好花不常開, 好景不常在。 愁堆解笑眉, 涙洒相思帶。 今宵離別後, 何日君再來。 喝完了這杯, 請進點小菜。 人生難得幾回醉, 不歡更何待。 今宵離別後, 何日君再來。 |
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何(いづ)れの日か 君 再び來たる
好き花は 常には 開かず,
好き景は 常には 在らず。
愁ひは 堆(つも)れど 笑眉を 解く,
涙は 洒(そそ)ぐ 相思の帶。
今宵 離別の後,
何(いづ)れの日か 君 再び來たらん。
這(こ)の杯を 喝(の)み完(ほ)しては,
請ふ 小菜を 進むること點(いささか)ばかりを。
人生 得 難(かた)し 幾回か醉(ゑ)ふを,
歡(よろこ)ばずして 更に 何をか 待たん。
今宵 離別の後,
何日 君 再び來たらんや。
◎ 私感註釈 *****************
※何日君再來:表の意味は、いつ、あなたはまた来るのか。去りゆく男性に尋ねかけることば。1939年(昭和十四年)以降の抗日戦争時期に流行ったもので、当時の中国の状況に基づいた婉約詞の系統をひく自由詩。これを愛国歌と見れば、南宋・范成大の『州橋』「州橋南北是天街,父老年年等駕迴。忍涙失聲詢使者,幾時眞有六軍來。」と同様の意になる。「幾時軍來」⇒「何日軍(君)來」となろうか。国軍の再来を待つ北宋遺民の心である。或いは、純粋な抗日歌と見れば、「何」〔he2〕字を漢語では同音の「」〔he2〕字と見て、「・日軍・再來」とも見ることができ、「日本軍がまたやって来るのを妨(さまた)げよう」の意となる。 ・:妨(さまた)げる。じゃまをする。動詞。
後日、これに対して、伊勢丘人先生より、憶測をあまり逞しくすると清朝の「清風不識字,何事亂翻書。」の如き文字獄の轍を踏むことになるので、注意が必要であり、やはり艶冶な詞と見ることが穏当であろう、とのご指摘を頂いた。肝に銘じます。 *押韻は現代語韻を基本としたもので、平仄には関わっていない。 ・何日:いつ。≒“何時”。 ・君:あなた。女性を指す場合と男性を指す場合がある。女性から男性を指すものとしては、林逋の『相思令』「呉山,越山,兩岸山相對迎。爭忍有離情。 君涙盈,妾涙盈,羅帶同心結未成。江邊潮已平。」、女性から男性を指して呼ぶ場合は馮延巳の『長命女』「春日宴,克一杯歌一遍,再拜陳三願。一願カ君千歳,二願妾身長健,三願如同梁上燕,歳歳長相見。」、異性を指すものとしては李之儀の『卜算子』「我住長江頭,君住長江尾。日日思君不見君君 ,共飲長江水。 此水幾時休?此恨何時已?只願君心似我心,定不負、相思意。」 。特に関係ない場合は白居易の『楊柳枝』「六水調家家唱,白雪梅花處處吹。古歌舊曲君休聽,聽取新翻楊柳枝。」や楽府体に多く見られる(『將進酒』)「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」 など、用例がさまざまである。なお、「君」〔jun1〕は、「軍」〔jun1〕と通ずる。 ・再:ふたたび。また。重ねて。なお、ここでは、文語(日本語)で読み下してはいるが、原文(漢語)は口語系である。
※晏如:〔あんじょ;Yan4Ru2〕1930年代後半の抗日戦争時期の人。
※好花不常開:すばらしい花は、いつも咲いているとは限らない。 ・好花:すばらしい花。宋・范仲淹の『蘇幕遮』に「碧雲天,黄葉地,秋色連波,波上寒煙翠。山映斜陽天接水,芳草無情,更在斜陽外。 黯ク魂,追旅思,夜夜除非,好夢留人睡。明月樓高休獨倚,酒入愁腸,化作相思涙。」とあり、明・唐寅の『花下酌酒歌』に「九十春光一擲梭,花前酌酒唱高歌。枝上花開能幾日,世上人生能幾何。好花難種不長開,少年易過不重來。人生不向花前醉,花笑人生也是呆。」とある。 ・不常-:つねにはない。つねにはあらず。部分否定。 常にずっとあるわけではなく、無い時もある。蛇足になるが、“常不-”とすれば、いつも(ずっと)…しないままである、の意になる。 ・開:(花が)開く。咲く。
※好景不常在:すばらしい光景は、いつまでもあるとは限らない。 ・好景:すばらしい光景。“好景不常”いつもいいことばかりではないという常套表現。“好景不長”、“好景不再”などとも言う。 ・不常在:常には存在しない。部分否定。 常にずっとあるわけではなく、無い時もある。なお常不在”とすれば、ずっと不在のままである、になる。
※愁堆解笑眉:愁いがたまっても、笑顔(えがお)で包み。 *裏の意味があろう。 ・愁堆:愁いがたまる。 ・解:取り除く。癒す。 ・笑眉:微笑んだ目許。微笑みを湛えた表情をいう。
