相逢行 | |
唐・李白 |
相逢紅塵内,
高揖黄金鞭。
萬戸垂楊裏,
君家阿那邊。
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相逢行
相 ひ逢 ふ紅塵 の内 ,
高揖 す黄金 の鞭 。
萬戸 垂楊 の裏 ,
君が家は阿那 の邊。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)~762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる安史の乱では苦労をし、後、永王が謀亂を起こしたのに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※相逢行:基本的に各聯全て対句での構成と謂える。王維『少年行』「新豐美酒斗十千,咸陽遊侠多少年。相逢意氣爲君飮,繋馬高樓垂柳邊。」 があり、李白に『少年行』「五陵年少金市東,銀鞍白馬度春風。落花踏盡遊何處,笑入胡姫酒肆中。」がある。
※相逢紅塵内:赤茶けた砂ぼこりの舞う繁華街で、偶然に出あい。 ・相逢:巡りあう。(偶然に…と)出あう。(偶然に…と)行きあう。 ・紅塵:繁華な市街地。また、市街地に立つ土ぼこり。また、空が赤茶けて見えるほどの土ぼこり。また、浮き世の塵。俗塵。中唐・劉禹錫は『元和十一年自朗州召至京戲贈看花諸君子』で「紫陌紅塵拂面來,無人不道看花回。玄都觀裏桃千樹,盡是劉郎去後栽。」とあり、晩唐・杜牧の『過華清宮絶句』に「長安回望繍成堆,山頂千門次第開。一騎紅塵妃子笑,無人知是茘枝來。」とし、南宋・陸游は『鵲橋仙』で「一竿風月,一蓑煙雨,家在釣臺西住。賣魚生怕近城門,況肯到、紅塵深處。 潮生理櫂,潮平繋纜,潮落浩歌歸去。時人錯把比嚴光,我自是、無名漁父。」とする。なお「黄塵」は、王昌齡の『塞下曲』「飮馬渡秋水,水寒風似刀。平沙日未沒,黯黯見臨洮。昔日長城戰,咸言意氣高。黄塵足今古,白骨亂蓬蒿。」や高適の『別董大』「十里黄雲白日曛,北風吹雁雪紛紛。莫愁前路無知己,天下誰人不識君。」や「黄埃散漫風蕭索」等と、荒野で黄砂が舞い上がるさまになり、言葉の雰囲気が大きく異なる。 ・内:うち。「外」の対。ある仕切りがあってその内側。後出・「裏」と通じる。
※高揖黄金鞭:金色に輝く乗馬鞭で、高らかに挨拶を交わした。 ・揖:〔いふ;yi1●〕えしゃくする。胸の前に組み合わせた両手を前に出し、上下させて行う礼をする。 ・黄金鞭:金色に輝く華麗な乗馬の鞭。盛唐・崔國輔の『長樂少年行』には「遺卻珊瑚鞭,白馬驕不行。章臺折楊柳,春日路傍情。」とあり、華麗な珊瑚の乗馬鞭が描かれている。また、李白に『少年行』「五陵年少金市東,銀鞍白馬度春風。落花踏盡遊何處,笑入胡姫酒肆中。」がある。共に、華麗でいなせなさまを詠う。
※万戸垂楊裏:多くの家がシダレヤナギの中にある(あの…)。 *詩句描写の前後関係から推し量って、緑の多い高級住宅街のことを謂おう。 ・萬戸:多くの家。すべての家。李白の『子夜呉歌』に「長安一片月,萬戸擣衣聲。秋風吹不盡,總是玉關情。何日平胡虜,良人罷遠征。」とある。 ・垂楊:〔すゐやう;chui2yang2○○〕しだれやなぎ。前出・王維『少年行』に「相逢意氣爲君飮,繋馬高樓垂柳邊。」 がある。なお、この句(=「万戸垂楊裏」)の第四字めは「楊」は使えても、「柳」は使えない。「楊」は平(〔やう;yang2○〕)であって、「柳」(〔りう;liu3●〕)は仄のため。更なる蛇足になるが、王維『少年行』「繋馬高樓垂柳邊。」の場合、第六字目は仄としなければならない。そのため、第六字目に「柳」(仄字)を使った。 ・裏:うち。「表」の対。元来、衣服の裏表(うらおもて)のうら。前出・「内」と通じる。「内」をこちらでは「裏」とするのは同字重出を避けたため。
※君家阿那辺:あなたのお住まいは、(柳が)たおやかに茂っている辺りでいらっしゃいますね。また、あなたのお住まいは、(柳の茂る)どのあたりになるのでしょうか。また、あなたのお住まいは、(柳の生い茂った)あの辺になるのでしょうね。(以上三種の解釈が可能)。 ・君家:あなたのお住まい。明・高啓に「尋胡隱君 渡水復渡水,看花還看花。春風江上路,不覺到君家。」では「君家」を「きみがり」と読むことがある。 ・阿那邊:(柳が)たおやかに茂っている辺り。また、どのあたり。またあの辺。(以上三種の解釈が可能)。 ・阿那:〔あだ;e1nuo2◎●〕おだやかなさま。柔弱なさま。しげってさかんなさま。=妸娜〔あだ〕、婀娜〔あだ;e1nuo2◎●〕(美人のたおやかなさま。女性がしなやかで美しい)。蛇足になるが、「那辺」〔なへん;na3bian1●○〕は、俗語や現代語などでは「どこ」「どのあたり」の意で、李白のこの作品も、疑問詞の意で解釈することが多い。但し、現代語では、疑問詞の場合“哪”(na3)と書き表し、「あの、かの」という指示詞の意の場合“那”(na4)と書き分け、区別している。それ故、“哪辺(那辺)”(na3bian1)といえば「どこ」「どちら」「どのあたり」の意で、“那辺”(na4bian1)といえば「あそこ」「あちら」の意。更なる蛇足を附け加えるが、「阿那邊」をどの意味で理解するかによって、当然ながら「阿那邊」の発音や読み方(中国語・日本語)は異なってくる。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「鞭邊」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
○○○○●,
○●○○○。(韻)
●●○○●,
○○◎●○。(韻)
2011.1.19 1.20 1.21 1.22 |
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