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                         芙蓉樓送辛漸

                                
  唐・王昌齡
  
寒雨連江夜入呉,
平明送客楚山孤。
洛陽親友如相問,
一片冰心在玉壺。


   
           **********************

              芙蓉樓にて 辛漸を送る

寒雨 江に連りて  夜 呉に入る,
平明 客を送れば  楚山 孤なり。
洛陽の 親友  如
(も)し 相(あ)ひ問はば,
一片の 冰心  玉壺に 在り。

             ******************

◎ 私感訳註:

※王昌齢:盛唐期の詩人。700年?(嗣聖年間)〜755年?(天寶年間)。字は少伯。京兆の人。七言絶句に秀で、辺塞詩で有名。

※芙蓉樓送辛漸:長江南岸の鎭江の芙蓉樓にて、友人の辛漸が帰京するのを送別する。 ・芙蓉樓:西北楼。唐代、晋王・李恭に由って芙蓉樓と改名される。長江南岸の江蘇省京口(鎭江)の西北にある。 この作品は作者が長江南岸の江寧(現・南京市)に左遷されていた時、友人の辛漸が江北の都、洛陽に赴くのを芙蓉楼にて餞別の宴を催した際のもの。 ・辛漸:これから帰京する、作者の友人の姓名。

※寒雨連江夜入呉:寒々とした寂しげな雨の雨脚が長江の水面を打つ(折、わたしと辛漸は、)京口にやって来た。 ・寒雨:寂しい雨。寒々とした雨。実際に氷雨のように冷たい雨というばかりではなく、作者の心情を反映した情景でもある。 ・連江:雨脚が長江の表面と繋がって。 ・入:作者と辛漸が京口にやってくること。 ・呉:芙蓉楼のある江蘇省京口(鎭江)のこと。古の呉の地になる。

※平明送客楚山孤:暁の時にあたって、客を見送ろうとすれば、(長江北岸に該る)楚の山が一つだけぽつんと見えており(、恰も作者が今後置かれる境遇を暗示しているかのようだ。 ・平明:夜のひきあけ。夜あけがた。あかつき。平旦。 ・送客:客を見送る。客を送別する。 ・楚山:楚の山。 ・楚:長江中流一帯〜浙江省を指す。ここでは、長江の北側の対岸にある揚州や瓜州を指していよう。唐・張の『題金陵渡』「金陵津渡小山樓,一宿行人自可愁。潮落夜江斜月裏,兩三星火是瓜洲。」と似たようなものになろうか。  ・孤:楚山が一つだけぽつんと見えているさまを言うことで、作者の心情をも訴えている。

※洛陽親友如相問:(あなたが帰京後、)洛陽の(わたしの)親戚や友人が、もしも、(わたしのことを)聞いて来たのならば。 ・洛陽:唐の東都。 ・親友:親戚と友人。 ・如:もしも。もし。仮定の語。 ・相問:問いかける。聞いてくる。尋ねてくる。 ・相+動詞:…てくる。動作が対象に及んでくる時に使う。「…てくる」「…ていく」の意。「相互に」の意味はここではない。陶潜の『飮酒二十首』其一「衰榮無定在,彼此更共之。邵生瓜田中,寧似東陵時。寒暑有代謝,人道毎如茲。達人解其會,逝將不復疑。忽與一觴酒,日夕歡。」、陶淵明の『雜詩十二首』其七の「日月不肯遲,四時催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」や、張説の『蜀道後期』「客心爭日月,來往預期程。秋風不,先至洛陽城。」、唐・王維の『竹里』「獨坐幽篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來。」李白に『把酒問月』「天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人。皎如飛鏡臨丹闕,拷喧ナ盡C輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲陝刀B白兔搗藥秋復春,娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」や、杜甫の『州歌十絶句』其五に「西一萬家,江北江南春冬花。背飛鶴子遺瓊蕊,趁鳧雛入蒋牙。」とあり、白居易の『勸酒』「昨與美人對尊酒,朱顏如花腰似柳。今與美人傾一杯,秋風颯颯頭上來。年光似水向東去,兩鬢不禁白日催。東鄰起樓高百尺,題照日光。」、韋莊の『浣溪沙』「夜夜相思更漏殘。」な李U『柳枝詞』「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似,強垂煙穗拂人頭。」、范仲淹の『蘇幕遮』「碧雲天,黄葉地,秋色連波,波上寒煙翠。山映斜陽天接水,芳草無情,更在斜陽外。   黯ク魂,追旅思,夜夜除非,好夢留人睡。明月樓高休獨倚,酒入愁腸,化作思涙。」など、一方の動作がもう一方の対象に及んでいく時に使われている。

※一片冰心在玉壺:(わたしの心は)透き通って清い心が玉(ぎょく)で作った壷にある(のと同じだ、と伝えてほしい)。 ・一片:心、誠意、熱心などをいう際の量詞(助数詞)。…の(心)。まことの。まったくの。 ・冰心:透き通って清い心。澄み渡った混じりけのない心。=氷心。 ・在:…にある。 ・玉壺:玉(ぎょく)で作った壷。南朝宋の鮑照『代白頭吟』「直如朱絲繩,清如
玉壺冰。何慚宿昔意,猜恨坐相仍。人情賤恩舊,世議逐衰興。」に基づき、後世、多くの詩人が「玉壺冰」を作っている。この作品もそのうちの一になる。





◎ 構成について

 韻式は「AAA」。韻脚は「呉孤壺」で、平水韻上平七虞。次の平仄はこの作品のもの。次の平仄はこの作品のもの。

○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)


2004.1.11
     1.12完
2008.4.28補
2015.8.28

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