秋詞 | |
劉禹錫 |
自古逢秋悲寂寥,
我言秋日勝春朝。
晴空一鶴排雲上,
便引詩情到碧霄。
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秋詞
古より 秋に逢へば 寂寥を悲しむも,
我は言ふ 秋日は 春の朝に勝ると。
晴空に 一鶴 雲を排け上り,
便ち 詩情を引きて 碧霄に到る。
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◎ 私感註釈
※劉禹錫:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜842年(會昌二年)。白居易や柳宗元との詩の応酬も多い。白居易とともに『竹枝詞』や『楊柳枝』を作る等、前衛的、実験的なことに取り組む。字は夢得。監察御史、太子賓客。
※秋詞:秋のうた。
※自古逢秋悲寂寥:昔から秋に出逢(あ)えば、寂しく悲しむものだが。 ・自古:昔から。柳永の『望海潮』に「東南形勝,三呉都會,錢塘自古繁華。」とあり、南宋・文天祥の『過零丁洋』に「辛苦遭逢起一經,干戈寥落四周星。山河破碎風飄絮,身世浮沈雨打萍。惶恐灘頭説惶恐,零丁洋裏歎零丁。人生自古誰無死,留取丹心照汗。」や、宋・戴復古の『柳梢』岳陽樓「袖劍飛吟,洞庭草,秋水深深。萬頃波光,岳陽樓上,一快披襟。 不須攜酒登臨。問有酒、何人共斟。變盡人間,君山一點,自古如今。」と使う。 ・逢秋:秋に出逢(あ)う。 ・寂寥:〔せきれう;ji4liao2●○〕寂(さび)しく静かなさま。ひつそりしているさま。盛唐・李白の『宿五松山下荀媼家』に「我宿五松下,寂寥無所歡。田家秋作苦,鄰女夜舂寒。跪進雕胡飯,月光明素盤。令人慚漂母,三謝不能餐。」とあり、中唐・權コ輿の『蘇小小墓』「萬古荒墳在,悠然我獨尋。寂寥紅粉盡,冥寞黄泉深。蔓草映寒水,空郊曖夕陰。風流有佳句,吟眺一傷心。」や、五代・顧夐の『楊柳枝』「秋夜香閨思寂寥,漏迢迢。鴛帷羅幌麝煙銷,燭光搖。 正憶玉カ遊蕩去,無尋處。更聞簾外雨蕭蕭,滴芭蕉。」とある。
※我言秋日勝春朝:わたしは言っておこう「秋の日は春の朝に勝(まさ)るものだ」と。 ・我言:私は言明する。 ・言:言葉で言い表す。言葉に出して表現する。 ・勝:まさる。清・陳道華の『日京竹枝詞百首 麹町區』「東京風物勝西京,十五名區繞禁城。煙樹萬家河幾曲,樓臺多處是仙瀛。」なお、「不勝」は:〔ふしょう;bu4sheng1●○〕…に堪えない。とても…ない。作者自身の感情をいう。 ・勝:〔しょう;sheng1○〕たえる。こらえる。しのぐ。なお、〔しょう;sheng4●〕は、勝つ。おさえる。まさる。(ただし、現代語では、どちらも後者の発音。)平韻字としての用例には、盛唐・杜甫の『春望』「國破山河在,城春草木深。感時花濺涙,恨別鳥驚心。烽火連三月,家書抵萬金。白頭掻更短,渾欲不勝簪。(○●●○○)」や、中唐・白居易『楊柳枝』其三に「依依嫋嫋復青青,勾引清風無限情。白雪花繁空撲地,阪N條弱不勝鶯。(●○○●●○○)」 や、中唐・劉禹錫の『與歌者何戡』「二十餘年別帝京,重聞天樂不勝情(○○○●●○○)。舊人唯有何戡在,更與殷勤唱渭城。」や、北宋・蘇軾の『水調歌頭』「明月幾時有?把酒問天。不知天上宮闕,今夕是何年。我欲乘風歸去,又恐瓊樓玉宇,高處不勝寒(○●●○○)。起舞弄C影,何似在人間!」や、晩唐・劉綺莊の『揚州送人』に「桂楫木蘭舟,楓江竹箭流。故人從此去,望遠不勝愁(◎●●○○)。落日低帆影,歸風引櫂謳。思君折楊柳,涙盡武昌樓。」がある。
※晴空一鶴排雲上:晴れた空に鶴が一羽、雲を排(おしひら)けて上っていくのを見れば。 ・排雲上:雲を排(おしひら)けて上る。 ・排:排(おしひら)く。
※便引詩情到碧霄:するとすぐに詩情を惹起(じゃっき)させて、青空の奥に到ってしまう。 ・便:そのたびに。すぐに。すなわち。 ・引:引っ張る。導く。使役の雰囲気があろう。 ・碧霄:青空。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「寥朝霄」で、平水韻下平二蕭。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2008.11.20 11.21完 2017.11. 9補 |
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