映画のページ

パンチ・ドランク・ラブ 
その後

Paul Thomas Anderson

2002 USA 94 Min. 劇映画

再び見た時期:2003年4月

昨年12月の終わり、映画数本を1日で上映するという催しに行き、恐怖の燻製工場で見た作品です。あの時も偉く感心したのですが、その後タダ券に当たったのでもう1度見に行きました。

試写が催されたのは東の大きな映画館で、以前トルコ人の若者を東ドイツ人ということにして主演に迎え撮った相撲ブルーノを上映したり、現在はグッバイ、レーニン!という東ドイツをテーマにした作品(必見、あの天才俳優ダニエル  ブリュール主演) を上映中などと、個性的な作品も扱う館です。 外国映画に関しては一般的なものを上映していますが、この日の試写はパンチ・ドランク・ラブだったので、おやっと思いました。比較的大きなホールは全員が招待客。一般公開は来週からです。耳に挟んだだけでも東西の新聞社、東の若者向けの放送局などが協賛しており、会場はほぼ満員。来ている人たちの層は若者から老人まで各年代に散らばっていますが、東の人も多いようでした。

パンチ・ドランク・ラブはファンタに参加するような人に合い、人形町界隈の人も楽しめる作品だと思いますが、万人向けというわけではありません。シュールな映画が好きだとか、クレージーな映画が好きだという人の方に好まれ、恋に落ちたシェークスピアとかスターウォーズがいいという人には敬遠されるかも知れません。そういう作品を試写に選んで読者や聴取者にサービスすると聞いて「気の利いた事をするなあ」と思いました。

ところが映画が半分ぐらい行った当たりから列ごとごっそり帰ってしまう観客が続出。会場の何割かが空席になってしまいました。最初のお客さんが席を立ち始めたのは前半でエリザベスという主人公の姉が怖い目線で弟のアダム・サンドラーを睨むシーンあたりから。この時は「きっとこの人にはこういう怖い姉がいたんだろう」と個人の問題だと思っていましたが、後半に入ってぞろぞろ人が帰り始めます。

その反面会場には笑うべき箇所で正しく笑う人もいます。プロのコメディアンらしく主人公のサンドラーはほとんど笑わないのですが、サンドラーのやる事を見ているルイス・グスマンの表情がおかしかったり、彼に7人お姉さんがいて、7人兄弟と結婚していたり、と普通では考えられないようなシーンが出て来ます。全編予想が見事に裏切られる展開です。

私がこの映画を気に入ったという話は前に書いているので繰り返しませんが、今回試写を企画した局や新聞なども非常に誉めており、他の雑誌もいい事ばかり書いています。アダム・サンドラーというコメディアンに対する評価までガラッと変わったぐらいの誉め方をしています。

会場に最後まで残った半数以上の観客にはその辺が伝わったのでしょうが、帰ってしまった人にまでは監督のメッセージは届かなかったようです。私の隣には東の人らしい老人のカップルが座っていて、ご主人らしい人は発作を止めるスプレーのようなものを上映中に使っていました。大勢が帰り始めたので、私も間もなく座席から立ち上がってこの人たちを通してあげなければ行けないと思っていたのですが、ドッコイ、この作品2人には気に入ったようで、不満そうな顔も見せず最後まで座っていました。

さらに驚いたのは次の日。主催の放送局が昨日の結果を放送していました。両極に別れてしまい、列ごとごっそり消える人もいたと正直に認めていました。こういう放送局のフォローアップに出くわしたのは初めてです。この局は全体が若者向けにできていて、コンサートや映画に力を入れています。1999年のベルリン映画祭では日本の映画アドレナリン・ドライブ金のレーマンを授与していました。1998年の受賞はあのマイケル・ムーアです。(この賞はユーモアがないと貰えないようです。)

この出来事、私は感心しながら見ていました。ドイツ人にはユーモアがないというのが世界の定説ですが、前世紀の終わり頃から定説を崩すような作品を国産でどんどん作り始めています。

東と西には今でもいろいろな面で大きな違いがあります。外国から見ていると、早く違いを無くさなければ行けないという風に考える人も出るかと思います。私はそういう風には考えていません。ドイツというのは壁ができるよりもっと前から地方ごとに個性が強く、北と南の差、州ごとの差というのが大きいです。それが人間の精神的な故郷の役を果たしているということを考えると、それを無理やり統一してしまっては行けないと考えます。先日のヴィヒマン君のように、ブランデンブルク州に行くと資本主義系の政党はあまり受けないというのも州のメンタリティー、個性の1つです。ベルリンの人はジョークを好む、さらにその町でも東側の人はこういうユーモアを好むなどとその土地の色があって構わないのではないかと思います。今回はそれが地域的なものと年代ごちゃ混ぜに現われたのでしょう。

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