知眞義與眞情。從今脱卻好名志,去入深山送一生。」と、やや硬いが時代の雰囲気を感じさせる。

※酒者可呑酒可飮:酒というものは、飲んで飲みまくるものなのだ。 *酒は飲め飲め。*同時代(幕末)・同郷(土佐)の山内容堂に『飮於二州酒樓』「昨飮橋南,今日醉北。
有酒可飮吾可醉,層樓傑閣在橋側。家ク萬里面南洋,決眦空濶碧茫茫。唯見怒濤觸巖腹,壯觀卻無此風光。顧看呼酒杯已至,快哉痛飮極放恣。誰言君子極コ行,世上不解醉人意。欲還欄前燈猶明,橋北橋南盡絃聲。」とある。 ・酒者:酒というものは。 ・者:…というもの(は)。…なるもの(は)…とは。主語の後につき、断定、判断の主体をはっきりさせる。 ・可呑:丸飲みにすべきである。 ・呑:噛まずに丸飲みする。ここでは、後出の「飮」と同義として使われている。日本語での漢字の使い分けとして、「呑」字は酒量多く飲む時に使われるようだ。古漢語では、「酒をのむ」という場合の動詞は、「飮」になる。蛇足だが、現代語では「喝」になる。ここでは、重複を避けるためと酒量を表現したかった。 ・酒可飮:酒は飲むべきである。頼山陽の『山陽詩鈔』卷之八には『戯作摂州歌』「用 酒可飮,海内何州當此品。」とあり、菅茶山の『酒人某出扇索書』には「一杯人呑酒,三杯酒呑人。不知是誰語,吾輩可書紳。」とある。

※人生只有酒開膽:人生で心を開くのは、ただ酒だけだ。 ・人生:現代日本語の意の人生に同じ。詩詞では動詞的に「人が生きてきて」の意でよく使う。 ・只有:ただ…だけがある。よく見られる文型。李清照の『南歌子』「天上星河轉,人間簾幕垂。涼生枕簟涙痕滋。起解羅衣聊問、夜何其。翠貼蓮蓬小,金銷藕葉稀。舊時天氣舊時衣,只有情懷不似、舊家時。」 など多く、近世になるほど増える。 ・開膽:キモを開く。心を開く。胸襟を拡げる。酒については、日中の定義が異なる場合がある。魏の曹操は、『短歌行』で「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」 とうたいあげ、陶淵明の一連の『飮酒詩』「積善云有報,夷叔在西山。善惡苟不應,何事立空言。九十行帶索,飢寒况當年。不ョ固窮節,百世當誰傳。(其二)」ほか、王翰の『涼州詞』「葡萄美酒夜光杯,欲飮琵琶馬上催。醉臥沙場君莫笑,古來征戰幾人回。」 でも、「憂いを解く物」として、酒が出てきており、国士坂本龍馬のような明るさのものは少ない感じがする。中国詩では、憂いがあって、それを解きほぐすための場に出てくる場が、この作品では開豁で豪胆な心境心情を述べるのに使われている。「酒」の一つの発展形である。(飲酒詩は、こちらに多い)。

※醉中快樂人無知:酔いの中での快楽を他の人は、分かろうとしない。 ・醉中:酔いの中(での)。 ・快樂:悦び。 ・人:ここでは、他の人。 ・無知:分からない。

※大地爲蓐天爲衣:この天地の間の世界を我がものとして、大いに振る舞おう。 *句中の対。 ・大地:大地。 ・爲蓐:敷き布団とする。しとねとなす。・蓐:敷き布団。しとね。 ・天:前出「大地」に対して使われている。 ・爲衣:ころもとする。
※英雄生涯眞乎夢:英雄の生涯は本当に夢のようだ。或いは、英雄の生涯は真なのか夢なのか。「英雄の生涯  真か夢か。」後者のように読むのが正統のようなのだが、ここでの「乎」は疑問を表すものではない感じがする。前者のようにとると、一種の悟りの偈の一節ともなり、後者と見れば、アナーキーな感じの暗い魅力が漂う。 ・英雄:ここでは、一般的抽象的な意味で使われているのか、自己自身を詠い込んでいるのか、その解釈によって意味が微妙に異なってくる。 ・生涯:一生。現代日本語の意の生涯に同じ。 ・眞乎:本当に。真(まこと)に。『莊子・大宗師』「死生,命也,…人特以有君爲愈乎己,而身猶死之,而況其
眞乎。」この例では感歎の表現になる。 ・乎:疑問、反語。また、感歎。副詞句にする接尾辞。ここでは後者の方の義ではないか。

※厭迄呑酒醉美姫:あくまで酒をのんで酔って、美女に酔い痴れよう。 ・厭迄:日本語の「あくまで」、或いは「厭(あ)く迄」。ここでは意図的に日本語を使って、狂詩の味わいを深めている。清末の陳道華が『日京竹枝詞百首』で、意図的に日本語を使っているようなものか。 ・醉美姫:美女に酔う。

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◎ 構成について

韻式は「aaBBB」か。韻脚は「飮膽 知衣姫」で、後者は、平水韻では上平四支(知姫)、上平五微(衣)。次の平仄はこの作品のもの。

●●●○●●●,(韻)
○○●●●○●。(韻)
●○●●○○○,(韻)
●●○●○○○。(韻)
○○○○○○●,
●●○●●●○。(韻)



平成16.3. 6完
      3. 7補
      3.14
      3.21
      5. 8
      6. 6
平成19.5. 6
平成23.6.30



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