百歳無多時壯健,
一春能幾日晴明。
相逢且莫推辭醉,
聽唱陽關第四聲。
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酒に對す
百歳 時に 壯健なること 多くは無し,
一春 能(よ)く 幾(いくばく)か 日に 晴明なる。
相ひ逢へば 且(しば)らく 醉ふを推辭する 莫れ,
唱ふを聽け 陽關の第四聲。
◎ 私感註釈 *****************
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。
※對酒:酒に向かう。これは『對酒』五首のうち、第四首。崔惠童の『宴城東莊』「一月人生笑幾回,相逢相値且銜杯。眼看春色如流水,今日殘花昨日開。」と雰囲気は似ている。この詩、節奏が六朝・唐詩とは異なるようにも見えるが『對酒五首』の他の四首は全て節奏上問題はない。それ故、この詩も従来の唐詩の節奏を重んじて訓む。(節奏を考慮しないで、スムーズな訓読を考えれば「百歳も多時壯健なる無し,一春 能く幾日か晴明なる。相逢ふ 且し 醉ひを推辭する莫れ,陽關 第四聲を唱ふるを聽け。」等のようになろう。)なお、『對酒』第二首は「蝸牛角上爭何事,石火光中寄此身。隨富隨貧且歡樂,不開口笑是癡人。」になる。
※百歳無多時壯健:人の一生である百年でも、身体が元気で丈夫な時は多くはない。 ・百歳:人の一生の長さ。人生の長さ。一生涯。『詩經』唐風『葛生』「葛生蒙楚,蔓于野。予美亡此,誰與獨處。葛生蒙棘,蔓于域。予美亡此,誰與獨息。角枕粲兮,錦衾爛兮。予美亡此,誰與獨旦。夏之日,冬之夜。百歳之後,歸于其居。冬之夜。夏之日,百歳之後,歸于其室。」や、『古詩十九首』之十五「生年不滿百,常懷千歳憂。晝短苦夜長,何不秉燭遊。爲樂當及時,何能待來茲。愚者愛惜費,但爲後世嗤。仙人王子喬,難可與等期。」、陶淵明『飮酒二十首』其三「道喪向千載,人人惜其情。有酒不肯飮,但顧世間名。所以貴我身,豈不在一生。一生復能幾,倏如流電驚。鼎鼎百年内,持此欲何成。」や、同 『雜詩十二首』其四「丈夫志四海,我願不知老。親戚共一處,子孫還相保。觴弦肆朝日,樽中酒不燥。緩帶盡歡娯,起晩眠常早。孰若當世士,冰炭滿懷抱。百年歸丘壟,用此空名道。」、杜甫の『登高』にも「風急天高猿嘯哀,渚C沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。」 とある。 ・無多:多くない。少ない。曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日無多。」 とある。 ・壯健:身体が元気で丈夫なこと。
※一春能幾日晴明:一つの春でいったいどれほどの清く明らかな日があろうか。 ・一春:一回の春で。一月、二月、三月の春の季節で。 ・能幾:いったいどれほど。曹操の『短歌行』「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」や、杜甫の『絶句漫興』「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」や、後世、韋莊の『菩薩蠻』其四に「勸君今夜須沈醉,樽前莫話明朝事。珍重主人心,酒深情亦深。 須愁春漏短,莫訴金杯滿。遇酒且呵呵,人生能幾何?」、また、前出・陶淵明『飮酒二十首』其三「一生復能幾」に同じ。 ・晴明:清く明らかなさま。
※相逢且莫推辭醉:(偶然に)出逢った(この機会に、)しばし酔うことを辞退しなさるな。 *前出・崔惠童『宴城東莊』でいえば「相逢相値且銜杯。」の部分。 ・相逢:(偶然に)出逢う。行き逢う。 ・且莫:〔しょばく;qie3mo4●●〕しばらく……避けられたし。しばらく……するなかれ。 ・且:しばらく。しばし。短時間を謂う。 ・莫:…なかれ。禁止、否定の辞。 ・推辭:〔すゐじ;tui1ci2○○〕辞退する。断る。遠慮して辞退する。
※聽唱陽關第四聲:唱うのを聴きなされ『陽関三畳』の第四節めには、「君に勸む 更に盡くせ 一杯の酒」(「勸君更盡一杯酒」)とあるではないか。(さあ、あの『陽関三畳』の第四節めのように、別れに当たっては、もう一杯お飲みなされ)。 ・聽唱:うたうのを聞く。劉禹錫『楊柳枝詞九首』の第一首に「塞北梅花羌笛吹,淮南桂樹小山詞。請君莫奏前朝曲,聽唱新翻楊柳枝。」や、劉禹錫の『那曲』に「楊柳鬱,竹枝無限情。同カ一回顧,聽唱那聲。」と使う。 ・陽關:『陽関三畳』のこと。別離の場でうたわれる。唐・王維の『送元二使安西』を三段構成に変えてうたう。「蛍の光」「別れの歌を歌う」といった感じでつかわれる。(三畳構成の長令の填詞(詞)『陽關三疊』:百三十一字は、暫くおく)ここでの「畳」とは詞(填詞)の用語と共通する「三畳」とは「三畳構成」の意で、通常は王維の『送元二使安西』「渭城朝雨輕塵,客舎柳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」の第二句、三句、四句をそれぞれに繰り返すと、
1 渭城朝雨輕塵,
2 客舎柳色新。
3 客舎柳色新。
4 勸君更盡一杯酒,
5 勸君更盡一杯酒,
6 西出陽關無故人。
7 西出陽關無故人。
となる。 ・第四聲:第四番目の節。前記「4 勸君更盡一杯酒」の部分。自註で「勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」の部分とする。前出「那聲。」の紫字参照。
◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「明聲」で、平水韻下平八庚。平仄はこの作品のもの。
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2007.4.19 4.20 |
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