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新涼讀書 | ||
菊池三溪 |
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秋動梧桐葉落初, 新涼早已到郊墟。 半簾斜月淸於水, 絡緯聲中夜讀書。 |
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秋は動く梧桐 葉 落 つるの初 め,
新涼 早 や已 に郊墟 に到る。
半簾 の斜月 水 よりも淸く,
絡緯 聲中 夜 書を讀む。
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◎ 私感註釈
※菊池三渓:幕末~明治時代の漢学者。文政二年(1819年)~明治二十四年(1891年)。名は純。字は子顕。号して三渓。別号に晴雪楼主人。紀伊=和歌山県の人。安積艮斎に学ぶ。江戸の和歌山藩校明教館の教授をへて幕府儒官となり、第十一代将軍・徳川家茂に仕える。
※新涼読書:秋の初めの涼しさに本を読んで勉学に励む。 *この詩、明・李攀龍の填詞『長相思』「秋風淸。秋月明。葉葉梧桐檻外聲。難敎歸夢成。 砌蛩(コオロギ)鳴。樹鳥驚。塞雁行行天際橫。偏傷旅客情。」や明・文徴明の『閑興』「酒闌客散小堂空,旋捲疎簾受晩風。坐久忽驚涼影動,一痕新月在梧桐。」
に雰囲気的に似たところがある。 ・新涼:秋の初めの涼しさ。 ・読書:本を読む。勉学する。
※秋動梧桐葉落初:秋は梧桐に動(はたら)きかけて、(梧桐)の葉が落ち初める(時)。 *この「秋動梧桐葉落初」の句の読み下しを「秋は動(うご)く梧桐葉落つるの初」と読めば、我が国の俳諧の趣が増すものの、「秋・動梧桐,葉・落初」(秋は梧桐を動(うご)かして(/秋は梧桐に動(はたら)きて)、葉 落つるの初め)と、「動」の目的語「梧桐…」を顧慮して読み下す方がよいのではないか。 ・秋動:秋(あき)動(うご)く。秋が…に働きかける。 ・梧桐:〔ごとう;wu2tong2○○〕アオギリ。落葉喬木。庭木で秋早くに落葉するため、秋の季節の訪れを告げるものとして、また場合によっては凋落を表す語として、また葉が大きいために雨音がよく分かるので、雨の描写としても使われる。中唐・白居易の『晩秋閒居』に「地僻門深少送迎,披衣閒坐養幽情。秋庭不掃攜藤杖,閒踏梧桐黄葉行。」とあり、晩唐~・温庭
の『更漏子』「玉爐香、紅蝋涙。偏照畫堂秋思。眉翠薄、鬢雲殘。夜長衾枕寒。 梧桐樹。三更雨。不道離情正苦。一葉葉、一聲聲。空階滴到明。」
とあり、南唐後主・李煜の『采桑子』に「轆轤金井梧桐晩,幾樹驚秋。晝雨如愁,百尺蝦鬚在玉鉤。 瓊窗春斷雙蛾皺,迴首邊頭。欲寄鱗游,九曲寒波不溯流。」
とあり、両宋・李清照の『聲聲慢』「尋尋覓覓,冷冷淸淸,凄凄慘慘戚戚。乍暖還寒時候,最難將息。三杯兩盞淡酒,怎敵他、曉來風急。雁過也,正傷心,却是舊時相識。 滿地黄花堆積,憔悴損,如今有誰堪摘。守着窗兒,獨自怎生得黑。梧桐更兼細雨,到黄昏、點點滴滴。這次第,怎一個、愁字了得。」
とあり、前出・明・李攀龍の『長相思』に 「秋風淸。秋月明。葉葉梧桐檻外聲。難敎歸夢成。 砌蛩(コオロギ)鳴。樹鳥驚。塞雁行行天際橫。偏傷旅客情。」
とある。
※新涼早已到郊墟:秋の初めの涼しさは、とっくに田舎(いなか)(=作者の住んでいるところ)に訪れている。 ・早已:とっくに。とうの昔から。早くからすでに。 ・郊墟:野やおか。田舎(いなか)。
※半簾斜月清於水:半ば垂れたすだれから、西に没しようとする月は、水よりも清らかであり。 ・半簾:半ば垂れたすだれ。半ば、すだれを下ろす。 ・斜月:西に没しようとする月。西に没しようとして斜めに照らす月。 ・-清於水:…は、水よりも清らかである。「…[形容詞(A)]+於B」で、「…は、Bよりも Aい」「…は、…よりも □い」といった比較を表す形式。「甲大於乙」では、「甲は、乙よりも大きい」という意味になる。 ・於:…よりも。〔形容詞+於〕で、「…よりも」という比較表現。杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」に同じ。中唐・白居易の『太行路』借夫婦以諷君臣之不終也に「太行之路能摧車,若比人心是坦途。巫峽之水能覆舟,若比人心是安流。人心好惡苦不常,好生毛羽惡生瘡。與君結髮未五載,豈期牛女爲參商。古稱色衰相棄背,當時美人猶怨悔。何況如今鸞鏡中,妾顏未改君心改。爲君熏衣裳,君聞蘭麝不馨香。爲君盛容飾,君看金翠無顏色。行路難,難重陳。人生莫作婦人身,百年苦樂由他人。行路難,難於山,險於水,不獨人間夫與妻,近代君臣亦如此。君不見左納言,右納史。朝承恩,暮賜死。行路難,不在水,不在山。只在人情反覆間。」
とあり、同・白居易の『題峽中石上』に「巫女廟花紅似粉,昭君村柳翠於眉。誠知老去風情少,見此爭無一句詩。」
とあり、宋末金初・呉激の『題宗之家初序瀟湘圖』に「江南春水碧於酒,客子往來船是家。忽見畫圖疑是夢,而今鞍馬老風沙。」
とある。
※絡緯聲中夜読書:クツワムシの声の中で、夜に本を読んでいる。 ・絡緯:〔らくゐ;luo4wei3●●〕クダマキ。キリギリスよりやや小さい虫。クツワムシ。中唐・李賀の『秋來』に「桐風驚心壯士苦,衰燈絡緯啼寒素。誰看青簡一編書,不遣花蟲粉空蠹。思牽今夜腸應直,雨冷香魂弔書客。秋墳鬼唱鮑家詩,恨血千年土中碧。」とあり、南宋・周密の『秋日即事』に「絡緯聲聲織夜愁,酸風吹雨水邊樓。堤楊脆盡黄金縷,城裏人家未覺秋。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は、「初墟書」。平水韻上平六魚。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
平成27.8.20 8.24 8.25完 平成28.3. 6補 |
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