Huanying xinshang Ding Fengzhang de zhuye
寄題豊公旧宅



 
 
              
       寄題豐公舊宅
                       荻生徂徠

絶海樓船震大明,
寧知此地長柴荊。
千山風雨時時惡,
猶作當年叱咤聲。


名護屋城址 (『日本の名城100選』より。写真の利用をフリーとして下さっています。)


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豐公の舊宅に 寄題す

                       
絶海の樓船  大明を 震はせしも,
(いづく)んぞ 知らん  此の地に  柴荊を 長ずるを。
千山の風雨  時時に 惡く,
(なほ)も 作(な)すがごとし  當年 叱咤の聲を。

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◎ 私感註釈

※荻生徂徠:霊元六年(1666年)〜享保十三年(1728年)。江戸前期の儒者。古文辞学派の祖。字は茂卿。別号園。江戸の人。

※寄題豐公舊宅:豊臣秀吉公の旧宅である名護屋城を(偲んで)詩を作る。 ・寄題:直接にその地に行かないで、その地のことについて詩を作る。 ・豐公:豊臣秀吉公。 ・舊宅:豊臣秀吉の朝鮮、明への文禄の役、慶長の役の際の前進基地である肥前・名護屋城を指す。現在は特別史跡となっている。天正二十年(=文禄元年)(1592年)〜の文禄の役の終了後、媾和の交渉が始まり、明使が来日した。秀吉は伏見城(後出『日本外史・卷之十六・豐臣氏』に依る)で彼らを謁見し、饗応したが、明の国書の内容というものが、明国皇帝が秀吉を日本国王に封ずというものであることが発覚してしまった。これに色をなした秀吉は、ただちに冕服を脱ぎ捨てて地面にたたきつけ、冊書を引き裂いて、叱りつけて言うには『わたしが日本を平定したのであって、国王になろうとすれば自分でなれる。どうして外国から日本国王に封じてもらわねばならないのか!…帰って主に告げよ、わたしはもう一度派兵して国を亡ぼしてやる』と。腹に据えかねた秀吉は、翌・慶長二年(1597年)に再度の出兵・慶長の役を始めた、という次第である。頼山陽の『日本外史・卷之十六・豐臣氏』には「九月二日,使毛利氏兵仗,延明使者入城諸將帥,皆坐。頃之秀吉開幄而出。侍衛呼叱。二使懼伏,莫敢仰視。捧金印冕服,膝行而進。行長助之畢禮。三日,饗使者。既罷秀吉戴冕被緋衣,使コ川公以下丁七人各被其章服,召僧兌讀册書。行長私嘱之曰:册文,與惟敬所説,或有齟齬者,子且諱之。承兌不敢聽乃入。讀册于秀吉之傍,至曰:封爾爲日本國王。秀吉變色。立脱冕服抛之地,取册書撕裂之。罵曰:吾掌握日本欲王則王。何待髯虜之封哉!…告而君,我將再遣兵屠而國也。」
とある。同様の詩題は、江戸後期・頼山陽の『裂封册』に「史官讀到日本王,相公怒裂明册書。欲王則王吾自了,朱家小兒敢爵余。吾國有王誰覬覦。叱咤再蹀八道血,鴨鵠V流鞭可絶。地上阿鈞不相見,地下空唾恭獻面。」とあり、幕末〜・藤井竹外は『豐公裂明册圖』で「玉冕緋衣如糞土,册書信手裂縱横。自從霹靂震萬里,直到如今尚有聲。」(伊勢丘人先生所蔵掛軸)とする。

※絶海樓船震大明:絶海にある日本の軍船が大明国を脅かし(たことがあったが)。 ・絶海:陸地から遙かに離れた海のことで、ここでは中国大陸や朝鮮半島から離れた東海にある日本のことを指す。王維は『送祕書晁監還日本國』「
積水不可極,安知滄海。九州何處遠,萬里若乘空。向國惟看日,歸帆但信風。鰲身映天K,魚眼射波紅。ク樹扶桑外,主人孤島中。別離方異域,音信若爲通。」と表現し、李白は『哭晁卿衡』で「日本晁卿辭帝都,征帆一片遶蓬壺。明月不歸沈碧海,白雲愁色滿蒼梧。」と表現し、錢起は『送僧歸日本』で、「上國隨縁住,來途若夢行。浮天滄海,去世法舟輕。水月通禪寂,魚龍聽梵聲。惟憐一燈影,萬里眼中明。」 と表現している。 ・樓船:やぐらのある大型の船。水上の戦争に用いる。軍船。戦闘艦。 ・震:後世、藤井竹外が『豐公裂明册圖』「玉冕緋衣如糞土,册書信手裂縱横。自從霹靂萬里,直到如今尚有聲。」と詠んだことに同じ。 ・大明:中国のこと。明国。明朝。

※寧知此地長柴荊:どうしてこの(前進基)地に、柴やイバラなどの雑木が生い茂る事態になろうとは、想像も出来なかった。 ・寧:〔ねい;ning4●両韻〕どうして…になるのか。いづくんぞ…(や)。なんぞ…(や)。 ・知:分かる。しる。 ・此地:前出、肥前名護屋のこと。 ・長柴荊:人が運営しないために、柴やイバラなどの雑木が生い茂ったこと。荒れ果てたことをいう。 ・長:〔ちゃう;zhang3●両韻〕大きくなる。長ずる。動詞。 ・柴荊:〔さいけい;chai2jing1○○〕しばやいばらなどの雑木。

※千山風雨時時惡:多くの山々の風雨の音が、時々、険しくなって。 ・千山:多くの山々。 ・風雨:風と雨。風や雨。 ・時時:いつも。常に。 また、日本詩詞では、しばしば、時々の意で使われる。 ・惡:わるい。

※猶作當年叱咤聲:まるで其の上の(豊臣秀吉が三軍を)叱咤する声であるかのようだ。 ・猶:ちょうど…のようだ。なおも。なお。なほ…ごとし。 ・作:なす。なる。する。 ・當年:〔たうねん;dang1nian2両韻○○〕昔。当時。往時。かの年。 ・叱咤聲。ここでは、全軍を指揮する大きな声のこと。しかる大声。はげましの大きな声。後世、梁川星巖が『田氏女玉葆畫常盤抱孤圖』で「雪灑笠檐風卷袂,呱呱索乳若爲情。他年銕枴峰頭嶮,
叱咤三軍是此聲。」 と、義経の事に使った。 ・叱咤:〔しつた;chi4zha4●●〕





◎ 構成について

韻式は「AA」。韻脚は「明荊聲」で、平水韻下平八庚。次の平仄はこの作品のもの。

●●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)

平成17. 2.18
       2.19
       2.20完
平成24.10. 2補



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