河内道中 | ||
河野鐵兜 |
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十三年外此相逢, 多寶塔前羅漢松。 今日重來君不見, 石樓殘雨數聲鐘。 |
十三年外此 に相 ひ逢ふ,
多寶塔 前羅漢 松 。
今日 重 ねて來 るに 君 見えず,
石樓 殘雨 數聲の鐘 。
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◎ 私感註釈
※河野鉄兜:江戸時代末期の詩人、医者。文政八年(1825年)〜慶応三年(1867年)。
※河内道中:河内の旅の途中。 *この詩は香奩体・婉約詞の体裁があり、同時に仏教関聯の語が混じえられて、独特の風情が醸し出されている。「十三年外此相逢,多寶塔前羅漢松。今日重來君不見,石樓殘雨數聲鐘。」(香奩体・婉約詞=赤字、仏教関聯=青字、共通=紫字)と美事である。 ・河内:旧国名の河内(かわち)の国。現・大阪府の東部・南部の地域。 ・道中:旅行の途中。また、旅行。中唐・白居易に『長安道』「花枝缺處青樓開,艶歌一曲酒一杯。美人勸我急行樂,自古朱顏不再來。君不見外州客,長安道。一回來,一回老。」とある。
※十三年外此相逢:十三年以前に、ここでめぐり逢った。 ・十三年:十三年忌。死亡した年から満十二年目にあたる忌日。十三回忌。また、その日に行う法事。 ・-年外:…年以上も、の意。 ・此:ここ。ここでは、後出・「多宝塔前羅漢松」を指す。 ・相逢:めぐりあう。盛唐・王維の『少年行』に「新豐美酒斗十千,咸陽遊侠多少年。相逢意氣爲君飮,繋馬高樓垂柳邊。」とあり、盛唐・李白に『少年行』「五陵年少金市東,銀鞍白馬度春風。落花踏盡遊何處,笑入胡姫酒肆中。」とあり、同・李白の『相逢行』に「相逢紅塵内,高揖黄金鞭。萬戸垂楊裏,君家阿那邊。とあり、中唐・韋應物の『寄李儋元錫』に「去年花裏逢君別,今日花開又一年。世事茫茫難自料,春愁黯黯獨成眠。身多疾病思田里,邑有流亡愧俸錢。聞道欲來相問訊,西樓望月幾迴圓。」とある。
※多宝塔前羅漢松:(そことは、)多宝塔の前の羅漢松(のところなのだ)。 ・多宝塔:仏塔の一種で、上層を円形、下層を方形とした塔身の二重塔。 ・羅漢松:イヌマキ。ラカンマキ。マキ。ラカンショウ。常緑喬木。蛇足になるが、「羅漢」とは、煩悩をすべて断滅して最高の境地に達した人・悟りを得た最高の聖者。≒僧侶。=阿羅漢(arhatの音写)。
※今日重来君不見:今日、ふたたび来たが、あなたには会えなかった。 ・重来:かさねて来る。 ・不見:姿を消す。見あたらなくなる。見えなくなる。明末清初・呉偉業の『菫山兒』に「菫山兒,兒生不識亂與離。父言急去牽兒衣,母言乞火爲兒炊作糜。父母忽不見,但見長風白浪高崔嵬。将軍下一令,軍中那得聞兒啼。樓船何高高,沙岸多崩摧。榜人不能移,擧手推墮之。上有蒲與雈,下有濘與泥。十歩九倒迷東西,身無袴襦。足穿蒺藜,叩頭指口惟言饑。將船送兒去,問以ク里記憶還依稀。父兮母兮哭相認,聲音雖是形骸非。傍有一老翁,羨兒獨來歸。不知我兒何處餵游魚,或經略賣遭鞭笞。垂頭涕下何纍纍,吾欲竟此曲。此曲哀且悲,茫茫海内風塵飛。一身不自保,生兒欲何爲。君不見(蛇足になるが、こちら(=「君不見」)はその例に該当しない。)菫山兒。」とある。
※石楼残雨数声鐘:(わたしが接しているのは)石のたかどのに、なごりの雨ぱらぱらと降って、(お寺の)鐘が幾つか(聞こえて来るだけである)。 ・石楼:石のたかどの。 ・残雨:雨があがった後に、まだぱらぱらと降る雨。なごりの雨。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は、「逢松鐘」で、平水韻上平二冬。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●●○○●○。(韻)
○●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
平成27.5.24 |
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