落魄江湖暗結愁, 孤舟一夜思悠悠。 天公亦怜吾生否, 月白蘆花淺水秋。 |
江湖に 落魄して 暗に 愁(うれひ)を 結び,
孤舟 一夜 思(おもひ) 悠悠たり。
天公 も亦 吾が生を 怜(あはれ)むや 否や,
月は 白し 蘆花 淺水の秋。
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◎ 私感註釈
※足利義昭:天文六年(1537年)〜慶長二年(1597年)。十五代将軍。織田信長にたよって将軍となり、やがて信長を倒そうとした、漂泊流浪の将軍。
※避亂泛舟江州湖上:永禄八年(1565年)、兄である将軍足利義輝が、三好善継松永久秀に弑された乱を避けるために舟を琵琶湖に泛べて、近江に逃れたときの作。
※落魄江湖暗結愁:おちぶれて、世の中を流離っていると、ひそかに悲しみのため心がむすぼれて憂えてくる。 *晩唐の杜牧『遣懷』に「落魄江南載酒行,楚腰腸斷掌中輕。十年一覺揚州夢,占得樓薄倖名。」と、流離う情景が描写されている。盛唐・李白は「嗟予落魄江湖久,罕遇眞僧説空有。」と、同義で使っている。 ・落魄:おちぶれる。 ・江湖:世間。世の中。 ・暗:ひそかに。 ・結愁:悲しみのため心がむすぼれて憂える。
※孤舟一夜思悠悠:ひとりぼっちで一夜を過ごせば、思いは憂えてくる。 ・孤舟:ぽつんと一つだけの小舟。孤独な人生の譬喩として詩詞では屡々使われている。 ・一夜:一晩。兄である将軍足利義輝が、三好善継松永久秀に弑されたので、近江に走った。その時のもの。 ・悠悠:憂えるさま。『詩經・王風』『黍離』「彼黍離離,彼稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。」を踏まえていようか。
※天公亦怜吾生否:天もまたわたしの人生を哀れんでくれるのだろうか。 天問である。北宋・蘇軾の『水調歌頭』「明月幾時有?把酒問天。不知天上宮闕,今夕是何年。我欲乘風歸去,又恐瓊樓玉宇,高處不勝寒。起舞弄C影,何似在人間!」や、盛唐・李白の「把酒問月」の「天有月來幾時,我今停杯一問之。」や楚・屈原の 「天問」「遂古之初,誰傳道之?上下未形,何由考之?冥昭菅*闇,誰能極之?馮翼惟像,何以識之?」や前出『詩經・王風』『黍離』「悠悠蒼天,此何人哉。」を踏まえているか。 ・天公:お天道さま。李賀の「天若有情天亦老」や毛沢東の「天若有情天亦老」・亦:…も また。 ・怜:〔れん;lian2〕あわれむ。動詞。 ・吾生:わたしの人生。 ・否:…かどうか。…や いなや。文(句)末に附き、その文(句)を疑問文に変える働きをする。
※月白蘆花淺水秋:月は明るく出ていて、アシの穂に月光が照り映え、湖水も澄み渡って、浅く感じられる(が、それは天佑になるのか)。中唐・司空曙の『江村即事』に「釣罷歸來不繋船,江村月落正堪眠。縱然一夜風吹去,只在蘆花淺水邊。」とある。 ・月白:月は明るく出ている。 ・蘆花:アシの花。アシの穂。 ・淺水秋:澄んで明るい月のため、湖水も澄み渡って、浅く感じられるさまをいう。 ・淺水:浅瀬。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「愁悠秋」で、平水韻下平十一尤。次の平仄は、この作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
○○●●○○○。(韻)
○○●○○○●,
●●○○●●○。(韻)
平成16.5. 1完 平成21.3.12補 |
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