※涙洒相思帶:涙を相思の縁(えにし)(ベルト、リボン、赤い糸?)にそそぐ。或いは、流す涙は思いが込められている。 ・涙洒:涙が…に そそがれる。「涙灑」ともする。 ・相思:恋しあう。互いに慕う。 ・帶:おびる(:動詞)。おび、リボン、縁(:名詞)。意味が分かりにくい。「呆」ともする。「愁堆解笑眉」と「涙洒相思帶」とは対句と見れば、「帯」と「眉」は対になって名詞と見ることになるが、この詩の場合、多くの意味を含んで作っているので、対句は完全ではなく、必ずしも古典詩のような見方はできない。
「好花不常開」⇔「好景不常在」
「愁堆解笑眉」⇔「涙洒相思帶」
「今宵離別後」⇔「何日君再來」
「喝完了這杯」⇔「請進點小菜」
ただ、この詩は、裏の意が秘められているので、意味の通じにくいところがあるが、これは民国の他の文学作品とも共通のことで真意を隠す時代的な要請から晦渋になったともいえる。ここの句には、おそらく裏の意があろう。
※今宵離別後:今夜、別れた後は。 ・今宵:今夜。詩詞では、必ずしも宵の口の意に限らない。 ・離別:別れる。動詞。
※何日君再來:いつ、あなたは、またやって来るのか。
※喝完了這杯:このさかづきを飲み干したら。*この「喝完了這杯,請進點小菜。」の聯は、純粋な口頭語で、挿入句になる。女性の言葉になり、詩の真意を隠すためでもある。 ・喝完了:飲み干してしまったら、…。飲み終わったら…。 ・喝:飲む。:文語の「飮」に近い働きをする。 ・完:動詞の後について、…してしまう。 ・了:…した。…したら。完了を表す。助動詞。蛇足になるが、ここの「-完了」は、日本語での「完了(かんりょう)」の意ではなく「喝+完・了」であって、「喝+…」(飲み) ⇒ 「喝完+」(飲み干して) ⇒ 「喝完了…」(飲み干してしまったら、…)という構造になっている。 ・這杯:このさかづき。 ・這:この。これ。文語の「此」に近い働きと用法の語。
※請進點小菜:おつまみを、どうぞ少しめしあがってください。 ・請進:どうかお召し上がり下さい。 ・請:どうぞ。なにとぞ。…してください。相手にお願いをする、動詞の前に附ける敬語表現の一。 ・進:(飲食物を)勧める。(飲食物を)ふるまう。 ・請進:めしあがれ。 ・-點:動詞の後に附き、数量や程度のわずかであることを表現する。 ・小菜:(小皿に載った)おかず。おつまみ。
※人生難得幾回醉:人の生では(深く)酔うということは、なかなか得難いことである。 *おそらく、この部分にも隠された裏の意があろう。 ・人生:人の生。人が生きていく。人が生きていく(上で)。 ・難得:得難い。珍しい。 ・幾回:何回ほど。どれほど。 ・醉:〔zui4〕酔う。「罪」〔zui4〕苦しみ。難儀、ともとれる。
※不歡更何待:歓ぶこともなく、気まずい思いで、この上、一体何を待てと言うのか。 *おそらく、この部分にも隠された裏の意があろう。 ・不歡:気まずい思いで。“不歡而散”(気まずい思いで別れる)という常套表現の前半。 ・更:その上。なお。一層。さらに。 ・不…何…:反問。 ・待:まつ。
◎裏の意味(憶測)
詩題:「日本軍の再寇を阻止しよう!」
良い思いは、いつまでもできない、
いつまでも良い思いは、させない。
醜い隊伍を消滅させて、
熱血を連帯のきずなにそそごう。
今宵、別れてからは、
日本軍の再寇を阻止しよう。
「お酒を飲んだら、
おつまみをどうぞ。」
人生は、屡々難儀にであうもので、
いかなる仕打ちをも辞するものではない。
今宵、別れてからは、
日本軍の再寇を阻止しよう。
◎ 構成について
韻式は「AaAaAAaaaA」。韻脚は「開在眉帶來杯菜醉待來」で、平仄混在の現代語韻〔ai-〕韻とも〔ei-〕韻とも謂える。平水韻では、押韻はいえない。次の平仄はこの作品のもの。宋詞にはこれと似た韻式(平仄を亘って韻をふむ)ものがあるが、意識してそのようにしたのではなかろう。
●○●○○,(韻)
●●●○●。(韻)
○○●●○,(韻)
●●○○●。(韻)
○○○●●,
○●○●○。(韻)
●○◎●○,(韻)
●●●●●。(韻)
○○○●●○●,(韻)
●○●○●。(韻)
○○○●●,
○●○●○。(韻)
2005. 2.12 2.13完 2.17補 2006. 3.15 2008.11.12 2013. 4.22 |
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